2016年5月10日火曜日

小字「ナガヤツ」と「ナガサク」

この記事では、小字「オオヤツ」「オオサク」、小字「ヤツ」「サク」で検討した作業仮説を小字「ナガヤツ」「ナガサク」に投影して検討し、ダメを押します。

1 「長谷」によるデータベース検索

「長谷」について千葉県小字データベースを検索した結果からその読みを分類し、その読みで再びデータベースを検索して、その結果から読み毎の表記を分類しました。

「長谷」検索結果と読みによる検索

この検索作業により、「長谷」に関連して、「ナガヤツ」系統、「ナガサク」系統、「ナガタニ」系統、「ハセ」系統の読みがあり、それらの読みは「長谷」「長作」などの表記とクロスして関連していることが判りました。

「大谷」からスタートして行った「オオヤツ」「オオサク」の検討、「谷」からスタートして行った「ヤツ」「サク」とほぼ同じ結果となりました。

2 小字表記「長谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ

「長谷」を中心とする小字群の統合分離イメージは「大谷」、「谷」の場合とほぼ同様に、次のような作業仮説として持つことができます

小字表記「長谷」を中心とする小字群の統合分離イメージ(2016.05.09作業仮説)

3 小字読み「ナガヤツ」系統の分布

小字読み「ナガヤツ」系統の分布を示します。

小字読み「ナガヤツ」系統の分布


「ナガヤツ」の分布は「オオヤツ」「ヤツ」の分布と特徴がかなり異なります。

「オオヤツ」「ヤツ」は上総国を中心に下総国の北半分を除き、その分布は千葉県全体に広がっていました。

ところが「ナガヤツ」は上総国の太平洋岸に主に分布し、残りは九十九里付近と安房国付近にまばらに分布するだけです。

上総国の東京湾岸にはほとんど分布しません。

「オオヤツ」は米の収穫量が多い水田の意味で、地域開発適地あるいは地域開発地そのものを指すと考えました。

「ヤツ」は水田耕作可能な土地の意味で、小開発地(小開発適地)であると考えました。

ヤツとは米収穫に収れんする水田耕作に関わる用語として使われたものであり、地形用語として使われたものではないと考えます。

そうした観点から「ナガヤツ」を、その分布から考察すると、「ナガヤツ」のナガは延長が長い谷津とはどうしても捉えることができません。

検討を深めるために「ナガヤツ」分布図を拡大してみました。

小字読み「ナガヤツ」系統の分布(拡大)

「ナガヤツ」の分布域は、千葉県の中でも地形が細かく開析されていて、かつ蛇行した河川が平野を深く刻んでいる場所です。

そして、最も印象的な分布は海岸線沿いの崖のような場所に「ナガヤツ」が列をなして分布していることです。

上総国が中心となり千葉県全域に地域開発地を広げようとしていた弥生時代から古墳時代の技術力では最も開発困難な場所に「ナガヤツ」が分布していることになります。

このような分布特性から、「ナガヤツ」とは開発して数年で放棄せざるをえないような短命な開発地とか、収穫が無い年がたびたび生じる開発地ではなく、長年にわたり継続して収穫が得られる開発地にしたい、あるいは時間的にいつまでも長く収穫が得られるような、寿命の長い開発地にしたいという願いを込めた、劣悪条件下の開発地のことだと考えました。

あるいは、どんなに長い年月をかけても絶対に立派な水田として開発して見せる、という決意をした場所かもしれません。

いかに劣悪で狭小な谷津でも、少しでも開発可能な空間があれば、それを「ナガヤツ」と定義して積極的に開発対象地として指定し、社会が組織的に開発に取り組み、水田面積を少しでも広げたのだと思います。

小字「ナガヤツ」は、東京湾岸にその本拠を持つ社会指導部の水田開発決意が強かったことを示す地名であると考えます。

4 小字読み「ナガサク」系統の分布

小字読み「ナガサク」系統の分布を表記「長作」等と「長谷」等に分けて示します。

小字読み「ナガサク」系統の分布

小字読み「ナガサク」系統の分布はほぼ千葉県全域に広がり、「オオサク」「サク」の分布と同じ特徴です。

また、表記に「谷」を含むものの分布域も、「オオサク」「サク」と似ていて、さらにそれら以上にその分布域を詳しく示しているように見えます。

表記に「谷」を含むものの分布域が香取市、多古町、匝瑳市の市町境界付近の密集地からに、横芝光町、山武市、東金市、大網白里市、市原市、長柄町まで、台地東縁の崖線(分水界)に沿って分布します。

この分布域の中で、東金市、大網白里市付近の台地東縁崖線付近は旧石器時代、縄文時代の崖を利用した代表的狩場です。

小字「ナガサク」系統のうち表記に「谷」を使うものは「サク」の意味を「台地を裂く」と理解していることから、その分布域は、狩猟時代の言葉や文化を理解している人々が、小字翻訳時代(小字に初めて当て字をした時代)には居住していたことを示していると考えます。

「ナガサク」の意味はナガ=長い、サク=台地の裂けめつまり崖であり、長い崖を意味していると考えます。

旧石器時代・縄文時代の長い崖を利用して獣を追い詰める狩猟法が使われた狩場をナガサクと呼んだと、このブログではこれまで仮説してきています。

崖を利用した狩猟における「ナガサク」の説明図を次に示します。

千葉市内野第1遺跡を例にした「ナガサク」概念(仮説)の説明

5 小字読み「ナガタニ」系統の分布

小字読み「ナガタニ」系統の分布は次の通りです。

小字読み「ナガタニ」系統の分布

小字読み「ナガタニ」は「長谷」(読みナガサク)から、後年に派生したものと考えます。


5 小字読み「長谷」系統の分布

小字読み「ハセ」系統の分布は次の通りです。


小字読み「ハセ」系統の分布

小字読み「ハセ」は小字「長谷」(読みナガヤツ、あるいはナガサク)から後年に派生したものと考えます。


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