私の散歩論

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2011年5月30日月曜日

花見川の語源4

5 ハナミ
5-1 ハナ
 ハナは柳田國男の解釈を踏襲します。
 前の記事(花見川の語源3)で引用した以外に、柳田國男は次のような文章を書いています。
「ハナワは蝦夷語のパナワの名残で、上の平らな丘のことを謂って居るらしい。」(雪国の春、昭和3年)
「『ハナ』は塙、即ち高地のことであろうが、…」(豆の葉と太陽、昭和15年)
「花輪はもとアイヌ語から出たものらしく、今の語でいふと段丘端、東国でいふ峡(はけ)通りであるが、…」(豆の葉と太陽、昭和15年)

 柳田國男はハナについて「アイヌ語だといっても、たいてい誤りはあるまい。」と言ってアイヌ語起源として説明しています。柳田國男の時代の知識ではその説の通りだと思います。しかし、正確には縄文時代の縄文人の話していた言葉ですから、このブログではハナは縄文語起源として考えることとします。

 国語大辞典(小学館)では「はな」は次の3語(【花・華・英】、【端】〔「はな(鼻)」と同源〕、【鼻】〔「はな(端)」と同源〕)掲載されています。このうち「はな【端】」の意味(物の先端の部分。はじ。末端。)が花見川のハナの意味に該当すると考えます。

国語大辞典(小学館)の記述(用例略)
はな【端】〔「はな(鼻)」と同源〕
一 端、先端の意
1 物の先端の部分。はじ。末端。
2 二つ以上並ぶものの先の方をさしていう。
3 時間的に先の方をさしていう。はじめ。最初。発端。
二 〔語素〕 略

岩波古語辞典(岩波書店)の記述(用例略)
はな【端】〔はな(鼻)と同根〕
1先端部。突端。
2でだし。先頭。

5-2 ミ
 国語大辞典(小学館)では「み」は全部で19語掲載されています。私はハナミのミは「み【水】」の意味であると考えました。

国語大辞典(小学館)の記述
み【水】水(みず)。多く他の語と熟して用いる。「いずみ(泉)」「みくさ(水草)」「みお(澪)」「みなそこ(水底)」「みなと(水門)」など。

岩波古語辞典(岩波書店)の記述(用例略)
み【水】みず。複合語として用いる。「垂(たる)水」「水草」「水漬(づ)き」「水な門(と)」など。

5-3 ハナミの意味
 台地に谷津が発達し、縄文海進で海がリヤス状に複雑に陸地に入り込み、水面と台地の対比が否が応でも意識しなければならない自然環境の中で縄文人は暮らしていました。リヤス状の海の幸を得た跡が、現在の内陸に貝塚として残っています。
 リヤス状の海を遡れば湿地になり、小川が台地から流れ込んできています。台地=端(ハナ)から水(ミ)が流れ込んでいる情景を見て、縄文人はこれをハナミと表現したのだと思います。
 鼻から垂れる鼻汁をハナミズと表現しますが、花見川のハナミはこれと同じ表現方法だったと考えます。谷津の奥深くまで海(水)が入り込み、そこに谷津の上流から小川が流れ込むという水の姿をハナミ(端水)という言葉で地名表現されたと考えます。
 小川の水は飲料水として縄文人に必須であったので、ハナミは大切な生活資源のありかを示す地名だったと思います。
 花見川はハナミズ川、端水川だと思います。

            貝塚の分布と縄文海進想像図

5-4 地名としてのハナミ探索
 ハナミは河川名としてのみ残っていますが、本来は地名ですから、どこかに地名として残っているかもしれません。歴史史料を見るとき、気にしておきたいと思います。

5-5 ハナミの検証の必要性
 ハナは縄文語起源の高地(日本語では端)の意味、ミは日本語の水の意味としてハナミを解釈しました。
 整合性がとれていません。
 ミも縄文語起源でなければなりません。その検証が必要です。ミが縄文語やアイヌ祖語などに遡るものであるのか、今後検証したいと思います。
 ハナは縄文語起源の言葉で、地名の根源語であり、ミは上代日本語起源で、ハナミという地名は弥生時代以降つけられたということかもしれません。
(つづく)

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