私の散歩論

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2023年4月2日日曜日

有吉北貝塚北斜面貝層のガリー侵食堆積物の検討

 Examination of gully erosion deposits on the shell bed on the northern slope of Ariyoshi Kita Shell Mound


I examined the origin of the gully erosion deposits (collapsed soil in the excavation report) on the shell layer on the northern slope of the Ariyoshi Kita Shell Mound. I thought it was the remnants of shell mound deposits from the Atamadai-style to Nakabyo-style periods.


有吉北貝塚北斜面貝層のガリー侵食堆積物(発掘調査報告書では崩落土砂)の素性について検討しました。それは阿玉台式期~中峠式期の貝塚堆積物の残骸であると考えました。

1 ガリー侵食堆積物の様子


有吉北貝塚北斜面貝層剥ぎ取り断面の発達史想定

参考 有吉北貝塚北斜面貝層剥ぎ取り断面 観察記録3Dモデル

剥ぎ取り断面を詳しく観察すると、最下層にはガリー侵食堆積物(発掘調査報告書では崩落土砂)が存在し、それを構成するものには黒土やロームのブロックとともに貝層のブロックも含まれています。また堆積物には貝殻片が少量ですが満遍なくといっていいほど含まれています。さらに土器片も含まれています。この様子から地表に貝殻や土器が投棄された斜面貝塚がかつて存在し、その貝塚がガリー侵食を受け、貝殻や土器を含んだ土砂が侵食崖付近に一部残り堆積したものと推察できます。

2 ガリー侵食堆積物に含まれる土器

北斜面貝層から出土する阿玉台式土器は一瞥しただけでガリー侵食堆積物から出土すると立体的にみて確認できるものがかなりあります。


ガリー侵食堆積物から出土したことが確認できる阿玉台式土器 第5断面


ガリー侵食堆積物から出土したことが確認できる阿玉台式土器 第9断面


参考 阿玉台式土器の分布

同様に、一瞥しただけでガリー侵食堆積物から出土すると立体的にみて確認できる中峠式土器がかなりあります。


ガリー侵食堆積物から出土したことが確認できる中峠式土器 第10断面


ガリー侵食堆積物から出土したことが確認できる中峠式土器 第11断面


参考 中峠式土器の分布

3 ガリー侵食堆積物の素性

今後土器出土場所と貝層層位の関係を精細立体的に分析します。しかし、ガリー侵食堆積物から阿玉台式土器と中峠式土器がかなり出土していることは確実ですから、ガリー侵食堆積物は阿玉台式土器や中峠式土器が投棄された場所(つまりその時期の斜面貝塚)が侵食されその残骸であることがほぼ間違いないと推測します。今後の3Dモデル分析精査活動が楽しみです。

4 北斜面貝層の発達史想定

精査活動前の現時点では次のような想定を心の中に持っています。この想定が正しいかどうか検証するスタイルで学習を深めることにします。

・縄文早期・前期に北斜面貝層の場所に土器投棄があった。

・阿玉台式期及び中峠式期に北斜面貝層の場所で斜面貝層が形成され貝殻と土器の投棄があった。

・中峠式期と加曽利EⅠ式期の間頃、北斜面貝層の場所で激烈なガリー侵食現象があり、阿玉台式期及び中峠式期に形成された斜面貝層は全て失われた。その残骸がガリー急崖付近に堆積した。

・加曽利EⅠ式期になるとガリー堆積物の上に斜面貝層が形成され出した。

・加曽利EⅡ式期になると斜面貝層形成が盛んとなり、加曽利EⅡ式中~新段階で貝層形成がピークとなり、ガリー地形は完全に埋め立てられた。

・加曽利EⅡ式新段階で斜面貝層形成が突然終わった。

5 感想

過去の学習では発掘調査報告書の記述に従い、(発掘調査報告書でいう)崩落土砂は貝層形成以前の地学現象で生じた堆積物であると考えていました。しかし、剥ぎ取り断面を観察して、つまり露頭現物を観察して、崩落土砂とは古い貝塚の残骸であることを確認できました。巨大な剥ぎ取り断面を後世に残された発掘関係者の方々に社会の隅っこから1市民として秘かに感謝する次第です。


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