縄文土器学習 559
有吉北貝塚における加曽利E式期の土器分類は埼玉編年(1982)に基づいています。そこで埼玉編年(1982)加曽利EⅠ式部分(Ⅸ期・Ⅹ期)について、土器細分類記述と画像をFileMakerでデータベース化してカードにしました。その土器細分類カードを並べなおして、分析的に学習しました。紙報告書(のスキャン画像)をいくら詳しく理解しようと思っていも、複雑な対応関係を頭の中で理解することは困難で気力の限界を超えます。しかしデータベース化、カード化、カードの配置考察という手作業を含む分析学習によって加曽利EⅠ式の土器細分類の全貌を納得感をもって学習することができました。
この記事では1群土器(キャリパー形土器)の学習をメモします。
1 埼玉編年における土器群・類の分類概要
1-1 分類手順
Ⅸ期・Ⅹ期の土器群・類の分類は次のようなステップで行われています。
ア 最初に1~5群土器に分類する。
イ 次に各期ごとに群の中を類として分類する。
1-2 群の分類
ア 1群土器
加曽利EⅠ式の主体となるキャリパー形土器。口縁部文様帯に最も特徴を持つ。
イ 2群土器
加曽利EⅠ式段階に関東で成立し、変遷する土器。客体的存在であるが、加曽利EⅠ式土器群の構成において、常に一部を占めている。
ウ 3群土器
中部地方に主体を持つ曽利Ⅰ式、Ⅱ式に比定される土器、あるいは類似する土器。
エ 4群土器
前段階の勝坂式及び中峠式の系統を残す土器。
オ 5群土器
1~4群の浅鉢形土器に対して、浅鉢形を中心に小型土器等の一括。
1-3 1群土器の類の分類
Ⅸa期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類
Ⅸb期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類
Ⅹ期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類、I類
(A類、B類・・・には特徴を類推できる名称がつけられていないだけでなく、3つの期での対応がありません。)
2 FileMakerによるデータベース化、カード化
FileMakerによるデータベース 一覧表表現(部分)
FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅸa期A類
FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅹ期H類
3 カード配置による1群土器分類の理解
埼玉編年(1982) Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式) 1群土器(キャリパー形土器)分類の理解
(この資料は同じ情報を3Dモデルにすることを念頭していますので、下(つまり手前)が古く、上(つまり奥)が新しくなるように表現しています。通常の土器編年表と異なります。)
紙資料をいくら理解しようとしても3重4重に情報を変換して対応関係をみることは苦痛であるばかりでなく、事実上不可能でした。しかしデータベース化、カード化することにより加曽利EⅠ式キャリパー形土器(Ⅸ期・Ⅹ期の1群土器)の細分類の全体像を把握することができました。埼玉編年(1982)という資料がどのような思考でどのような結果を提示しているかということの理解が一応できたことは、それを知らないで通り過ぎるよりも、よほど素晴らしいことです。
4 学習メモ
大局的にみて荒川あたりを境に、関東西部と東部で特徴が違います。
S字文、渦巻文、区画文土器が西部を中心に分布していて、それらの土器地文は撚糸文が多くなっています。
クランク文、曲線文、棒状沈線文は東部を中心に分布していて、それらの土器地文は縄文が多くなっています。
口縁部文様はS字文を始め各文様ともにⅨa期よりもⅨb期で発達する(大きくなる、彫りが深くなる)傾向があるようです。しかしⅩ期になると区画文の中に様式化して取り込まれ、退化していくようです。
西部の土器地文である撚糸文はⅩ期になると減少し、縄文が増えます。
5 疑問・問題意識
ア 文様の優先順位
一つの土器にS字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文、棒状沈線文の複数の要素が見られることは極普通です、逆に単一の要素だけということは事例としては少ないと思います。しかし、埼玉編年ではあたかも土器には主要な文様が1つだけあるのが一般的であり、それにより分類しているような記載になっています。おそらく複数文様が見られる場合、分類で使う優先順位(重みづけ)があると思いますが、それが判りません。
イ 文様のレベルの差
S字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文と棒状沈線文は次元が異なる文様項目です。棒状沈線文は地文ですから、それと本来の文様を同じレベルで指標にすることは疑問が生まれます。
ウ 胴部文様など
胴部文様、器形、大きさなどの要素が埼玉編年土器細分類とどのような関係になるのか興味が湧きます。
6 感想
埼玉編年(1982)で検討された思考の一端をⅨ期・Ⅹ期で知ることができました。大労作であり、学習のしがいがある資料です。
その後40年で膨大な発掘情報が加わっています。千葉県分を含めた、それらの膨大情報を整理した新版関東編年資料ができることを期待します。
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