この記事では墨書土器文字「得」と「万」の出土分布ヒートマップを作成して、この遺構と集落内集団との関係を考察します。
1 墨書土器文字「得」「万」の集落内における出土領域
上谷遺跡では代表的な墨書文字として「得」「万」「竹」「西」の4つがあげられます。
これまでの検討で、これら4つの代表的墨書文字は居住地を異にする別々の生業集団と対応していると考えてきています。
「得」「万」「竹」「西」を代々伝える4つの集団が上谷遺跡付近集落を構成していたと考えています。
その4つの文字概略分布は次のように図化することができます。
上谷遺跡 代表的墨書文字の出土領域と存被熱ピット竪穴住居
A102a竪穴住居は「得」出土領域と「万」出土領域の中間に位置しています。
またこの付近の存被熱ピット竪穴住居(小鍛冶遺構想定)はほとんどが「得」領域に分布しています。
墨書文字「得」と「万」の出土領域は空間的に棲み分けしていますが、小鍛冶遺構は「得」と「万」二つの集団が合同で運営していたような印象を持つことができる分布になっています。
2 A102a竪穴住居内の「得」「万」分布
A102a竪穴住居 墨書土器「得、万」分布図
この遺構から「得」と「万」の双方が出土していることが一つの特徴です。
同時に「万」は覆土層の上層から出土していて、「得」は「万」より上層に位置していることが読み取れます。
「万」の遺構内持ち込みの後に「得」の持ち込みがあったように観察できます。
3 「得」と「万」のヒートマップ
墨書土器文字「得」と「万」の出土平面位置分布ヒートマップを示します。
上谷遺跡 A102a竪穴住居 墨書土器「得」分布ヒートマップ
上谷遺跡 A102a竪穴住居 墨書土器「万」分布ヒートマップ
得、万ともにその分布は出入り口ピット(西側)付近から竪穴住居に降りて、穴の壁沿いに半周した範囲に多いように観察できます。
竪穴住居中央部に祭壇とか祈祷を行う機能が存在していて、その場所を避けて墨書土器を埋めたと仮想します。
4 A102a竪穴住居から墨書土器文字「得」と「万」が共伴出土する理由
1、2、3から、A102a竪穴住居で墨書土器文字「得」と「万」が共伴出土する理由を次のように空想します。
・小鍛冶機能(鉄器修繕、鉄器流通)は得集団と万集団が共有して所有(運営)していた。その主導権はA102aがその機能を有していた頃は得集団であった。
・小鍛冶機能を有する有力家であるA102a竪穴住居が廃絶したので、その有力家が属する得集団が廃絶跡地の祭祀を行っていた。
・【ケース1】しかし集落全体が衰退する中で「得」集団が衰退して祭祀を行うエネルギーが無くなり、最後の祭祀は「万」集団が代わって挙行した。
・【ケース2】しかし、「得」集団と「万」集団の力関係が変化して、A102a竪穴住居付近が全て「万」集団の支配域となり、最後の祭祀開催権を「万」集団が「得」集団から奪った。
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