私の散歩論

ページ

2022年5月31日火曜日

縄文土器学習の興味と感想

 Interests and impressions of learning Jomon pottery


I listed my interests in learning Jomon pottery and wrote down my impressions.


「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。

…………………

1 はじめに

2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要

3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動

3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察

3-1-1 観覧と写真撮影

3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

2)入組系横位連携弧線文土器

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3-2 3Dモデル分析

3-2-1 3Dモデル分析の目的

3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー

3-2-3 3Dモデル分析の方法

1) 3Dモデル実寸法付与方法

2) 器形の仮想復元

3) 器高と容量の計測方法

3-2-4 器高と容量の計測結果

3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類

3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係

1) 容量類型区分の型式別表示

2) 容量類型区分の文様別表示

3-2-7 考察

3-3 興味を覚えたテーマ

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

この記事では次の目次部分を掲載します。終回です。

…………………

3-3 興味を覚えたテーマ

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

……………………………………………………………………

3-3 興味を覚えたテーマ

2022年2月~5月縄文土器学習で興味を覚えた大小のテーマを列挙してメモします。十分に整理出来ていない状況が現状の学習レベルの程度を表現しています。

3-3-1 文様について

1) 意匠充填系土器について

・意匠充填系土器のメインテーマである渦巻文から楕円文への変化の時期は特定できるか。

・意匠充填系土器はいつ頃千葉に現れるのか、どこから伝播してきたのか。

・意匠充填系土器の渦巻文(円文)は何をイメージしているのか。

・意匠充填系土器の例は全て波状突起がある。それが定番か。

2) 入組系横位連携弧線文土器について

・入組系横位連携弧線文土器も称名寺式土器を除いてすべて波状突起がある。それが定番か。

・入組系横位連携弧線文土器のメイン弧線文と逆三角形文の意味は何か。

3) 対向系横位連携弧線文土器について

・対向系横位連携弧線文土器の対向する意味は何か

・対向系横位連携弧線文土器の対向の先端のずれは何を意味するか。鋭利な正面衝突ではなく、緩衝体を挟んだ接触か。

4) 全面縄文土器について

・全面縄文土器はランクの低い土器でよいか。それはどの型式でも分布しているか。

5) J字文について

・J字文の起源は何か。意匠充填系土器の楕円(そもそもは渦)か。

3-3-2 記号について

1) 湧泉記号について

・No.2の文様は湧泉記号でよいか。自噴と湧泉

2) 反転S字状文について

・反転S字状文は中峠式から継続してきている文様か。

・反転S字状文は吉祥文か。その意味。二つの渦か。入組み文とおなじ意味か。

3-3-3 縄文施文方法について

・口縁部と胴部の縄文施文方向の違いの割合は時期別、文様別にどのように消長するのか。加曽利EⅡ式がピークなのか。・口縁部と胴部の縄文施文方向の違いの意味は何か。単に口縁部強調で片づけてよいか。

3-3-4 異なる文様土器が共伴出土している意味について

・意匠充填系土器、入組系横位連携弧線文土器、対向系横位連携弧線文土器の出土割合は、地理的分布特性の違いあるか。土器型式別にその割合は変化するか。

・入組系横位連携弧線文土器と対向系横位連携弧線文土器は近縁関係なのか、対向系横位連携弧線文土器が吸収されたのか。

・入組系横位連携弧線文土器、意匠充填系土器、対向系横位連携弧線文土器の違いは使う家族(出自)の違いか。

・No.37は一つの土器に複数の文様が描かれている。楕円、横位連携弧線文、J字文。一人の縄文人がこの文様を描いた。これからヒントで、異なる文様の土器を同じ縄文人がつくったことが証明されることはあるか。同じ縄文原体であることが証明されるなど。→同じ縄文原体の証明は画像でできるはず。縄文は指紋みたいものだから、特定の原体を証明できるのではないだろうか。

3-3-5 器形、容量分類ABCDについて

1) 器形について

・器形を口径、最大幅、括れ部幅・高さ、器高、底部幅などの諸指標からある程度定量的に類型区分できるのではないか。それにより器形を分析する。器形分類と文様分類の関係をあぶりだすことはできそう。

・外面器形はデザイン、内面器形は実用とみてよいか。外面器形と内面器形の関係を観察してみる。

2) 容量分類ABCDについて

・土器容量分類ABCDの違いは本当に利用目的の違いか。

・各文様はそれぞれABCDをセットで持っているのか。各文様のABCDセットは型式別にも存在するのか。

3-3-6 器形変化について

・底部狭小化の意味は効率的調理という技術革新でよいか。


底部が狭小化したことによる効果

2022.04.29記事「加曽利E式土器の底部狭小化プロセス意義の理解

3-3-7 土器の利用について

1) 炉との関係について

・土器表面の磨り減りは3Dモデルから調べることができる。その情報から炉に設置した方法が類推できるのではないか。その類推は発掘調査報告書の炉情報分析(3Dモデル的分析)により裏打ちされる。

2) 土器利用について

・土器内面のおこげ・黒変の分析から使い方を想定できると考える。おこげ・黒変の観察はショーケース展示土器では不可能であり、手続きによる閲覧が必要になる。

3-3-8 出土状況について

・発掘調査報告書に記載されている土器出土状況から土器の最終利用状況や遺棄埋納状況を知り、本来の土器利用推定と比較してみることで、新たな情報が得られるのではないか。

3-4 習得した3Dモデル関連技術

2022年2月~5月縄文土器学習で新たに習得したりチャレンジした3Dモデル関連技術をメモします。

3-4-1 3Dモデルへの直接描画

3Dモデルへ線や色などを直接描画する技術を習得しました。観察結果を3Dモデルに直接描画できるので、今後の縄文土器学習の有用なツールになりそうです。


加曽利EⅤ式深鉢(No.39)(千葉市六通貝塚) 観察記録3Dモデル 色塗版の3DF Zephyr Lite画面

2022.05.25記事「縄文土器3Dモデルに直接描画

ブログ「花見川流域を歩く 番外編」2022.05.26記事「3Dモデル直接描画方法

なお、私が日常的に利用するweb世界ではこの技術をかつて一度もみたことがありません。もしかしたら、フォトグラメトリソフトでこの技術に対応しているソフトが3DF Zephyr以外にないのかもしれません。

3-4-2 炉の3Dモデル作成チャレンジ

竪穴住居内の炉3Dモデル作成について、発掘調査報告書掲載平面図・断面図を素材にチャレンジしました。現段階ではいたってシンプルで原初的ですが、今後炉の立体状況を描き加えることによって改良できる可能性を感じています。


炉に設置された土器をイメージする3Dモデル

2022.05.09記事「竪穴住居の炉の3Dモデル試作2

この3Dモデル技術が実用化すれば炉のみならず竪穴住居や土坑あるいは落とし穴、炉穴など多様な遺構に適用できて、考古学学習用の汎用的有用3Dモデル技術になる可能性があります。

3-4-3 縄文土器実測図の簡易3Dモデル作成

発掘調査報告書に掲載されている縄文土器実測図を簡易3Dモデルにする技術チャレンジをしました。まだ合格点レベルには到達していません。


実測図が3Dモデルに貼り付いた様子

2022.05.04記事「縄文土器実測図から簡易3Dモデルをつくる第一歩

この技術が実用的になれば、発掘調査報告書を素材に3Dモデルを作成して学習促進を図ることができます。

3-4-4 3Dモデルを使った土器容量の計測

パップス・ギュルダンの定理をつかった土器容量計測方法を実用化しました。3DF Zephyr Lite、Photoshop、illustrator、Blenderを連携して使います。「3-2 3Dモデル分析」参照。

3-5 感想

3-5-1 3Dモデルの学習効果

縄文土器学習スタイルとして3Dモデル技術活用が自分の中に定着してきました。3Dモデルを作成することによりいわば「土器を自宅に持ち帰る」ことができます。またGigaMesh Software Frameworkで展開することにより土器文様を一覧的に全体把握できます。3Dモデルの活用による学習効果は絶大なものがあります。今後、3Dモデル技術を向上させ、より学習効率をアップさせることにします。

3-5-2 型式学的興味の深まりと限界、その突破

1)興味と限界

加曽利貝塚博物館が毎年開催する企画展「あれもE…」で提供する興味は型式学的興味がメインであることは間違いありません。器形や文様や施文方法などが変化し、その変化を型式として説明しています。この説明で毎年知識が蓄積して、それに対応して興味も深まります。

一方、この博物館説明は考古学的成果(結果)要点説明ですから、考古学素人の自分としては「ああ、そうですか」ということになります。極端にいえば学生が先生の教えを鵜呑みにしているようなものです。もし、これまで沢山の縄文土器を観察してきていれば、同じ説明を聞いたら「確かにそうだ」とか「少し違うと思う」とかより能動的な感想・学習上の思考がうまれるはずです。

型式学的成果の学習は面白いにもかかわらず、基礎情報(多数土器の観察体験とか当該情報の大局観などに裏打ちされた情報)獲得が思うように進まないので、なにか限界があるように感じています。

2) 突破

今回学習で容量分類を行い、その分類が利用目的などと関わっているらしいという感触を得ました。この作業の中で土器の利用について色々考えました。土器の利用というところに学習視点を一度移動すると、そこには新しい世界が拡がっていることに気が付きました。これまで感じていた縄文土器学習限界を状況変化により突破できそうだという感触をもつことができます。これからは器形・文様などの変化だけに極端に視野を絞ることから、土器の利用目的、利用方法(炉設置方法)にも興味を積極的に広げていくことにします。土器の利用を考えることによって社会の様子に対する興味も深まると考えます。

また器形や文様の学習についても、その意味や背景について検討することとします。異なる文様の土器が共伴出土する意味を考える中で社会の様子(例 婚姻関係など)を想像できれば学習が楽しくなります。

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-1-1 文献学習

土器利用に関する文献など文献学習により知識を増やすことにします。

4-1-2 技術開発

3Dモデルから容量を半自動で計測するアプリ(バッチファイル集みたいなもの)を開発します。

炉の3Dモデル作成技術を実用化します。

通常の縄文土器3Dモデルをよりきれいに仕上げるための技術工夫をします。

3Dモデル動画にキャプションを入れるなどの技術工夫をします。

4-1-3 縄文土器データベース充実

自分専用の縄文土器データベースを昨年から作成していますが、このデータベースを充実させより実用的に改変していくことにします。

4-1-4 縄文年表の作成

自分専用の縄文年表を加曽利貝塚博物館展示年表を参考にパソコン内で作成することにします。エジプトや中国の古代史と対比させたいです。


参考 加曽利貝塚博物館にある巨大年表

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

・企画展開催早期に3Dモデル作成用撮影を行い、展示土器全ての3Dモデル作成を目指します。

・展示テーマに添って学習課題を設定して、3Dモデルをつかった学習を展開して、その結果を論説としてまとめます。

・加曽利博R4企画展「あれもE…」は市原市方面を対象にするらしいので、市原市方面内房と千葉市付近や下総台地各方面の比較など空間分布分析を積極的に行い楽しむこととします。QGIS活用技術向上も楽しむことにします。



2022年5月30日月曜日

縄文土器3Dモデル分析 器高・容量と型式・文様との関係

 Jomon pottery 3D model analysis  Relationship between height / capacity and type / pattern


I have summarized the 3D model analysis of Jomon pottery. I analyzed the relationship between the height / capacity of pottery and the type / pattern of pottery in a predictive manner, and obtained useful information that will contribute to increasing learning motivation in the future.


「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。

…………………

1 はじめに

2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要

3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動

3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察

3-1-1 観覧と写真撮影

3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

2)入組系横位連携弧線文土器

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3-2 3Dモデル分析

3-2-1 3Dモデル分析の目的

3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー

3-2-3 3Dモデル分析の方法

1) 3Dモデル実寸法付与方法

2) 器形の仮想復元

3) 器高と容量の計測方法

3-2-4 器高と容量の計測結果

3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類

3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係

1) 容量類型区分の型式別表示

2) 容量類型区分の文様別表示

3-2-7 考察

3-3 興味を覚えたテーマ(講演会含む)

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

この記事では次の目次部分を掲載します。

…………………

3-2 3Dモデル分析

3-2-1 3Dモデル分析の目的

3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー

3-2-3 3Dモデル分析の方法

1) 3Dモデル実寸法付与方法

2) 器形の仮想復元

3) 器高と容量の計測方法

3-2-4 器高と容量の計測結果

3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類

3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係

1) 容量類型区分の型式別表示

2) 容量類型区分の文様別表示

3-2-7 考察

…………………

……………………………………………………………………

3-2 3Dモデル分析

3-2-1 3Dモデル分析の目的

2019年2月頃から始めたフォトグラメトリ技術習得活動の中で、これまでに3Dモデルを約850点Sketchfabに投稿し、そのうち縄文土器3Dモデルは約650点になっています。この3Dモデルを単に文様を観察するだけに活用するのはもったいない、贅沢過ぎると感じるようになりました。折角手間暇かけて作成した3Dモデルでするから自分の趣味活動の中でもっと有効活用したいと思うようになりました。そこで今回の縄文土器学習のなかで器高等の大きさと容量を計測してデータを作成し、そのデータと土器型式や文様分類との関係を考察してみることにしました。この関係を分析してみるとどうようなことが判る可能性があるのか見てみようという予察的検討です。特定の結果を目指す分析ではなく、ともかく手を動かして分析してみよう、分析すれば次の活動に参考となる情報が生まれるかもしれないという算段です。

3Dモデル分析の対象は加曽利貝塚博物館R3企画展「あれもE…」展示土器18点と同館常設展展示土器等4点の合計22点としました。

3-2-2 3Dモデル分析の作業フロー

3Dモデル分析の作業をフローでまとめると次のようになります。


3Dモデル分析の作業フロー

3-2-3 3Dモデル分析の方法

1) 3Dモデル実寸法付与方法

3Dモデルから器高や容量を計測するためには3Dモデルに実寸法を付与しなければなりません。そのために加曽利貝塚博物館R3企画展「あれもE…」関連撮影では全てスケール(ファイバー製折尺)を写し込み、3DF Zephyr Liteで実寸法を付与しました。


スケールを写し込んでいる様子

参考 How to scale and make measurements with Zephyr Free And Lite

なお、この操作は写真測量活動そのものですから、得られる結果の精度が高いものであることは当然です。

2) 器形の仮想復元

3Dモデルを作成した展示土器のうち次の土器は底部が省略されているため、部分的にしか復元されていません。そのためこれらの土器底部について仮想的に復元しました。

・加曽利EⅢ式深鉢(No.26)(千葉市芳賀輪遺跡)

・加曽利EⅤ式・称名寺式深鉢(No.37)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

・称名寺Ⅰ式深鉢(No.11)(千葉市海老遺跡)

・称名寺Ⅰ式深鉢(千葉市加曽利西貝塚)

・称名寺Ⅰ式深鉢(No.18)(千葉市上谷津第2遺跡)

仮想的底部復元は自分が作成した同時代類似器形土器3Dモデルの中から適切なものを選んで参考にして行いました。


仮想的底部復元の様子

3) 器高と容量の計測方法

器高及び口径(口縁部直径)、最大幅等は3DF Zephyr Liteの計測機能で3Dモデルから直接計測します。

容量は土器を回転体と見立てて、パップス・ギュルダンの定理により計測します。

パップス・ギュルダンの定理

回転体の体積=半裁断面の重心が回転で描く軌跡の長さ×半裁断面の面積

=2×π×重心と軸との距離×半裁断面の面積


3Dモデルによる加曽利E式土器の高さ、直径、容積の測定方法

なお、半裁断面を作成する上で土器の厚さを計測する必要があります。その計測は土器3Dモデルを切断してその切断面の代表的部分で計測し、全体に敷衍しました。


土器の厚さ計測の様子


参考 土器の厚さが計測ができる場所

土器断面線から土器厚さ分だけ内側に移動する半裁断面線の作図はillustrator「パスのオフセット」機能を利用して正確に行いました。


便利なillustrator「パスのオフセット」機能

また、半裁断面の重心はBlenderで求めました。


Blenderで表示したobjectの重心

重心と軸の距離や半裁断面面積はPhotoshopの計測機能で求めました。


容量計測作業図例

作図及び計測は全て作業図(illustratorファイル)に記録し、チェックできるようにしました。

3-2-4 器高と容量の計測結果

器高順に土器を並べて容量をグラフで表現してみました。


器高順に並べた土器とその容量

(注 縄文人イラスト(「千葉県の歴史」から引用)のスケールは土器器高スケールと同じ)

器高は最大53.68㎝から最小26.37㎝になります。最大/最小(比)は約2です。一方、容量は最大41.18ℓから最小1.91ℓになります。最大/最小(比)はなんと20を越えます。この数値をみて、ごく当然のことですが、当事者の縄文人にとっては土器の大きさ(器高)ではなく、容量がはるかに重要な要素であったことに気が付きました。縄文人にとってはどれだけの量の煮炊きをするのかという目標にもとづいて土器をつくったのであり、結果として器高や器形ができたと考えることが妥当です。縄文人がどの程度の器高の土器をつくろうかと目標的に考えたことはなかったに違いありません。われわれ現代人が分析的に器高を扱うのは自由であり必要だと思いますが、縄文人にとっては、容量の方がはるかに重要な指標であることに気が付きました。

【参考】


縄文人の参考身長

3-2-5 器高と容量を指標とした土器分類

「器高順に並べた土器とその容量」を眺めているうちに、次のような類型区分を仮想しました。


容量データによる類型区分

A 容量特大…30ℓ以上あるような特大土器です。ドングリ煮沸によるアク抜きなど、集団作業で使われた「業務用大鍋」のような印象を持ちます。食事のための調理用としては大きすぎるような気がします。

B 容量大…20ℓ前後の大きな土器です。多用途で使われ、場合によっては集団のための調理に使われたのかもしれないと空想します。

C 容量中…10ℓ前後の土器です。この大きさの土器が家族調理用に使われたのではないだろうかと想像します。

D 容量小…5ℓ以下の土器です。器体の大きさに比して大きな把手を有しています。神前に供える料理を調理する専用土器あるいは神前に料理を供える容器であったものであると空想します。

この類型区分仮想がどの程度蓋然性があるのか、今後学習を深める必要があります。

なお、「容量による類型区分」という思考をすると、縄文土器を利用実務面から考えざるを得なくなります。それにより狭い意味での型式学習から抜け出すことができました。自分にとって重要な土器学習視点転換となりました。

【参考】


巨大土器の3Dモデル オルソ投影画面

縄文人身長:162.7㎝

左土器:器高53.68㎝、容量41.18ℓ、加曽利EⅣ式深鉢(No.35)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

中土器:器高71.55㎝ 容量70.09ℓ、加曽利EⅡ式深鉢(千葉市有吉北貝塚)

右土器:器高74.1㎝ 容量69.7ℓ、加曽利B式壺(印西市西根遺跡)

今回計測した土器で最大のもの(No.35)は加曽利EⅡ式や加曽利B式の巨大土器とくらべると小ぶりになります。

3-2-6 器高容量土器分類と土器型式・文様分類との関係

1) 容量類型区分の型式別表示


容量類型区分の型式別表示

この図表を見て感じる第一印象は、土器型式別に容量特性分布を考察するのはデータが少なすぎて無理があるということです。同時に、今後統計的に意味が出てくる程度のデータを揃えれば、何かおもしろい特性が浮かび上がりそうだという予感がします。

このような第一印象を踏まえて、次のような感想を後日のためにメモしておきます。

・見かけ上、器高容量ともに最大のものが加曽利EⅣ式-加曽利EⅤ式-称名寺式になっています。このような傾向が多数データでみられるのかどうか、興味が湧きます。

・分類A、B、C、Dは利用目的に対応していると想定しますが、そのような観点から見た時、分類A、B、C、Dの器高や容量の平均値が型式別にどのようになるのか事実を知りたくなります。

・そもそも、ある地域(千葉県とか千葉市付近とか)での土器型式別出土数を知りたくなります。母数(実際の出土総数(あるいはその割合))を前提に土器型式別の器高や容量の特性を分析したくなります。

2) 容量類型区分の文様別表示


加曽利E式土器型式大きさ文様

この図は容量類型区分、土器型式、文様類型を対応させたものです。

文様分類は次の3つの分類を主にしています。

・意匠充填系土器

・入組系横位連携弧線文土器

・対向系横位連携弧線文土器

この図もデータが少なすぎて統計的な意味を汲み取ることは到底無理ですが、興味をそそる感想が浮かび上がってきましたので、後日のためにメモしておきます。

ア 意匠充填系土器について

・意匠充填系土器の文様の最大の特徴は大きな渦巻文やそれに通じる大きな円文や楕円文のようです。

・意匠充填系土器が4つの型式で出現するので加曽利E式期から称名寺式期まで継続して使われた基本的な文様であることが判ります。意匠充填系土器の文様が変異変化したと考えられるものが加曽利EⅤ式、称名寺式に出現するのでこの文様は加曽利E式期を生き延び、称名寺式の文様に自らを変化させながら同化していった(影響を与えた)と考えることができます。

・意匠充填系土器がA(容量特大)、C(容量中)で出現するので、特大土器に特徴的な文様であるという考えは成り立たないようです。つまりどのような用途の土器にも使われて汎用性のある文様であると考えることができそうです。

・意匠充填系土器には器形が口がすぼまったもの(キャリパー形)が多いので、器形と文様の相関がありそうです。器形-文様のセットが存在するとすれば、そのセットはどうしてできたのか(どのような事象と相関しているのか)興味が湧きます。

イ 入組系横位連携弧線文土器について

・入組系横位連携弧線文土器が3つの型式で出現します。加曽利EⅢ式期にもこの文様はありますから、意匠充填系土器と同じように加曽利E式期から称名寺式期まで継続して使われた基本的な文様であることがわかります。

・入組系横位連携弧線文土器がA(容量特大)、B(容量大)、C(容量中)、D(容量小)で出現します。このことから、入組系横位連携弧線文土器は土器のある大きさに限定されない文様であることが判ります。

・称名寺式期に入組系横位連携弧線文のデザインをあしらったデザインがみられ、注目できます。文様そのものを描いたというよりも、立体空間の中で入組系横位連携弧線文土器を客観視した時にみることができる意匠(例えば画像に焼き付けた時の意匠)が描かれています。

・入組系横位連携弧線文土器は器形がラッパ形(非キャリパー形)のものばかりであり、文様と器形の相関がありそうです。

ウ 対向系横位連携弧線文土器について

・対向系横位連携弧線文土器は加曽利EⅢ式とEⅣ式に出現します。EⅤ式と称名寺式に出現しないのは展示物選定の際の事情によるたまたまのことなのか、文様としての盛衰に関係するのか、興味が湧きます。

エ その他

・意匠充填系とJ字文が同時に描かれる土器があり、同時期同空間同一人が異なる文様を描いていて、使っていたことがわかります。

・両耳壺の文様は一般的文様ではなく、湧泉記号(用途を特定する記号)を描いていると考えます。

3-2-7 考察

器高容量類型区分Aは土器4点ありますが、容量の大きいもの3点が意匠充填系土器で残り1点が入組系横位連携弧線文土器です。意匠充填系土器は口径より胴部最大幅が大きなずんぐりタイプの器形が多く、その器形と意匠充填系土器が対応しているような印象を持ちます。この図から器高容量類型区分A、Bを対象に文様別に容量平均を算出すると次のようになります。


器高容量類型ABにおける文様区分別平均容量ℓ

家族というより集団で使うことが想定される大きな土器(A、B)を対象にすると、意匠充填系土器の方が入組系横位連携弧線文土器(及び対向系横位連携弧線文土器)より大きな土器であることが言えそうです。

この想定が本当に正しいかどうかより多数データで確かめる必要があります。

もしこの想定が正しければ、なぜそうなのかその理由や背景に強い興味が生まれます。

意匠充填系土器をもっぱら使う集団(家系)と入組系横位連携弧線文土器(あるいは対向系横位連携弧線文土器)をもっぱら使う集団(家系)という社会の出自がそこに見て取れれば、さらにその異なる集団間の婚姻関係によりこれらの異なる文様が混在して出土しているのだとすれば、大変面白いことになります。どのような結論が待っているにせよ、土器学習意欲が強まります。


2022年5月29日日曜日

3Dモデルによる土器観察 対向系横位連携弧線文土器 外

 Observation of pottery by 3D model  Facing system horizontal cooperation arc line pottery


I have summarized the observations of facing system horizontal cooperation arc line pottery and others from February to May 2022. This observation utilizes a 3D model and a GigaMesh Software Framework deployment.There are a lot of interesting pottery.


「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。

…………………

1 はじめに

2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要

3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動

3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察

3-1-1 観覧と写真撮影

3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

2)入組系横位連携弧線文土器

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3-2 3Dモデル分析

3-3 興味を覚えたテーマ(講演会含む)

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

この記事では次の目次部分を掲載します。

…………………

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

3)対向系横位連携弧線文土器 外

…………………

……………………………………………………………………

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3)-1と3)-2の2点が対向系横位連携弧線文土器で、他の土器は別の文様分類です。

3)-1 加曽利EⅢ式深鉢(No.25)(千葉市中薙遺跡)


加曽利EⅢ式深鉢(No.25)(千葉市中薙遺跡)

土器の括れた部分で弧線文が上下で対向します。2つの弧線文の対向位置は全て同じ方向に微妙にずれます。

3)-2 加曽利EⅣ式深鉢(No.36)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式深鉢(No.36)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

上下の弧線文の数が異なります。2つの弧線文の対向位置は微妙にずれますが、そのずれる方向はバラバラのようです。上下弧線文の先端を微妙にずらして表現する行為は、縄文人世界観と関連しているものと想像します。

3)-3 加曽利EⅤ式深鉢(No.15)(千葉市上谷津第2遺跡)


加曽利EⅤ式深鉢(No.15)(千葉市上谷津第2遺跡)

胴部が口唇部を除き全面縄文施文される土器です。このような全面縄文施文土器は加曽利EⅢ式期や加曽利EⅣ式期に各地で出土しています。

土器に沈線や隆帯で文様を施文することがない製品であり、簡易的な用途に使われたと想像します。少なくとも「心を込めた調理」をする土器とくらべたら、ランクの低い活動用道具だと考えます。なお、土器展示正面下部だけ縄文のすり減りが激しくなっています。この土器を利用する際にどこかを「正面」として認識していて、炉との位置関係がいつも同じだったので、特定場所のすり減りが激しかったのだと想像します。

この土器は柄鏡形竪穴住居の入口で埋甕として出土しています。そばから称名寺式土器(No.16)が出土しているので、加曽利EⅣ式ではなく加曽利EⅤ式として分類されました。


上谷津第2遺跡6号住居址の土器出土状況 展示資料


称名寺Ⅰ式鉢(No.16)(千葉市上谷津第2遺跡)3Dモデル画像

この土器(No.15)の器形は加曽利EⅣ式のものですが、称名寺式土器(No.16)と共伴出土しているので、加曽利EⅤ式と判定されています。この判定の仕方は、加曽利EⅤ式土器の意味が「称名寺式期に存在し続けた加曽利EⅣ式土器の末裔」であるということを如実に示しています。

同一竪穴住居から加曽利EⅤ式土器と称名寺式土器が共伴出土する意味に興味を持ちます。夫婦の出自が加曽利EⅣ式土器を使う集団と称名寺式土器を使う集団であったということでしょうか?

3)-4 加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.21)(千葉市すすき山遺跡)


加曽利EⅣ式・EⅤ式深鉢(No.21)(千葉市すすき山遺跡)

4つ並んだ区画文のうち左から2番目が意匠充填系土器の円文、その両側が逆三角形文のように感じることができます。この土器は意匠充填系土器の流れに位置付けることができるのかもしれません。


2つの土器の共通点
主文様と考えた区画文の中に反転S字状文が沈線で刻まれています。反転S字状文は中峠式土器や加曽利E式土器に多くみられます。次の例では反転S字状文が水平に描かれています。


参考 中峠5次2住型深鉢(松戸市中峠遺跡)のGigaMesh Software Framework展開図

次の例では垂直方向に端が渦になる反転S字状文が描かれています。


参考 加曽利EⅡ式土器(千葉市有吉北貝塚)

自分はこの反転S字状文は吉祥文であると想像しています。2つの集団・家系(夫婦により結びつく異なる2集団・家系)の絆を表現しているのでしょうか?

なお、この記事でこの土器だけがGigaMesh Software Framework展開が矩形になっていますが、GigaMesh Software Frameworkでは扇形にも矩形にもできます。


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3)-5 加曽利EⅤ式両耳壺(No.2)(千葉市愛生遺跡)


加曽利EⅤ式両耳壺(No.2)(千葉市愛生遺跡)

沈線で描かれた模様が噴水を表現する記号(水瓶であることを示す記号)であると考えました。


愛生遺跡出土両耳壺模様の解釈

なお、この土器の噴水模様上の口唇部に片口(注ぎ口用刻み)があります。

3)-6 称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡)


称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡)

縄文帯によるJ字文が2段に重ねられている文様パターンを示していて、称名寺式土器の最も基本となる文様パターンであると言われています。

3)-7 称名寺Ⅰ式深鉢(No.18)(千葉市上谷津第2遺跡)


称名寺Ⅰ式深鉢(No.18)(千葉市上谷津第2遺跡)

波状突起に対応して縄文施文J字文が配置されていることが確認できます。しかし、頸部より下の縄文施文文様の規則性は背面が観察できないので確認できませんでした。反転J字文が1箇所あるようです。

3)-8 称名寺Ⅰ式深鉢(千葉市加曽利南貝塚)


称名寺Ⅰ式深鉢(千葉市加曽利南貝塚)

広く深い沈線が特徴となっています。文様の様子は称名寺式として自分はこれまで見たことのないものです。称名寺式土器の文様のバリエーションが多様であることを認識させられます。

3)-9 対向系横位連携弧線文土器外の一覧


対向系横位連携弧線文土器 外

対向系横位連携弧線文土器はNo.25とNo.36だけです。


2022年5月28日土曜日

3Dモデルによる土器観察 入組系横位連携弧線文土器

 Observation of pottery by 3D model  Intricate horizontal cooperation arc line pottery


I have summarized the observations of intricate horizontal cooperation arc line pottery from February to May 2022. This observation utilizes a 3D model and a GigaMesh Software Framework deployment.


「2022年2月~5月の縄文土器学習記録」と銘打って今年2月以降の縄文土器学習の要点を記録としてまとめています。この記録は次のような目次を予定しています。

…………………

1 はじめに

2 これまでに開催された企画展「あれもE…」と学習の概要

3 令和3年度企画展「あれもE…」と学習活動

3-1 展示土器の3Dモデル作成と観察

3-1-1 観覧と写真撮影

3-1-2 3Dモデル作成とGigaMesh Software Framework展開

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

1)意匠充填系土器

2)入組系横位連携弧線文土器

3)対向系横位連携弧線文土器 外

3-2 3Dモデル分析

3-3 興味を覚えたテーマ(講演会含む)

3-4 習得した3Dモデル関連技術

3-5 感想

4 今後の学習について

4-1 令和4年度企画展開催までの学習活動

4-2 令和4年度企画展にかかる学習活動

…………………

この記事では次の目次部分を掲載します。

…………………

3-1-3 3Dモデルによる土器観察

2)入組系横位連携弧線文土器

…………………

……………………………………………………………………

2)入組系横位連携弧線文土器

2)-1 加曽利EⅣ式深鉢(No.30)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅣ式深鉢(No.30)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

波頂部に対応した場所に胴部全体に細長い弧線文が描かれます。弧線文の間には胴部上部に逆三角形状の文様が描かれます。

2)-2 加曽利EⅣ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)


加曽利EⅣ式深鉢(千葉市加曽利貝塚)

30番土器と同じパターンの文様をしています。土器器形は一見して口縁部波状突起はみられませんが、よく見ると4つの小突起が平滑な口縁部に付いています。入組系横位連携弧線文という文様を描くためには、例え平滑な口縁部であっても、小突起は必須要件だったようです。

2)-3 加曽利EⅣ式深鉢(No.27)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

加曽利EⅣ式深鉢(No.27)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

口唇部付近では横方向で縄文を施文していて、それより下では上下方向で施文しています。加曽利EⅡ式土器では口縁部文様帯と胴部で同じように縄文施文方向を違えて、口縁部文様帯の意匠効果を強調しているものが多く存在しますが、その風潮が加曽利EⅣ式土器にも継続していると言えます。この情報は加曽利貝塚博物館研究講座(2022.03.19、館祐樹先生)でも紹介されました。


部位による縄文施文方向の違い

2)-4 加曽利EⅤ式深鉢(No.39)(千葉市六通貝塚)


加曽利EⅤ式深鉢(No.39)(千葉市六通貝塚)

土器上半部外面の断面は直線状を呈しています。しかし土器断面を詳しくみると、外面は直線的ですが、内面は外側に向かって凸の形状をしています。いわゆるキャリパー形をしています。


土器断面

土器断面このような外面・内面の断面形状が微妙に異なる土器はこれまでも幾つか見た記憶があります。

精細な検討は後日行うことにして、現状の知識直観から次のように考えますのでメモしておきます。

(1) 外面形状は意思表現である表示すべきデザインであるが、内面の形状は実用的機能に関わるのではないかと考えます。

(2) この土器の内面形状がキャリパー形をしているのは、実用機能に関わるものであり、次の2点が指摘できる可能性があります。

ア 通常調理の際、液体内容物をこぼれにくくしている。

イ 土器を倒して調理する時、その調理がしやすい形状にしている。


参考図 土器外面黒変と土器内面おこげの対応考察

中段のような調理をする際に、土器内面がキャリパー形であると都合がよかったと考えます。

参照 2020.02.17記事「称名寺式土器黒変部の観察と考察

2)-5 加曽利EⅤ式深鉢(No.34)(千葉市餅ヶ崎遺跡)


加曽利EⅤ式深鉢(No.34)(千葉市餅ヶ崎遺跡)

縄文施文域は隆帯で境界されています。把手・突起にも縄文が施文されています。把手は土器内面側にも縄文が施文されています。

2)-6 加曽利EⅤ式深鉢(No.19)(千葉市上谷津第2遺跡)


加曽利EⅤ式深鉢(No.19)(千葉市上谷津第2遺跡)

波頂部に4つの貼付文がついています。展示正面の貼付文を観察すると、一部が土器内側に潜り込むような造形になっています。この造形と一般的な加曽利EⅣ式土器(横位連携弧線文土器)の波頂の様子に共通点があるように感じました。そのような感じ(想像)を画像メモにしました。


2つの土器の波頂部(A)と弧線文(B)セットの対応関係

最近2年程の加曽利E式土器学習では縄文施文域(B)とは自然とか土地とか(生活の糧を得る)生活空間を表現していると空想しています。

一方波頂部(A)は土器外面から土器内面に通じる特別の通路を表現しているように想像できます。

これらの空想と想像を一緒にして妄想すると、生活空間で得た生活の糧を土器に入れて調理して自分たちの生存が成り立っているという様子を表現しているように感じます。自分たちが生きていることの意味を哲学的に表現しているとか、自分たちの生存にかかわる神話を表現しているとか、超妄想が生まれます。

2)-7 称名寺Ⅰ式深鉢(No.11)(千葉市海老遺跡)


称名寺Ⅰ式深鉢(No.11)(千葉市海老遺跡)

39番土器にみられる文様パターンを反転させた文様を描いています。


入組系横位連携弧線文の反転の様子

加曽利EⅡ式土器では多くの土器が口縁部と胴部で縄文施文方向を区別して、口縁部を際立たせる効果を狙っていました。この称名寺Ⅰ式深鉢も口縁部と胴部で縄文施文方向を区別しています。器形や文様のテーマは変化していますが、口縁部と胴部の縄文施文方向を区別するという風習が継続していることは興味深いことです。


口縁部と胴部の縄文施文方向の違い

2)-8 入組系横位連携弧線文土器の一覧

入組系横位連携弧線文土器の画像を土器型式別に配置すると次のようになります。


入組系横位連携弧線文土器

胴部上下にわたる弧線文が小突起に対応し、逆三角形文様がその間を埋めることから、弧線文がメインのテーマ、逆三角形文は埋め草としての補助テーマと考えます。

入組系横位連携弧線文土器の文様変異の幅はあまりみられません。加曽利EⅣ式頃の定番文様の1つだったようです。この文様に対応した縄文人の観念(イメージとか物語とか)が存在していたに違いありません。それは意匠充填系土器や対向系横位連携弧線文土器に対応する観念とは異なっていたことは間違いありません。