上谷遺跡のこれまでの検討では遺構出土遺物の主だったものは祭祀におけるお供えものであると想定してきました。
また竪穴住居では遺物は置かれ(埋められ)、土坑では投げ込まれたと想定してきました。
本当にそうした想定でよいか、立ち止まって考えてみることにします。
1 祭祀での物の投げ込みとゴミの投げ込みの参考例
最初に、祭祀での物の投げ込みとゴミの投げ込みの参考例を示します。
1-1 祭祀での物の投げ込み例
以前検討した西根遺跡では河岸から水面めがけて土器等を投げ込んで祈願した祭祀を想定しましたので、思い出しておきます。
西根遺跡 左岸から右岸めがけて土器を投げ込んだ様子(想定)
2016.03.10記事「
西根遺跡 出土物から見る空間特性 その2」参照
祈願として物を投げるときは1~2mという数値が一つの参考になります。
1-2 ゴミの投げ込みの例
ゴミをゴミ捨て場に放り投げる時、どのくらいの距離を投げるかという参考数値が必要です。
そのデータを残念ながら今は持っていません。
しかし、体験的なデータイメージは持っています。
戦後間もないころ、まだ東京都の清掃業務が自動車ではなく大八車でおこなわれていた頃、近くにあったゴミ集積所(ゴミを捨てる直径5mくらいの大きな浅い穴)ではゴミが穴脇近くから捨てられていました。
住民はゴミを足元に落としていきました。場所がない場合のみ投げ込んでいました。
ゴミを穴に廃棄するとき、穴中央めがけて投げるとこれまで考えていたのですが、どうも考え違いだったようです。
ゴミを穴に捨てる時は、わざわざ穴中央にめがけて投げることはしないということは終戦直後の東京のみならず、古代房総でも同じだったと類推します。
もしゴミなら、遺構の縁すぐに捨てられると考えるのが正解のようです。
この参考例を念頭に検討を行います。
2 遺構内遺物分類の想定
遺物の意義と遺物の持ち込まれ方の双方に興味がありますので、その組み合わせを整理しました。
遺構内遺物分類の想定
3 遺構のゾーニング
次の3つの遺構の遺物ヒートマップを参考に、遺物を持ち込んだ空間と遺物集中域との関わりを
ゾーニングしてみました。
3つの遺構
D268土坑ゾーニング
●Aゾーン(遺構外)からCゾーン(遺物集中域)目がけて遺物を投げ込む想定
西根遺跡の例から祭祀の祭に供え物を投げ込んだと考えることできます。
●Bゾーン(遺構内)からCゾーン目がけて遺物を投げ込む想定
ありうるとは思いますが、土坑の中に入り込んで祭祀(祈祷)等を行い遺物を投げるのは、土坑の面積が狭いし、もともと人が入る空間ではないので、可能性は低いと考えます。
●Cゾーンに入り込み、遺物を置いた(埋めた)想定
ありうるとは思いますが、土坑の中に入り込んで祭祀(祈祷)等を行い遺物を置く(埋める)は、土坑の面積が狭いし、もともと人が入る空間ではないので、可能性は低いと考えます。
遺物分布が穴の中央に集中しているので、終戦直後東京都ゴミ集積所の例から、この土坑の遺物はゴミではないと考えます。
A102a竪穴住居ゾーニング
●Aゾーン(遺構外)からCゾーン(遺物集中域)目がけて遺物を投げ込む想定
祭祀遺物を投げこむことは西根遺跡の例からありうると考えます。
ゴミならばAゾーンとCゾーンが離れている場所が多く、不自然です。分布形状から穴の縁にポトリとゴミをおとした様子はが見られない場所が多くなっています。
●Bゾーン(遺構内)からCゾーン目がけて遺物を投げ込む想定
祭祀遺物の場合、ありうると考えます。
ゴミの場合もありうる分布ですが、わざわざ遺構内中央に入り込んで、そこでゴミを捨てるという行為は不自然ですから、結局想定できないと考えます。
●Cゾーンに入り込み、遺物を置いた(埋めた)想定
祭祀遺物の場合ありうると思います。
ゴミの場合は遺構内に入り込むと想定すること自体が無理があります。
A233竪穴住居ゾーニング
●Aゾーン(遺構外)からCゾーン(遺物集中域)目がけて遺物を投げ込む想定
祭祀遺物を投げこむことは西根遺跡の例からありうると考えます。
ゴミならばAゾーンとCゾーンが離れている場所が多く、不自然です。分布形状から穴の縁にポトリとゴミをおとした様子は全くみられません。
●Bゾーン(遺構内)からCゾーン目がけて遺物を投げ込む想定
祭祀遺物の場合、ありうると考えます。
ゴミの場合もありうる分布ですが、わざわざ遺構内中央に入り込んで、そこでゴミを捨てるという行為は不自然ですから、結局想定できないと考えます。
●Cゾーンに入り込み、遺物を置いた(埋めた)想定
祭祀遺物の場合ありうると思います。
ゴミの場合は遺構内に入り込むと想定すること自体が無理があります。
総合判断
西根遺跡と終戦直後東京都ゴミ集積所の例を参考にすると、ゾーニングから3遺構とも遺物はゴミではなく祭祀供え物であると言えそうです。
また3遺跡ともAゾーンから遺物が投げ込まれた可能性があり、竪穴住居はそれに加えて遺構内に入り込んで遺物を投げた、置いた(埋めた)可能性もあるということになります。
竪穴住居では、打ち欠き墨書土器は遺構縁から投げ込み、鉄製品や鞴羽口などは遺構内で埋め込んだなどの組み合わせがあったのかもしれません。