縄文社会消長分析学習 52
この記事では東金市・大網白里市養安寺遺跡の中期に絞って、その遺物・遺構を発掘調査報告書からピックアップします。
1 東金市・大網白里市養安寺遺跡の発掘調査報告書と位置
東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書
東金市・大網白里市養安寺遺跡の位置
養安寺遺跡は下総台地と房総丘陵を結ぶ狭窄部に位置し、移動するシカ等の交通の要衝であり、旧石器時代からの狩猟好適地に位置します。
2 東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構
東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構
(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)
・養安寺遺跡のうち縄文中期分だけ抜き出してピックアップしたものです。
・竪穴住居は阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期にはじまり、加曽利E1式期、加曽利EⅡ式期まで続きます。軒数は順次少なくなります。房総の遺跡はほとんどが加曽利EⅡ式期にピークを迎えますから、この遺跡は通常ではありません。
・土器の出土状況は他の遺跡と異なり、異なる様式の土器が一括して出土します。阿玉台式系統、勝坂類似、中峠式近似、大木式が一括出土します。
出土土器
東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用
・斜面貝層から出土する土器は竪穴住居軒数の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式・加曽利Ⅱ式期の分が圧倒的に多くなっています。
・出土石器では黒曜石を最多岩種とする石鏃が多数出土します。石鏃づくりに伴う剥片類も多数出土します。
・同時に骨角歯牙製品が538点と多数多種出土します。
骨角歯牙製品
東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用
・またイノシシ、シカをメインとしタヌキ、ノウサギなどを含む獣骨も多数出土します。
・多数の石鏃、多数の骨角歯牙製品、多数の獣骨の存在から、この遺跡のメイン生業が狩猟であることがわかります。
・狩猟とともに漁労も行われていますが、東京湾の大型貝塚と比べると貝刃などの貝製道具類の数が少なく、漁労はサブ的な生業であったと考えられます。
・人骨は全て貝層から散乱骨として出土しています。
3 発掘調査報告書が指摘する集落と貝層の乖離
発掘調査報告書では集落が房総全体の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式期~加曽利EⅡ式期に向かって衰退する様子を指摘します。しかし、それに反して貝層出土物は通年定住型環状集落に伴う貝層となんら遜色のない内容が示されて、集落規模と貝層出土物量の乖離が指摘されています。
発掘調査報告書ではこの乖離の解釈案を4つ提示しています。
ア 貝層は調査結果の小集落で形成された。
イ 貝層は複数遠方集落構成員によって形成された。(集落は複数遠方集落の共同利用施設であった。期間を棲み分けて、同じ猟場を複数集落が利用するイメージ。)
ウ 貝層は調査で発見できなかった大きな集落で形成された。(集落遺構が失われてしまっているため調査できない、あるいは発掘区域外に集落が存在する。)
エ ア~ウ以外の要因による。
4 感想
・養安寺遺跡が狩猟遺跡であり、同時に複数集落の共同管理施設であった可能性が濃厚であり、特異な遺跡です。
・養安寺遺跡からアリソガイが有吉北貝塚にもたらされているのですが、有吉北貝塚から養安寺遺跡にもたらされた土器などの遺物は見つかっていないようです。
・養安寺遺跡の狩猟に有吉北貝塚の人々は参加していないようです。養安寺遺跡と有吉北貝塚とは交易の関係があるだけのようです。
・養安寺遺跡の人々と有吉北貝塚など東京湾岸貝塚の人々はどうも「流派」が違うようです。土器の文様が異なる様子から「流派」が違う感覚を受けます。
・漁業権とか狩猟権などの土地の権利関係が発達していて、最初に開発した集団がその権利を確立した歴史があるのだと思います。
・養安寺遺跡の隣東金市鉢ヶ谷遺跡から中期前葉五領ヶ台式期の河童形土偶が出土していて、その土偶が長野県茅野市棚畑遺跡出土国宝土偶「縄文のビーナス」と系譜を同じにすることに驚いたことがあります。棚畑遺跡から銚子産コハクが出土しています。中部高地の人々がいち早く九十九里の狩猟好適地に進出して、そこに狩猟権を確立したと考えても、荒唐無稽とは言い切れません。
2020.07.09記事「「縄文のビーナス」と系譜を同じにする千葉県出土土偶」
次の記事で養安寺遺跡と有吉北貝塚との対比を行います。
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養安寺遺跡 中期
- 遺構
- 竪穴住居 17
- 阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期 10
- 加曽利EⅠ式期 5
- 加曽利EⅡ式期 2
- 小竪穴・土坑 約80
- 北側斜面貝層
- 竪穴住居 17
- 土器
- 一括出土
- 阿玉台式系統
- 勝坂式類似
- 中峠式近似
- 大木式
- 一括出土
- 遺物
- 土製品
- 土製装身具
- 耳飾 1
- 生産系
- 土器片錘 34
- 有孔円盤 30
- 土製装身具
- 石製品
- 大珠 2
- ヒスイ 1
- 非ヒスイ 1
- 琥珀
- 大珠 2
- 石器 中期貝層SS009
- 石鏃 305
- 黒曜石 133
- チャート 119
- 剥片類 2637
- 黒曜石 1117
- チャート 1074
- フォルンヘルス 285
- 磨製石斧 13
- 打製石斧 53
- 磨石 13
- 敲石類 139
- 石鏃 305
- 骨角歯牙貝製品
- 骨角歯牙製品 538
- 生産 89
- 刺突具 85
- 釣針 3
- 掘具 1
- 加工 176
- ヘラ状工具 168
- 針状工具 8
- 装飾 119
- 鹿角製装飾 21
- 骨製装飾 13
- 歯牙製装飾 23
- 管状製品 22
- 魚類椎骨穿孔品 3
- 針状製品(髪針) 28
- 鏃型製品(歯牙) 9
- 素材・その他 154
- 加工角 31
- 加工骨 48
- 除去吻端 75
- 生産 89
- 貝製品 101
- 貝輪 4
- 貝刃 60
- チョウセンハマグリ製 59
- カガミガイ製 1
- その他の貝製装飾品
- その他の貝製品
- 骨角歯牙製品 538
- 動物遺体
- 哺乳類
- イノシシ
- シカ
- タヌキ
- ノウサギ
- イヌ
- 鳥類
- キジ科 43%
- カモ科 34%
- クイナ科 14%
- 哺乳類
- 主要貝種 サンプル
- チョウセンハマグリ 83.3%
- ダンベイキサゴ 10.0%
- 魚類
- 淡水域
- フナ属
- ドジョウ科
- ギギ科
- ウナギ属?
- 内湾域
- スズキ属
- クロダイ属
- ボラ科
- コチ科
- ウナギ属?
- 外洋沿岸~内湾
- イワシ類
- マイワシ
- カタクチイワシ
- イワシ類
- 外洋沿岸域
- トビエイ
- サメ
- 淡水域
- 人骨(最小個体数) 18
- 北斜面貝層 11
- 大人 6
- 少年 1
- 小児 3
- 乳児1
- 北西斜面回貝層 7
- 大人 3
- 少年 1
- 小児 2
- 乳児~幼児 1
- 北斜面貝層 11
- 土製品
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