1 権現後遺跡から出土した銙帯
銙帯は官人が活動していた証拠であると考え、銙帯出土が官人の活動=律令国家の組織活動の存在の指標になると考え、このブログでは重視しています。
八千代市権現後遺跡から出土した銙帯は次の7点です。
権現後遺跡出土銙帯
銙帯スケッチは「八千代市権現後遺跡 -萱田地区埋蔵文化財調査報告書Ⅰ- 本文編」(1984、住宅・都市整備公団 首都圏都市開発本部・財団法人千葉県文化財センター)から引用
Ⅰゾーンから3点、Ⅲゾーンから3点、Ⅳゾーンから1点出土しています。
この3つのゾーンは「竪/掘」値の分級ではcであり、一般農業集落的性格が強いと考えたところです。
一方、Ⅱゾーンは「竪/掘」値分級がbであり業務地区的性格が強いと考えたのですが、このゾーンだけ銙帯が出土していません。
違和感が生じます。この違和感を一つの頼りにして、他の指標の結果を待って、ゾーンの特性を明らかにしたいと考えます。
参考までに北海道遺跡、白幡前遺跡・井戸向遺跡の銙帯出土情報を再掲します。
北海道遺跡の銙帯出土情報
白幡前遺跡・井戸向遺跡の銙帯出土情報
北海道遺跡のⅢゾーンは「竪/掘」値分級cですが銙帯が出土していて、その理由は官人が主導する開発拠点の中の居住地区がⅢゾーンだからであると考えました。ゾーン内に職能集団の居住とその職能施設がセットで存在しているとは限らないと考えたのです。
井戸向遺跡のⅣゾーンも「竪/掘」値分級cですがやはり銙帯が出土していて、その理由を、そのゾーンが開発中の現場であり、官人が現場事務所に常駐していたというようなイメージで捉えました。
権現後遺跡のⅠゾーン、Ⅲゾーン、Ⅳゾーンは「竪/掘」値分級cで、その場所から全部で7点もの銙帯が出土していることの説明は他の指標の情報を待って行いますが、北海道遺跡と同じような考えをすることになるような予感がします。
もしかしたら、白幡前遺跡でよくあてはまったゾーン別の特性把握方法を、北海道遺跡や権現後遺跡の事例から受ける違和感により、さらに発展させるチャンスとすることができるかもしれません。
2 権現後遺跡から出土したハマグリ
萱田地区は東京湾から分水界を隔てた場所であり、東京湾産ハマグリ出土は奢侈活動が行なわれた証拠であり、その背景に権力の存在を感じることができます。銙帯と並び、ハマグリも律令国家の組織活動に関わる指標と考えられます。
八千代市権現後遺跡から出土したハマグリ(ハマグリをメインとした貝層)は次の2箇所です。
権現後遺跡ハマグリ出土竪穴住居跡
出土箇所はⅠゾーンとⅢゾーンです。
銙帯出土と同じように、「竪/掘」値分級を踏まえると違和感が生じます。
銙帯出土、ハマグリ出土からⅠゾーンやⅢゾーンに権力を持つ官人が居住していたことが判明します。
参考として北海道遺跡、白幡前遺跡のハマグリ出土情報を再掲します。
井戸向遺跡からハマグリは出土していません。
北海道遺跡ハマグリ出土竪穴住居跡
白幡前遺跡貝層出土遺構
井戸向遺跡からハマグリが出土しないのは、権力をもった官人が居住していなかったからだと考えます。
そのように考えると、井戸向遺跡は白幡前遺跡と隣接しているので、白幡前遺跡を本社とすると、井戸向遺跡は支社ではなく、本社の別建物みたいな位置づけで、本社の一部のような存在だったと考えられます。
北海道遺跡と権現後遺跡は白幡前遺跡を本社と見立てた時に支社にあたる存在だと考えます。支社ですから一定の権限をもつ支社長が存在したのだと思います。その支社長が権力を行使してハマグリを食ったのだと思います。
白幡前遺跡(井戸向遺跡を含む)を本社、北海道遺跡と権現後遺跡を支社と見立てると、本社内のゾーン機能と支社内のゾーン機能が異なっていて当然です。
現時点では、本社内の1つのゾーン機能が支社全体機能と対応するようなイメージを空想します。