私の散歩論

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2015年7月28日火曜日

掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数による考察

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.175 掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数による考察

竪穴住居10軒あたり鉄鏃出土数を指標として萱田遺跡群の軍事機能ゾーンを既に抽出しました。
2015.07.26記事「萱田遺跡群の鉄製品出土物 その1 鉄鏃」参照。

また、標準武器である鉄鏃(槍)を伴う主な活動は次に3つであることを検討しました。
1 基地中枢機能の警備、要人の警護
2 軍用倉庫の防衛
3 武器を所持する蝦夷戦争出征将兵の逗留、将兵の教育訓練活動
2015.07.27記事「萱田遺跡群における鉄鏃(槍)を伴う活動」参照

この記事では指標「掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数」により萱田遺跡群における鉄鏃(槍)を伴う活動の補足検討を行います。

これまでの萱田遺跡群検討で、掘立柱建物は次のような用途に使われていたと想定しています。
鉄鏃(槍)を持った番兵を配する用途には○を付けました。
鉄鏃(槍)を持った将兵が出入りする用途には◎をつけました。

○1 支配層住居
○2 接待施設(宿泊・宴会場)
3 寺院施設(お堂等)
4 陰陽師施設
○◎5 司令所施設(司令官詰所・会議室・宴会場)
○6軍需用品貯蔵庫(武器・衣服・食料・生活用品等)
7 事務棟(公文書作成、会計事務、食堂)
○8 活動のための資機材置き場
○9 農業生産物倉庫
○10 焼成土器貯蔵庫
11 小集団のための集会場(会議室・食堂)
12 機織り・縫製作業場

掘立柱建物の全ての用途が番兵を配するものでなかったと考えますが、多くの掘立柱建物は武器を持った番兵を配置していたと考えます。

ですから平均的に考えると、掘立柱建物数が多くなると、その番兵も多くなり、結果として鉄鏃の出土も多くなると考えます。

つまり掘立柱建物1棟当たり鉄鏃出土数は概念としては一定であると考えます。

しかし、司令所施設があるゾーンでは武器を所持した将兵の出入りが多く、そのゾーンでは鉄鏃の出土が多くなると考えます。

このような前提を踏まえて、掘立柱建物1棟当たり鉄鏃出土数を計算してみました。

次の表は掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数をまとめた表です。

萱田遺跡群の鉄鏃出土数

この表を地図に表現すると次のようになります。

掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数

まず、掘立柱建物が存在しない7つのゾーンでは北海道遺跡Ⅶゾーンを除いて鉄鏃が出土しません。この情報は掘立柱建物が主な番兵配置施設であるという想定が大局的には間違っていないことを示していると考えます。
北海道遺跡Ⅶゾーンの鉄鏃出土はⅣゾーンの掘立柱建物に関連したものである可能性があります。

萱田遺跡群の掘立柱建物1棟あたり鉄鏃出土数の平均は0.5となります。
そこで、0~0.99までの幅は平均的な値であると考えます。
1以上の値を異常値として考察することにします。

白幡前遺跡1Aゾーンは値1となります。
このゾーンは東国から陸奥国へ向かう下級将兵の逗留場所で、掘立柱建物も下級将兵用司令施設であると考えてきていますので、そのような理由から鉄鏃出土が多いと考えます。
1Aゾーンの東に広がる河岸段丘全て(現在伝わってきている小字は「牛喰」)が下級将兵逗留施設であったと想定しています。ちなみに上級将兵逗留施設は1Bゾーンであると想定しています。

井戸向遺跡Ⅳゾーンは値2.3となります。
このゾーンはこれまで農業開発が進行しているゾーンとして考えてきています。ですから土地開発という観点から考えると鉄鏃が9つも出土する状況を説明できません。

そこで、実際の鉄鏃出土遺構を地図にプロットしてみました。

井戸向遺跡Ⅳゾーンの鉄鏃出土遺構
9つの鉄鏃のうち1つを除いてすべてが寺谷津に面する台地縁か斜面上にあります。
この分布形状から鉄鏃出土は基地主部(白幡前遺跡)の警備に関わるものであると推察できます。

具体的には基地主部(白幡前遺跡の中央貴族接待施設、寺院、陰陽師施設、上級将官逗留施設など)を寺谷津を挟んで防衛する任務、つまり寺谷津から賊が侵入しないように見張るとともに、俘囚や奴婢が基地から逃亡しないように見張っていたものと考えます。

井戸向遺跡Ⅳゾーン付近は未開地であり、寺谷津沿いに見張り小屋を建て、基地の防衛にあたる必要があったものと考えます。

北海道遺跡Ⅲゾーンは値2.0となります。
値2.0ですが、実際の鉄鏃出土数は2ですからあまり詳しい検討は必要ないと思います。
北海道遺跡Ⅲゾーンは居住ゾーンであり支配層もこのゾーンに居住していたことがハマグリ出土等から判っています。従って、掘立柱建物の警備と支配層の警備が重なった値になっていると考えます。

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