私の散歩論

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2021年11月23日火曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の実用的側面の考察

 Consideration of practical aspects of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


We considered the practical aspects of the fishing handprint pottery with a face (Gotenba site, Ina city).

This pottery is an incense burner. I thought it was used to relieve the suffering of mothers by volatilizing the scent and arousal components at the place of birth.


3Dモデルを作成した顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)には実用的機能と呪的機能の双方が備わっていると考えます。それぞれについて考察しましたが、この記事では実用的機能について考察しました。

1 土器の実用的機能

1-1 背面の復元

土器背面に球面内面の一部が残存しています。この残存物はもともと小カップが存在していて、その一部であると想像します。


土器背面の復元(想像)

釣手形土器では小カップがついている場合があるので、このように想像しました。


頂部に小カップがついている釣手形土器の事例

1-2 土器内部の煤

発掘調査報告書では「内部は、わずかに煤煙が附着しているのみで、使用による擦痕もしくは付着物はあまり顕著ではない。」「内部の状態は吊手土器にみられるような炭化物の附着は顕著に認められない」と記述されています。この記述から、土器内部でものを燃やした形跡は存在するが、それは顕著ではないということになります。

1-3 土器正面の顕著な油煙附着

発掘調査報告書では「正面の…器面は研磨され、油煙が全面に附着して黒く滑沢を帯びている。」と記述され、確かに正面だけに油煙がついています。ただし、正面の台部には油煙はついていません。また背面にも油煙はついていません。


油煙の附着状況

1-4 実用的機能の推察

1-1小カップの復元、1-2虚弱な燃焼跡、1-3油煙附着からこの土器の実用的機能を次のように推察(想像)しました。


顔面付釣手形土器(御殿場遺跡)の実用的機能(想像)

土器内部に熾火をいれて土器を熱し、小カップに熱を受けると揮発する香草や液体を入れて、香り成分や覚醒成分を竪穴住居に充満させたのだと想像します。その竪穴住居で出産が行われたのだと考えます。

土器正面に一部だけに油煙が附着していることから、次のような状況でこの土器がつかわれたと考えます。


顔面付釣手形土器の利用イメージ(想像)

この土器は天井から吊下げられて利用されたのではなく、炉に埋め込まれて利用されたのだと考えます。炉の親火から熾火を土器内部に移し、じっくりと土器を熱して、香草や液体成分を継続して揮発させて、長時間続く産婦の出産苦しみを緩和させていたのだと想像します。

2 感想

・土器の名称(形式)は釣手形となっていますが、この個体に吊って利用できるような強度がある取付部分は見当たりません。また吊った痕跡もないようです。

・油煙分布から炉に埋めて利用した蓋然性は高いと考えます。

・土器内部でモノを燃やした跡が存在するがそれが虚弱であることから、土器内部に入れられたのは熾火(炎がおさまり、薪の芯が真っ赤になったもの。長時間火力が持続する)であると考えます。

・背面に小カップを復元する(想像する)ことによって、この土器の基本機能は、小カップに入れた香りや覚醒成分を熱で揮発させる香炉であると考えました。

・この土器の文様が出産に関わるものであることから、この土器(香炉)は出産現場で産婦の長時間にわたる苦しみを香りや覚醒成分によって緩和させるものであると考えました。

・この土器の文様の意味とこの土器の呪的機能は次の記事で考察します。

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顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner


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