私の散歩論

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2014年2月22日土曜日

吉田東伍著「利根治水論考」 紹介

花見川流域の自然・歴史を知るための図書紹介 12

1 この図書の入手顛末
この図書の入手顛末については既に2011.11.08記事「余談」に書きました。

2 吉田東伍著「利根治水論考」の諸元・内容・目次
【諸元】
書名:利根治水論考
著者:吉田東伍
発行:日本歴史地理学会
発売:三省堂書店
発行日:明治43121
サイズ:A5判、254

【内容】江戸期・明治期までの利根川治水のあり方についての論考です。利根川流域全体の河川・自然地理の変遷を知ることのできる価値ある古典です。

「その前編は、今明治43年の9月、10月、11月に渉り、或は公衆に対し、或は同志と興に、諸処に論談したる者を集録す。後篇の刀禰川澤志は、往年の旧稿を補正して、水脈流域の全体を説明す。」(目次後の説明文)

【目次】
●前篇
・江戸の治水と洪水
・利根の変遷と修治
●後篇
・刀禰川澤志
1章 上利根
2章 渡瀬
3章 隅田(古利根)
4章 荒川(秩父、入間)
5章 太日(江戸川筋)
6章 中利根
7章 衣川(絹川)
8章 下利根

吉田東伍著「利根治水論考」

吉田東伍著「利根治水論考」の奥付

3 この図書の特徴
この図書の本来の特徴(利根川治水のあり方)ではなく、花見川流域に興味を持つ私にとっての特徴を述べます。

この図書に掲載されている「衣河流海古代(約千年)水脈想定図」は近世になって利根川治水が行われるようになる前の利根川流域の自然地理図としての古典です。

明治期以降、流域の地域開発・河川改修が急速に進んだ結果、過去の自然地理復元が困難になり、この自然地理図の価値の大きさは失われていないと考えています。

花見川流域という視点からこの「衣河流海古代(約千年)水脈想定図」を見ると、花見川流域の特別の地勢上の意味が良くわかるので、格別に重要です。
2013.09.29記事「人工河川から地峡河川へ その3」参照

このブログでは、例えば次例等の記事で「衣河流海古代(約千年)水脈想定図」を活用させていただいています。


4 パラパラめくってみると
なお、この記事を書くために、この本をパラパラめくって眺めていると、とても興味深い記述が目に止まりました。

後篇第8章下利根の項で、印旛沼や手賀沼が利根川の河跡湖であるという地学雑誌記事を引用して、「此に、二湖の生成を説かるれど、そは予輩の謂う所の、国民歴史の時期以内の事にはあらざるべく、従ひて、利根川の下流という名も、荒唐の談に属す。もしも、太古に河流ありとすれば、そは利根川に非ざる別水ならんのみ。」と述べています。

つまり吉田東伍は、印旛沼が利根川の河跡湖であるという地学雑誌掲載論文の主張に、異議を唱えています。

これは私が、「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」(1997、千葉県発行)掲載の「約10万年前の下総台地西部の古地理図」(印旛沼筋が古利根川の旧河道として描かれている)に異議を唱えたのと同じことです。


明治期における吉田東伍の印旛沼=利根川河跡湖説批判に接し、私は、現代の印旛沼筋=古利根川旧流路説の根っこが明治期にあると直感することができました。

私の印旛沼筋河川争奪仮説をより説得力あるものに育てていく過程の中で、吉田東伍が引用批判した地学雑誌記事等の古い文献も読み、現代の印旛沼筋=古利根川旧流路説の背景を知ることによりその説に対するより一層合理的で的確な批判ができるようにしたいと思います。

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