縄文土器学習 568
2021.03.29記事「加曽利EⅠ式期における曽利式比定土器」で曽利式土器について学習しましたが、関連して以前から気になっていた次の谷口康浩(2002)論文を入手できましたので割り込みで学習しました。
1 谷口康浩(2002):縄文土器型式情報の伝達と変形-関東地方に分布する曽利式土器を例に-、土器から探る縄文社会 2002年度研究集会資料集(山梨県考古学協会)について
この論文の概要を大内千年先生講演(2020.01.19記事「加曽利博主催縄文時代研究講座 大内千年先生講演の聴講」)で知り、興味を持ちました。早速web古書店で検索したのですが見つからず、しかたなく諦めていました。ところが数日前改めて検索するとヒットし即座に入手できました。
2 論文の概要
この論文では、曽利式土器の本場から関東一円に曽利式土器型式情報がどのように伝達し、その伝達の中で情報がどのように変形したかという事象を数量的指標を用いて分析検討しています。
ア 分析対象遺跡
分析対象土器の完形個体、略完形個体、復元個体が50以上ある59遺跡。
イ 曽利式土器本場の仮原点
曽利式土器本場の仮原点を釈迦堂遺跡に設定
ウ 分析指標
1 曽利式情報量
2 仮原点から遺跡までの直線距離
エ 曽利式情報量に情報を要約するプロセス
次の2つの変量を主成分分析で1つの成分に要約。
変量1 遺跡における曽利式、加曽利E式、連弧文土器出土比率
変量2 遺跡におけるA群、B群、C群の比率
オ A群、B群、C群の区分
A群:オリジナルな曽利式に忠実な一群
B群:文様の細部の特徴や型式情報の編集に変形が生じている一群
C群:変形が著しくオリジナル標本の中にすでに類例を見出せない一群
A群、B群、C群の区分
谷口康浩(2002)から引用作成
カ 分析結果
曽利式比率の距離低減、A群比率の距離低減
谷口康浩(2002)から引用作成
曽利式比率(曽利式土器の比率)、A群比率ともに距離による逓減が80㎞付近まで顕著で、それから遠方は逓減が緩やかになることが特徴で、その様子を詳しく分析しています。
曽利式情報量の等高線図と地帯区分
谷口康浩(2002)から引用作成
曽利式情報量(曽利式比率とA群比率を要約した情報)の大きさで作った等高線図であり、曽利式情報がどのように減衰し変形しながら伝播したか詳しく分析しています。
3 感想
部外者にも判りやすい論文構成となっていて、大変面白い論文です。
A群、B群、C群の区分に高度な専門性が必要であり、この論文のオリジナル性がこの区分にあると考えました。
この論文では曽利式土器と加曽利E式土器の折衷土器は扱っていないと書かれています。折衷土器の分類が出来ていないからだと思いますが、将来折衷土器を対象にしてこの論文と同じような分析をするとどのような結果になるのか、興味が湧きます。
論文最初に、曽利式土器圏における加曽利E式土器出土よりも、加曽利E式土器圏における曽利式土器の方が多いと書いてあります。その理由について興味が湧きます。加曽利E式土器圏において、曽利式土器圏文化生活が憧れのようなものであったといえます。曽利式土器圏の土偶とかその場所を経由するヒスイなどと関係あるかもしれません。
「曽利式情報量の等高線と地帯区分」図に加曽利EⅠ式、EⅡ式頃の土偶分布図を重ねると、興味ある情報が浮かび上がりそうです。
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