花見川地峡の自然史と交通の記憶 20
1 国立国語研究所に対する質問
花見川地峡周辺の「戸」地名の分布図作成作業をし、また海夫注文の検討や古代交通に関する専門書を多読して、「戸」と「津」の関係について自分なりの仮説を構築して、このブログ記事を幾つか書いてきました。
さて、気がつくと、「津はト(戸)の母音交替形」という岩波古語辞典の説を基本とし、「津→戸という変化は国語学上の見解」という説を俗論として批判している自分があります。
私の頭脳にインプットされた諸情報から、こうした発想は間違っているとは思いません。この方向でさらに持論(仮説)を充実させていくつもりです。
ところで、「戸」と「津」の関係に関する定番の「国語学上の見解」について、自信をもって「これがそれです」と発言できない自分もそこにいることに気がつきました。
図書やWEBでいろいろ調べましたが、定番、定説としての「国語学上の見解」、あるいはそれに代わるものは見つけていません。もしそれがあって、それを知らないで持論を展開しているとすると、あまり賢い活動とはいえません。
そこで、思い切って国立国語研究所に次のような質問をしてみました。
………………………………………………
船着場などをイメージできる地名の中に、○○戸という地名と○○津という地名があります。
地名解説通俗書では、『国語学上の見解をとれば戸は津の転化したものだ』としています。
一方岩波古語辞典では『津の説明で、<ト(戸)の母音交替形>』としています。
地名通俗書の説明とは逆です。
国語学上、戸と津の関係について定説があったら教えてください。
あるいは参考となる文献等があれば教えてください。
………………………………………………
2 国立国語研究所のアドバイス
次のような回答(アドバイス)を担当研究員の方から電話でいただきました。
・地名語源に関する研究は、必ずしも科学的に研究できないので、国立国語研究所では行っていない。
・戸と津についての関係について国語学上の定説があるということはない。
・「国語学上の見解をとれば戸は津の転化したものだ」という説が定説であることはない。
・「津が<ト(戸)の母音交替形>」という岩波古語辞典の説明は、木の実(キノミ)が木の実(コノミ)に変化するように、ト(戸)がツ(津)に変化するということを述べている。一つの参考にすればよい。
・地名情報だけからその語源を調べることは無理である。
例 「瀬戸」という地名の戸が港の意味であるか、場所を意味する処(ト)であるか個別に検討する必要がある。多くの場合、結果としていろいろな意味に捉えることができる。
・吉田東伍著「大日本地名辞書」(冨山房)や日本国語大辞典(小学館)を参考に検討するとよい。
国立国語研究所の丁寧な対応に感謝します。
3 感想
【戸と津の関係について定番・定説はない】
・戸と津の関係について「定番」、「定説」となっている国語学上の見解というものは存在していないと捉える姿勢がよいことが判りました。
・地名語源の解釈については1つの明快な解答があるということにならないということが専門家の言葉から確認できました。
・自分が考えた地名仮説について、どこかにある定説(権威)と結び付けようという安易な心理を排し、初心者なりに、自分自身でその仮説合理性を高めなければならないと感じました。
【地名情報の活用法について再検討する】
・地名情報を物事の判断の決定打として使うことは困難であるということに気がつきました。地名情報は、他の情報を補佐する副次的情報として用いることによって効果を発揮させた方が無難であるということです。
・花見川地峡の交通について、地名(戸地名の分布の連続性)から検討に入ったのですが(2013.05.09記事「花見川地峡と印旛沼筋の「戸(と、ど)」地名」参照)、地名だけでなく、他の項目(遺物・遺跡、民俗、自然史等)の検討を充実させ、そちらを主体にするようにしたいと思います。路線変更です。
・地名の検討については、小字レベルの情報をGISを活用して分析するなどして、他者では作れない新たな情報を生み出し、全体の検討に役立てたいと思います。
・地名情報を脇役で活用することにより、全体をユニークな検討になるようにしたいと思います。
【地名について、異論批判に焦点を当てない】
・地名から得られる情報が決定打になることはないので、他者の論の批判に焦点を合わせるような発想や活動はあまり意味がないことに気がつきました。他者の論とくらべてたとえ比較優位になったつもりになっても、それ自体の意味はあまりないということです。
・大切なことは、花見川地峡というローカルな場面で、自分の仮説の合理性(有用性)がどれほどあるかということです。自分の仮説合理性(有用性)の向上をいかに行うか、腐心したいと思います。
【地名検討が科学的研究になじまないということ】
・国立国語研究所のみならず他の学術研究機関でも地名自体を直接研究対象としているところはないようです。
・地名の検討が現代日本では科学的研究になじまないということだと思います。
・しかし、それは、単なる現代日本学術界の社会的現象にすぎないと思います。地名の検討は原理的に科学的でないということにはならないと思います。
・また、地名の検討が地域を知る上で有用であるということと、地名検討を学術界の外に置こうとする社会現象とは全く別事だと思います。
【地名検討に心を魅かれている】
・以上のアドバイスを受け、地名検討について軌道修正することになりましたが、地名検討に強く心を魅かれる状態に変化はありませんでした。地域をより深く知る活動に地名情報を積極的に活用したいと思います。
大賀ハス
つづく
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