私の散歩論

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河川呼称と流域界

第1 河川呼称
1 「花見川」という呼称について
 現在、花見川という呼称は、一級河川利根川水系印旛放水路の大和田排水機場より下流部分の通称として使われています。(上流部分の通称は新川)
 
 印旛放水路は次のように指定されています。管理者は千葉県です。
・水系名:利根川
・河川名:印旛放水路
・区間 上流端:西印旛沼から流出点(阿宗橋)かど 下流端:東京湾に至る
・延長(m):左右岸各18960
・流域面積(km2):上流104.10 下流63.00
・告示年月日:昭和44年3月20日政令31号(昭和44年4月1日から施行)
(千葉県ホームページによる)

 花見川という呼称は一般に広く使われ、国土地理院発行地形図にも花見川として掲載されるとともに、所在する区の名称(花見川区)にも採用されています。

2 「花見川水系」、「花見川流域」という呼称について
 一方、花見川水系、花見川流域という言葉は行政資料はもちろん、一般にもほとんど使われていないようです。
 行政(河川部局)では「利根川水系印旛放水路流域(上流部)」、「利根川水系印旛放水路流域(下流部)」という用語があり、「利根川水系印旛放水路流域(下流部)」は花見川流域を表していると考えられますが、技術作業上のテクニカルタームであり、その流域界全体を図示する公表資料はないようです。
印旛放水路の管理担当部署である千葉県千葉地域整備センターのホームページでは印旛放水路下流の流域面積を63.00km2と公表しているので、すくなくとも作業上の流域界図が作られたことは確実だと思われます。しかし、同センター管理課で手を尽くして探していただきましたが流域界図は見つかりませんでした。

 花見川水系、花見川流域という言葉が社会一般でほとんど使われない背景として次の2点を想像しています。
1河川としての認識が薄いこと
 江戸時代の掘割普請のイメージを花見川に投影してしまい、あるいは現在の放水路としての役割に意識を集中してしまい、河川としての認識が希薄であること。
 つまり人々が1本の水路として花見川を直感してしまい、背後に流域をひかえる河川としてみていないこと。
2流域変更の事実を知らないこと
 戦後、流域変更があった事実を知らない人が多く、流域の空間的広がり(流域界)はほとんどの人が知らないこと。

 このような理由から花見川水系、花見川流域という言葉が使われてこなかったため、これまで花見川を水のネットワークとしての「水系」として捉えることが社会的に希薄であったようです。
 また、花見川を、空間的広がりを前提として、水と自然・社会とのかかわりを意識した「流域」として捉える意識も社会的に希薄であったようです。
 しかし、当然のことですが、大和田排水機場より下流の水系、流域は水防災面、水や空間の利用面、自然的社会的環境面等で、すでに内部相互関連性を強め、エリアとしてのまとまりを形成しつつあります。
 従って、このエリアとしてのまとまりに着目して、その特徴について考えていくことが大切です。
 そのための最初の一歩として、そのエリアの呼称が必要です。
 そこで、このブログでは大和田排水機場より下流の水系を花見川水系、その流域を花見川流域と呼ぶことにします。
 花見川水系、花見川流域というエリアを意識した言葉を使うことによって、花見川と地域とのかかわりについて考えていきます。

3 流域内の河川・水路の呼称について
 散歩を初めてみると、散歩している河川・水路の呼称が意外と分からないことの気がつきました。国土地理院の地図情報(2万5千分の1地形図、数値地図2500〔空間データ基盤〕)に出ている河川・水路の呼称は、河川法により指定されたものに限られています。1万分の1市販市街地図も国土地理院の地図情報と同じ情報源であるようです。

●現在の地形図等に掲載されている河川・水路呼称:花見川、花見川(印旛放水路)、新川、新川(印旛放水路)、勝田川

河川・水路毎の呼称が分かれば、生物群調査における個体認識と同じように、歴史、環境、開発の程度などの認識、比較作業がしやすくなります。
河川・水路の呼称について、行政に問い合わせしましたが、結果はかんばしいものではありませんでした。過去の地元の人は必ず「○○川」とか「○○谷」とか固有名詞で呼んでいるはずだから、資料には表記されていないが、河川・水路の名称は絶対にあるはずだと思い、知りたいという興味が湧きました。
 そこで、古地図を調べてみました。
 最初に迅速図を調べました。花見川流域の河川・水路の呼称は東京湾に流入する部分に「花見川」とあるだけで、他の河川水路の呼称は一切ありませんでした。

●迅速図(明治15年測量、2万分の1)に掲載されている河川・水路呼称:花見川

 次に旧版1万分の1地形図を調べました。知りたかった呼称も含まれていたので少し満足したのですが、自分の期待よりも得た情報が少なく、がっかり感の方が大きかったです。
●旧版1万分の1地形図(大正6年測量)に掲載されている河川・水路等呼称:花見川、新川、勝田川、小深川、宇那谷川、弁天池、長沼池、境谷、駒止谷、大和田谷、宇那谷谷

そこで、以上の情報を使うとともに、わからない河川・水路の呼称は仮称として自分で設定することにして、散歩で利用することにしました。

次がこのブログで使う河川・水路呼称です。
●河川法に基づくもの:勝田川
●通称として使われているもの(地形図掲載):花見川
●通称として使われているもの(地形図非掲載):高津川
●過去に使われたことが古地図から確認されたもの:宇那谷川、小深川
●このブログで仮称として設定したもの:北高津川、芦太川、横戸川、東小深川、長作川、犢橋川、畑川、浪花川
新たに仮称として設定した河川・水路呼称の命名は、付近の地名を参考に行いました。

備考:その後、地番割図に出てくる小字名称が河川名に対応している場合があることに気がつきました。柏井村の地番割図には、掘割普請前の花見川谷頭部が「北谷」、浄水場の谷津が「後谷津」、柏井町の谷津が「前谷津」、その上流部が「西谷」と呼ばれていることが分かりました。また花島公園のある谷津の呼称が「谷津」であるということも分かりました。このような資料を調査すれば河川水路の呼称をより詳細に調べることが出来るかもしれないということが分かりました。

以上

第2 流域界
1 花見川流域界図の自作
 花見川流域界図を千葉県千葉地域整備センター管理課で探していただいたのですが、見つかりませんでした。そこで、花見川流域界図をGIS上で自作しました。
流域界図は2種類作成しました。
1つは行政資料による流域界であり、もう1つは自然地形による流域界です。
作成方法は次の通りです。
ア 行政資料による流域界
・千葉市域、四街道市域、佐倉市域の全てと八千代市域の勝田川流域部は千葉市河川図収録の利根川水系印旛放水路流域(下流)の界線を転写。
・八千代市域の高津川部は八千代市下水道関係資料より排水区界線を転写。
・船橋市域の全ては船橋市河川図より水系界線を転写。
・習志野市域の全ては習志野市資料「雨水計画における近隣市との関係」より界線を転写。

結局、流域各市の資料を集成して印旛放水路流域(下流部)の流域界を復元したことになります。雨水排水施設の管理資料から設定された流域界です。一般的な意味ではこの流域界を花見川流域として用いることが妥当だと思います。
 なお、これらの資料(排水界等)の精度は高いものではないとのコメントを各市担当者から一様にもらいました。

イ 自然地形による流域界
・自然地形を正確に把握できる旧版1万分の1地形図の最初の版(大正6年測量)を入手し、等高線判読により流域界線を引いた。利用した図幅は、薬円台、習志野原、大和田、下志津、津田沼、大久保、三角原、下志津原、幕張、検見川、六方野原、四街道、稲毛、千葉の14

 人工的地形改変が大規模に行われる前の地形を表現する資料により、自然地形による流域界線を引いたことになります。等高線判読による流域界線の作図では、台地上に閉じた凹地が多数あるなど技術的課題の検討を伴いました。(別途話題提供を予定しています。)

2 行政資料による流域界と自然地形による流域界の比較
行政資料による流域界(行政資料流域界)と自然地形による流域界(自然地形流域界)を比較すると、ほぼ一致する部分とかなりずれる部分があることに気がつきます。
なぜ、このようなことになったのか?大いに疑問が生まれます。大きくずれる場所は、埋立地部分を除くと、いずれも自然地形流域界より内側に行政資料流域界が移動しています。これは地形的要因に起因する排水施設整備工事のしやすさに伴い、その結果として生じた、ほとんど意識されないミクロな流域変更の積み重ねではないかと想像することもできます。(別途話題提供を予定しています。)

このように、自然地形流域界と行政資料流域界を比較してみると、そこにずれがあり、それは都市開発に伴いミクロな流域変更が行われたことを示しています。ですから、現在の流域界は水を軸に考えると行政資料流域界を用いるのが妥当であると考えます。
しかし、地形そのものや風景の検討あるいは歴史事象の検討などでは自然地形流域界も用いることが大切であると考えます。

3 花見川流域の面積
行政資料流域界に基づく花見川流域の面積をGISにより計測すると次の通りとなります。
●花見川流域面積(km2):61.31
●自治体別流域面積(km2):千葉市37.9761.9%)、八千代市12.0219.6%)、四街道市6.4110.46%)、習志野市2.163.5%)、船橋市1.692.8%)、佐倉市1.071.7%)
〔注1)四捨五入の関係で自治体別流域面積が全体流域面積と一致しない。注2)千葉県資料では、印旛放水路流域(下流部)の流域面積を63.00km2としている。〕

以上