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2023年11月28日火曜日

出土物がほとんど無い漆喰貝層【無】竪穴住居

 Stucco shell layer [without] pit dwelling with almost no unearthed objects


The pit dwellings of the late Jomon settlement of Daizenno Minami Shell Mound are divided into pit dwellings with stucco shell layer and pit dwellings without stucco shell layer. But.pit dwellings without stucco shell layer, there is no real sense of life at all due to the excavation conditions of the artifacts. Why?


大膳野南貝塚の縄文後期集落の竪穴住居は漆喰貝層【有】竪穴住居と漆喰貝層【無】竪穴住居に二分されますが、漆喰貝層【無】竪穴住居では遺物出土状況から生活実感が全く感じられません。何故でしょうか?

1 大膳野南貝塚後期集落の漆喰貝層【有】竪穴住居と漆喰貝層【無】竪穴住居の分布


大膳野南貝塚の漆喰貝層【有】竪穴住居と漆喰貝層【無】竪穴住居の分布

青が漆喰貝層【有】竪穴住居

ベージュが漆喰貝層【無】竪穴住居

2 遺物出土状況


漆喰貝層【有】竪穴住居と漆喰貝層【無】竪穴住居の平均遺物出土量(平均中テン箱数)

平均遺物出土量を中テン箱数を指標にみると、漆喰貝層【有】竪穴住居では1.9箱、漆喰貝層【無】竪穴住居では0.2箱であり、10倍近くの差になります。漆喰貝層【無】竪穴住居では遺物出土がきわめて少ないという状況です。


平均石器出土数

平均石器出土数を見ると、漆喰貝層【有】竪穴住居では343、漆喰貝層【無】竪穴住居では71となり、5倍近くの差になります。


平均獣骨出土数

平均獣骨出土数を見ると、漆喰貝層【有】竪穴住居では89.4、漆喰貝層【無】竪穴住居では0.3となり、300倍近くの差になります。漆喰貝層【無】竪穴住居内では事実上獣肉が食べられていなかったと言えます。


貝製品出土数

貝製品出土数を見ると、漆喰貝層【有】竪穴住居では67、漆喰貝層【無】竪穴住居ではゼロです。

3 感想

漆喰貝層【有】竪穴住居から出土する遺物にくらべて、漆喰貝層【無】竪穴住居から出土する遺物はきわめてわずかです。縄文人の暮らしを遺物から実感できません。竪穴住居という建物があり、炉址があるのですから、そこに縄文人が暮らした(少なくとも短期間は暮らした)ことは確実です。しかし、暮らしの痕はほとんど残していません。

漆喰貝層【無】竪穴住居の意義(意味)はそこに暮らした縄文人が生活痕跡をほとんど残さなかったという点から辿ることができそうです。

2017年4月28日金曜日

土坑の出土物

大膳野南貝塚 前期後葉集落 土坑の出土物

大膳野南貝塚前期後葉集落土坑について、その分布は既に把握しました。

大膳野南貝塚 縄文時代前期後葉 竪穴住居と土坑の分布
2017.03.31記事「大膳野南貝塚 縄文時代前期後葉竪穴住居と土坑」参照

この記事では土坑からの出土物について検討します。

1 発掘調査報告書における土坑記述
発掘調査報告書では土坑について次のように記述しています。
……………………………………………………………………
縄文時代前期に属する土坑は合計113基検出され、これらのうちの約90%が調査区南西部に分布していた。
土坑の平面形は円形を呈するものが多く、底面の近くに段を有するものが特徴的に見られた。規模は約1.0~1.5m、深さは約0.5~1.2mを測る。出土遺物は少なく、前期後葉諸磯b式や浮島Ⅰ~Ⅱ式の土器片および石器類が極少量検出されたのみであった。
検出された土坑のうち、無作為に抽出した14基を対象に土壌サンプリングを行い炭化植物の分析・同定を行った結果、すべての土坑でオニグルミの核が確認された。

前期の土坑は113基検出されたが、このうち76基(全体の約67%)が調査区中央の南西側にあたるT-18区からY-12区にかけての40×30mの範囲に集中し、土坑群を形成していた。
土坑は単独で検出された例が多く見られたが、2 ~ 4 基が数珠玉状に連なって重複するものも存在した。
土坑群の時期は、出土土器から推定すると諸磯b(浮島Ⅰ~Ⅱ)式期に属すると考えられる。
 平面形は円形、楕円形、隅丸方形、不整形が見られたが、円形を呈するものが多く、底面に段を有するものが多数検出された。規模は径1 m前後に集中する。
今回検出された土坑のうち、合計62基が段を有する形態に分類され、全体の約50%を占める割合となる。
段の部分の平面形態は、半月形47基、楕円形8 基、三日月形6 基、不整形2 基で、半月形を呈するものが圧倒的に多い。
そして底面の上段と下段との高低差は、4~40㎝とややばらつきがあるが、10~20㎝の範囲に収まるものが大半を占める。

ここで本遺跡で検出された土坑群を見てみると、底面有段という形態的特徴や、住居に取り囲まれた集落内の特定位置に土坑群が形成されること、そして複数基が連なるように重複して検出されている状況など、前述の南羽鳥中岫第1 遺跡E地点や木戸先遺跡と非常に近似したあり方を示すと言える。
しかし、土坑からの出土遺物は非常に乏しく、191号土坑から浅鉢の大破片が、137号土坑から完形の石匙が出土しているものの、191号土坑については土坑群から外れた台地西側緩斜面に位置している。
また、土壌分析の結果、14基の土坑覆土からオニグルミの核が検出されており、積極的に墓であることを裏付ける情報は得られず、むしろ貯蔵穴としての可能性を示唆する状況であった。
 なお、本遺跡の西側に隣接するバクチ穴遺跡の15号址とされる土坑から、滑石製の玦状耳飾が対で出土し、報文中では墓と考えられている(大野・栗田ほか 1983)。
今回調査された土坑群とは距離にして約90m西へ離れているが、本遺跡の墓域となる可能性が推定される。
……………………………………………………………………
発掘の過程では土坑形状が他遺跡と類似性していることから墓ではないかと疑ったが、14基サンプル調査で全てオニグルミ核が検出され、貯蔵穴であることが判ったという結論です。


参考 土坑例

参考 土坑例

参考 土坑例

土壌採取土坑

2 出土物による土坑分析
出土物により土坑を分類して、その数を示すと次のようになります。

大膳野南貝塚 前期後葉 出土物別土坑数

土器が出土する割合は80%にのぼります。
しかし出土する土器はほとんどが微量あるいは細片です。
オニグルミなどの堅果類の出し入れに土器を使っていて、その土器片が土坑内に落ちたという状況が想像できます。
土器出土が微量で細片であることから、土器だけ出土土坑では、土器を送ったという状況がイメージできる場所は皆無です。

着目すべきは石器や獣骨や貝が土器と一緒に出土する土坑が存在するという事実があることです。
そのような場所では大きな土器が出土する場合もあります。
石器、獣骨、貝の出土は明らかに意識的に土坑の入れたものであり、それらを送ったことが想定できます。

廃絶土坑を送った、その場所で道具(石器)を送った、動物や貝を送ったということが考えられます。

その土坑数は合計で12に上ります。

その分布図を次に作成してみました。

大膳野南貝塚 前期後葉 土坑

土器とともに石器、獣骨、貝が出土する土坑の分布は土坑集中域から外れた場所に多くなっています。

土坑集中域には土器と石器が同時に出土する土坑3基があるだけです。

土坑送りをした場所が土坑集中場所に少ないという事実から、この集落でなぜ土坑が集中するのか、その意味が浮かび上がりましたのでその説明を次の記事で行います。