私の散歩論

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2024年8月31日土曜日

空間と方位の象徴的区分

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 17


Symbolic division of space and direction


Study 17 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


I learned about the segmented structure of the middle Jomon circular settlement described in “DOGU & SEKIBOU” by Yasuhiro Taniguchi. It has been pointed out that the spatial segmented structure is a visualization of the intra-social segmented structure based on blood-related descent groups. I am interested in whether there is a way to interpret intra-social segmentation from spatial segmentation.


谷口康浩著「土偶と石棒」で記述されている中期環状集落の分節構造について学習しました。空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化と指摘されています。空間分節から社会内部分節を読み解く方法はあるのか、興味が深まります。

第1章 縄文時代の儀礼と社会

2 環状集落にみる空間シンボリズム

(2)空間と方位の象徴的区分

【抜粋】

「環状集落には住居群や墓群を空間的に区分する構造がある。これを「分節構造」と称する。中期の環状集落に顕著な特徴となっている。もっとも特徴的なのは集落全体を直径的に二分する二大群の構造であり、その内部をさらに区分する入れ子のような構造もみられる(図3)。環状集落は、複数の分節単位を一つの環に続―する環節的な構造をもつ(谷口2002)。このような分節構造は前期の環状集落にすでにみられるが、中期に特に著しい発達が認められる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)


図3 (谷口康浩著「土偶と石棒」から引用)

・青森県三内丸山遺跡には二列に対向する列状基や住居群が特徴的にみられる。

・分節構造に共通する集落の直径的区分は、世界各地に類例が存在する。(北米インディアンの事例詳述→引用略)

「縄文時代の環状集落にみられる分節構造も、これらの民族例と同様に集団内部の区分を象徴的に表示している可能性が高い。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

「環状集落の分節構造は、集落遺跡数の著しい増大が起こった中期の東日本地域で顕在化した。中期環状集落の墓群にみられる厳格な区分やその踏襲性の強さからみると、血縁に基づいて組織された出自集団の区分を表示している可能性が高く、出自によつて社会内部が分節化していた状況が読み取れる。環状集落にみられる方位・空間のシンボリズムは、出自原理によつて分節化した社会構造を可視化するものであつたと考えられる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【考察】

・記述を要約すると「中期環状集落の空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化である(と考えられる)。」ということのなり、とても明解であり、興味が深まります。

・日本の事例は空間分節が地図で示されるだけであり、社会内部の分節構造には触れられていません。空間分節と社会内部分節の対応関係は海外事例のみです。従って、空間分節と社会内部分節構造との関係はいまだ仮説状況であり、実証的に調査されたものは希薄であるようです。

・環状集落が分節的に見えることは一般的ですから、視角的に認識できる空間分節構造から社会内部分節構造が分かれれば縄文社会認識が飛躍的に進むに違いありません。空間分節構造から社会内部分節構造を知る方法はどのようなものなのでしようか、ぜひとも知りたくなります。

【空間分節構造と社会内部分節構造との関係例 大膳野南貝塚前期集落】

以前、大膳野南貝塚を学習した時に、空間分節構造と社会内部分節構造との関係例と思しき状況に遭遇していますので、メモしておきます。


大膳野南貝塚前期後葉竪穴住居址 主体土器形式分布

2017.04.09記事「大膳野南貝塚 前期後葉集落 石器出土数分布

異なる土器型式を使う2つの集団が同じ集落で空間的に棲み分けています。

【有吉北貝塚における簡単な予察作業】


有吉北貝塚の中期遺構分布(赤:竪穴住居、黒:土坑、青:貝層)


有吉北貝塚の中期遺構分布3Dモデル画像


有吉北貝塚の構造検討

2021.01.11記事「有吉北貝塚 中期集落の空間構造

有吉北貝塚は典型的な環状集落ですが、地形的制約で二分されているように観察できます。この二分分節に対応して、出土物に関する何らかの相違があるのものかどうか、簡単な予察作業を行いました。遺物に関して出土遺構(竪穴住居、土坑)の場所を確かめました。また、石器類は分布がありますので、その分布図を観察しました。

[簡単な予察作業の結果]

予察作業の結果は、遺物出土状況に空間二分節に対応するような相違は見つかりませんでした。ダメモトとは知りながら、なにかの情報が見つかるかもしれないという希薄な希望を前提とすれば、指標が空間二分節に対応しない様子はとても「頑固」「頑強」でした。

[感想]

地形制約で生まれた空間二分節に対応して、明瞭な生業の違いとか、明瞭な儀礼の違いとかは存在していないようだという感覚を持ちました。もっと微妙な作業が必要で、集団の違いをあぶり出すには別の指標が必要なようです。

「中期環状集落の空間分節構造は、血縁による出自集団による社会内部の分節構造の可視化である(と考えられる)。」という指摘は、いわば根本原理を指摘しているのです。一応は「と考えられる」としていますが、それは謙遜にすぎません。必ずや有吉北貝塚環状集落にも分節構造があり、それが社会内部分節構造を可視化したものであり、その社会内部分節構造は明らかになるのを「今か、今か」と待っていると考えます。

有吉北貝塚中期集落の空間分節とそれが対応する社会内部分節を明らかにする活動を展開したいと思います。なお、空間分節・社会内部分節は斜面貝層の使い方と密接に関連しているかもしれないと想定します。台地集落の空間分節と4つある斜面貝層が何らかの対応関係にあるのか。また北斜面貝層には2箇所の毛色の違う遺物密集域がありますが、それと台地集落空間分節とがなにか対応するのか、問題意識が深まります。


有吉北貝塚北斜面貝層土製・貝製・骨角歯牙製装飾品分布の比較

2024.08.16記事「有吉北貝塚北斜面貝層の骨角歯牙製装飾品分布と装飾品分布比較


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