花見川流域の小崖地形 その93(5mメッシュDEM図を読む 32)
1 はじめに
印旛沼筋河川争奪仮説のメモを作成(※)しましたが、このメモを作成する中で、いくつかの文献を参考にしました。
そのうち、「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」(※※)の関連する部分の記述(図版)が、私の仮説と異なります。
私の仮説から見ると、この関連記述(図版)は違和感があり、私の仮説と相いれません。
そこで、私の仮説と衝突するこの説について検討し、参考になる情報を引き出そうとしました。
2 印旛沼筋=古利根川旧流路説と違和感・疑問
「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」(1997、千葉県発行)の「第1章地形第2節台地・海岸1県北部を広く占める下総台地」において下総下位面について、次の記述があり、図版が掲載(18ページ)されています。
「最近の研究によれば下総下位面をつくった高海面期は約10万年前といわれている。このころの古地理図を描いてみると(図1-17)、下総下位面の東京湾側では海域となっており、利根川沿いでは河川が蛇行しながら湿地と氾濫原を形成していたものと思われる。」
図1-17 約10万年前の下総台地西部の古地理図
この図版について、次の違和感を持ちます。
●違和感
印旛沼筋が古利根川の分流旧流路として描かれています。私には、古利根川の分流が流れたとは到底考えられません。
次の図に示す、AからBの間の「旧流路」と説明された区間は、古平戸川か、あるいは鹿島川の旧流路ではないでしょうか。
印旛沼筋付近の地形段彩図
これまで別記事で詳しく検討してきたように、地形面の分布状況、水系パターン等からA手賀沼付近から印旛沼筋に水が入りこみ、B栄町方向へ流れた状況はイメージできません。
古利根川がわざわざ分流して印旛沼筋を流れる地形的必然性を、どう考えても感得することが出来ないからです。
沖積低地の網状流路を考えるのとはわけが違うと思うのですが。
●疑問
古利根川の分流が手賀沼付近から印旛沼筋に入って、ぐるっと流れたという古地理図が掲載されたのですから、その根拠があるはずです。その根拠をいろいろの文献を読んで探したのですが、見つかりません。
その根拠となる情報が見つかれば、自分の仮説検討に大いに参考になるはずです。
3 印旛沼筋=古利根川旧流路説の根拠・背景を教えていただく
思い切って千葉県立中央博物館の地学課に連絡して、「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」掲載の「図1-17 約10万年前の下総台地西部の古地理図」の出典についてたずねしました。
そうしたところ、この図はこの図書のオリジナル図であることと、その著者を紹介していただきました。
早速、著者に電話させていただいたところ、次のような情報を教えていただきました。
「この図は杉原(1970)の地形分類図を基に自分が考察して描いたものである。現在の印旛沼筋の流れの方向が、下総下位面形成時の流れの方向を示す証拠となっている。つまり、古利根川の分流がここを流れた証拠である。その流れの方向と地形面高度や水系パターンが整合しないことの理由は地殻変動の影響で説明できるに違いない。」
図1-17の根拠となるような背後に控える情報・データ(調査や文献)は杉原(1970)の地形分類図以外には特段無いということです。
参考 杉原(1970)の地形分類図
「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」より引用
原図(モノクロ)出典は「杉原重夫(1970):下総台地西部における地形の発達、地理学評論、43-12」
1市民の趣味にも関わらず、17年前発行図書の1図版の背景という、普通は表にでない詳細情報について丁寧に教えていただいた著者に感謝申し上げます。
また著者を紹介していただいた千葉県立中央博物館に感謝したします。
4 印旛沼筋=古利根川旧流路説は根拠薄弱と感じる
さて、上記のような情報を知り、結局のところ「印旛沼筋=古利根川旧流路説」は根拠薄弱と感じました。
図1-17には私が期待したような「これぞ」という根拠はありません。
従って、結論として、残念ですが、「印旛沼筋=古利根川旧流路説」からは、私の印旛沼筋河川争奪仮説の構築の参考となるような情報を得ることが出来ませんでした。
印旛沼筋の地形の不思議を解決するようなヒントを得ることが出来ませんでした。
逆に、粗々の机上デッサンにすぎない印旛沼筋河川争奪仮説を、整え肉付けしていくことの意義が、自分が考えていた以上に大きなものであると感じました。
メモした印旛沼筋河川争奪仮説の細部が間違いだらけであるにしても、その趣旨(河川争奪)の確からしさに自信を深めつつあります。
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メモした印旛沼筋河川争奪仮説の細部が間違いだらけであるにしても、その趣旨(河川争奪)の確からしさに自信を深めつつあります。
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「千葉県の自然誌 本編2 千葉県の大地」の地形記述はとても充実していて座右の書として最近では毎日活用しています。
そこに掲載されている杉原(1970)の地形分類図はカラー刷りとなっていて、このブログで過去にも幾度も利用させていいただいています。
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