私の散歩論

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2022年11月2日水曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の地学的考察

 Geological Consideration of the North Slope Shell Formation


I have examined the geological features of the topography in which the North Slope Shell Formation fits. This topography is gully erosion topography, but it seems that the peak season has already ended. Therefore, the Jomon people completely reclaimed this topography by dumping shells. I discarded the working hypothesis that the Jomon people worked to prevent the spread of gully erosion.


有吉北貝塚北斜面貝層が収まる地形の地学的特性を検討しました。既に盛期が終わったガリー侵食地形のようです。そのため、縄文人の数百年間の貝投棄により埋め立てられました。ガリー侵食拡大に対する危機感から貝や土器投棄があったという作業仮説は捨てました。

1 北斜面貝層はガリー侵食地形を埋めて形成された

北斜面貝層の地形は箱形のようにみえる窪地になっています。この窪地地形は、谷頭部が急斜面で、流路に段差が多数存在する特徴から、全体がガリー侵食地形であると考えることができます。


ガリー侵食地形


ガリー侵食地形の特徴である谷頭部急斜面と谷底段差

2 ガリー侵食地形左岸に堆積する砂層は上流部ガリー侵食に起因する堆積物である

貝層形成前に、ガリー侵食地形左岸(断面4~13)に砂層が堆積しています。

発掘調査報告書ではこの砂層を斜面の崩落土砂としています。

しかし、この砂層は次の観察から上流谷頭部のガリー侵食で生産された土砂が流水で運ばれ、主に砂だけが堆積したものであると考えることができます。

1 砂層の層位線角度が低角度であり崖錐のように上から崩落した土砂のようではない。

2 斜面の上から崩落した土砂ならば、ローム層(土層)と成田層(砂層)が塊状に混じった層相(例 断面2の右岸側)になるはずであるが、そうではない。

3 砂層が斜面上部から崩落したものならば、斜面と底部が角度を成す断面形を説明できない。


砂層の分布

3 貝層形成期にはガリー侵食の盛期は終わっていたと考えられる

次の観察結果から、貝層形成期(阿玉台式~加曽利EⅢ式)にはガリー侵食活動の盛期は終わっていて、地形はガリー侵食地形であるけれども、実際の侵食・運搬活動はきわめて虚弱であったと考えることができます。

3-1 貝層形成以前の堆積物である砂層(ガリー侵食に起因する砂層)に土層が被り、かつ砂層の侵食が始まっている

ガリー侵食地形左岸(断面4~13)に堆積する砂層は谷頭部ガリー侵食に起因する堆積物であると考えますが、その上部に土層が堆積しています。

土層が堆積するということは砂層が堆積し終わってから、つまりガリー侵食がアクティブで無くなってから地学的時間が経過していることを表現しています。

さらに、この土層が乗る砂層が水流で侵食され小さな谷が出来ている様子も貝層断面図から読み取ることができます。この現象は砂層の上に土層が乗ってから以降、さらに地学的時間が経過していることを表現しています。

砂層上の土層の存在と、砂層地形が侵食されている様子は、谷頭部ガリー侵食による土砂運搬が終わってから地学的に久しいことをを示しています。

3-2 貝層断面に顕著なガリー侵食堆積物がみられない

全ての貝層断面図で、貝層の間に砂層や土層がレンズで挟まる様子は皆無です。谷頭部における土砂生産が活発ならば、下流で混貝土層、混土貝層や純貝層の間にレンズで砂層や土層が観察できるはずです。しかし、その様子は全くありません。

3-3 縄文人による貝層投棄パワーが谷頭部土砂生産作用を上回る

3-3-1 谷頭部が人為的生成物である混貝土層で埋め尽くされている

急斜面で構成されるガリー谷頭部が混貝土層で埋め尽くされています。急斜面上部から貝が投棄され、それに土砂が混じって混貝土層が生成したと考えることができます。つまり谷頭部で「生産」される人為的堆積物の量がガリーにより下流に運搬される量を上回っています。ガリー侵食という自然営力ががきわめて虚弱であることを物語っています。



谷頭部が混貝土層で埋めつくされている様子

3-3-2 自然営力による土砂生産より人為的貝層生成が勝る

ほとんどの貝層断面図で、ガリー流路中央で貝層と土層が明瞭に区分される層相を読み取ることができます。左岸からの縄文人による貝投棄で生成される貝層によって、上流から運ばれてくる土層や砂層が右岸側に押しやられている様子が観察できます。これは縄文人による貝投棄活動パワーが上流谷頭部の土砂生産パワーに敗けていない様子を示しています。この様子から谷頭部土砂生産活動が虚弱であることを確認できます。

4 参考 ガリー浸食地形が現在の谷津地形に対して段丘化している可能性

ガリー浸食地形は台地斜面中腹に位置していて、谷底縦断面形は現在谷津に対して非連続となっています。ガリー侵食地形は現在谷津地形に対して段丘化しています。

ガリー侵食活動の盛期が終わっているので、谷津谷底が下刻してもそれに対応できないで、ガリー侵食地形が斜面中腹に取り残された可能性があります。

斜面中腹に取り残されたガリー侵食地形を縄文人が貝層で埋めました。そのためガリー侵食地形が化石のように残存することになりました。

おそらく氷河期の産物であると想定されるこのガリー侵食地形が貝層形成で奇跡的に丸ごと残存し、それが発掘調査で記録されました。この記録は地形学にとって貴重な情報である可能性があります。


ガリー侵食地形(北斜面貝層)が斜面中腹にある様子

5 学習当初の見立て(作業仮説)の廃棄

有吉北貝塚学習を初めてから長い間次のような見立て(作業仮説)を持っていました。これらの見立て(作業仮説)は学習興味増進という役割をになってきました。しかしガリー侵食地形の地学的考察によりその妥当性が失われました。従って廃棄します。

ア ガリー侵食に対する危機感が縄文人を土器や貝の投棄に駆り立てた

ガリー侵食が集落立地台地面を犯すような状況になり、縄文人が危機感を抱いて土器投棄や混貝土層生成などによりガリー侵食を抑えようとした。現代風に言えば、縄文人が防災工事をした。

イ ガリー侵食地形急拡大は縄文中期気候変動に関連するかもしれない。

ウ ガリー侵食急拡大は縄文中期人口急増による環境変化(樹木伐採で集落周辺がはげ山化したことなど)に起因するかもしれない。



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