散歩論と実践

第1 散歩論
1 散歩は旅
 私はもともと散歩が好きで、平成元年に千葉市花見川区に引っ越してきてから居住地の近くをよく散歩していました。花見川のサイクリング道路を散歩したり、勝田川沿いの広々した谷津を歩きました。散歩の愉しさを表現したいと思って、散歩の感想をメモしたり、写真を撮ったりしたこともあります。
 「散歩通勤」とか「散歩会議」などという散歩スタイルをパソコン通信のフォーラムで提案したこともあります。
 その当時、散歩の意義や効果を旅のそれに投影して、次のように考えていました。

散歩の意義と効果
1日常的な義務から脱出したとき、散歩の感覚が生じる。
2日常的な既知の世界の外に向かう散歩では好奇心や(些細ではあるが)冒険心が生まれる。
3日常的な既知の世界の内での散歩では個人の知の拡大衝動が発動する。
4つまり観光旅行、何でも見てやろう旅行と同じ動機に基づいて散歩を行うことができる。
5この種の散歩は趣味性を帯び、自分の内でその意義を認めるものであり、公表することは二の次の問題となる。
6散歩により、未経験世界の知見が得られると共に、散歩先で日常的関係世界を客観的に見ることができる。
7従って、散歩という日常関係世界(の義務)からの離脱は、自己を見直し、自己と生活世界との関係を再調整させるきっかけとなる。
8そういう点で、散歩の行き先が日常的所用とのつながりを断った、無用の河岸であるとき、散歩の効果はより一層強まる。

 生硬な文章ですが、このような考え方が私の散歩論の核となっています。


2 散歩タイプ
散歩といってもいろいろな愉しみ方があります。私は散歩を次の6つにタイプ区分して考えています。

散歩タイプ区分
1 健康増進タイプ
・肉体的健康増進のための散歩。有酸素運動としての散歩。よく見かける道具などはスポーツウエア、歩数計、ipod。
2 思考発想タイプ
・安全で混雑していない道を歩くと、集中した思考や豊かな発想を得ることができる。よく見かける道具などはメモ帳と筆記用具。
3 気晴らしタイプ
・室内から野外に出て歩くだけで、気晴らしをすることができる。よく見かける道具などはカメラ、ipod、ラジオ。
4 交流タイプ
・道で出会う人々や散歩同行者との会話を楽しむ散歩。よく見かける道具などは愛犬。
5 目的意識的観察タイプ
・ある対象物を観察するための散歩。(例 野鳥観察や自然観察の散歩)よく見かける道具などはカメラ、地図、双眼鏡、GPS。
6 受身的観察タイプ
・対象物を決めないで、興味を引く地物や現象を探す散歩。よく見かける道具などはカメラ、地図、GPS。

このブログで扱うのは主に、花見川流域で行った受身的観察タイプの散歩です。


3 受身的観察
 受身的観察タイプの散歩では、特段の準備をしないで、いわば出たとこ勝負で偶然を大切にしながら、興味を引く地物や現象を貪欲に、できるだけ沢山探していきます。この時の興味とは、私の場合、注目に値するものに関して湧きだす疑問のことです。

 例えば、コンクリート3面張り水路の高津川でカワセミを見かけたとき、意表をつかれて、この川に小魚がいるのか?カワセミはどこに営巣しているのか?他の支流にもカワセミはいるのか?行政や地域の人々は高津川の自然をどのように考えているのか?などの疑問が頭の中で次々に生まれます。
 別の支流の犢橋川(ここもコンクリート柵渠)を歩いていると、花見川合流部から源流の千葉北清掃工場まで連続的にカワセミを見かけました。ますますカワセミの存在が気になりだしました。

 私は、カワセミとか野鳥を観察する目的で散歩をしているわけではありませんが、偶然見かけたカワセミの存在に様々な疑問が生じ、カワセミに関する興味を獲得することができたわけです。

 野鳥も、風景も、歴史も・・・私は貪欲に興味(疑問)を感じるようにします。野外の地物や現象と語り合いながら一人でブレーンストーミングしていることになります。ブレーンストーミングの原則にあるように、多量の興味(疑問)を見つけることが大切だと思います。多量の興味(疑問)のなかから問題意識を整理していくことも可能であると思います。

 このように、受身的観察タイプの散歩は疑問を膨らませて、興味の対象を見つけ、焦点を絞って行くことができる活動です。

 このブログでは、私が受身的観察タイプの散歩によって、様々な興味(疑問)を獲得して、問題意識を絞っていった姿をありのままに情報発信します。

 なお、受身的観察タイプの散歩で見つける興味ある地物や現象は、散歩人の過去の興味・知識・体験などによって千差万別であることは申し上げるまでもないことです。

 また、受身的観察タイプの散歩の次に、探し当てた興味を深めるステップが考えられます。その興味に関する知識を学習したり、体系的計画的に調査研究することです。こうしたポスト散歩活動といえるようなことも、いつか考えられる時があれば面白いと思っています。


4 興味の所在(私の場合)
花見川流域を対象とした受身的観察タイプの散歩で、私は次のような地物や現象に正負両面から興味を持ちました。

私の興味対象
1 風景
・掘割部分の花見川の風景、長作見晴台からの風景、勝田川の広々とした風景、花見川と谷津沿いを通る送電線、勝田川中流部に多い廃車解体保管施設など。
2 動物
・用水路で餌を取るカワセミ、狩をするオオタカ、高津川で産卵するコイの大集団、高津川源流部での魚の斃死など。
3 レクリエーション
・花見川沿いのサイクリング・野鳥観察、花島公園の散策、釣り、花見川と勝田川の散歩・サイクリング道の国道16号による分断など。
4 印旛放水路の役割
・大和田機場、2つの制水門、警報装置、無許可耕作、無許可釣り桟橋、ホームレスなど。
5 掘割普請の歴史
・土捨場跡、柏井橋付近の竹林、横戸元池弁天宮、不足する掘割普請説明看板(花島公園のみ設置)など。
6 支流・水路・谷津と暮らし
・支川・水路の農業用堰、ポンプ小屋、数多く設置された調整池、住宅団地、源流部で蓋がけされる水路、水量のほとんどない水路、流入する生活雑排水など。
7 支流・水路・谷津と歴史
・谷津を見下ろす台地縁に立地する神社、軍用施設跡、土地改良記念碑、不足する歴史・地域説明看板など。


5 問題意識(私の場合)
以上のような興味は次のような問題意識へと発展しました。

私の問題意識
1 環境資源の体験的評価
・散歩の興味の対象である環境資源(地物や現象)の現状をとりまとめてみる。
・同時に私の体験により、環境資源の潜在的興味深さについて評価を行ってみる。
・水辺の散歩道の有無や構造等などの現状をとりまとめてみる。
・同時に私の体験により、安全性や快適性などについて評価してみる。
2 散歩価値の向上改善策提案
・環境資源の価値を高める方策を考える。
・散歩道の環境改善策を考える。
・水辺散歩のネットワーク性を高める方策を考える。

このブログはこのような問題意識を深めていくプロセスを情報発信しようとしています。


6 新散歩体系を目指す
 受身的観察タイプの散歩を実践してみて、私は様々な事柄に興味を持ち、道具やその利用スキルにも関心を寄せました(別ページ参照)が、こうした興味を自分なりに整理すると、次の3点に要約できます。

3つの興味
1 「趣味の散歩」のICT化、高度化を図り、地域発見ツールとして開発すること。
2 このツールを使って、花見川流域の魅力、アイデンティティを徹底的に探ること。
3 得られた情報を少子高齢化時代のまちづくり、かわづくりに活かす方策(システム)を発見開発すること。

また、散歩の愉しみを活動類型別に分解してみると、次のようになります。

散歩の愉しみ方の区分
1 現地で散歩を愉しむ
2 記録により、現地の愉しみを反芻して愉しむ。
3 分析総合検討して愉しむ。
4 表現・交流して愉しむ
5 技術アップを愉しむ
6 地域づくりや政策提案などの公共貢献面を愉しむ

こうした散歩の活動類型別愉しみを今後一層体系化・技術化して、散歩から得られる愉しみ、満足をより大きなものにしたいと思っています。
さらに散歩の社会的価値増大にも取り組みたいと思っています。

以上

第2 踏破記録
1 花見川水系全踏破を目標とする
 平成21年になり、日常的な義務から離脱できる時間的余裕が増えたことをきっかけにして、本格的に散歩してみたくなりました。
 川に興味があったので、とりあえず居住地近くの花見川を対象とすることにしました。花見川とその支流について、たどれる河川・水路は全て歩きとおしたいと思い、花見川水系全踏破を目標として打ち立てました。
 河川・水路を地図で確かめていると、最初の一滴がどこから出ているのか確かめることができれば面白いと思い、河川・水路それぞれの源流部の谷津の谷頭まで歩くこととしました。

 理屈はさておき、何はともあれ散歩してみました。


2 目標を達成する
 花見川水系全踏破の目標を達成すべく、平成21年9月9日にから散歩を始めました。散歩を始めるとその愉しさの虜になり、結局平成22年3月までの7ヶ月の間に21回散歩をしました。当初の目標をほぼ100%達成することができました。さらに余分として、埋立地部分を除く花見川流域界(尾根部分)も100%歩きました。散歩の総延長距離は352キロ、1日平均散歩距離は16.8キロでした。
散歩のルートを図示すると、流域をネットワークで覆ったようになりました。

 なお、1回だけ自転車利用を試行しました。しかし、自転車では「歩く」という肉体的快感を味わえないことや対象物をじっくり見ることが出来ないこと、写真撮影のチャンスを逃す可能性があることなどから、以後自転車利用はやめました。

この期間の写真撮影枚数は全部で7013枚、1日平均334枚でした。

平成22年4月以降も花見川流域を受身的観察タイプにより散歩を継続しています。

以上

第3 道具と技術
1 散歩の道具
散歩を愉しむ中で、散歩の道具とその利用スキルが大切であることに気がつきました。次に私が使った道具や所持品と利用スキルについて整理してみました。

散歩で使った道具・持参品
1 カメラ
・散歩の記録は主にコンパクトデジタルカメラ(ex-z77)でおこなった。予備カメラも持参し、故障、電池切れなどに備えた。大容量SDカードが格安となったので、撮影枚数を気にすることなくメモ代わりに多数枚撮影できた。16ギガSDカードに画像サイズ3:2(3072×2048ピクセル)高精細ファインの写真が約4300枚ほど撮影できる。(有用性◎)
2  GPSロガー
・写真撮影位置を写真ファイルに記録するため、途中からGPSロガーを導入持参した(V-900、大きさはマッチ箱程度、中国製)。GPSログデータ(位置情報等)を写真の撮影時間情報と同期させて写真ファイルにexif情報として書き込む。作業はパソコンで行う。位置情報を書き込んだ写真はグーグルアースやGISにプロットして見ることができる。移動経路もグーグルアースやGISにプロットできる。GPSロガーを導入してから、写真の位置同定、移動経路同定が飛躍的に効率化、正確化した。(有用性◎)
3 地図
・国土地理院2万5千分の1地形図をWEBからダウンロードして必要な範囲をプリントアウトして使用した(ウォッちず)。1万分の1地形図も補助的に利用。自然地形の流域界を知るためなどの目的で古地図(迅速図、旧版1万分の1地形図など)も用意した。地図情報は電子化して、GISソフト(地図太郎プラス)を用いて重ね合わせ分析などに活用している。(有用性◎)
4 歩数計
・GPSロガー導入前は移動距離等のカウントに利用した(HJ-710IT)。GPSロガー導入後は、健康管理上の観点から利用している。(有用性△)
5 メモ帳と筆記用具
・気がついたことはできるだけメモした。(有用性◎)
6 時計
・時間管理に使った。(有用性△)
7 携帯電話
・緊急時連絡用として持参した。(有用性○)
8 財布(小銭)
・軽食費などに利用した。(有用性○)
9 折りたたみ傘
・突然の雨に雨宿りできない場所も多く、必須であった。(有用性◎)
10 水
・300mlのボトルで持参した。(有用性△)
11 飴
・疲労時になめた。(有用性△)
12 帽子
・日差しを避けるために大切なアイテムであった。帽子頂部がGPSロガー設置場所となっている帽子を使うことにより、GPS電波受信の精度向上に資することが出来た。(有用性○)
13 ハンカチ(タオル)
・手洗いなどに使った。(有用性○)
14 ティッシュペーパー
・冬期には寒さで涙目になり必須であった。(有用性○)
15 ウエットティッシュペーパー
・手が汚れ、洗う場所がないことが多く、重宝した。(有用性○)
16 防寒手袋
・冬期には必須のアイテムで、防寒性能の高いものを選んだ。(有用性◎)
17 防寒上着
・冬期には大事なアイテムで、保温性能の良いものを選んだ。(有用性◎)
18 腰バッグ
・両手を自由にしておくことが快適で安全な散歩に必要であり、迅速な写真撮影やメモ書きも可能となる。同時に携帯した物をすぐに取り出せるようにしたい。そのために容量の大きなウエストバッグを利用した。(有用性◎)
19 ウォーキングシューズ
・使い慣れて、歩きやすいウォーキングシューズを利用した。(有用性◎)
20 カットバン
・小傷に対応できるよう絆創膏を持参した。(有用性△)
21 ワイン
・200mmペットボトルにワインや希釈焼酎を入れ持参し、散歩終了後の帰途などで気力がなくなったときに飲用した。(有用性△)
22 発想テーマメモ
・散歩終了後の帰途などで、歩行を「思考発想タイプ」の散歩に切り替えて、全く別次元の思考発想を行った。そのための種(テーマ)を幾つかメモ書きして持参した。(有用性△)
【有用性の印は、私の体験で大切と思われる順番に◎、○、△を付けました。】


2 散歩前の準備と散歩後の記録
散歩の準備と記録整理は次の手順により行いました。

散歩準備と記録整理
第1ステップ(前日準備)
・散歩コース選定
・道具等の用意(カメラ・GPSの充電、地図のプリントアウト、他の道具や装備用意。)
第2ステップ(受身的観察・記録)
・GPSスイッチオン(開けた場所で、1分程度かかる。)
・ 散歩による受身的観察、写真撮影、メモ。
第3ステップ(データ保存)
・メモの入力・保存(メモ紙片やメモを書き込んだ地図は散逸する可能性が高いので、その前にパソコンに入力する。また、現場ではキーワード程度しか書けない場合も多く、入力時に現場で感じたことや考えたことを書き足す。)
・ GPSログデータのパソコン保存(GPSからミニSDカードを抜き、パソコンに差し込んで保存する。)
・写真のパソコン保存(ハードディスクの所定のフォルダーに写真を保存する。容量の大きな写真ファイルを多数保存する場合、カメラからSDカードを抜き、パソコンに差し込んで保存する方法が最も速い。)
・歩数計データのパソコン保存(歩数計をパソコンに直接接続して保存する。)
第4ステップ(データ整理)
・GPSログデータのコンバート(私のGPSログデータはcsvファイルで生成される。これを変換ソフト〔nmea to kmz〕でkmlファイル、kmzファイル〔いずれもグーグルアース上で表示できる〕、gpxファイル〔汎用性の高い一般的なGPSファイル〕、nmeaファイル〔ジオタッキング用ファイル〕にコンバートする。ここでつくったkmlファイルをグーグルアースやGISに取り込めば、散歩の経路を表示することができる。)
・写真のジオタッキング(GPSログデータ〔nmeaファイル〕と写真ファイルをジオタッキングソフト〔locrgpshot〕に取り込み、自動処理により、写真ファイルに位置情報をexif情報として書き込む。この写真はグーグルアースやGIS上で位置表示できる。)


3 現場安全マニュアル
次のマニュアルを作成して散歩の安全や衛生等に気をつけました。
「趣味の散歩に熱中していて電信柱にぶつかって怪我しました」といったことにならないよう、最善の注意を払っています。

現場マニュアル
1 交通事故に遭わないように、意識の中で注意を絶えず喚起する。
・散歩では通常生活以上に、信号を守ったり、横断歩道を渡ったり、馬鹿げていると思われてもよいから、出来るだけ機械的に安全行動をとる。(それにより、疲労で注意散漫になった時の事故を防ぐ。)
2 不用意に水際に下りない。
・転倒や転落をしないようにするため、安全が確実に確保できる場所以外では、できるだけ水際には下りないようにする。
3 藪漕ぎはしない。
・衛生(ダニ、蜂等)の観点から藪漕ぎは一切しない。雑木林等の中にも道が無ければ入らない。
4 ゴミや腐敗物がある場所には近寄らない。
・衛生の観点から汚物のある場所は散歩から避ける。
5 体調管理の意識を保つ。
・炎天下に散歩しないことや、休憩を取るなど、体調管理をするという意識が失われないようにする。
6 田畑、庭には入らない。
・散歩は基本として公道や整備された農道のみで行い、田畑の畦や農家の庭に続く空間には入らない。
7 通行人を正面から写真撮影しない。
・通行人に対してマナーを失するようなことはしない。
8 観察のために野鳥に近づくことは出来るだけしない。
・写真撮影のために野鳥に近づかない。散歩ルート上から目視で野鳥を観察する。それにより、観察精度を上げ、野鳥に影響を与えない。
9 写真は出来るだけ多数枚撮る。
・撮影位置は後で正確に特定できるので、気がねなくいろいろなアングルから写真を多数枚撮影する。
10 気がついたことはその場で撮影やメモする。
・気がついたことは記憶で保持しないで、写真やメモで持ち帰る。

以上