私の散歩論

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2022年1月26日水曜日

大膳野南貝塚出土アワビ加工品について

 About modified abalone excavated from Daizenno Minami Shell Mound


Professor Masato Nishino, Director of the Chiba City Buried Cultural Property Research Center, taught me the reason why the modified abalone exhibited at the Chiba City Excellent Archaeological Material Exhibition was not a shell knife, but a magical tool like an ancient mirror. Thank you.


千葉市内出土考古資料優品展(※)で展示されているアワビについて、千葉市内出土考古資料優品展関連講座「千葉市の名宝(縄文時代)」(講師 西野雅人先生[千葉市埋蔵文化財調査センター所長])で、それが貝刃ではないという発掘調査報告書とは異なる説明がありました。なぜ貝刃ではないのか、自分にはその理由がよく判らなかったので、講座事務局にメールで質問しました。その質問に対して講師の西野雅人先生から詳しい説明と関連情報を教えていただきましたので、メモします。

西野雅人先生の詳しいご回答ご教示に感謝申し上げます。

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※ 千葉市内出土考古資料優品展の開催期間・場所

2021年11月17日~2022年1月22日 千葉市立郷土博物館

2022年2月3日~3月10日 千葉市埋蔵文化財調査センター

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アワビ加工品

1 アワビが貝刃ではない理由

アワビの腹縁部には磨耗があり、大膳野南貝塚発掘調査報告書ではこの磨耗を根拠にこのアワビが貝刃であると記載しています。これに対して西野雅人先生から、このアワビは海岸で傷み、水摩を受けたものと考えられ、磨耗は少なくとも人為的な変形・加工と判断できる所見はないとの回答がありました。西野先生は、より詳しくは、刃部が劣化している場合、規則的な剥離が3個以上連続していれば自然の可能性は低い=貝刃とする基準に照らして判断されているとのことです。


腹縁部磨耗の様子

また、使用痕がないことから、中・近世などでその可能性を報告することがある容器・柄杓等として使われたこともその見分けはつかないとのことです。

一方、このアワビは全面が入念にクリーニングされ、埋納されたことも含めて、実用品の可能性をあえて言う必要はないと考えるとの説明もありました。

2 このアワビの分類上の名称 「アワビ加工品」

このアワビをなんと呼ぶのか質問したところ、「アワビ加工品」がよいとのことでした。同時に「お土産貝」という通称も教えていただきました。

「縄文人が海岸や化石層から持ってきた貝はたくさんあります。

それをなんと報告するかはいつも悩みます。

通称としては「お土産貝」と呼んでいます。」

「お土産貝」という通称は縄文人の趣味心による貝殻採集活動を表現していて、とても興味深い概念であると関心しました。

3 「太陽と交信する」ツール

古代の鏡はただ光を反射するものではない呪術具であったということを市民の皆さんに伝えるために用いた表現で、アワビにそんなことも考えられるかもしれないとの説明です。鏡は大陸由来であることがはっきりしているので、直接はつながらないけれども、そうしたものが縄文時代にあったかもしれないということで、そのような資料の重要性を伝えるための思い切った表現であるとの説明です。

4 感想

4-1 腹縁部磨耗の人工由来判断基準

このアワビ腹縁部磨耗が人工由来であるのか(貝刃である)、それとも自然由来であるのか(実用品ではない)といった判断に一つに「刃部が劣化している場合、規則的な剥離が3個以上連続していれば自然の可能性は低い=貝刃とする基準」を設けて観察している西野先生の専門性に、そのような専門性があること自体を含めて、驚き、感心しました。

4-2 お土産貝

貝塚研究専門家の間で「お土産貝」という通称が使われていることは、縄文人が趣味的心から貝殻採集活動をしていることに対応していて、とても面白く、かつ重要であると考えました。生産とか祭祀とかの考古学概念では捉え尽くせない活動が縄文人にあったということです。

4-3 呪術具としてのアワビ加工品

西野雅人先生はこのアワビ加工品を古代鏡のような呪術具として考えていらっしゃいます。古代鏡は大陸由来で、縄文時代アワビ加工品と結びつくものではありません。しかし縄文時代アワビ加工品が、弥生時代以降列島にもたらされた鏡と同様の機能を果たしていたかもしれないという西野先生の仮説はまことにロマン溢れるものです。

鏡の歴史を改訂新版世界大百科辞典(平凡社)で調べてみると、列島に最初にもたらされた鏡は多鈕細文鏡で、鏡面は凹面鏡で「垂下し光を反射させて当時の人々を驚かせる祭器として用いたとする説が正しい。」と記述されています。なにやら西野先生のアワビ加工品の呪術具利用イメージ(太陽と交信するツール)と重なるようで、興味がドンドン深まります。

4-4 千葉市埋蔵文化財調査センター展示における観察実験

ア 物を写す機能があるか

展示されているアワビ加工品に顔を近づけて、それがアワビ内面(鏡面)に写るか(写る可能性があるか)、展示ショーケースが千葉市立郷土博物館と同じものならば、試してみます。

イ 直射光反射の様子観察実験

展示管理者の許可が得られれば、直射光ライトを持参し、その光を当てて、どのように反射するかその様子を観察してみます。


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