私の散歩論

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2021年3月31日水曜日

曽利式土器情報伝達と変形の学習

 縄文土器学習 568

2021.03.29記事「加曽利EⅠ式期における曽利式比定土器」で曽利式土器について学習しましたが、関連して以前から気になっていた次の谷口康浩(2002)論文を入手できましたので割り込みで学習しました。

1 谷口康浩(2002):縄文土器型式情報の伝達と変形-関東地方に分布する曽利式土器を例に-、土器から探る縄文社会 2002年度研究集会資料集(山梨県考古学協会)について

この論文の概要を大内千年先生講演(2020.01.19記事「加曽利博主催縄文時代研究講座 大内千年先生講演の聴講」)で知り、興味を持ちました。早速web古書店で検索したのですが見つからず、しかたなく諦めていました。ところが数日前改めて検索するとヒットし即座に入手できました。

2 論文の概要

この論文では、曽利式土器の本場から関東一円に曽利式土器型式情報がどのように伝達し、その伝達の中で情報がどのように変形したかという事象を数量的指標を用いて分析検討しています。

ア 分析対象遺跡

分析対象土器の完形個体、略完形個体、復元個体が50以上ある59遺跡。

イ 曽利式土器本場の仮原点

曽利式土器本場の仮原点を釈迦堂遺跡に設定

ウ 分析指標

1 曽利式情報量

2 仮原点から遺跡までの直線距離

エ 曽利式情報量に情報を要約するプロセス

次の2つの変量を主成分分析で1つの成分に要約。

変量1 遺跡における曽利式、加曽利E式、連弧文土器出土比率

変量2 遺跡におけるA群、B群、C群の比率

オ A群、B群、C群の区分

A群:オリジナルな曽利式に忠実な一群

B群:文様の細部の特徴や型式情報の編集に変形が生じている一群

C群:変形が著しくオリジナル標本の中にすでに類例を見出せない一群

A群、B群、C群の区分


谷口康浩(2002)から引用作成

カ 分析結果


曽利式比率の距離低減、A群比率の距離低減

谷口康浩(2002)から引用作成

曽利式比率(曽利式土器の比率)、A群比率ともに距離による逓減が80㎞付近まで顕著で、それから遠方は逓減が緩やかになることが特徴で、その様子を詳しく分析しています。


曽利式情報量の等高線図と地帯区分

谷口康浩(2002)から引用作成

曽利式情報量(曽利式比率とA群比率を要約した情報)の大きさで作った等高線図であり、曽利式情報がどのように減衰し変形しながら伝播したか詳しく分析しています。

3 感想

部外者にも判りやすい論文構成となっていて、大変面白い論文です。

A群、B群、C群の区分に高度な専門性が必要であり、この論文のオリジナル性がこの区分にあると考えました。

この論文では曽利式土器と加曽利E式土器の折衷土器は扱っていないと書かれています。折衷土器の分類が出来ていないからだと思いますが、将来折衷土器を対象にしてこの論文と同じような分析をするとどのような結果になるのか、興味が湧きます。

論文最初に、曽利式土器圏における加曽利E式土器出土よりも、加曽利E式土器圏における曽利式土器の方が多いと書いてあります。その理由について興味が湧きます。加曽利E式土器圏において、曽利式土器圏文化生活が憧れのようなものであったといえます。曽利式土器圏の土偶とかその場所を経由するヒスイなどと関係あるかもしれません。

「曽利式情報量の等高線と地帯区分」図に加曽利EⅠ式、EⅡ式頃の土偶分布図を重ねると、興味ある情報が浮かび上がりそうです。


2021年3月30日火曜日

イノシシ形突起(獣面把手)観察記録3Dモデル その2

 縄文土器学習 567

2021.03.30記事「縄文前期後半 イノシシ形突起(獣面把手) 観察記録3Dモデル」に引き続き別のイノシシ形突起(獣面把手)の観察記録3Dモデルを楽しみました。

1 イノシシ形突起 3(大膳野南貝塚) 観察記録3Dモデル

イノシシ形突起 3(大膳野南貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文時代前期後半

撮影場所:千葉市動物公園「動物園で考古学」コーナー

撮影月日:2021.03.29

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing45 images


展示の様子


展示の様子


観察記録3Dモデルの動画

2 感想

この小さいイノシシ形突起を観察していると、考古的興味とは別に、小さなアートとしてみることも可能であると感じました。

……………………………………………………………………

3 【技術遊戯】イノシシ形突起の干渉色モデル

1のモデルの干渉色モデルを技術遊戯として作成してみました。

イノシシ形突起の干渉色モデル

「イノシシ形突起 3(大膳野南貝塚) 観察記録3Dモデル」https://skfb.ly/6ZXZoに干渉色を塗布。


干渉色モデルの動画

Wabefront(.obj)モデルのテクスチャ画像をPhotoshopトーンカーブ補正で干渉色に改変したものです。


元テクスチャ画像と干渉色テクスチャ画像


縄文前期後半 イノシシ形突起(獣面把手) 観察記録3Dモデル

 縄文土器学習 566

千葉市動物公園「動物園で考古学」コーナー観覧でイノシシ形突起(獣面把手)(大膳野南貝塚)を撮影し早速観察記録3Dモデルをつくりました。以前発掘調査報告書だけの情報ですが、イノシシ形突起の遺跡内分布について分析したことがあるので、懐かしく感じます。

1 イノシシ形突起 1(大膳野南貝塚) 観察記録3Dモデル

イノシシ形突起 1(大膳野南貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文時代前期後半

撮影場所:千葉市動物公園「動物園で考古学」コーナー

撮影月日:2021.03.29

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.019 processing55 images


展示の様子


展示の様子


観察記録3Dモデルの動画

2 メモ

以前大膳野南貝塚学習をしたときのイノシシ形突起(獣面把手)関連記述は次の通りです。2018.06.27記事「貝殻・獣骨・土器片出土の意義

…………………

2-2 狩猟祭祀場所推定-(遺構外)野外

2-2-1 イノシシ形獣面把手を手掛かりとした推定 

大膳野南貝塚でイノシシ形獣面把手は24例出土していてその全てがほとんど把手だけ(イノシシ像だけ)のかけらです。


イノシシ形獣面把手出土例(一部) 写真

大膳野南貝塚発掘調査報告書から引用

イノシシ形獣面把手は諸磯b式土器の時代に流行った土器です。

この土器のイノシシ像だけが土器から打ち欠きだされたことが判ります。

またイノシシ形獣面把手の出土場所は全て遺構外からの出土になります。


大膳野南貝塚 前期集落 イノシシ形獣面把手の分布

イノシシ形獣面把手の分布は諸磯式期(浮島式期)の竪穴住居の周辺といってよい場所です。

これらの事実からイノシシ形獣面把手付土器が廃用になった時、その土器からイノシシ形獣面把手だけを打ち欠き出して、それを住居周辺に置いた(投げた、埋めた)ことが判ります。

同時に、イノシシ形獣面把手出土場所のほとんどはその直近からイノシシ頭部骨が出土しています。


イノシシ形獣面把手と遺構外イノシシ頭部骨の出土地点 5m×5mメッシュ情報から作成

遺構外イノシシ頭部骨は縄文全期のデータであり、イノシシ形獣面把手は諸磯式期のデータですから直接1:1の対応ではありませんが、イノシシ形獣面把手とイノシシ頭部骨の間の密接な関係を示唆する情報となっています。

これらの情報からイノシシ形獣面把手とイノシシ頭部骨をつかった狩猟祭祀(イノシシ祭祀)が竪穴住居近くの野外で行われたと推測することができます。

同時に、イノシシ形獣面把手付土器の使用期間以外の期間にあっても狩猟祭祀(イノシシ祭祀)は野外で行われたと敷衍して推定します。その推定の根拠は分布図で示したイノシシ頭部骨の遺構外からの大量出土です。イノシシ頭部骨の遺構外分布は後期集落の漆喰貝層有竪穴住居の周辺に該当します。

…………………

3 感想

「動物園で考古学」コーナー観覧で器台1点、イノシシ形突起3点、鳥形突起1点の3Dモデル作成用撮影をしましたので、これらの3Dモデルを作成して、コレクションに追加しておくことにします。


千葉市動物公園「動物園で考古学」観覧

 1 千葉市動物公園「動物園で考古学」コーナー

千葉市動物公園に「動物園で考古学」コーナーが昨年10月に新設されました。遅まきながら観覧してきました。コンパクトですがとても充実していて、自分にとっては興味の深まる展示物が多くありました。

千葉市動物公園建設にあたって、この場所(餅ヶ崎遺跡)の発掘が昭和54年~60年に行われ、縄文中期終末~後期初頭の集落跡が出土し、学術的に価値の大きな遺物・遺構が多数出土しました。このような関連から、「動物園で考古学」は「餅ヶ崎遺跡出土品」展示と「ヒトと動物のかかわり」展示の2展示から構成されています。


「餅ヶ崎遺跡出土品」展示の様子


「ヒトと動物とのかかわり」展示の様子


「ヒトと動物とのかかわり」展示の様子

2 「餅ヶ崎遺跡出土品」展示

餅ヶ崎遺跡出土代表的遺物と遺構パネルが展示されています。


展示遺物


展示遺物


展示土器


展示パネル

3 「ヒトと動物とのかかわり」展示

出土骨や動物に関わる出土遺物、及び動物にかかわる多数の考古学的興味パネルが展示されています。この展示は餅ヶ崎遺跡にこだわらず、千葉市内遺跡を対象にしています。


展示物(イノシシ形突起)


展示物(イノシシ形突起)拡大


展示パネル


展示パネル

4 感想

餅ヶ崎遺跡は中期社会急成長後の大崩壊におけるどん底時期の遺跡であり、とても興味のある遺跡です。展示称名寺式土器は以前特別許可を得て全周撮影をして円満な3Dモデルを作成して分析をしたことがあります。

イノシシ形突起は大膳野南貝塚出土物です。この大膳野南貝塚イノシシ形突起については、遺跡内分布の分析をしたことがあります。

2018.06.27記事「貝殻・獣骨・土器片出土の意義

この展示で現物に出会えるとは思ってもみませんでした。ラッキーです。早速3点のイノシシ形突起について3Dモデル作成用撮影をしました。

「動物園で考古学」コーナーはコンパクトで、展示環境(特に光線環境)は必ずしも十分ではありませんが、展示物とその説明は高度で充実していています。加曽利貝塚博物館や千葉市埋蔵文化財調査センターの展示と較べてなんら遜色がありません。

2021年3月29日月曜日

加曽利EⅠ式期における曽利式比定土器

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 4

縄文土器学習 565

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)3群土器について学習しましたので、メモします。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

2 3群土器11細分類の理解

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 3群土器 分類メモ

1 主文様帯の位置 口縁部

【Ⅸa期A類(15)】

口縁部文様帯

細隆線文

【Ⅸa期B類(16)】

口縁部文様帯

細隆線文による曲線文

【Ⅸb期A類(13)】

口縁部細隆線渦巻文

胴部にも渦巻文

【Ⅸb期C類(15)】

口縁部・頸部橋状把手4単位

胴部条線文

【Ⅹ期A類(15)】

口縁部重弧文

頸部格子目文

2 主文様帯の位置 胴部

【Ⅸa期C類(17)】

胴部縦位棒状隆帯

4単位眼鏡状突起

条線文

【Ⅸa期D類(18)】

胴部縦位棒状隆帯

口縁部外反、櫛状沈線文

【Ⅸa期E類(19)】

胴部沈線渦巻文

【Ⅸb期B類(14)】

頸部橋状把手

【Ⅹ期B類(16、17)】

口縁部無文

頸部細隆帯

胴部条線文

【Ⅹ期C類(18)】

口縁部無文外反

胴部沈線横走

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)3群土器(曽利式比定土器)分類の理解

3 3群土器分類理解の3D資料化

3群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)3群土器(曽利式土器比定)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材


素材3Dモデルの動画

4 感想

ア 関東縄文人が中部高地縄文社会に興味を持つ

加曽利EⅠ式土器の時代に曽利式比定土器(3群土器)と曽利式影響下土器(2群土器)が主体であるキャリパー形土器(1群土器)と一緒に出土します。加曽利E式土器(1群土器)は斉一性の高い土器ですが、中部高地に中心をもつ曽利式土器の影響を受けていることは興味深いことです。関東縄文人が交易等で知る中部高地縄文社会に興味を持っていたことが判ります。

加曽利EⅠ式期には関東では沿岸部における漁業開発が進み、沿岸部だけでなく地域経済全体を潤す側面があり、豊かさが増大したと空想します。一方、その時期に中部高地が経済面でどうであったか知識がありません。関東と中部高地に経済的な格差があったのかどうか知りたいところです。しかし関東で曽利式比定土器や曽利式影響下土器が広範囲にかつ継続して非在地土器として出土する様子は、関東縄文人を引き付ける中部高地の魅力があったことは間違いないと考えます。中部高地に対する何らかの「あこがれ」が関東縄文人にあったと想像します。土偶やヒスイから連想できる精神文化かもしれません。

イ 曽利式比定土器の斉一性の低さ

曽利式比定土器の主文様帯は口縁部にあるものと、胴部にあるものの2種あります。この様子から曽利式土器は加曽利E式土器とくらべて斉一性が低いといえます。加曽利E式土器斉一性の高さ、曽利式土器斉一性の(相対的意味での)低さの理由について今後考えていくことにします。


2021年3月28日日曜日

加曽利EⅠ式期における曽利式土器・勝坂式土器影響下土器

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 3

縄文土器学習 564

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器について学習しましたので、メモします。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成と有吉北貝塚土器群分類の対応をみると次のようになります。


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

・埼玉編年土器群分類学習は有吉北貝塚土器群分類学習の一環として行っています。有吉北貝塚土器群分類が埼玉編年を使っているからです。

・埼玉編年1群土器の学習はすでに行いました。


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

2 2群土器12細分類の理解

2群土器は12細分類されていますが、どの土器型式から影響を受けたか、主要文様帯は口縁部か胴部かという観点から再整理して理解しました。

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 2群土器 分類メモ

1 3群土器の影響を受けた土器

1-1 主要文様帯の位置 口縁部

1-1-1 隆帯による突起状渦巻文土器

【Ⅸa期B類(10)】

・3群土器B類の影響

1-1-2 沈線区画文土器

【Ⅸa期D類(12)】

・3群土器D類の影響

・西部

1-2 主要文様帯の位置 胴部

1-2-1 口縁部内曲、胴部文様土器

【Ⅸa期C類(11)】

・3群土器C類の影響

・撚糸文多い

・西部

1-2-2 細隆帯文様土器

【Ⅹ期B類(11)】

・3群土器の影響

1-2-3 隆帯渦巻文土器

【Ⅹ期C類(3)】

・3群土器の影響

2 4群土器の影響を受けた土器

2-1 主要文様帯の位置 口縁部

2-1-1 朝顔形で肥厚した口縁部文様帯土器

【Ⅸa期F類(14)】 ・Ⅸa期4群D類の影響

【Ⅸb期B類(10)】

【Ⅹ期D類(13、14)】 ・Ⅸb期B類の系統

・東部

2-2 主要文様帯の位置 胴部

2-2-1 口縁部外反胴部文様帯土器

主要文様帯…胴部

【Ⅸa期A類(9)】

【Ⅸb期A類(9)】

【Ⅹ期A類(10)】

・Ⅸa期 4群土器A類の影響

3 大木8a式の影響を受けた土器

3-1 主要文様帯の位置 文様希薄

3-1-1 口縁部外反胴部膨張撚糸文土器

【Ⅸa期E類(13)】

・口唇部は大木8a式の影響

・西部

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器(曽利式・勝坂式影響下土器)分類の理解

3 2群土器分類の理解の3D資料化

2群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)2群土器分類カードの3D展開 素材1
このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材

現在は3Dモデル作成技術が虚弱なため、資料に整飾・注記を描き込むことが不十分であり、素材だけの3D配置になっています。


素材3Dモデルの動画

4 感想

1群土器は器形がキャリパー形土器で主文様帯は口縁部であり、斉一性が特徴です。一方2群土器は曽利式影響土器も勝坂式影響土器も器形、主文様帯の位置がバラバラです。そもそも曽利式土器、勝坂式土器ともに器形や主文様帯の斉一性は高くないようです。

この特徴から次の2点について今後の学習を深めたいと思います。

ア 加曽利EⅠ式土器で斉一性が高い理由

・広域の人々に影響を与える(おそらく広域の人々に「恩恵」を与える)新しく、注目するに値する「何か」(技術?制度?環境?)が生まれ、その「何か」に合わせて土器斉一性が生まれたと空想します。

イ 2群土器が継続する理由

斉一性の高い1群土器を作る人々が同時に2群土器も作っています。和食中心の生活の中で、時々中華や洋食も食べる生活と同じような状況があります。

土器文様に物語や神話が紐づけられていると考えると、縄文人は地域社会が共有するメインの物語・神話以外に、いわば異郷の物語・神話にもエキゾチックな興味をもっていたのかもしれません。

2021年3月22日月曜日

加曽利EⅠ式土器11器の器形部位の意味、文様の意味(想像)

 縄文土器学習 563

加曽利EⅠ式土器11器を3Dモデルで観察するなかで、脳裏に浮かんだ土器部位の意味や文様の意味についてメモします。完全なる想像(妄想)ですが、この意味に関する想像は縄文趣味学習の中で重要な活動だと考えます。

1 加曽利EⅠ式土器の器形部位の意味

●加曽利EⅠ式土器器形部位の意味

口縁部…天空界(空の上にある、神々が住む見えない世界)

頸部…天空界と地上界の境(風景的な空)

胴部…地上界(現実世界)

●文様の意味

口縁部文様…天空界つまり祖先など神々が住む場所の理想の姿を表現する記号。

把手・突起…天空界に存在する理想の湧泉を表現する記号。

頸部文様…天空界と地上界の境の様子を表現する記号。

胴部文様…地上界の様子を表現する記号。


加曽利EⅠ式土器器形部位の意味(想像)

2 文様で表現される区画の意味

区画文を含めて各種文様で区画される土器表面空間は縄文社会における集落縄張り(集落が排他独占的に利用できる土地空間)を表現していると考えます。


加曽利EⅠ式土器の口縁部、胴部に見られる区画(分節空間)の例

3地文の意味

3-1 縄文

斜め方向の模様は螺旋空間的表現であり、クランク文と類似の意味(多様な土地条件の利用)があると考えます。

3-2 撚糸文

縦方向の模様は雨を表現していると考えます。

4 文様の意味

4-1 「S」(ヨコ)字文

河川と泉の組合わせ記号と考えます。

4-2 区画文

集落縄張り(集落が排他独占的に利用できる土地空間)を表現していると考えます。

4-3 渦巻文

水流における渦巻(豊かな水の象徴)あるいは湧泉を表現していると考えます。

4-4 クランク文

螺旋状に下から上へ空間が移動している様子を表現している記号と考えます。具体的には標高の低い場所(海岸)から台地・丘陵・山地という高い場所まで利用条件の異なる空間の利用を比喩的に表現していると考えます。その意味は生活に必要な多様な土地条件を縄張りに取り込んでいる「豊かな集落環境」を象徴していると考えます。


クランク文、クランク状区画(空間分節)の意味(想像)

4-5 曲線文

河川の記号であると考えます。現代地図記号と同じです。

4-6 棒状沈線文

雨を表現していると考えます。

5 感想

水にかかわる記号が多くなっています。

把手…吹き上がる湧泉

地文 撚糸文…雨

文様 「S」(ヨコ)字文…川

   渦巻文…湧泉

   曲線文…川

   棒状沈線文…雨

これは縄文時代生活環境できれいで量の多い水確保の価値が極めて高かったことを示していると考えます。

きれいで量の多い水が湧泉や川から確保できれば、飲料水のみならず排泄に関する衛生環境の保持なども可能になったのだと考えます。現代人が考えるよりも、縄文人ははるかにきれい好きであり、新鮮で多量の水確保に凝っていたのかもしれません。

参考 加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作2)

加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作2)

このモデルの用途:加曽利E式土器細分類学習のための補助観察資料

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.01.06 2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr v5.019で生成

左から

No.38 勝坂・阿玉台末/加曽利EⅠ初深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.37 加曽利EⅠ式深鉢(野田市東亀山遺跡)

No.39 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.56 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.57 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.55 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.20 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

No.36 加曽利EⅠ式深鉢(松戸市根木内遺跡第4地点)

No.40 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.25 加曽利EⅠ式深鉢(船橋市高根木戸遺跡)

No.21 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

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2021年3月21日日曜日

加曽利EⅠ式土器細分類の学習 その2

 縄文土器学習 562

この記事は2021.03.07記事「加曽利EⅠ式土器細分類の学習」につづく記事です。

埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類がどのような指標で行われているのか、その専門分野の様子を知るために埼玉編年資料と3Dモデル観察した加曽利貝塚博物館企画展展示土器11器との対応を検討しています。

この記事では埼玉編年資料における加曽利EⅠ式土器細分類指標を体系的に整理し、その体系に従って11土器を細分類しました。このような作業を行うことによって埼玉編年土器細分類の実体を感覚的に理解することが出来ると考えました。

1 埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標の体系的整理

埼玉編年における加曽利EⅠ式土器細分類指標を、機械的になりますが、次に体系的に整理してみました。

…………………

1 器形種別

1-1 キャリパー形土器

1-2 キャリパー形土器以外

2 主要文様帯の位置

2-1 口縁部

2-2 口縁部以外

3 口縁部文様帯

3-1 文様要素

●「S」(ヨコ)字文

3-1-1 「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文

3-1-1-1 通常の「S」(ヨコ)字文 及び「C」字文、「十字」文【Ⅸa期A類(1)】

3-1-1-2 「S」(ヨコ)字状文が大きく発達 「C」字文、十字文は「S](ヨコ)字文に取り込まれ連続的になる。【Ⅸb期A類(1)】

3-1-1-3 末端が小さく渦を巻く「S」字文を描く【Ⅹ期D類(4)】

●区画文

3-1-2 小突起状隆帯による区画【Ⅸa期B類(2)】

3-1-3 隆帯による区画文 区画は把手や突起と連続する【Ⅸb期B類(2)】

3-1-4 4単位の区画文【Ⅸb期D類(4)】

3-1-5 区画文【Ⅹ期B類(2)】

●区画文と「X」字文

3-1-5 小突起を中心に4単位区画と「X」字文【Ⅸa期C類(3)】

●区画文と「S](ヨコ)字状文

3-1-6 区画文と「S](ヨコ)字状文が絡み合っている【Ⅸb期C類(3)】

●渦巻文

3-1-7 隆帯による渦巻文

3-1-7-1 通常の「隆帯による渦巻文」【Ⅸa期D類(4)】

3-1-7-2 口縁部文様帯全体に隆帯の渦巻文」を持つ【Ⅸb期E類(5)】

3-1-7-3 口縁部と胴部に細隆線による渦巻文を描く【Ⅹ期F類(6)】

●区画文と渦巻文

3-1-8 細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く

3-1-8-1 通常の「細隆帯を貼付して区画文と渦巻文を描く」【Ⅸa期E類(5)】

3-1-8-2 連結渦巻文と区画文【Ⅹ期A類(1)】

3-1-9 橋状把手により区画、渦巻文を配する【Ⅹ期C類(3)】

●クランク文

3-1-10 クランク文

3-1-10-1 縦長のクランク文【Ⅸa期F類(6)】

3-1-10-2 横位に連続しているクランク文【Ⅸb期G類(7)】

3-1-10-3 横長で連続的なクランク文【Ⅹ期H類(8)】

●曲線文

3-1-11 隆帯による曲線文と眼鏡状突起

3-1-11-1 通常の「隆帯による曲線文」【Ⅸa期G類(7)】【Ⅸb期F類(6)】

3-1-11-2 曲線が弱い「隆帯による曲線文」【Ⅹ期G類(9)】

●棒状沈線文

3-1-12 棒状沈線文【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】

4 口唇部

4-1 通常口唇部

4-2 2重口唇部【Ⅸa期C類(3)】

5 頸部

5-1 頸部無文帯なし

5-2 頸部無文帯あり

5-2-1 通常の頸部無文帯

5-2-2 隆帯がくずれ頸部無文帯が広い【Ⅹ期E類(5)】

6 地文

6-1 撚糸文

6-2 縄文

7 分布域

7-1 西部

7-2 東部

…………………

2 埼玉編年と11土器の対応

埼玉編年土器細分類指標と11土器3Dモデル観察を対応させ、11土器がどのように埼玉編年の細分類に対応するのか検討しました。


埼玉編年(1982)1群土器細分類と観察土器事例の対応

この結果を画像で表現すると次のようになります。


加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応(仮案2)

3 感想

3-1 文様要素の指標は限られている

代表的文様要素は「S」字文、区画文、渦巻文、クランク文、曲線文、棒状沈線文であり、それらの組合わせにより加曽利EⅠ式土器の細分類のほとんどが決まることを知りました。

3-2 文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではない

土器現物だけの情報では埼玉編年土器細分類の一つに特定できない場合が多いことが判りました。例えば棒状沈線文のある土器は【Ⅸa期H類(8)】【Ⅸb期H類(8)】【Ⅹ期I類(7)】のどれかに対応することになります。しかし、その土器の層位や共伴出土物から時期(Ⅸa期か、Ⅸb期か、Ⅹ期か)がわからなければ、文様の様子だけからでは、細分類を特定できません。

作業してはじめてこのような事情がわかりました。

このことから、埼玉編年の土器細分類プロセスは、最初に土器を時期で大分けして、その各時期毎に文様要素等の指標で細区分した分類です。

ですから、文様要素等の指標だけからでは時期別の対応が明確ではないものも含まれているということです。

土器細分類を時期とより正確に対応させるためには、さらに踏み込んだ新たな詳細指標による精細な分類が求められます。

2021年3月20日土曜日

加曽利博研究講座「縄文を知る」を聴講する

 本日(2021.03.20)加曽利貝塚博物館主催講座を聴講してきました。印象が薄れないうちにメモします。2人の先生からとても興味深い話がありました。とても贅沢な参加です。広大なホールに選ばれし市民30人程度が何人分もの席を我が物顔に占有しての聴講です。(コロナのため抽選参加です。)

加曽利貝塚博物館主催「市民のための研究講座「 縄文を知る - 市内縄文研究概論 - 」」

●「千葉市有吉南貝塚の縄文時代集落形成について」青笹早季先生(千葉市教育委員会文化財課)

●「有吉北貝塚の特異な人骨埋葬例―SB096-A人骨の事例―」千葉南菜子先生(千葉市教育委員会文化財課)

1 「千葉市有吉南貝塚の縄文時代集落形成について」青笹早季先生(千葉市教育委員会文化財課)


講演の様子

博物館ホームページには有吉北貝塚と書いてありましたが、ミスプリだったようです。お話は有吉北貝塚の隣有吉南貝塚でした。千葉市有吉南貝塚と流山市中野久木谷頭遺跡との対比で加曽利E式期頃の集落消長を分析して、中期末にはほぼ同時期に終焉した様子を話されました。終焉した理由は急成長しすぎたことによる崩壊と気候変動の2つが一般にいわれているが、まだ断定できる状況にはないとのことでした。

【感想】

中期末にこれらの集落が終焉した要因について、これまで思考したことが走馬灯のように脳裏をよぎりました。自分が仮説的に考えている2つの主要要因…1河川や谷津の堆積作用進行による海岸漁業環境の劣悪化、2加曽利EⅡ式期の爆発的人口急増による劇的破綻…についてもっと思考を深めたいと思いました。

2 「有吉北貝塚の特異な人骨埋葬例―SB096-A人骨の事例―」千葉南菜子先生(千葉市教育委員会文化財課)


講演の様子

現在学習中の有吉北貝塚そのもの事例ですから大いに興味が深まります。加曽利EⅠ式期に埋葬された人骨が加曽利EⅢ式期に掘り出され、多数の部位が切断・折断され、何らかの利用が行われ、再び同じ場所に埋葬されたと理解できる事例の研究の報告です。ほぼ同じ趣旨がすでに発掘調査報告書で述べられていますが、千葉先生はこの人骨の切断痕を精査するなどして、切断人骨が磨耗するまで多くの人の手で扱われたことを明らかにしました。死者と生者が文字通り共存して生活する実体が浮かび上がったことになります。

【感想】

加曽利EⅠ式期で埋葬された時点から加曽利EⅢ式期に埋葬人骨が掘り出された時点までの時間はおそらく50~60年であり、掘り出した人々は埋葬人骨本人の素性を伝え聞いていたと想像します。有吉北貝塚集落のいわば創始者の力を借りる、墓を掘り起こして人骨を取り出して、集落創始者のタマシイと直接交流して助けを借りざるをえないような重大事態が加曽利EⅢ式期に生じていたと想像します。


2021年3月17日水曜日

埼玉編年のデータベース化による分析的学習 2

 縄文土器学習 561

2021.03.09記事「埼玉編年のデータベース化による分析的学習」の続きです。

上記記事でⅨ期・Ⅹ期の1群土器だけという極小範囲についてカードを利用して土器細分類を整理しました。その整理を立体的モデルにして、より理解学習と考察を深めるためのツール作成を目指し、その試作に着手しました。

次の図の立体モデルを作成しました。


埼玉編年(1982) Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式) 1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

なお、この図は上記記事と時間軸を逆にしています。この図は古→上、新→下にしていて、古→奥、新→手前をイメージしています。

この2D資料を立体化すると次のようになります。

埼玉編年(1982)Ⅸa期・Ⅸb期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)1群土器(キャリパー形土器)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材。


3Dモデルの動画

●感想

・素材1はまだ完全なる素材ですが、このような3Dモデル作成が自分の技術的レベルでなんら問題なくできることを確認できました。慣れれば2D資料作成に準じた時間で作成出来そうです。Photoshopから直接カードのWabefront(.obj)ファイル作成ができることが効率化の鍵です。

・webにおける画像は解像度が低くなり見にくくなりますが、3Dモデルではそうした画質低下の問題は生まれないので、使い勝手のよいツールになることを確認できました。

・Sketchfab画面内で、多数カード間を高速で移動して拡大縮小できるので、情報を3次元配置のなかでその関係等について思考を深めることができそうです。

・今後整飾を加え、本格的なモデルを構築します。


2021年3月11日木曜日

縄文土器総集モデル 試作2

 縄文土器学習 560

2021.03.04記事「加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作1)」で作成した加曽利EⅠ式土器11土器総集モデルを改良して使いやすくしました。

1 加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作2)

加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作2)

このモデルの用途:加曽利E式土器細分類学習のための補助観察資料

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.01.06 2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr v5.019で生成

左から

No.38 勝坂・阿玉台末/加曽利EⅠ初深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.37 加曽利EⅠ式深鉢(野田市東亀山遺跡)

No.39 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.56 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.57 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.55 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.20 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

No.36 加曽利EⅠ式深鉢(松戸市根木内遺跡第4地点)

No.40 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.25 加曽利EⅠ式深鉢(船橋市高根木戸遺跡)

No.21 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

Sketchfab画面内の移動方法:Shiftキー+右クリックで移動(Shiftキーを先に押す)


3DF Zephyr Lite画面

3DF Zephyr Liteでは個別土器のフォトグラメトリー作業、総集モデルのチェック確認、動画撮影、Sketchfabアップロードを行っています。


3DF Zephyr Lite画面 拡大


Blender画面

Blenderでは総集モデルの組み立てを行っています。


Sketchfab画面

Sketchfab画面をブログ等に埋め込んで情報発信したり、自らの観察に利用しています。


3Dモデルの動画

2 メモ

・特定の目的や視点(この場合加曽利EⅠ式土器細分類の確認や検討)で複数土器3Dモデルを並べて同時に観察すると効果絶大であることを体験し始めました。

・この総集モデルを使って加曽利EⅠ式土器細分類に関する学習・考察を深め、総集モデルの意義についても追ってまとめたいと思います。

・今後、加曽利貝塚博物館企画展展示の中峠式土器、加曽利EⅡ式土器、加曽利EⅢ式土器、加曽利EⅣ式土器についても同様の総集モデルを作成することにします。R2年度企画展展示土器84点のうち70点程度について3Dモデル作成用撮影をしましたから、今後の学習が楽しみです。しばらくの間、学習素材に事欠きません。

・利用面(観察面)からみて並べる土器数に適切な範囲があるのか、土器の並べ方に工夫かありうるのかなどについて引き続き積極的に試行検討することにします。

2021年3月9日火曜日

埼玉編年のデータベース化による分析的学習

 縄文土器学習 559

有吉北貝塚における加曽利E式期の土器分類は埼玉編年(1982)に基づいています。そこで埼玉編年(1982)加曽利EⅠ式部分(Ⅸ期・Ⅹ期)について、土器細分類記述と画像をFileMakerでデータベース化してカードにしました。その土器細分類カードを並べなおして、分析的に学習しました。紙報告書(のスキャン画像)をいくら詳しく理解しようと思っていも、複雑な対応関係を頭の中で理解することは困難で気力の限界を超えます。しかしデータベース化、カード化、カードの配置考察という手作業を含む分析学習によって加曽利EⅠ式の土器細分類の全貌を納得感をもって学習することができました。

この記事では1群土器(キャリパー形土器)の学習をメモします。

1 埼玉編年における土器群・類の分類概要

1-1 分類手順

Ⅸ期・Ⅹ期の土器群・類の分類は次のようなステップで行われています。

ア 最初に1~5群土器に分類する。

イ 次に各期ごとに群の中を類として分類する。

1-2 群の分類

ア 1群土器

加曽利EⅠ式の主体となるキャリパー形土器。口縁部文様帯に最も特徴を持つ。

イ 2群土器

加曽利EⅠ式段階に関東で成立し、変遷する土器。客体的存在であるが、加曽利EⅠ式土器群の構成において、常に一部を占めている。

ウ 3群土器

中部地方に主体を持つ曽利Ⅰ式、Ⅱ式に比定される土器、あるいは類似する土器。

エ 4群土器

前段階の勝坂式及び中峠式の系統を残す土器。

オ 5群土器

1~4群の浅鉢形土器に対して、浅鉢形を中心に小型土器等の一括。

1-3 1群土器の類の分類

Ⅸa期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類

Ⅸb期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類

Ⅹ期…A類、B類、C類、D類、E類、F類、G類、H類、I類

(A類、B類・・・には特徴を類推できる名称がつけられていないだけでなく、3つの期での対応がありません。)

2 FileMakerによるデータベース化、カード化


FileMakerによるデータベース 一覧表表現(部分)


FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅸa期A類


FileMakerのよるカード画面(レコード画面) Ⅹ期H類

3 カード配置による1群土器分類の理解


埼玉編年(1982) Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式) 1群土器(キャリパー形土器)分類の理解

(この資料は同じ情報を3Dモデルにすることを念頭していますので、下(つまり手前)が古く、上(つまり奥)が新しくなるように表現しています。通常の土器編年表と異なります。)

紙資料をいくら理解しようとしても3重4重に情報を変換して対応関係をみることは苦痛であるばかりでなく、事実上不可能でした。しかしデータベース化、カード化することにより加曽利EⅠ式キャリパー形土器(Ⅸ期・Ⅹ期の1群土器)の細分類の全体像を把握することができました。埼玉編年(1982)という資料がどのような思考でどのような結果を提示しているかということの理解が一応できたことは、それを知らないで通り過ぎるよりも、よほど素晴らしいことです。

4 学習メモ

大局的にみて荒川あたりを境に、関東西部と東部で特徴が違います。

S字文、渦巻文、区画文土器が西部を中心に分布していて、それらの土器地文は撚糸文が多くなっています。

クランク文、曲線文、棒状沈線文は東部を中心に分布していて、それらの土器地文は縄文が多くなっています。

口縁部文様はS字文を始め各文様ともにⅨa期よりもⅨb期で発達する(大きくなる、彫りが深くなる)傾向があるようです。しかしⅩ期になると区画文の中に様式化して取り込まれ、退化していくようです。

西部の土器地文である撚糸文はⅩ期になると減少し、縄文が増えます。

5 疑問・問題意識

ア 文様の優先順位

一つの土器にS字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文、棒状沈線文の複数の要素が見られることは極普通です、逆に単一の要素だけということは事例としては少ないと思います。しかし、埼玉編年ではあたかも土器には主要な文様が1つだけあるのが一般的であり、それにより分類しているような記載になっています。おそらく複数文様が見られる場合、分類で使う優先順位(重みづけ)があると思いますが、それが判りません。

イ 文様のレベルの差

S字文、渦巻文、区画文、クランク文、曲線文と棒状沈線文は次元が異なる文様項目です。棒状沈線文は地文ですから、それと本来の文様を同じレベルで指標にすることは疑問が生まれます。

ウ 胴部文様など

胴部文様、器形、大きさなどの要素が埼玉編年土器細分類とどのような関係になるのか興味が湧きます。

6 感想

埼玉編年(1982)で検討された思考の一端をⅨ期・Ⅹ期で知ることができました。大労作であり、学習のしがいがある資料です。

その後40年で膨大な発掘情報が加わっています。千葉県分を含めた、それらの膨大情報を整理した新版関東編年資料ができることを期待します。

2021年3月7日日曜日

加曽利EⅠ式土器細分類の学習

 縄文土器学習 558

この記事は2021.03.05記事「加曽利博企画展展示加曽利EⅠ式土器と埼玉編年資料との対応」につづく記事です。

加曽利EⅠ式土器の細分類がどのような指標で行われているのか、その専門分野の様子を知るために埼玉編年資料と加曽利EⅠ式土器11器との対応を検討する学習をすることにします。埼玉編年で行われている詳細な土器分類を詳しく理解することが必要であると直観できたので、しばらく時間を集中投下して、微に入り細にわたる専門家思考を理解することにします。

専門家の土器分類に関する基本的思考方法を理解した上で、将来、観察記録3Dモデルを作成した土器の器形・大きさ・文様等を指標化して、統計的分析等による土器分類(の真似事)を楽しみ、遊ぶことにします。

縄文土器分類の超細部に立ち入らないと、縄文学習の質を高めることができないと直観されます。

1 「加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応」図の改善

2021.03.05記事における「加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応」図の対応線(赤線)がゴチャゴチャしていて判りずらいので、総集3Dモデルにおける土器順番を変更して判りやすくしました。また、埼玉編年の土器群分類を色分けして概要を記入しました。


加曽利博R2企画展展示加曽利EⅠ式土器と有吉北貝塚及び埼玉編年土器群分類との対応(仮案)

2 埼玉編年土器群・類の分類概要

2-1 分類手順

Ⅸ期・Ⅹ期の土器群・類の分類は次のようなステップで行われています。

ア 最初に1~5群土器に分類する。

イ 次に各期ごとに群の中を類として分類する。

2-2 群の分類

ア 1群土器

加曽利EⅠ式の主体となるキャリパー形土器。口縁部文様帯に最も特徴を持つ。

イ 2群土器

加曽利EⅠ式段階に関東で成立し、変遷する土器。客体的存在であるが、加曽利EⅠ式土器群の構成において、常に一部を占めている。

ウ 3群土器

中部地方に主体を持つ曽利Ⅰ式、Ⅱ式に比定される土器、あるいは類似する土器。

エ 4群土器

前段階の勝坂式及び中峠式の系統を残す土器。

オ 5群土器

1~4群の浅鉢形土器に対して、浅鉢形を中心に小型土器等の一括。

2-3 期別群別の類の分類と学習方法

次のような期別群別の類の分類が例示実測図対応で説明されています。


埼玉編年土器分類 期別・群別の類の数

全部で66ある類の分類をより具体的に理解し、観察11土器との関係を考察することが大切であると考えます。紙の報告書(のスキャン画像)を読みながら、観察11土器との関係を考察して、仮のものとして対応関係をつけましたが、納得感のある学習にはほど遠いものです。

急いで66類をFileMakerでカード化してその全体像を俯瞰できるように、あるいは分類上の問題点を感じられるようにすることにします。紙報告書を利用した限りでは、類の分類の指標がバラバラであり、具体土器がいろいろな類に当てはめることが出来るような素性であると、生半可ですが、問題意識を感じています。

3 感想

2群土器には呼称に使えるキーワードが見つからなかったので、「他系統影響土器」と仮称することにします。

2群土器という存在をはじめて知り、思い当たる節があります。Ⅹ期2群D類(13)とよく似た加曽利EⅠ式土器を平成30年度加曽利貝塚博物館企画展「あれもE これもE -加曽利E式土器(千葉市内編)-」で観察しました。


加曽利EⅠ式大把手小突起対向土器 No.3

有吉北貝塚出土


出土土器挿図

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

この土器が加曽利EⅠ式土器であるという分類がこれまで納得できませんでした。器形がキャリパー形でないし、口縁部に特段の文様がありません。しかし、加曽利EⅠ式土器のメインではなく、傍流の2群であると知ったので、納得できます。

2群土器が何故1群土器にずっとよりそって随伴するのか、その理由を考察すれば、社会の様子の特徴にせまることになりそうで、興味が深まります。

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並べ替えした総集モデル


並べ替えして総集モデル


2021年3月6日土曜日

縄文土器3Dモデル総集モデルの改良・発展に関する課題

 縄文土器学習 557

2021.03.04記事「加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作1)」で試作した3Dモデル総集モデルをより学習質向上に資するツールにするため、また、より学習加速に資するツールにするために必要な改良・発展の課題(=楽しみ)を検討しメモします。

●縄文土器3Dモデル総集モデルの改良・発展課題メモ

1 並べ替え

 並べ替えを自由に、いろいろな視点から行い、その結果をSketchfabに記録として残し、Blender等の操作に習熟します。

・時期細分類別(タイプ別)

・大きさ別(器高別、容量別)

2 空間配列方法の変更する

・縄文土器配列を直線配列だけでなく、2列・3列、グループ、半円状・弧状、十字、格子など、利用目的に応じて工夫します。

・平面配列ではなく、立体的に配列します。

例 時期・タイプ・大きさの3軸空間にモデルを配列する、あるいは3軸による定量的立体空間に土器が所持する数値情報で配置してみます。


3軸立体空間における展開イメージ

3 立体空間用スケールを入れる

次のような各種スケールを試用して、見やすくかつ作りやすい自分専用スケールスタイルをつくります。

・透明な面的スケールを土器脇に置く

・透明な面的スケールを土器を貫通して置く

・空中に漂うスケールを3軸方向に土器毎に置く

・空中に漂うスケールを3軸方向に1つ置く

・背景と台座がつくる箱全体にスケールとなるメッシュを書き込む


立体空間に置かれたスケールの例

Hugh氏によるIllustrated Paleolithic Handaxe(Sketchfab)スケールは10㎝

4 背景と台座

背景と台座を透明・半透明等でつくり、それにより生まれるメリット・デメリットを検討します。3D空間における3Dモデルの観察にふさわしい背景や台座のあり方を検討します。


背景と台座の例

5 説明文字・画像情報

背景・台座・プレートなどをつかった文字・画像情報のあり方を検討します。

・背景で記述する表題

・土器別情報(区分名称、出土遺跡、大きさ等情報)

・Sketchfabアノテーションの活用(プレート等との役割分担)

6 復元・補修

例えば11番土器は胴下部が復元されていないので、それを復元して土器全体像を観察できるようにします。

また、全土器について背面情報が欠落しているので、その部分の補修について方法等検討します。(半透明回転体を貼り付けるなど。)


胴下部復元イメージ

回転体を作成して継ぎ足すことにより立体的に復元することが可能です。

7 各土器がクルクル回る3Dモデルを作成する

8 総集3Dモデルのファイル大きさ縮減

Sketchfab投稿限界(プロの場合200MB)を超えないように3Dモデルファイルの大きさを縮減する方法を知り、メモします。

9 多数土器の階層的配列方法

加曽利EⅠ式土器のみならず中峠式土器、加曽利EⅡ式土器、EⅢ式土器、EⅣ式土器の3Dモデルを全部一覧的に観察することが近々必要になります。その場合の階層的配置配列方法を検討します。

10 テクスチャ以外バージョンの試作検討

テクスチャ以外バージョンを試作し、有用な活用方法があるか検討します。

・ソリッドバーション

・色塗りバージョン(「高さによる」「法線によって」「曲率」など)の試作・検討

・高密度点群バージョン


高密度点群彩色の例

11 総集3Dモデル作成の効率的手法のメモ

以上の試行結果に基づき、学習ツールとして有用な総集モデルをつくるための効率的方法をメモします。

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加曽利EⅠ式深鉢11器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.01.06 2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 

左から

No.20 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

No.21 加曽利EⅠ式深鉢(市川市向台貝塚)

No.25 加曽利EⅠ式深鉢(船橋市高根木戸遺跡)

No.36 加曽利EⅠ式深鉢(松戸市根木内遺跡第4地点)

No.37 加曽利EⅠ式深鉢(野田市東亀山遺跡)

No.38 勝坂・阿玉台末/加曽利EⅠ初深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.39 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.40 加曽利EⅠ式深鉢(柏市小山台遺跡B区)

No.55 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.56 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)

No.57 加曽利EⅠ式深鉢(流山市中野久木谷頭遺跡C地点)