私の散歩論

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2015年8月26日水曜日

萱田遺跡群のゾーン別墨書土器率とその異常値

花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.194 萱田遺跡群のゾーン別墨書土器率

2015.08.25記事「萱田遺跡群の墨書土器率」で萱田遺跡群全体では、墨書土器は数的には坏類と皿類にほぼ限られ、墨書土器率は1/3程度であることがわかり、メモしました。

この情報をゾーン別に展開してみました。

次の図は竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数を分級色分けして示しています。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数
分級色分けは値の上位8ゾーンを赤、中位9ゾーンを緑、下位8ゾーンを青としています。

「坏類+皿類」は個人利用(所有)の日常生活に使う食器で、裕福と権力のある者が多く所持し、裕福と権力が劣る者は最低限のものしか所持しなかったと考えます。

次の図はゾーン別墨書土器率を示してます。

「坏類+皿類」の墨書土器率
分級色分けは値の上位8ゾーンを赤、中位9ゾーンを緑、下位8ゾーンを青としています。

墨書土器は組織活動の産物であると考えています。

軍事兵站・輸送基地である萱田遺跡群にあって、特定のミッションを持った集団がゾーンを形成して居住していたと考えています。

集団毎に構成員の勤労意欲を向上させるために、官人指導の下に文字による祈願が奨励されたと考えます。

従って、一般論として、墨書土器率が高いということは、その集団において官人による文字の威力を活用した組織活動が盛んであったことを示していると考えます。

一方、墨書土器率が低いということは、その集団において文字の威力を活用した組織活動が盛んでなかった、あるいはあまり必要としていなかったことを示していると考えます。

墨書土器率が高いゾーンは識字率も高く、墨書土器率が低いゾーンは識字率が低かったと想定します。

このような観点から上の2図を比べながら検討してみます。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数(以下A図とします)が高い(赤)あるいは中位(緑)のゾーンの多くは「坏類+皿類」の墨書土器率(以下B図とします)でも値が高く(赤)あるいは中位(緑)になっています。

またA図で下位(青)のゾーンの多くはB図でも下位(青)になっています。

このことから、大局的にはA図とB図は相関していると考えることができます。

竪穴住居1軒あたり出土「坏類+皿類」数の値が高いということは、とりもなおさずそのゾーンの裕福と権力が優位であり、それはその集団が基地全体の中で枢要な役割を果たしていることをしめしています。そして、基地の中で枢要な役割を果たしている集団は国家中央との結びつきも強く、それだけ官人による文字を利用した組織活動が盛んであったことを示していると考えます。

さて、ここでは以上の大局観と異なるデータを示すゾーン、いわば異常値を示すゾーンについて検討します。

検討 1 権現後遺跡Ⅰゾーン、Ⅲゾーン
A図で権現後遺跡ⅠゾーンとⅢゾーンは高い値(赤)となっていますが、B図では低い値(青)となっていて異常であると考えます。

この理由は権現後遺跡が土器生産団地であることに起因していることから謎が解けると思います。
つまり、生産物(出荷用製品)としての坏や皿が、住民が使う日用品と混ざって出土しているのだと考えます。

北海道遺跡は全般に墨書土器率が低く、その理由はこれまで想定してきた奴婢や俘囚などの奴隷労働の存在と符合しますが、権現後遺跡ⅠゾーンとⅡゾーンはこのような文字を使った組織活動が不用であったのではなく、上記のような土器生産という特殊要因によるものと考えます。

検討 2 井戸向遺跡Ⅱゾーン
A図で井戸向遺跡Ⅱゾーンは低い値(青)となっていますが、B図では高い値(赤)となっていて異常であると考えます。

井戸向遺跡Ⅱゾーンは過去の検討で「竪穴住居(居住用建物)に対して掘立柱建物(業務用建物)が少なく、単位竪穴住居当り墨書土器出土量がある程度多い領域」であり、特殊地区として把握しています。
同時に掘立柱建物がゼロでその不自然さを感じてきています。
2015.06.12記事「墨書土器指標を用いた遺跡評価思考実験」参照

通常ではない姿があり、十分にその特性を把握しきれていないゾーンです。

その通常ではないゾーンの墨書土器率が他のゾーンより高くなっています。

いろいろ調べているうちに、重大なヒントを得ることができました。

このゾーンから次の墨書土器が出土しているのです。

寺・寺杯(D105)
千葉県墨書土器・刻書土器データベースから引用

佛(D88)
千葉県墨書土器・刻書土器データベースから引用

このゾーンに小さな寺院施設があった可能性が浮かび上がります。

寺院施設があるゾーンでは墨書土器率が高くなることが、白幡前遺跡2Aゾーンで確かめられています。

また、遺構分布図を仔細にみると、ⅡゾーンとⅢゾーンは元来一体のゾーンである可能性が見て取れます。

今後詳細検討が必要ですが、Ⅱゾーンは単独で評価すべきゾーンではなくⅢゾーンと一体のゾーンとして捉え直し、かつ寺院施設の存在を想定することが大切であると考えます。

そのような想定をすれば、Ⅱゾーンの墨書土器率が高いことは異常ではなく、正常な事象として難なく説明できます。

仮にⅡゾーンとⅢゾーンを合体して考えると、A図では値7.2(中位…緑)、B図では値41.6(上位…赤)になります。

A図とB図比較による井戸向遺跡Ⅱゾーンの異常値から、寺院施設存在可能性という仮説とⅡゾーンⅢゾーンが一体不可分であるという仮説を持つことができ、思考を深めることができました。

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2015.07.15記事「萱田遺跡群検討の第2ラウンドに入ります」で萱田遺跡群検討の第2ラウンドに入りましたが、この記事で第2ラウンドを終了することにします。

4遺跡の発掘調査報告書が充実しているため、自分なりに検討を深めることができました。

萱田遺跡群については、今後必要に応じて補遺記事を書くことにし、このブログは別遺跡の検討に移行します。

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