2016年11月12日土曜日

上谷遺跡 竪穴住居覆土層出土遺物は廃棄物か?

上谷遺跡の竪穴住居の覆土層から墨書土器や鉄製品などが多量に出土する例があります。

上谷遺跡に限らず、これまで検討してきた萱田遺跡群、鳴神山遺跡、船尾白幡遺跡などでも状況は同じです。

竪穴住居覆土層から出土する遺物について、上谷遺跡発掘調査報告書では「廃棄」されたものとして記述され、発掘調査担当者の方は遺物はゴミであったと考えているようです。

しかし、本当にゴミであったのか疑問をもっていますので、発掘情報を子細に分析することによってゴミであるのか、祭祀のお供え物であるのか、あるいは別の性格のものであるのか試行錯誤しながら、学習(検討)を深めたいと思っています。

この記事では、発掘調査報告書に掲載されている遺物出土分布図を子細に分析することが意味があるかどうか、予察してみました。

予察分析の対象は被熱ピットが存在していて、かつ遺物出土数が最も多いA102a竪穴住居としました。

次の図は発掘調査報告書の遺物出土分布図を土器、鉄製品、石製品別に色分けしたものです。


A102a竪穴住居 遺物分布図

この図では番号や指示線が多くて分布の様子を直観的に捉えがたいので、それらの不用物を全部取り除いて、分布が生で見れるようにしてみました。

A102a竪穴住居 遺物分布図 2

まず、全体の平面分布をみると竪穴住居境界付近に比較的密に分布し、中央部には少ないことがわかります。

確実に言えることは竪穴住居の中央部に密であるという分布でないことは確実であるということです。

今後詳しく検討しますが、竪穴住居跡が穴であり、そこが「ゴミ捨て場」であるとすれば、ゴミは投げ込まれ、竪穴住居跡中央部ほどゴミが密になると考えられます。

従って、平面分布から出土物は単純にゴミとして穴に投げ込まれたのではないと言えそうです。

さらに鉄製品の分布をみると、より明瞭に竪穴住居跡の周辺部に密になっています。

「投げた」「置いた」「埋めた」かという行為は別として、手に持った鉄製品を足元近くの竪穴住居跡に移動させたのです。

鉄製品が不要になったからといって、穴中央めがけて捨てたのでないことは、この分布からわかります。

なお断面図をみると、出入り口ピットの底に鉄製品が出土します。これは完形紡錘車です。

また床面に石製品の出土があります。これも完形紡錘車です。

これらはゴミでないことは確実です。

意図をもって使える道具(紡錘車)を置いた(埋めた)ことが推察できます。


A102a竪穴住居 墨書土器「得、万」分布図

土器のうち、墨書土器「得、得ヵ」と「万、大万」を色分けして示してみました。

平面分布は住居跡周辺部に多くなっています。

また断面をみると、「万、大万」の出土層位が「得、得ヵ」より高いところにあり、二つの文字がここに置かれた年代に差があるように読み取れます。

祈願文字として「得」を使った集団も、「万」を使った集団も墨書土器片を同じように住居跡周辺部に置いていますから、土器片をこの住居跡に置いた心性は同じで、ゴミとして投げ込んだのでないと考えられます。


以上、予察的に遺物出土データを分析しましたが、そのデータから遺物がゴミとして捨てられたものか、それとも祭祀のお供え物か、あるはい別の性格があるのか、その検討に有益な情報を提供してもらえる可能性を感じ取ることができました。

今後本格的に検討してみたいと思います。

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