私の散歩論

ページ

2024年6月14日金曜日

儀礼考古学の方法論

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 5


Methodology of ritual archaeology


Study 5 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


There are four methods of ritual archaeology, but Yasuhiro Taniguchi's “DOGU & SEKIBOU”places the greatest emphasis on the "method based on objects, actions, and context." This is because, although the consciousness of prehistoric people cannot be directly reconstructed, it is possible to understand actions and materials from archaeological materials.


儀礼考古学の方法は4つありますが、谷口康浩著「土偶と石棒」では「モノ・行為・コンテクストによる方法」を最も重視しています。先史時代人の意識は直接復元できないが、考古資料から行為と物質を把握することは可能であるからです。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(1)儀礼考古学の方法論

・この小節では最初に「儀礼」と「祭祀」について定義し、次に儀礼考古学の方法論を4つ列挙し、著者は最後の「モノ・行為・コンテクストによる方法」の重視を述べています。最後に、俯瞰的視点の重要性について触れています。

●「儀礼」と「祭祀」の定義

「本論では広く儀礼を扱う考古学研究を「儀礼考古学」と定義する。

「儀礼」は社会的慣習・規範として形式化した礼儀を指し、儀礼の行為的側面を「儀礼行為」という。儀礼の目的は社会関係の維持・宥和あるいは危険回避にあるため、人間・自然・超自然的存在を含め、その社会にとつて重要なもの、精神的依存度の高いものはすべて儀礼の対象となり得る。「祭祀」は神霊や祖先を大切に祀り、宥和を図って畏怖の念を除き、また加護を願うことを意味する。祭祀は超自然的存在に対する宗教的観念とその絶対的な力への信仰を前提とし、それをおこなう人間の意識的側面を指すのが普通である。祭祀に伴う儀式や行事などは、神霊や祖先を対象とした儀礼行為と捉えることができる。「宗教」は体系化された世界像・神観念をもち、祭祀・儀礼の実践によって人々を精神的共同社会に組織化するもので、高度に純化された儀礼文化と捉えることができる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●儀礼考古学の4つの方法

「 ア)歴史的遡及法 現存する伝統的な宗教文化の知識、聖典や歴史記録などの文献をもとに、歴史をさかのぼつて起源や変遷、意味を明らかにする方法。神道考古学がその典型。

イ)民族学的類推法 類似の文化要素やその構造を、民族誌や民俗伝承などを用いて通文化的に比較し、儀礼や信仰の意味・機能を類推する方法。土偶と地母神信仰の比較研究などがその典型。

ウ)図像学・記号論的方法 シンボルの図像学的、記号論的な分析から、図像の意味や精神性を解釈しようとする方法。認知科学や心理学を援用して過去の人々の認知パターンや心理を探る研究法もある。

エ)モノ・行為・コンテクストによる方法 遺物と遺構に残された「モノ」「行為」「状況」を手がかりに、儀礼・信仰の行為的側面と物質的側面を明らかにする方法。(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●筆者が重視する方法

「本書でもっとも重視するのはこのうちエ)の方法である。宗教や信仰には、意識的側面・行為的側面・物質的側面がある。先史時代の人々の意識的側面を考古資料から直接復元することは困難だが、考古資料の分析から行為的側面と物質的側面を把握することは可能である。

①多くの事例に共通する現象上のパターンから、

②儀礼的行為の型と認定できるものを捉え、

③その行為の背景にあつた観念形態を読み取り、

④遺跡に残されたコンテクストを解釈していく、

という研究手順が、筆者の基本的な接近法である。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●俯瞰的視点

「人間の文化には個々の要素に還元できない全体的構造がある。縄文中期には土器の文様と造形の大きな変化、土偶と石棒の発達、環状集落の盛行、硬玉製大珠の製作流通といつたさまざまな変化が起こったが、シンボリズムの高揚を示すこうした文化変化が急にあふれ出したのはなぜなのか。また、後期・晩期にも、再葬の発達と葬制の複雑化、環状列石・大規模配石の築造、精製土器の発達、抜歯の盛行、土製耳飾の流行、御物石器・石冠・岩版など石製儀器類の発達といった諸々の変化が複合的に起こつている。個々の要素をばらばらに研究するだけでは、縄文時代後半期のこうした動向の意味を理解することはできないだろう。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【感想】

・著者は現場発掘調査成果に立脚する考古学者であり、方法論エ)を重視する様子は当然です。同時に俯瞰的視点にもふれていて、狭い専門分野に固執していない思考はとても魅力的に感じます。

この図書をさらに読み進め、この方法論が現場でどのように展開するのか、楽しみです。


顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)の画像

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)

この画像は記事内容と直接関係ありません。


0 件のコメント:

コメントを投稿