花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.110 八千代市白幡前遺跡 掘立柱建物を指標とした集落イメージの検討
「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)掲載情報を基に、八千代市白幡前遺跡の集落イメージについて、掘立柱建物を指標として検討します。
1 竪穴住居跡と掘立柱建物跡の比
ゾーン毎に 竪穴住居跡/掘立柱建物跡 の数値を求めてみました。
数値はゾーン内で、掘立柱建物跡1棟に対して竪穴住居跡何軒が対応しているかという意味になります。
この検討では検出した遺構全部の数で比を求め、ゾーンの比較をしてみます。
建替え等を考慮したある時点の実際の比を問題にしていません。
あくまで大局観を得るための検討です。
表 竪穴住居跡と掘立柱建物跡の比
「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)に基づく
この表を図化すると次のようになります。
図 竪穴住居跡と掘立柱建物跡の比
「八千代市白幡前遺跡-萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅴ-本文編」(1991、住宅都市整備公団首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)に基づく
【検討】
ゾーンの数値を見ると、相対的な意味で次の3つの集団に分類することができます。
●数値1以下のゾーン 3ゾーン
●数値2前後のゾーン 1Aゾーン、1Bゾーン、2Aゾーン、2Dゾーン、2Eゾーン、2Fゾーン
●数値4前後のゾーン 2Bゾーン、2Cゾーン
●数値1以下のゾーンの検討
3ゾーンは枢戸(くるるど)の鍵が出土していて、掘立柱建物は重要な物資等を保管する倉庫群であったと考えられています。
竪穴住居より掘立柱建物の方が数が多く、竪穴住居の住人は倉庫群の管理や警備にあたった集団であると考えられます。
●数値2前後のゾーンの検討
1Bゾーンでは竪穴住居跡に捨てられた遺物(出土した遺物)が近隣竪穴住居からのものと考えることが出来ないほど膨大であり、掘立柱建物が住居としてつかわれていたことが考えられています。
竪穴住居が住居の一般様式であった時代に、掘立柱建物に住む住人はとりわけて社会的地位の高かった人であると考えられます。またその近隣の竪穴住居の住人はその社会的地位の高い人に仕える集団であったと考えることができます。
2Aゾーンでは集落内寺院が出土しています。掘立柱建物は寺院施設であったものが多く、また竪穴住居は寺院関係者の住居であったものも含まれていると考えられます。このゾーンから病気治癒を願う「丈部人足召代」と書かれた人面墨書土器が出土しています。
1Aゾーン、2Dゾーン、2Eゾーン、2Fゾーンはそれぞれ掘立柱建物と竪穴住居がセットとなってそれぞれコンパクトな独立集団として存在しています。
掘立柱建物1に対して竪穴住居2という比率から、物資(道具・材料・食料・武器)や牛馬等を沢山所持している可能性が高く、特定の目的を共有する集団であると考えることができます。
●数値4前後のゾーンの検討
2Bゾーンと2Cゾーンは掘立柱建物の比率が低く、相対的な意味で、物資(道具・材料・食料・武器)や牛馬等の所持をあまり必要としない集団であると考えることができます。
2 蝦夷戦争軍事兵站・輸送基地に想定される機能
蝦夷戦争軍事兵站・輸送基地に想定される機能を一般論として整理してみました。
ア 陸奥国へ向かう戦闘部隊(及び帰還部隊)への補給・輸送支援・鼓舞機能
・休息宿泊(指揮官用、兵用)機能
・食事提供(指揮官用、兵用)機能
・衣服・武器・馬牛補給機能
・物品修理整備機能
・移動支援(輸送)
・戦勝祈願、士気鼓舞(陸奥国に赴く兵士の魂[霊](タマ)を生き返らせる)
・病院機能
イ 移動部隊支援のための準備
・提供宿舎の用意
・提供用食料の生産・調達・備蓄
・提供用衣服・武器・馬牛の生産・調達・備蓄
・衣服・武器の修理工房機能
・移動用船の保有・維持修繕
・移動連絡用馬、運搬用牛の保有
ウ インフラ整備
・港湾機能維持(船停泊場所確保、桟橋確保)
・航路維持
エ 基地機能維持
・基地運営指揮機能(司令部、通信機能)
・基地運営部隊用食料の生産・調達・備蓄
・基地の警備・警察業務
3 竪穴住居跡と掘立柱建物跡の比から見たゾーンの特性推定
1の結果について、2を参考にして、ゾーンの特性を推定してみました。
次の図は最初の特性推定であり、今後情報分析を進める中でより的確な推定に変化していくものと考えます。
竪穴住居跡と掘立柱建物跡の比から見たゾーンの特性推定
●タスクフォースA
1Aゾーン、2Dゾーン、2Eゾーン、2Fゾーンは特定のミッション(使命)を帯びた集団が居住する場所であると考えます。特に2Dゾーン、2Eゾーン、2Fゾーンは竪穴住居や掘立柱建物の向きや配置から計画的に設置された集団居住地であると考えられます。1Aを除いた、これらの集団はそのミッションを実現するための活動場所は居住地以外の場所にあると考えます。
各集団の具体的ミッションは今のところ不明です。農業生産活動ではないと思います。
●司令部機能又は高級将官逗留施設
1Bゾーンは掘立柱建物が住居として利用されており、この場所が司令部機能あるいは移動部隊の高級将官逗留施設があった場所として推定できます。
●寺院(戦勝祈願)
2Aゾーンには周溝を巡らした寺院が出土していて、この軍事兵站・輸送基地を通過する将兵を精神的に鼓舞する施設として活用されたものと考えます。
●タスクフォースB
2Bゾーン、2Cゾーンは物品の備蓄が少なく、また2Bゾーンは墨書土器の出土が少ないなどの情報から、一般農業集落的性格の強い集団の居住地だったような印象を受けます。近くの谷津における水田耕作や台地における麻栽培などに従事していたのかもしれません。
●備蓄倉庫管理警備
3ゾーンはこの軍事兵站・輸送基地の根幹にかかわる軍需物資備蓄倉庫が存在し、その管理警備集団が居住していたものと考えます。
自分にとっての八千代市白幡前遺跡イメージの最初版ができました。
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