2021年11月30日火曜日

香炉形土器の観察 Censer-shaped pottery

 Observation of incense burner-shaped pottery


Observe the incense burner-shaped pottery (Kasori B type) (Sakura City Ino Nagawari Site) exhibited at the Rakugaku Jomonkan with a 3D model. I enjoyed imagining its use. Imagine a funeral incense burner where the skull's eye sockets glow with fire and the top cup burns scented and awakening smoke.


八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」で展示されている香炉形土器(加曽利B式)(佐倉市井野長割遺跡)の3Dモデルを作成して観察し、その用途について想像を楽しみました。

1 香炉形土器(加曽利B式)(佐倉市井野長割遺跡) 観察記録3Dモデル Censer-shaped pottery

香炉形土器(加曽利B式)(佐倉市井野長割遺跡) 観察記録3Dモデル Censer-shaped pottery

縄文時代後期

撮影場所:八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」

撮影月日:2021.11.18


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 172 images


カメラ配置

Censer-shaped pottery (Kasori B type) (Sakura City Ino Nagawari Site) Observation record 3D model

Late Jomon period

Location: Yachiyo Municipal Folk Museum Special Exhibition "Rakugaku Jomonkan-Enjoying Jomon Pottery Manabi-"

Shooting date: 2021.11.18

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 172 images


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる6面図作成


6面図 GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルから作成


6面図の別表現 GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルから作成
(このように表現するとわかりにくいというコメントをGigaMesh Software Framework作者Hubert Maraさんからいただきました。Hubert Maraさんに感謝です。)

3 メモ

3-1 展示説明

「香炉形土器は、お香を焚くために使う器に形が似ていることから命名された器種です。吊手土器は、文字通り吊手が付く形状から命名された器種です。

これらは、器に台が付く点で基本構造が異形台付土器と似ているだけでなく、器に橋状の把手が付く点でも共通性があります。内面にある煤の附着から灯火具説が有力視されていますが、なかには煤が付いていないものも含まれます。」(らくがく縄文館展示パネルから引用)

3-2 香炉形土器用途の想像


香炉形土器(加曽利B式)(佐倉市井野長割遺跡)に関する想像

・土器の大きな開口部がドクロの眼窩を表現している造形だと考えます。

・中期土器にみられる双眼把手をドクロと想像しましたが、それとおなじ造形がこの土器にほどこされていると考えます。

・この土器は3方からドクロをみることができます。

・土器の中に火と灯し、ドクロ眼窩が光っているように見えるしかけです。

・頂部にあるカップには吸気口が備わっています。このカップで香りや覚醒作用のある煙を焚いていたと考えます。

・この土器は人の死に関する祭りで使われた香炉であると想像します。



2021年11月29日月曜日

茨城県常陸大宮市諏訪台遺跡出土の深鉢(七郎内Ⅱ群) Deep bowl

 Deep bowl (Group II in Shichirouti) (Hitachiomiya City Suwadai Site)


The shape, pattern, and bird protrusions of the earthenware excavated from the Suwadai Site in Hitachiomiya City, Ibaraki Prefecture, and the Sumihurusawa Site in Shisui Town, Chiba Prefecture, which are 100 km away, are similar. There may have been two groups that worshiped birds as totems and had a blood relationship.


八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」で展示されている深鉢(七郎内Ⅱ群)(常陸大宮市諏訪台遺跡)の3Dモデルを作成して観察しました。

1 深鉢(七郎内Ⅱ群)(常陸大宮市諏訪台遺跡) 観察記録3Dモデル Deep bowl

深鉢(七郎内Ⅱ群)(常陸大宮市諏訪台遺跡) 観察記録3Dモデル Deep bowl

縄文時代中期

撮影場所:八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」

撮影月日:2021.11.18


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 151 images

Deep bowl (Group II in Shichirouti) (Hitachiomiya City Suwadai Site) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Yachiyo Municipal Folk Museum Special Exhibition “Rakugaku Jomonkan-Enjoying Jomon Pottery Manabi-“

Shooting date: 2021.11.18

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 151 images


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 外面


GigaMesh Software Frameworkによる展開 内面

3 メモ

3-1 酒々井町墨古沢遺跡出土の深鉢との近似

この土器は酒々井町墨古沢遺跡出土の深鉢(七郎内Ⅱ群)と器形、文様、動物意匠が近似しています。

2021.11.28記事「深鉢(七郎内Ⅱ群)(酒々井町墨古沢遺跡)の観察

3-2 動物意匠近似の意味するもの

この土器の動物意匠と酒々井町墨古沢遺跡出土深鉢の動物意匠は似ていて、ともにトリを表象しているものと想像します。


諏訪台遺跡深鉢のトリ突起


墨古沢遺跡深鉢のトリ突起

常陸大宮市諏訪台遺跡と酒々井町墨古沢遺跡の直線距離は筑波山と霞ヶ浦を挟んで約100㎞と離れています。しかし、それぞれにトリをトーテムとして信仰する集団が存在していて、トーテムにより血縁関係がつながっていた可能性も考えられます。


諏訪台遺跡と墨古沢遺跡



2021年11月28日日曜日

山田康弘監修「地図でスッと頭に入る縄文時代」(昭文社)入手

 I got "Jomon period" (Shobunsha Publications) supervised by Yasuhiro Yamada.


"The Jomon period" (Shobunsha Publications), supervised by Yasuhiro Yamada, is organized as a list with illustrations according to interests.

In addition, this book is a super-summary of Yasuhiro Yamada's "History of the Jomon Era" (2019, Kodansha's New Book).

It is a useful book for beginners of Jomon learning like me.

2021年11月27日近くの書店内をぶらぶらしていた時、新刊書コーナーで山田康弘監修「地図でスッと頭に入る縄文時代」(昭文社)(税込¥1320-)を見つけました。パラパラめくってみると役立ちそうなので早速購入しました。


山田康弘監修「地図でスッと頭に入る縄文時代」(昭文社)

出版社が地図専門社なので題名に「地図」が入っているようです。しかし、内容は地図に関して特段に特化していることはありません。というか「地図でスッと頭に入る」は図書内容と全く無関係です。

表題はさておき、この図書が自分にとって役立ちそうなので、その様子をメモしておきます。

1 図書の目次と表現

目次

1縄文人ってどんな人たち?

【縄文人はどこから来たのか?】

【縄文人の体格】など14項目

2縄文の集落を覗いてみる

【環状集落】

【竪穴住居】など8項目

3縄文人の狩猟採集と経済活動

【縄文時代の気候】

【狩猟と漁労の方法】など8項目

4縄文時代の信仰

●縄文人の一生

【縄文人の結婚】など12項目

5縄文から弥生へ

【縄文時代の歴史①草創期】

【縄文時代の歴史②早期】など9項目

項目の表現

各項目は見開き2ページで右に説明、左にイラストという構成になっています。


項目の表現例


見開きイラストにした項目例

2 この図書の特徴

山田康弘先生の図書を何冊か読み、特に「縄文時代の歴史」(講談社現代新書)をじっくり学習した体験からすると、山田康弘監修「地図でスッと頭に入る縄文時代」(昭文社)は「縄文時代の歴史」(講談社現代新書)の超要約版といっていい図書です。


山田康弘著「縄文時代の歴史」(講談社現代新書)

山田康弘著「縄文時代の歴史」(講談社現代新書)は新書という体裁ですが、その内容は大変濃く、かつ縄文時代の歴史を最新情報で体系的に論じている良書だと思います。その内容を、「地図でスッと・・・」では興味別にリスト化し、同時に全ての興味をイラストで表現しているように見えます。「縄文時代の歴史」の興味項目リスト、興味項目イラスト集が「地図でスットと・・」であり、まさに「縄文時代の歴史」の超要約版です。

超要約版ですから短時間に読み切ることができ、とても面白く、時にあれこれと疑問が誘発されます。なお、図書の見た目のやさしさ、読んでのやさしさにもかかわらず、内容の深さで安易な妥協はないと感じます。

3 この図書の自分だけの利用法

過去に山田康弘著「縄文時代の歴史」(講談社現代新書)を学習してブログ「芋づる式読書のメモ」で43記事を書いています。(2020.03.112020.08.26


山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)学習記事のサムネイル

この学習は縄文時代について無知識の自分が多少なりとも体系的に知識を習得しようとする活動でした。引用されている図書論文などにも学習範囲をひろげて、大いに知識習得できました。しかし、習得した知識が多すぎて、頭の中は必ずしも整然としているわけではありません。そこで縄文時代関連の疑問や興味が生まれた時、それに関連する項目を「地図でスットと・・・」で調べて、どのように説明されているのか調べることにします。イラストとキーワード中心の短文記述ですからどんなに急いでいても、すぐに理解できます。その理解をベースに山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)や他の図書・専門書・論文などに触手を伸ばしてゆけば、調べ毎が効率化すると考えます。

この図書は縄文時代学習初心者にとっては貴重な情報源(整理されたイラスト中心の興味項目リスト)です。

深鉢(七郎内Ⅱ群)(酒々井町墨古沢遺跡)の観察

 Observation of the deep bowl (Group II in Shichirouti) (Shisui Town Sumihurusawa Site)


Observe the deep bowl (Group II in Shichirouti) (Shisui Town Sumihurusawa Site) exhibited at the Yachiyo Municipal Folk Museum Special Exhibition "Rakugaku Jomonkan" with a 3D model. This is an example of earthenware type area contact, but I am more interested in animal design protrusions. I think it's a bird.

八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」で展示されている深鉢(七郎内Ⅱ群)(酒々井町墨古沢遺跡)の3Dモデルを作成して観察しました。私の興味は動物意匠突起にあります。

1 深鉢(七郎内Ⅱ群)(酒々井町墨古沢遺跡) 観察記録3Dモデル Deep bowl

深鉢(七郎内Ⅱ群)(酒々井町墨古沢遺跡) 観察記録3Dモデル Deep bowl

縄文時代中期

撮影場所:八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」

撮影月日:2021.11.18


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 172 images

Deep bowl (Group II in Shichirouti) (Shisui Town Sumihurusawa Site) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Yachiyo Municipal Folk Museum Special Exhibition "Rakugaku Jomonkan-Enjoying Jomon Pottery Manabi-"

Shooting date: 2021.11.18

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 172 images


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開


GigaMesh Software Frameworkによる展開 土器外面


GigaMesh Software Frameworkによる展開 土器内面

3 メモ

3-1 らくがく縄文館の展示説明

酒々井町墨古沢遺跡では、158号住居跡から器形や文様構成のわかる深鉢が出土しています。この土器は4単位の緩やかな波状口縁で、うち1か所は内面に動物意匠が付く突起となっています。

口縁部には幅の狭い有節沈線による区画文が形成され、頸部以下には縄文が地文として施されています。口縁部と頸部、頸部と胴部の区画には、それぞれ沈線文と波状沈線文を数条巡らせます。

胴部には縄文が施される隆起線文が4単位垂下し、その懸垂文間にはX字状や弧状の文様が沈線で描かれます。

以上の特徴から墨古沢遺跡例は、七郎内Ⅱ群土器と宮後タイプの特徴を併せ持った土器ということになります。

この深鉢は常陸大宮市諏訪台遺跡第8号土坑例と、器形や文様構成、突起内面に動物意匠が付く点で似ています。


158号住居跡出土土器(墨古沢遺跡) 展示パネルから引用

3-2 動物意匠について


動物意匠

高橋龍三郎先生によれば縄文時代の動物形象は次の8つに限られているそうです。(2021年度山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」における講演)

イノシシ(前期、中期、後期、晩期)

トリ(前期、中期、後期、晩期)

ヘビ(中期)

カエル(中期)

サル(中期、後期、晩期)

イヌ(後期、晩期)

クマ(後期、晩期)

巻貝(後期、晩期)

本深鉢は七郎内Ⅱ群土器(大木7b式期)で、縄文時代中期前葉~中葉頃ですから、この動物の種はイノシシ、トリ、ヘビ、カエルのどれかである可能性が高くなります。

本深鉢の動物意匠はらくがく縄文館に展示されている鳥頭形突起と似ているところがあるのでトリであると想像します。


鳥頭形突起 鳥頭形突起付土器[加曽利EⅣ式](印西市馬込遺跡)

2021.10.25記事「鳥頭形突起付土器を3Dモデルで観察する

トリ以外の動物と考えると、イノシシは鼻孔の表現がともなうのが普通でが、この意匠は目であると考えられるのでイノシシではないと思います。ヘビは口を表現してはじめてヘビらしくなると考えますので、ヘビ説も有力ではないと思います。この目がカエルの目とは到底考えられません。

この動物意匠は不十分であるとはいえ嘴表現がある(ないとは言えない)と考えることができるので、消去法によりトリ以外には考えられないと思いました。

高橋龍三郎先生によれば縄文後期に本格化するトーテミズムの前段階として縄文中期に「プロト・トーテミズム」という先駆形態があるとのお話がありました。本深鉢のトリ意匠は「プロト・トーテミズム」事象の一環として捉えることができると考えます。酒々井町墨古沢遺跡ではトリを旗印に掲げる集団が生活を送っていたと考えます。


2021年11月26日金曜日

千葉県市原市の顔面把手(勝坂式)

 Face handle in Ichihara City, Chiba Prefecture (Katsusaka style)


I created and observed a 3D model of the face handle (Katsusaka style) (Kusakari shell mound, Ichihara city) exhibited at the special exhibition "Rakugaku Jomonkan-Enjoying the Manabi of Jomon pottery-" at the Yachiyo City Folk Museum.


八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」で展示されている顔面把手(勝坂式)(市原市草刈貝塚)の3Dモデルを作成して観察しました。

1 顔面把手(勝坂式)(市原市草刈貝塚) 観察記録3Dモデル Face handle

顔面把手(勝坂式)(市原市草刈貝塚) 観察記録3Dモデル  Face handle

縄文時代中期

撮影場所:八千代市立郷土博物館特別展「らくがく縄文館-縄文土器のマナビを楽しむ-」

撮影月日:2021.11.18


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 112 images

https://youtu.be/G51QIb7XEEU

https://skfb.ly/orrEC

Face handle (Katsuzaka style) (Kusakari shell mound, Ichihara city) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Yachiyo Municipal Folk Museum Special Exhibition "Rakugaku Jomonkan-Enjoying Jomon Pottery Manabi-"

Shooting date: 2021.11.18

Shooting through a glass showcase

Generated by 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 112 images


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 千葉県出土の意味

らくがく縄文館展示パネルでは千葉県出土顔面について次のような説明があります。

「中期前葉から後葉では、中部地方から西関東地方を中心に勝坂式の顔面把手が発達します。顔面意匠と眼鏡状突起が一つの把手の内外に対向して付くことが多く、顔面には外向きと内向きの両方があります。県内の事例は、中心地域から運ばれた可能性があります。」

この顔面把手も長野県・山梨県・東京都多摩地域のどこからか運ばれてきたものと推察します。

山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」で戸田哲也先生からデザイン特徴的な土器把手を移動する縄文人が所持してパスポートのように使っていたという話。あるいは遠方の土器把手を所持することで、遠方からの見知らぬ来客との密なコミュニケーションを可能にしていたという話を聞きました。とても興味深い話です。千葉にはない顔面把手が市原市から出土する理由はこのような理由によるものであるのかもしれません。

2-2 縄文時代中期顔面の比較と検討

この記事で3Dモデル観察した千葉県出土顔面1つと最近3Dモデル観察した長野県出土3つの顔面とあわせて比較し、検討してみました。


縄文時代中期顔面の比較と検討

この4つの事例は2つのタイプに分類できます。

ア 通常の歌う女神タイプ

市原市草刈貝塚と伊那市御殿場遺跡出土顔面です。目が水平で鼻孔が1つです。

イ 産道から首を出した歌う女神タイプ

箕輪町丸山遺跡と伊那市月見松遺跡出土顔面です。目が吊りあがっていて、鼻孔が2つです。

この2つのタイプにどのような意味の違いがあるのか、検討材料が増えた段階で考えることにします。

2021年11月24日水曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能

 Pattern meaning and cursive function of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


The main pattern of the fishing handprint pottery with a face is a fresh birth. Also, the theme of continuation of life is hidden.

The practical function is an incense burner that relieves the suffering of maternity women.

From such patterns and functions, it can be considered that this pottery was used as a tool for praying for safe delivery.


この記事では顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の文様意味と呪的機能を検討します。

1 文様の意味

1-1 土器正面文様の意味


土器正面文様の意味

土器正面の文様は女神(母神)が産道口から子神を産む出産の様子を描いていると考えます。産道口の中にある熾火を子神にみたてていて、子神の姿はあくまでも暗示するだけで直接描写していません。

1-2 土器背面文様の基本構造


土器背面文様の基本構造

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)背面文様の基本構造は顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)背面文様基本構造と同じである可能性を仮説します。両方の土器ともに祖母神→母神→子神→孫神という命の継続を表現していると想像します。

1-3 産婆の両手


産婆の両手

出産を介助する産婆の両手とその10本の指爪が表現されています。産婦(母神)の背後から産道口を広げている表現であると考えます。

1-4 土器背面の紐状隆帯の意味

土器背面の太細の紐状隆帯は天井から垂れる紐(産縄)にぶら下がって行う重力式出産の様子を描いていると想像しました。


安産直後を描写した顔面付釣手形土器

2019.03.20記事「顔面付釣手形土器の発掘調査報告書を読む」から引用

2 呪的機能

土器文様のメインは産婆の両手で大きく広がった産道口(=子ども誕生暗示)で、産縄も描き出産そのものがテーマです。

同時に祖母神→母神→子神→孫神という「テーマ 命の継続」が隠されて表現されています。

土器の実用機能は産婦の気持ちを和らげるための香りや覚醒成分を産室に充満させるものです。

このような文様や機能からこの土器は安産祈願の道具として使われたと考えることができます。

中期縄文人にとって祖母→母→娘→孫娘と命が継続することが大きな関心事(生きる目的)であり、その中で出産というイベントがきわめて重要だったに違いありません。その出産における安産祈願最重要ツールがこの土器であったと考えます。

2021年11月23日火曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の実用的側面の考察

 Consideration of practical aspects of fishing handprint pottery with face (Gotenba site, Ina city)


We considered the practical aspects of the fishing handprint pottery with a face (Gotenba site, Ina city).

This pottery is an incense burner. I thought it was used to relieve the suffering of mothers by volatilizing the scent and arousal components at the place of birth.


3Dモデルを作成した顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)には実用的機能と呪的機能の双方が備わっていると考えます。それぞれについて考察しましたが、この記事では実用的機能について考察しました。

1 土器の実用的機能

1-1 背面の復元

土器背面に球面内面の一部が残存しています。この残存物はもともと小カップが存在していて、その一部であると想像します。


土器背面の復元(想像)

釣手形土器では小カップがついている場合があるので、このように想像しました。


頂部に小カップがついている釣手形土器の事例

1-2 土器内部の煤

発掘調査報告書では「内部は、わずかに煤煙が附着しているのみで、使用による擦痕もしくは付着物はあまり顕著ではない。」「内部の状態は吊手土器にみられるような炭化物の附着は顕著に認められない」と記述されています。この記述から、土器内部でものを燃やした形跡は存在するが、それは顕著ではないということになります。

1-3 土器正面の顕著な油煙附着

発掘調査報告書では「正面の…器面は研磨され、油煙が全面に附着して黒く滑沢を帯びている。」と記述され、確かに正面だけに油煙がついています。ただし、正面の台部には油煙はついていません。また背面にも油煙はついていません。


油煙の附着状況

1-4 実用的機能の推察

1-1小カップの復元、1-2虚弱な燃焼跡、1-3油煙附着からこの土器の実用的機能を次のように推察(想像)しました。


顔面付釣手形土器(御殿場遺跡)の実用的機能(想像)

土器内部に熾火をいれて土器を熱し、小カップに熱を受けると揮発する香草や液体を入れて、香り成分や覚醒成分を竪穴住居に充満させたのだと想像します。その竪穴住居で出産が行われたのだと考えます。

土器正面に一部だけに油煙が附着していることから、次のような状況でこの土器がつかわれたと考えます。


顔面付釣手形土器の利用イメージ(想像)

この土器は天井から吊下げられて利用されたのではなく、炉に埋め込まれて利用されたのだと考えます。炉の親火から熾火を土器内部に移し、じっくりと土器を熱して、香草や液体成分を継続して揮発させて、長時間続く産婦の出産苦しみを緩和させていたのだと想像します。

2 感想

・土器の名称(形式)は釣手形となっていますが、この個体に吊って利用できるような強度がある取付部分は見当たりません。また吊った痕跡もないようです。

・油煙分布から炉に埋めて利用した蓋然性は高いと考えます。

・土器内部でモノを燃やした跡が存在するがそれが虚弱であることから、土器内部に入れられたのは熾火(炎がおさまり、薪の芯が真っ赤になったもの。長時間火力が持続する)であると考えます。

・背面に小カップを復元する(想像する)ことによって、この土器の基本機能は、小カップに入れた香りや覚醒成分を熱で揮発させる香炉であると考えました。

・この土器の文様が出産に関わるものであることから、この土器(香炉)は出産現場で産婦の長時間にわたる苦しみを香りや覚醒成分によって緩和させるものであると考えました。

・この土器の文様の意味とこの土器の呪的機能は次の記事で考察します。

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顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner


2021年11月22日月曜日

山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」2日目zoom参加

 Yamanashi Prefectural Archaeological Association Research Meeting "Sori-style pottery and its surroundings" Participated in zoom on the second day


I don't know about myself, but I also participated in the 2021 Yamanashi Prefectural Archaeological Association Research Meeting "Sori-style pottery and its surroundings" on the second day (2021.11.21) at zoom. The discussion based on the Sori-style (system) pottery 7,000 individual collection materials was powerful, and I was impressed even though I was an amateur when I made a research breakthrough. I am curious about the discussion about the exchange between Sori-style pottery and surrounding pottery types.


身の程知らずですが、2021年度山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」2日目(2021.11.21)もzoomで参加しました。

1 演目

演目は次の通りです。

●曽利式土器と周辺土器型式群との関係

「曽利式土器と曽利式系土器」(帝京大学文化財研究所 櫛原功一)

「大木式土器文様の南下」(長野県立歴史館 水沢教子)

「加曽利E式系土器の広がり」(名古屋市教育委員会 纐纈茂)

「連弧文土器の広がり」(東京都埋蔵文化財センター 大綱信良)

「唐草文(系)土器の広がり」(山梨県埋蔵文化財センター 岩永祐貴)

●各地の曽利式(系)土器

「福島県・茨城県・栃木県における曽利式(系)土器の集成」(東京大学大学院人文社会系研究科 太田圭)

「群馬県における曽利式(系)土器集成」(群馬県文化財保護課 多賀谷蓮)

「埼玉県における曽利式(系)土器集成」(埼玉県埋蔵文化財調査事業団 入江直毅)

「千葉県における曽利式(系)土器集成」(船橋市埋蔵文化財調査事務所 小林美貴・箱石幸祐)

「東京都における曽利式(系)土器集成」(東京都埋蔵文化財センター 佐賀桃子)

「神奈川県における曽利式(系)土器集成」(北杜市教育委員会 生山優実)

「山梨県東部域の曽利式土器集成」(帝京大学文化財研究所 櫛原功一)

「山梨県西部域の曽利式土器集成」(北杜市教育委員会 村松佳幸)

「静岡県における曽利式(系)土器集成」(山梨県埋蔵文化財センター 桐部夏帆)

「長野県における曽利式(系)土器集成」(井戸尻考古館 副島蔵人)

「愛知県における曽利式(系)土器集成」(小松市埋蔵文化財センター 横幕真)

「岐阜県における曽利式(系)土器集成」(山梨県埋蔵文化財センター 岩永祐貴)

●討論(司会者、発表者、コメンテーター)

2 メモ

有益な情報を多数獲得することができましたが、その概要を全てメモしだすときりがありません。そこで特に興味を抱いた情報に絞ってメモします

ア 曽利式土器分類の基本情報

曽利式土器と曽利式系土器分類の基本情報が櫛原論文として提示されています。曽利式土器学習の基本になると考えます。


曽利式土器の分類

研究集会資料集「曽利式土器と曽利式系土器」(帝京大学文化財研究所 櫛原功一)から引用


曽利式土器と曽利式系土器の分布

研究集会資料集「曽利式土器と曽利式系土器」(帝京大学文化財研究所 櫛原功一)から引用

イ 曽利式土器と周辺土器型式群との交流様相

曽利式土器と周辺土器型式群との交流様相が各発表者により多数例示・検討されています。

・大木式と曽利式の文様・技術の交流、時間的にパラレルな変化。

・曽利式土器と連弧文土器の非対象的交流の様相

・曽利式土器の波及影響が東部方面(重弧文、斜行文)と西部方面(X把手)で異なる様相

ウ 異系統土器やキメラ土器が伴う理由(背景)

ウ-1 高橋龍三郎

・土器型式圏は婚姻圏である。

・土器は女性がつくっている。母系制である。代々母親から娘へと土器型式が伝わる。その女性が夫の離れた集落へある程度長期にわたって行くことがある。そこで別の型式や技術を夫の母親から習得する。そして自分の集落にもどり、「異系統土器」をつくることがある。

・完形土器の移動もプレゼントとして血縁組織のなかで行われる。

・曽利式も唐草文も婚姻圏である。

・曽利式圏が加曽利E圏に入り込む事象があれば、部族間の勢力争いを表しているとみることもできる。

・加曽利E式が遠方まで進出するのは、トーテミズムが関係している。おなじトーテムの氏族の間では親戚のようにお互いを助けるので、遠方の知らない土地まで出かけられるようになる。交通の便が飛躍的によくなる。加曽利E3式-4式ではトリ形の氏族により、また外婚性により、遠方まで到達できるようになった。交通がトーテミズムによってとても円滑になった。

・連弧文土器分布は地域性があり、一時的ではなく、同じ仲間がそこにいる証拠である。連弧文分布域はその婚姻ネットワーク域である。

ウ-2 谷口康浩

・中期環状集落発生と勝坂式発生とキメラ土器・異系統土器発生が時期的に重なり、その事象から社会の様子を紐解く必要がある。そのころの社会認識は高橋先生想定とは異なる。高橋先生の半族の考えは成り立たないように考える。

エ 曽利式を古式と新式に2大別分離する案

エ-1 谷口康浩

・曽利古式と新式分離は重要である。文様や構成が違って見えるので、同一視できない。

・土偶などの系統でみても曽利の古と新は違う。文化の系統からも土器型式を見るべきだ。

エ-2 戸田哲也

・古式と新式分離の検討はあまり意味がない。むしろ、曽利式の編年を山梨中心部で固めてほしい。

オ 資料集の活用

・この資料集に曽利式(系)土器が7000個体集成されていて画期的である。この資料にもとづいて、つまり土器実存情報に基づいて、曽利式土器と周辺土器型式群との交流の様相を研究していきたい。

3 感想

・この研究集会が曽利式土器研究および関東・中部の中期土器研究の画期となる重要イベントであることに、参加後、気が付きました。

・2日間にわたる専門家の曽利式土器に関する討議を聴講して、曽利式土器に関する問題点がどこにあり、どのような研究が行われているのか全体像がわかりました。

・一般向け講演会とくらべると得られる情報量と刺激(得られるモチベーション)が全く異なることを体験しました。

・曽利式土器の型式学的研究で得られる成果の意味をどのような方法で明らかにするのか、その点が大きな論点になっていることが浮き彫りになったと考えます。

・曽利式土器と周辺土器型式群との交流実体情報がこれから急速に蓄積していった時、その意味をどのように汲み取るか、その方法の違いも浮き彫りになりました。

・高橋龍三郎先生はパプアニューギニアなどの民族知識投影という方法を強味にして意味を汲みだそうとしているように見えます。一方、谷口康浩先生は土器型式と文化的資料の対比を軸に意味を汲みだそうとしています。お二人の意味汲みだし方法が異なり、またイメージする中期社会様相も異なり、その差異を意識しつつ自分の学習を深めていくことにします。

・zoomによる研究集会参加は移動のエネルギーを使わないで済むので、とても合理的な活動であると感じました。集会に参加しながら同時に書斎環境(パソコン環境)も使えるので、学習効率も向上します。移動時間もなくなり、学習に集中できます。

・これほどの研究集会を組織された関係者及び事務局の方々に感謝します。


2021年11月20日土曜日

2021年度山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」1日目にzoomで参加

Participated in the 2021 Yamanashi Prefectural Archaeological Association Research Meeting on the first day at zoom

I don't know about myself, but I participated in the 2021 Yamanashi Prefectural Archaeological Association Research Meeting "Sori-style pottery and its surroundings" on the first day (2021.11.20) at zoom.

Lecturers are Ryuzaburo Takahashi, Yasuhiro Taniguchi, and Tetsuya Toda.

I was deeply interested in the story of Ryuzaburo Takahashi's circular village and totemism, and was drawn into it. At the same time, I was skeptical about the deer bone waist decoration bird expression theory.

身の程知らずですが、2021年度山梨県考古学協会研究集会「曽利式土器とその周辺」1日目(2021.11.20)にzoomで参加しました。

演目は次のとおりです。

開会挨拶(山梨県考古学協会会長 末木 健)・趣旨説明(櫛原功一)

基調講演1 「土器装飾からどのようなストーリーを描くか-社会史復元に向けての試み-」(山梨県立考古博物館、早稲田大学 高橋龍三郎)

基調講演2 「縄文土器型式の概念と実体-曽利式土器の多型と変異-」(国学院大学 谷口康浩)

基調講演3 「曽利式土器の伝播に見る土器型式の諸問題」(玉川文化財研究所 戸田哲也)


事前に郵送されてきた研究集会資料

それぞれの演目ともにとても興味深いものですが、自分の興味の深さの程度に基づいた順番で感想をメモします。

1 高橋龍三郎先生講演

・次の項目のお話がありました。

「中期環状集落の構造の説明、環状集落の解体の理由説明、後期分散型集落への移行、後期集落の特性としての氏族制とトーテミズム、(ふりかえって)中期動物形象とプロト・トーテミズムの説明」

・現在自分が実施している有吉北貝塚学習とか、興味を持っているトリの意義とか、半獣半人の事例などについて「それが知りたかったのです」と口に出したくなるような興味深い話を聞き、情報を得ることができました。有吉北貝塚学習については、今回の話で自分にとっての学習意義が一挙に深まり、学習を深めるきっかけになりそうです。

・土製品や土器貼付の動物造形が氏族制やトーテミズムという観点で観察すべきことがわかりました。これまで観察してきた遺物や今後観察する遺物から得られる情報・思考が豊かになりますから、ワクワクします。

・草刈遺跡出土の鹿骨製腰飾についてそれがトリ表徴であるとして半族の話が進んでいました。草刈遺跡環状集落を考える上でそれがトリ表徴であるということは重要なポイントとなっています。トリ表徴である根拠は、東北の〇〇先生(聞き取れず)とか春成先生もこれをトリ表徴であるとしているからだとのお話でした。出っ張っている部分がクチバシで、丸い穴が目であるという説明です。


草刈集落の半族のレガリア

研究集会資料集から引用

しかし、この鹿骨製腰飾りは西野雅人(2012)「縄文中期腰飾出現の背景」(千葉県縄文研第49回例会資料)では勝坂式土器の蛇体文との比較でヘビ表徴として考えられています。


勝坂式土器の蛇体文との比較

西野雅人(2012)「縄文中期腰飾出現の背景」(千葉県縄文研第49回例会資料)から引用

西野雅人先生鹿骨製腰飾りヘビ表徴説は資料を読むとその根拠が強いように感じます。一方高橋龍三郎先生トリ表徴説は「〇〇先生や春成先生の言説」を根拠としているという点で虚弱であるように感じました。縄文時代とトリの関係に興味をもっているので、特に気になりました。

・高橋龍三郎先生の研究にとても強い興味を持ち、また素人ながら共鳴・共感するところが多いので、先生の著作をよく読み、機会をみつけてお話を聞き、学習を深めたと思います。

2 谷口康浩先生講演

今年の3月に「土器から探る縄文社会-2002年度研究集会資料集」(2002、山梨県考古学協会)を入手し、「谷口康浩(2002):縄文土器型式情報の伝達と変形-関東地方に分布する曽利式土器を例に-」を学習したので谷口康浩先生講演はとても興味がありました。

2021.03.31記事「曽利式土器情報伝達と変形の学習

先生のお話もよく理解できました。2002年論文とくらべて先生の思考がバージョンアップしている様子が素人ながら感じることができました。

お話の最後で「展望 縄文土器型式研究のこれから」と題して「土器の多型・変異に潜在する情報」として次の4点をあげられ、そうした分野での研究が進むとのべられました。

・土器製作者に関する情報(性別・世代・分業・熟練度など)

・技術の社会化に関する情報(技術の共有・教育・伝承など)

・コミュニケーションシステムに関する情報(情報交換・集団関係など)

・物質文化と社会に関する情報(流行・集団表象・文化伝統など)

これらのテーマは興味深いものばかりであり、無味乾燥なイメージ感のある土器研究がより豊かなものに変身していく可能性を感じました。それにより自分の縄文土器学習モチベーションが高まるような気持ちになりました。

3 戸田哲也先生講演

・曽利式土器区分、加曽利E式土器区分、大木式土器区分の対比を地域別に行い、各地域でどのような問題があるのか現場から検討し、話題提供するという趣旨の講演でした。

・長野県棚畑遺跡では加曽利E3式土器が多出し、それは荒川源流部などを通じて埼玉・群馬方面からもたらされたというお話は印象に残りました。

・自分には加曽利E式土器区分は別にして、曽利式土器区分、大木式土器区分などの詳細をイメージできる知識がありません。したがってお話のほとんどが実感を持って理解することができませんでした。資料も土器実測図版だけでした。多少なりともメモがあれば良かったと思います。




 

2021年11月19日金曜日

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の3Dモデル作成

 3D model creation of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi)

We have created a 3D model of the observation record of the Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) exhibited at the Ina-City Souzou-kan. When I increased the number of photos, I got a high quality 3D model. In the next article, we will compare it with a deep pot-shaped pottery with a face handle.

伊那市創造館に展示されている顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。

1 顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル Incense Burner

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡) 観察記録3Dモデル 

縄文時代中期

撮影場所:伊那市創造館 

撮影月日:2021.11.08

4面ガラス張りショーケース越しに撮影 


展示の様子

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 381 images

Incense Burner Shaped Vessel with Human Face Ornament (From Gotenba Site,Ina-shi) Observation record 3D model

Mid-Jomon period

Location: Ina-City Souzou-kan

Shooting date: 2021.11.08

Taken through a 4-sided glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 381 images


3Dモデルの動画

2 感想

・この土器の観察記録3Dモデル作成は2回目ですが、今回の3Dモデルは利用写真を増やしたので質の高いモデルとなりました。

・3面からの撮影が可能であり、残る1面からの撮影は出来ない環境ですが、写真枚数が多いため満遍なく結像できました。


381カメラの配置状況

・この顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)と顔面把手付大深鉢(伊那市月見松遺跡)や顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)との比較を次の記事で行います。顔面付釣手形土器と顔面把手付深鉢形土器の間には、土器基本機能の違いにもかかわらず、利用上(祭祀上)の意義に関して強い共通性があるように考えます。

顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)の復元について

 Restoration of deep pot-shaped pottery with a face handle (Minowa Maruyama Site)

I learned that the deep pot-shaped pottery with a face handle (Minowa Maruyama Site) is the second restoration.

I also learned that the main pattern on the front of the torso was restored by imagination.

I wish I could know the restored part.

箕輪町郷土博物館常設展に展示されている顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)について観察しました。しかし後になって箕輪町郷土博物館からこの土器が2回にわたって復元作業が行われたことを教えていただきました。またこの土器の正面メイン文様の復元は想像によるものであることに気が付きましたのでメモします。

1 発掘調査報告書による当初復元

発掘調査報告書掲載実測図は次の通りであり、図化されている部分が出土部分のようです。


顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)実測図

丸山遺跡発掘調査報告書から引用

発掘調査報告書による復元は次の通りです。


発掘調査報告書による顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)復元

丸山遺跡発掘調査報告書から引用

土器正面胴部の把手とその下のメイン文様は想像による復元です。

2 現在展示物の復元


発掘調査報告書による復元と現在の復元

箕輪町郷土博物館からの情報によると、当初復元では推測で胴部に顔の文様を付したが、それは適当ではないと考え、顔の文様を取って復元し直したものが現在展示してある土器であるとのことでした。

現在の胴部メイン文様は土器反対側にある文様を転写しているようです。(ただし、展示現物では観察できませんので、自分の目では確認できません。)土器反対側の文様が土器正面に同じように現れるという推測も適当であるとは思えませんから釈然とする復元とは思えないというのが偽らざる感想です。

復元箇所を表示すると次のようになります。


復元箇所


現在展示土器復元箇所のGigaMesh Software Framework展開図表示

3 感想

この復元箇所を全部のっぺらな表示にしてしまうと到底「長野県宝」には見えませんから、考古関係者が苦労してたどり着いたのが現在の復元のようです。

この土器の価値の巨大さがわかり、文様ありようの想像は豊かに湧いてくるのだけれども、その想像をそのまま表現してしまうと学術とは離反してしまうという葛藤のなかでの妥協の産物が現在復元のようです。

発掘調査報告書の復元の方が感覚的には現在復元よりも筋が通っているような気がします。しかしあくまでも個人の想像です。従って、個人の想像である旨を明確にして、かつ復元箇所が明瞭に判るようにして復元すれば良かったと思います。

現在復元物も復元箇所が誰にでも判るようになっていないので残念です。私も復元に気が付きませんでした。一般人はほとんどが復元に気が付かないと思います。「長野県宝」の表記の前にまさか胴部正面メイン文様が想像による復元とは思いもよりません。復元箇所の明示をパネル等で明示していただけるとありがたいです。


2021年11月17日水曜日

歌う土偶の3Dモデル観察

 3D model observation of singing clay figurines

We observed the middle Jomon clay figurines (Minowa Town Maruyama Site) exhibited at the Minowa Town Folk Museum with a 3D model. I imagined it as a clay figurine singing with a big round mouth open.

箕輪町郷土博物館展示の縄文中期土偶(箕輪町丸山遺跡)を3Dモデルで観察しました。丸い大きな口を開けていて、歌う土偶と想像しました。

1 土偶(箕輪町丸山遺跡)観察記録3Dモデル Dogu

土偶(箕輪町丸山遺跡)観察記録3Dモデル Dogu

縄文時代中期

撮影場所:箕輪町郷土博物館常設展

撮影月日:2021.11.10


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 83 images

Dogu (Minowa Town Maruyama Ruins)

Mid-Jomon period

Location: Minowa History Museum Permanent Exhibition

Shooting date: 2021.11.10

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 83 images


3Dモデルの動画

2 観察メモ

・丸い大きな口が深い穴で表現されていて、歌唱している顔面を表現していると想像します。

・目と鼻がそれぞれ2つの小さな穴で表現されていて、それらが直線上にあることから、また鼻の高さがないので、目と鼻から生まれる顔の表情が希薄です。

・この土偶顔面を正面からみるよりも、斜め下からみるほうが目と鼻の区別がついて、顔の表情が豊かになります。


上伊那の中期縄文人は音楽と歌が好き

Middle Jomon people in Kamiina like music and songs

Three types of musical instruments (drums, bells, and flutes) have been excavated from the ruins in the middle of the middle of Jomon in Minowa-cho, Kamiina-gun, Nagano Prefecture (drums are hypothetical). In addition, the face of earthenware and clay figurines are sung happily with their mouths open. I imagined that there was a society that loved music and songs far more than modern people think.

1 箕輪町から縄文中期の楽器3種が出土

長野県上伊那郡箕輪町郷土博物館展示の抽象絵画文有孔鍔付土器(箕輪町上の林遺跡)[縄文時代中期中葉]が太鼓らしいと考えるようになりました。


抽象絵画文有孔鍔付土器(箕輪町上の林遺跡)

2021.11.16記事「抽象絵画文有孔鍔付土器(箕輪町上の林遺跡)の3Dモデル観察

この土器が太鼓ならば箕輪町の縄文中期遺跡から土製太鼓、土鈴、土笛という3つの楽器が出土していることになります。


土偶型土鈴(箕輪町中山遺跡)[縄文時代中期中葉]

2021.11.16記事「土偶型土鈴(箕輪町中山遺跡)の3Dモデル観察


土笛(箕輪町御射山遺跡)[縄文時代中期]

201.11.12記事「完形で出土した縄文中期土笛の観察

生活の中で行われる祭祀でこれらの太鼓、笛、鈴の音が響いていて、現代人が考える縄文人生活イメージよりはるかに豊かな音楽環境が存在していたように想像します。

そして、抽象絵画文有孔鍔付土器(箕輪町上の林遺跡)文様の生き物(カミ?)は両手両足を広げて踊っているようにみえます。また土偶型土鈴(箕輪町中山遺跡)の顔面の口は大きく丸く開かれ、大きな声で歌を歌っている様子の表現であることは確実です。

これら3つの楽器の存在とそこに描かれた踊りや歌唱からだけからでも上伊那郡箕輪町の中期縄文人は音楽と歌が好きだったことが伝わってきます。

2 歌う土偶

さらに、縄文中期土偶(箕輪町丸山遺跡)[箕輪町郷土博物館展示]も大きな口を開けて歌唱しています。


縄文中期土偶(箕輪町丸山遺跡)[縄文時代中期、箕輪町郷土博物館展示]

3 歌う顔面把手付土器の顔面

さらにさらに顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)の顔面も口を大きく開けていきいきと歌唱しています。


顔面把手付深鉢形土器(箕輪町丸山遺跡)[縄文時代中期中葉]3Dモデル画像

4 伊那市の歌う顔面把手付大深鉢の顔面

伊那市創造館展示の顔面把手付大深鉢の顔面も口を丸く開けていきいきと歌唱しています。


顔面把手付大深鉢(伊那市月見松遺跡)[縄文時代中期中葉]3Dモデル画像

5 伊那市の歌う顔面付釣手形土器の顔面

伊那市創造館展示の顔面付釣手形土器の顔面も口を丸く開けて歌唱しています。


顔面付釣手形土器(伊那市富県御殿場遺跡)[縄文時代中期中葉]の顔面 3Dモデル画像

6 感想

箕輪町から縄文時代中期中葉頃の楽器3種が出土し、土偶や土器の文様で踊りや歌唱を表現するものが多く、近隣伊那市の縄文時代中期土器の顔面でも歌唱しているものが見られます。これらの遺物から上伊那地方の縄文時代中期中葉社会では祭祀に際して音楽が盛んに用いられ、演舞と歌唱がいつも伴っていたと考えることができます。

歌うことを抜きにして土器土偶顔面を考察することは出来ないと考えるようになりました。

このような音楽と歌が好きな縄文社会が上伊那地方社会独自の特性であるのか、中部高地社会の特性であるのか、日本縄文中期社会全体の特性であるのか、知りたくなります。