「千原台ニュータウンⅩ-市原市草刈遺跡(東部地区旧石器時代)-」(平成15年、財団法人千葉県文化財センター)では草刈遺跡(東部)の後期旧石器時代遺物集中地点98箇所のうち53箇所から礫が出土している情報が掲載されています。遺物集中地点毎に石器数と礫数が別にカウントされています。
この情報に基づいて、礫がどのように使われたのか推測するための検討をしました。
次の図は出土礫数の多い遺物集中地点から少ない遺物集中地点まで、順番に並べたグラフです。
遺物集中地点における出土礫数
出土礫数は最も多い地点が924、2位~5位が平均376.5、6位が63となり、自然に分級されているので、その分級を使って規模区分をしました。
●出土礫数規模区分
規模A 1地点、出土礫数924
規模B 4地点、平均出土礫数376.5
規模C 4地点、平均出土礫数56.3
規模D 9地点、平均出土礫数11.7
規模E 35地点、平均出土礫数3.3
この規模区分に基づく遺物集中地点の分布図を作成すると次のようになります。
礫出土数規模別遺物集中地点分布
礫出土数の偏在性がとても気になります。
そこで、礫出土数と遺物集中地点の石器数規模との関係を見てみることにしました。石器出土数が多ければ、礫出土数も多いのか、見たいのです。
次のグラフは出土石器数規模順グラフにその地点の礫出土数グラフを重ねたものです。(2つのグラフをIllustratorの「乗算」機能を利用して透写しました。)
遺物集中地点の出土石器数と出土礫数の関係
出土石器数が多ければ、出土礫数も多いという関係でないことが明白です。
出土石器数規模Aでは礫出土がほとんどありません。
石器数が多い順に1位から9位まで(石器数規模A)の礫出土数を列挙すると、0、0、0、4、4、0、0、3、1です。平均1.3にすぎません。
石器数規模Aはここまでの検討で、石器を作製した場所であり人が居住した場所であると考えました。その場所には礫がほとんど無いのですから、礫は石器作製や居住環境、特に調理に関係していない様子が判ります。多数礫の出土は石器作製や調理に関係しないので、獲物加工処理に関する道具であったことに絞られます。
出土石器数規模B、Cに多数礫出土地点全部が含まれています。
一方礫出土数の規模C、Dはそのほとんどが石器出土数が最も少ない規模Eに含まれます。
この特徴から次の有力な推測が生れます。
これまでの検討で、石器出土規模Eの遺物集中地点は狩施設や狩後の獲物加工処理施設と考えました。その場所に礫が10とか50とかある場所が多いのですから、その場所の作業に礫が使われたと考えます。
例えば、礫をハンマー代わりに使って骨を砕いたり、杭を打って物干し施設、小屋等をつくるなどに使われたりしたのだと思います。道具そのものです。
これまでの検討で、石器出土規模Bはほぼ臨時キャンプの場所、Cはほぼ作業場所と考えました。その分布は石器出土規模Aの周辺です。その場所に礫が924とか平均376.5出土するのですから、その礫は一般的な道具(ハンマー代わりとして使うなど)でないことは確実です。
比較的臨時キャンプに近い場所で、かつ多量の礫を使う例として、毛皮の天日干しが考えられます。動物解体大分けを谷底で行い、急崖そばの斜面を作業場所にして肉、皮、骨等の加工処理を行い、それらの製品を臨時キャンプに運びこんだ後、臨時キャンプの近くで毛皮の天日干しをじっくり行い「生」の毛皮を使い心地のよい製品に仕立て上げる最終工程をしたのだと考えます。その際、毛皮が風で飛ばないように礫を重しにしたと推測します。
つまり、礫出土数規模A、B地点では、礫は主に毛皮天日干しの重しに使われたと考えます。
礫出土数規模A、Bの分布
礫出土数規模C、D、E地点では、礫は主にハンマー代わりなどの手で使う道具として使われたと考えます。
多量礫出土を分析すると、以上のような推測ができます。
礫は多様な道具として使われ、礫を調理に使った(蒸し器代わり、鉄板焼きの鉄板代わりなど)ということもあったと考えます。
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