2016年7月15日金曜日

船尾白幡遺跡検討の再開に当たって

1 このブログの最近の取り組みとしての「遺跡文献の悉皆閲覧」活動

このブログでは2015年1月から「遺跡文献の悉皆閲覧計画」という取り組みをしています。

2015.01.18記事「遺跡文献の悉皆閲覧計画」参照

この取り組みの趣旨は「古代東海道水運支路仮説」を構想したのはいいけれど、素人の悲しさで、基礎知識がまったくないので、知識補強のために次の図の範囲内の遺跡の発掘調査報告書を全部閲覧学習してみるという取り組みです。

悉皆閲覧の対象とした古代遺跡

南から北に順次閲覧学習を行い、報告書が充実している上ノ台遺跡、直道遺跡・居寒台遺跡、内野第1遺跡、白幡前遺跡、井戸向遺跡、北海道遺跡、権現後遺跡、鳴神山遺跡などは検討結果を詳しく記事にしています。

2 船尾白幡遺跡・西根遺跡検討の中断と再開

遺跡文献の悉皆閲覧活動の最新の取り組みは2016年2月にスタートした船尾白幡遺跡・西根遺跡検討です。

しかし、「千葉県小字データベースの試用」という長連載の取り組みを挟んでしまったため、中断したままになっていました。

船尾白幡遺跡・西根遺跡検討

●スタート記事
2016.2.24記事「船尾白幡遺跡検討の興味

●連載最新記事
2016.04.18記事「船尾白幡遺跡 穂摘具

千葉県小字データベース関連の検討も一段落しましたので、船尾白幡遺跡・西根遺跡検討を再開することとします。

なお、船尾白幡遺跡・西根遺跡の検討が終了次第、次の遺跡(上谷遺跡予定)検討に移行します。


この記事では、これまでの船尾白幡遺跡・西根遺跡検討経緯をとりまとめるとともに、参考として遺跡文献悉皆閲覧活動を中間的にふりかえり、その特徴をまとめました。



3 船尾白幡遺跡・西根遺跡検討の経緯と残された課題

●検討経緯

・船尾白幡遺跡は「竪穴住居10軒当たり掘立柱建物棟数」の値が鳴神山遺跡より大きく、鳴神山遺跡より管理的・拠点的な性格が大きい。

・西根遺跡の上流部は船尾白幡遺跡との関わりが強く、墨書文字「天(則天文字)」(アメ)、氏族「大生部」が対応する。西根遺跡下流部は鳴神山遺跡との関わりが強く、墨書文字「大」、氏族「丈部」が対応する。




・墨書文字「大」「天(則天文字)」は大国主神、天照大御神に対応し、宗像三女神と関係する。(道主貴(みちぬしのむち)として5神を捉えることができる。)





・船尾白幡遺跡出土墨書文字「門」は「門部(カドベ)」を表現していて、支配氏族「大生部」=壬生部が宮城警備集団であったと考える。



・船尾白幡遺跡の「竪穴住居100軒当たり銙帯出土数」は他の古代開発遺跡と比べ遜色ない。

・船尾白幡遺跡と鳴神山遺跡の古代既存集落と開発集落の関係は似ている。





・船尾白幡遺跡の紡錘車出土数は近隣遺跡の中で一番多い。

・船尾白幡遺跡の鉄鏃と刀子の時代別出土状況から、9世紀第2四半期以降治安が悪化したと考える。

・墨書文字「子」「小」は蚕を意味し、掘立柱建物柱穴から「子」出土し、掘立柱建物が蚕小屋であったことが判明する。墨書文字「子」「小」は女性が書いた可能性が高い。





・西根遺跡出土馬形・人形はオシラサマであり、船尾白幡遺跡の養蚕に関わる信仰の直接証拠である。(現存する小字白幡は古代養蚕活動由来であると考える。シラ=オシラサマのシラ(キヌ)、ハタ=機(ハタオリ))





・八千代市に高津比咩神社(宗像三女神の一神である多岐都比賣命(タキツヒメノミコト)が祭神)が存在することから、船尾白幡遺跡などと萱田遺跡群との関連が考えられる。





・出土墨書文字から船尾白幡遺跡で麻を利用した乾漆が生業の一つとして存在していたことが判明。西根遺跡からは漆器現物が出土している。(「息」は乾漆を示す技術用語)





・船尾白幡遺跡の鎌、穂摘具、土錘・土製円盤について検討した。


●残された課題

船尾白幡遺跡・西根遺跡の検討では、墨書土器の体系的検討が課題として残されていますので、これから検討します。



4 参考 遺跡文献悉皆閲覧活動の特徴(中間的なふりかえり)

これまでの活動では次のような成果・特徴があったと感じています。

ア 古墳時代~平安時代頃の地域の実情を具体的データから生き生きと把握出来つつある

発掘調査報告書をまとめた総評を知るだけでなく、掲載されている生データの大半を自分で統計分析したり、分布図作成したりしていますので、調査データからいえることを直接把握しています。

イ 遺跡間比較ができるような遺物・遺構の指標化を試みている

例えば、「竪穴住居10軒当たり掘立柱建物数」などのように検討対象とする遺物・遺構を指標化して遺跡間の比較ができるようにしています。

そうすることによって、1つの発掘調査報告書という限定された区域の情報を、地域全体の様子を知るための情報に変換しています。

ウ 時代別(世紀の四半期別)出土状況のグラフ作成につとめている

遺物・遺構の時代別(世紀の四半期別)出土状況をグラフ化して、蝦夷戦争との関連等の把握につとめています。

エ 遺跡内の空間分析にGISを導入している

遺物や遺構などの遺跡内空間分析にGISを活用しています。

具体的には遺構(竪穴住居・掘立柱建物)等の位置データを求めることによって、その位置データを全ての遺物に付与しています。

その結果として、遺構・遺物の空間分析をGIS機能を活用して行えるようになります。

遺物・遺構の出土状況の関連を詳しく分析できるようになりました。

オ 墨書土器データベースの併用を行っている

千葉県墨書土器データベース(明治大学日本古代文化研究所)を併用することにより、数の多い墨書土器情報を他の遺物・遺構と一緒にGIS空間分析することが容易になりました。

墨書土器の文字の解釈では例えば「小、子」=蚕、「七」=漆などの解釈にたどり着き、遺跡生業の検討に役立っています。


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