私の散歩論

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2015年4月10日金曜日

千葉市小字地名の層序学

小字地名データベース作成活用プロジェクト 4

以前WEB古書店から購入した「地名の語源」(鏡味完二・鏡味明克、昭和52年、角川書店)をペラペラめくっていたら、興味深い地名検討技法に関する概念を見つけました。

「地名の語源」(鏡味完二・鏡味明克、昭和52年、角川書店)

興味深い概念とは地名層序という概念です。

地名語根型の中にはその発生年代がほぼ確定されているものも少なくなく、それらを標準化石地名として、他の地名型を順次決めてゆく基本形にするという考え方です。

層位学のアナロジーで地名を捉えようという一種の地名検討技法です。

次に、この概念で作られた地名の層序年表とその解説資料(地名型(「地名の層序年表」の中の)解説)を掲載します。

地名の層序年表
「地名の語源」(鏡味完二・鏡味明克、昭和52年、角川書店)より引用

地名型(「地名の層序年表」の中の)解説
「地名の語源」(鏡味完二・鏡味明克、昭和52年、角川書店)より引用

私は、地名が出土遺構・遺物と似た貴重な考古歴史情報であると考えていますので、とても興味が湧く、刺激を受ける概念です。

なにはともあれ、最近作った千葉市小字データベースで、上記地名語根型を抽出してみました。

上記「地名の層序年表」掲載21の語根型のうち次の5つの語根型の地名が出現しました。

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千葉市小字データベースから抽出した語根型別地名

●~部(~ベ)
中央区 葛城町 宮名部(ミヤナベ)
中央区 南生実町 小曾部(コソベ)
花見川区 犢橋町 莚部(ムシロベ)
花見川区 長作町 諏訪部(スワベ)
稲毛区 作草部町(サクサベチョウ)
緑区 平山町 長谷部(ハソベ)

●堀之内
若葉区 谷当町 堀之内
緑区 板倉町 堀之内

●~屋敷
中央区 蘇我二丁目 堂屋敷
中央区 大巌寺町 寺屋敷
中央区 浜野町 猿屋敷
中央区 村田町 蔵屋敷
稲毛区 園生町 古屋敷
稲毛区 小中台町 屋敷
稲毛区 長沼町 屋敷
若葉区 貝塚町 荒屋敷
若葉区 大宮町 坊屋敷
若葉区 富田町 屋敷上
若葉区 富田町 古屋敷
緑区 土気町 古屋敷
緑区 小食土町 屋敷ノ内
緑区 板倉町 鍛冶屋敷

●~宿(~ジュク)
30地名抽出(略)

●~新田
22地名抽出(略)

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抽出作業をしてみて、下記【メモ】に書いたような予期しない重要な情報が実際に生まれましたので、この概念はとても有用であると感じました。

しかし、昭和52年作成の上記層序年表のコンテンツそのものは日本全体を対象としています。
また全時代対応の汎用的利用を考えています。
さらに5万分の1地形図掲載地名(大字レベル)を対象としています。

ですから、花見川流域とか下総台地とか千葉県とかの小字レベルでの考察に、上記コンテンツは大いに参考になりますが、あまりに一般論であり、分析を深めるツールとしては満足できるものであはありません。

にもかかわらず、この概念は使えると思います。いただきです。

すでに、このブログではハナ地名、戸(ト、ド)地名、ハタ地名、マク(マキ)地名などを検討してきています。あるいはカナ(カネ)地名、ヒョウ地名、コテ、ナラ、クマ、アマ、ケミ、ゲンバショ、イサム、タケシなどに興味を持ってきています。古代に関する地名材料のプールが既にある程度できてきています。

今後自分の知識量をもっと増やしていけば、自分なりの古代を中心とした下総地名層序表をつくることは不可能ではないと直感します。

また、このような概念を活かして有用な情報を引き出すためには、小字データベースの作成領域を拡大して小字母集団を大きくすることが大切であると感じました。

【メモ】
語根型「~部(~ベ)」で抽出された小字は古代の地名である可能性が高く、地域を考える際のヒントになると思います。

さて、花見川区 犢橋町 莚部(ムシロベ)と花見川区 長作町 諏訪部(スワベ)の例が気になります。

この地名が部民(ベミン)の村(上代貴族の隷属民の村)を表現しているとすれば、その地域はヤマト王権の直轄領みたいな地域であったことになります。在地首長の支配が及ばない地域であったことになります。

そうだとすると、その場所に古墳が存在しないことと整合します。

2015.04.06記事「花見川流域古墳空白地帯の検討」と関わってくる情報です。

いったん取り下げた仮説(古墳空白地帯の住民が被支配環境下にあった)が装いを新たにして、復活する可能性が出てきました。

予期しない展開となりそうです。

もし部民の村が古墳時代花見川流域にあるとすれば、花見川流域の社会階層秩序イメージも変更することになり、地域認識が大いに深まることになります。


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【お知らせ】

小字地名データベース作成活用プロジェクト シリーズを始めます。

現在継続しているシリーズ(花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討)と同時並行で進めます。

このシリーズでは、小字地名データベースの市町村別作成を順次報告し、その活用策について検討して行きます。

なお、過去記事に遡って次の連番を付けます。

2015.02.09記事「Illustratorによる千葉県全域小字(10万件)の簡易データベース完成」 シリーズ1
2015.03.25記事「予報 千葉市小字データの電子化」 シリーズ2
2015.04.05記事「千葉市小字データベースのプロトタイプ完成」 シリーズ3

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