私の散歩論

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2022年11月18日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 イノシシ上下顎骨分布の意味

 North Slope Shell Layer of Ariyoshi Kita Shell Mound Significance of Wild Boar Skull Distribution


I thought about the significance of the boar skull excavated from the northern slope shell layer of the Ariyoshi Kita Shell Mound. In addition to the meaning of eating a wild boar, I thought that it also meant that it was decorated on the altar of an outdoor festival site like the bear head of the Ainu bear festival.


有吉北貝塚北斜面貝層から出土するイノシシ上下顎骨の意味について考えてみました。イノシシを食べたという意味以外に、野外祭場の祭壇にアイヌ熊祭りの熊頭のように飾られた意味もあると考えました。

1 イノシシ上下顎骨とシカ上下顎骨の出土特性

北斜面貝層における動物自然骨分布情報はイノシシ上下顎骨以外はシカ上下顎骨が発掘調査報告書に掲載されています。そこでシカとの比較を行いイノシシ上下顎骨分布の特徴を検討しました。


有吉北貝塚 イノシシとシカの骨数


有吉北貝塚 イノシシとシカの骨数

有吉北貝塚全体でみるとイノシシ骨数の方がシカ骨数より多くなっています。

上下顎骨(頭骨)とその他の骨の割合について、発掘調査報告書ではイノシシについて、頭骨の数に比して四肢骨が少ないと記述しています。四肢骨はイヌの餌にしたので、頭骨とくらべて残る割合が少ないのだと想像します。イノシシの上下顎骨の全体に占める割合は6.7%になります。

一方、シカの上下顎骨の全体に占める割合はわずか2.0%です。西野雅人先生によればこの傾向が共通する他の遺跡もあり、シカ頭骨は食材価値が低く、一方イノシシ頭骨は煮込み料理においてスープをとるなどで価値高い食材であることに起因しているとのことです。そのためシカ頭骨は集落搬入前に廃棄されたと考えられています。(西野雅人「縄文人とシカとのかかわり」)

2 北斜面貝層におけるイノシシ上下顎骨とシカ上下顎骨の分布


北斜面貝層 イノシシとシカの上下顎骨分布

イノシシとシカの上下顎骨の分布を比較して眺めると、シカ上下顎骨は主に斜面部に分布し、イノシシ上下顎骨は水路部に分布しているが確認できます。この分布の違いから、シカ上下顎骨は斜面上から投棄(廃棄)されたと推測できます。一方、イノシシ上下顎骨は水路部に直接持ち込まれ、利用されたことを推測できます。

3 装飾品分布とイノシシ上下顎骨分布相関の意味


装飾品(貝製品)分布

イノシシ上下顎骨分布は装飾品(貝製品)分布と相関しています。また、装飾品(骨角歯牙製品)分布とも相関します。装飾品(貝製品)のなかには集落リーダーが着装するイモガイ製腰飾もあります。

装飾品分布とイノシシ上下顎骨分布が相関する場所は、野外祭場であり、装飾品を飾る祭壇が存在し、祭祀に合わせてイノシシ食があったと想像します。野外祭場で野外イノシシ食が継続的に行われ、それによりこの空間付近にイノシシ上下顎骨が残ったと考えます。

4 イノシシ上下顎骨の食材以外の意義

イノシシ頭骨は調理される前に祭場を飾る重要なアイテムであった可能性を想像します。また、調理で利用された後の骨は恒久的な祭場装飾物として利用されていた可能があると思います。調理でイノシシ頭を利用した後、上下顎骨をイヌの餌にしたならば、これほどの数がまとまって出土することは無かったと推測します。

調理前イノシシ頭が祭場で飾られる様子は、アイヌ熊祭りにおける熊頭の飾りをイノシシ頭に読み替えて、その一端を想像できるような気がします。


有吉北貝塚出土イノシシ上顎骨

発掘調査報告書から引用


アイヌ熊祭における熊頭の飾り

「アイヌ芸術 第二巻木工編」(金田一京助、杉山寿栄男 昭和17年)から引用


アイヌ熊祭のイナウ祭壇(部分)

「アイヌ芸術 第二巻木工編」(金田一京助、杉山寿栄男 昭和17年)から引用


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