私の散歩論

ページ

2016年5月18日水曜日

古代窯業地名スエ・ハジ及びハニ・ハネの千葉県検索結果

鏡味完二の地名層序年表による地名型スエ・ハジと関連する地名型ハニ・ハネについて、千葉県小字データベースを検索しましたのでその結果を記録します。

1 鏡味完二によるスエ・ハジの検討

鏡味完二(1981)「日本地名学(上)科学編」(東洋書林)(初版1957年)ではスエ・ハジについて次のように検討しています。

その検討結果を次に引用します。

……………………………………………………………………

スエ・ハジの分布

陶・須恵,土師

Sueには「末」の字も用いられるが,中には陶業とは関係のない末宗・末信の如き武士の名をとった平安未期以後の名田の開墾地名が多数あり,また"大末"や"末野"などの地名のように,地図上ですぐそれが行詰りの地形語であることが想定されるものや,"末永"のように山麓地方の山脚や,自然堤防上にあるものなどは,この地名型からは除外されねばならない。

土師(ハセ)・土師(ハゼ)はこの地名型に入れて考えることにしたが,"長谷"は除くことにした。

このようにして著者は陶業地名として割合安全と思われる地名だけをとってみた。

井上教授によれば,土師部は陵戸を管して凶礼を司るのが初期の職能であったが,後には土師器を奉るようになったという。

この職業は雄略紀あたりには,既に幾多の職域に分れ,土師部・贄(ニエノ)土師部・玉手(タマテ)土師・坏(ツキ)手土師・陶部などの名があげられている。

これらの地名は瀬戸内から瀬戸市に至る地域に多く,地質的にいえぱ花崗岩山地の多い地方である。

太田博士は古代に土師部・陶部のいた地方は,現在製陶業が盛んな地方であると述べている。

陶部は最も新らしく,陶器の製法が大陸から伝来するに及んでからのものである。

鏡味完二(1981)「日本地名学(上)科学編」(東洋書林)(初版1957年)から引用

……………………………………………………………………

2 スエ・ハジの千葉県小字データベース検索結果

予察的な検索ではスエが28件、ハジが0件抽出されたのですが、スエについて精査したところ、全て「末広」などであり、陶や須恵に関連すると考えられるものは見つかりませんでした。

従って、千葉県小字ではスエ・ハジは見つかりませんでした。


3 鏡味完二によるハニ・ハネの検討

窯業関連の古代地名として、ハニ・ハネについて鏡味完二が重視して検討していますので、紹介します。

……………………………………………………………………
Haneの分布

Haniの分布

Hani>Haneの分布
Haniは千葉方言で「赤土」、Haneは奈良方言で「粘土」である。古語としてはHaniが用いられ、埴輪・土物(ハニモノ)・埴生などと記されている。分布はHaniが内圏、Haneが外圏をなすが、西は広島、東は仙台の北方までの間で、両者は重なっている。(地図編、Fig.92とFig.93)

鏡味完二(1981)「日本地名学(上)科学編」(東洋書林)(初版1957年)から引用

……………………………………………………………………

4 ハニ・ハネの千葉県小字データベース検索結果

ハニ・ハネの千葉県検索結果を次に示します。

小字「ハニ」抽出結果

9件の小字「ハニ」が抽出されました。

その分布は次の通りです。

小字「ハニ」抽出結果


小字「ハネ」は次の通りです。

小字「ハネ」抽出結果


25件の小字「ハネ」が抽出されました。

その分布は次の通りです。

小字「ハネ」の分布

ハニ・ハネが本当に古代窯業関連の小字であるかどうかは、この抽出結果と分布図作成だけではわかりません。

そこで、「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)に掲載されている次の「須恵器窯・土師器窯」と「瓦窯」(いずれも奈良時代・平安時代)の分布図との対応を見てみました。

参考 「須恵器窯・土師器窯」分布図
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用

参考 「瓦窯」分布図
「千葉県の歴史 資料編 考古4(遺跡・遺構・遺物)」(千葉県発行)から引用


小字「ハニ」・「ハネ」と須恵器窯・土師釜・瓦窯のオーバーレイ図を次に示します。

小字「ハニ」と須恵器窯・土師釜・瓦窯の分布

小字と窯が隣接(概ね2~3㎞以内)する組み合わせに丸を書き込んだのですが、3カ所で小字と窯(須恵器窯、瓦窯)が隣接しました。

窯とその陶土産地の関係である可能性が濃厚です。

小字「ハニ」が窯業と関係するという鏡味完二の説は伊達ではなく、歴史的事実と対応するという実感を持つことができました。

小字「ハネ」と須恵器窯・土師釜・瓦窯の分布

小字と窯が隣接(概ね2~3㎞以内)する組み合わせは9カ所に及びます。

窯(須恵器窯、土師器窯、瓦窯)とその陶土産地の関係である可能性が濃厚というより、ほぼ確実であるという直観をもつことができます。

「羽根」という言葉が陶土を意味することが、この図からはっきりしました。

また、逆に、小字「ハネ」だけが存在する場所には、まだ見つかっていない窯が存在していた可能性があります。

小字「ハニ」と小字「ハネ」が窯と隣接する全12ケースについて、詳細検討すれば、窯に原料を供給していた陶土産地を具体的に特定する作業が容易であり、これまで気が付かなかった情報を得ることができる可能性が浮かび上がります。

……………………………………………………………………
2016.05.19追記

小字「ハネ」抽出結果のうち1件が不適切(近世の水防関連地名「刎出」[ハネダシ])でしたので、表と地図2枚を訂正しました。)




0 件のコメント:

コメントを投稿