2024年6月30日日曜日

彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル

 3D model of observation record of carved wooden pillar (Karahori site, Higashi-Azuma-machi, Gunma Prefecture)


I created a 3D model of the observation record of the carved wooden pillar (Karahori site, Higashi-Azuma-machi, Gunma Prefecture) exhibited at the Chiba Prefectural Museum special exhibition “Excavated Japanese Archipelago 2024” . Since many earrings excavated at the same time had a similar pattern to the carving, I thought it was an auspicious pattern celebrating marriage.


千葉県立中央博物館特別展「発掘された日本列島2024」に展示されている彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)の観察記録3Dモデルを作成しました。彫刻と類似した文様が同時出土した耳飾に多数存在していることから、結婚を祝う吉祥文様と考えました。

1 彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル

彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)観察記録3Dモデル

縄文時代後期後葉(約3240年前)

水場遺構から出土

撮影場所:千葉県立中央博物館特別展「発掘された日本列島2024」

撮影月日:2024.06.25


展示の様子

3DF Zephyr v7.531 processing 220 images


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 資料 発掘調査報告書掲載6面図

発掘調査報告書に当該遺物3Dモデルから作成した6面図が掲載されています。


発掘調査報告書掲載6面図

発掘調査報告書から引用

3 メモ

3-1 出土状況(展示説明)


出土状況

「水場遺構の水路を構成する石組下部からは、彫刻のある巨大な木柱が出土しました。彫刻面を上に向けて平置し、石や土をかぶせて埋納したと考えられます。縄文時代の類例品としては全国3例目の発見です。

唐堀遺跡は関東北西部の山あいの地に暮らした縄文人の食生活や精神文化、地域間の交流の様子を知る上て重要な遺跡です。」


出土状況

トチの実の殻の層(黒い層)と砂層(灰色の層)が交互に堆積しています。深さは約1.5メートル。殻の層の厚さは最大で20センチもありました。最上層部(左上の穴の部分)に彫刻のある木柱が埋まっていました。


木柱説明

角柱状に整形し、一面に連続するU字形文様を彫刻しています。文様は周りを削り落として浮き出させています。木柱の中心に突起部(▲)があり、ここを基点に左右対称に同じ形・大きさ・深さ・間隔のU字形文様を彫刻しています。樹種はクリで、全長153センチ。縄文時代の彫刻木製品としては石川県真脇遺跡、岩手県萪内遺跡に次ぐ全国3例目の発見です。縄文人の精神文化の奥深さを考える上で貴重な遺物といえます。

3-2 彫刻のある木柱のU字形文様に似た文様を持つ耳飾(同時出土)


彫刻のある木柱のU字形文様に似た文様を持つ耳飾(同時出土)

同時に展示されている耳飾に「彫刻のある木柱のU字形文様に似た文様を持つ耳飾」があります。文様の趣旨が同じであることは誰の目にも明白です。


彫刻のある木柱のU字形文様に似た文様を持つ耳飾

発掘調査報告書から引用

3-3 文様が似た耳飾(発掘調査報告書から)

発掘調査報告書をみると、文様が似た耳飾がいくつかあります。


文様が似た耳飾

発掘調査報告書から引用


文様が似た耳飾

発掘調査報告書

耳飾の文様と木柱の文様は、二つの凸部が結ばれているイメージを持てる文様として共通であると考えることができます。


共通する文様の1単位

3-4 文様の意義(想像)

木柱の文様が耳飾の文様と共通です。一方、耳飾の文様は全て吉祥文様であると想定できます。従って、木柱の文様は吉祥文様であり、具体的には男女の結婚を寿ぐ文様であると想像します。木柱には男女結婚を祝う文様が2単位彫刻されていると考えます。

この木柱が出土した水場が結婚式などの祝祭も行われた祭祀の場であったと考えます。そしてその場が祭祀の場として終焉する時を迎え、木柱が埋納されたと想像します。


2024年6月28日金曜日

有吉北貝塚北斜面貝層の出土全遺物の分類

 Classification of all artifacts excavated from the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound


A classification of all artifacts excavated from the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound was carried out based on the artifact register. The artifacts were classified into 11 major categories, with bones etc. making up the largest number at 58.7%, followed by pottery etc. at 32.9% and stone tools etc. at 3.8%. The pottery etc. can be classified into six sub-categories: pottery, clay net sinker, clay discs, miniature pottery, clay earrings, and clay products.


有吉北貝塚北斜面貝層の出土全遺物の分類を遺物台帳に基づいて行いました。遺物は11に大分類し、件数では骨等が58.7%でもっとも多く、次いで土器等が32.9%、石器等が3.8%とつづきます。土器等は土器、土器片錘、土製円盤、ミニチュア土器、土製耳飾、土製品の6つに中分類できます。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 遺物分類別件数


遺物分類別件数 グラフ


遺物分類別件数 表

遺物台帳の全件数は64044件です。このうち、遺物とは言えない貝サンプル492件と不明32件を除いた63515件を分類しました。

分類は遺物台帳記載「名称」に基づく分類であり、発掘調査報告書掲載情報との対応を確認していません。

この記事では、以下に土器等の情報を分析します。

2 土器等の中分類


土器等の内訳

土偶は出土していません。(北斜面貝層に限らず、有吉北貝塚では土偶は出土していません。)

3 朱塗土器の件数


朱塗土器の件数

土器のうち朱塗土器は583件(2.9%)となっています。土器片錘、土製円盤、ミニチュア土器、土製耳飾、土製品で朱塗の記述のあるものはありませんでした。

4 土器の部位別件数


土器の部位別件数

%でみると、口縁部18.5%、底部5.1%、把手0.9%、土器片75.5%となります。

口縁部と把手の合計は20%弱となりますが、加曽利EⅡ式土器の口縁部面積が土器面積の約20%に該当するので、部位別件数の数値の根拠を加曽利EⅡ式土器形状から確認できました。


加曽利EⅡ式土器の部位別面積

発掘調査時に土器部位別確認を行ったのは、口縁部を起点に土器復元作業を行うことを意識していたのだと考えます。

5 注目すべき土器

有孔鍔付土器11件、異形土器口縁部1件、高台台付深鉢1件、台形土器1件、蓋1件は注目すべき土器です。

炭化物付着土器2件も注目すべきです。

出土状況を記載した「伏ガメ」1件も注目すべきです。

6 出土状況において他の遺物との関連が疑われる土器

遺物台帳に土器以外の遺物が記載されていて、出土状況における土器との関連が疑われます。

土器と骨との関連16件、内1件は頭骨

土器と石との関連4件、内訳…黒曜石1件、礫2件、石1件、



2024年6月26日水曜日

発掘された日本列島2024の観覧

 Viewing “Excavated Japanese Archipelago 2024”


I visited the special exhibition “Excavated Japanese Archipelago 2024” at the Chiba Prefectural Museum. For me, it was a chance to see valuable archaeological materials from all over the country that I don't usually get to see. This was the first of several visits I plan to make, and I was able to choose which artifacts were interesting.


千葉県立中央博物館で特別展示「発掘された日本列島2024」を観覧しました。普段お目にかかれない全国各地の貴重な考古資料を観覧できるチャンスです。今回は複数回観覧予定の初回であり、どの遺物が面白いか品定めしました。

1 発掘された日本列島2024


チラシ


会場入口


別途webで購入した解説本

2 観覧方法

複数回(3~4回)観覧を予定し、今回(初回)は次のような観覧を行いました。

ア カメラは使わないで、展示全部を一通り観覧して、自分が興味を持つ遺物の見当を付ける。

イ 展示の様子全部を自宅で全部確認して見ることができるように撮影する。

ウ 興味を持った遺物の3Dモデル作成用撮影を行う。(今回は時間の都合で1点のみ)

次回以降は興味を持った遺物の3Dモデル作成用撮影を順次行います。

同時開催地域展「大多喜 台古墳群の鏡がうつし出す時代」は列島展とは別の取り組みとして記事にする予定です。

3 興味を持った遺物

全部を到底消化できないほどの多量の考古資料が展示され、詳しく説明されています。どれもこれも興味が湧きます。しかし、3Dモデル作成用撮影できる遺物数には限りがありますから、今回は縄文遺物に限定して、興味の強いモノ数点を選びました。これらの3Dモデル用撮影が終わり、時間があれば、対象を順次増やすことにします。

3-1 彫刻のある木柱


彫刻のある木柱(群馬県東吾妻町唐堀遺跡)

この遺物はショーケースではなく会場に直接展示されています。珍しい木製品であり興味が深まります。3Dモデル用撮影をおこないました。

3-2 イモガイ形土製品


イモガイ形土製品(北海道余市町大川遺跡)

イモガイを輪切りにしたような形状をしています。この遺跡や近隣同時代遺跡からイモガイ製製品が出土しているのか、興味が湧きます。「イモガイ」の言葉がどうして当てはめられたのか、調べたくなります。

単純な渦巻ではなく、イモガイであることに興味を持ちます。

3-3 遺跡出土のアンモナイト


遺跡出土のアンモナイト(北海道千歳市美々4遺跡)

「中心部に孔が開けられており、装飾品の可能性がある。北海道浦河地域の産地から縄文人が採集して持ち込んだものと考えられる」

縄文人の心性を考える上で、とても興味が刺激される遺物です。

3-4 動物形土製品(レプリカ)


動物形土製品(レプリカ)(北海道千歳市美々4遺跡)

3Dモデルを作成して、じっくり観察したくなります。

3-5 フクロウ意匠貼付鉢形土器


フクロウ意匠貼付鉢形土器(北海道千歳市美々4遺跡)

3-6 土偶


土偶(北海道千歳市美々4遺跡)

土壙墓からみつかった完形土偶で副葬品とのこと。

4 感想

普段お目にかかれない全国各地の貴重な考古資料を観覧できるチャンス到来となりました。今回は複数回観覧予定の初回であり、どの遺物が面白いか品定めとなり、じっくり観覧はできませんでした。次回以降観覧が楽しみです。


2024年6月24日月曜日

有吉北貝塚北斜面貝層出土遺物の予備分類

 Preliminary classification of artifacts excavated from the shell layer on the north slope of the Ariyoshi Kita shell mound


In order to facilitate classification of 64,000 artifacts in the artifact register, a preliminary classification of artifacts was conducted on 5,123 artifacts randomly selected from 6 grids. An efficient method was developed using Python. In the preliminary classification, the entire collection was divided into 11 categories, with crafts placed at the front and food remains at the back, and further classified into medium and fine categories. 67% were bones, 24% were pottery, etc., and the total was 91%.


遺物台帳64000件遺物の分類を円滑に行うために、無作為抽出した6グリッド5123遺物を対象に遺物予備分類を行いました。Pythonを使った効率的方法ができました。予備分類では全体を11分類し、製作品を前に、食料残滓を後に置き、さらに中分類、細分類しました。骨等が67%、土器等が24%で合わせると91%になります。

1 無作為抽出6グリッド5123遺物の遺物予備分類

1-1 無作為抽出6グリッド

無作為抽出した6グリッドはⅠ-48、Ⅱ-24、Ⅱ-57、Ⅲ-31、Ⅲ-64、Ⅳ-19で、遺物数合計は5123です。

1-2 集計方法

Pythonスクリプトで、5123遺物の重複名称数をカウントし、次のようなリスト(名称、数)を作成しました。このリストは94項目になります。(Pythonスクリプトで5123項目を94項目に絞る(カウントする)時間が一瞬であったので、驚き、感動しました。Excelでは準備するまでに長大の操作を要します。)

・・・

貝刃片,2

貝製品,4

貝製品?,1

貝輪,1

貝鏃?,4

軽石,2

穴あき貝,1

黒曜石,47

黒曜石一括,5

骨,3214

骨 土器,1

骨(歯),2

骨一括,173

骨製飾り,1

骨片,2

砂岩,1

歯,29

手捏土器,1

朱塗,2

・・・

このリストを類似内容をまとめて分類(分類-中分類-細分類)案をつくり、全体を見回して、細部を何回か調整して、今回の原案を作成しました。

1-3 遺物予備分類結果


遺物予備分類結果グラフ


遺物予備分類結果表


遺物予備分類結果%グラフ


遺物予備分類結果%表

・分類項目は前半に人が作成した製品類を後半に食料残滓を配置しました。

・骨等が3429(66.93%)でもっとも多く、土器等が1229(23.99%)であり、その二つで全体の91%となります。

・土器等は土器、土錘、円盤に中分類し、中分類土器は朱塗土器、土器、手捏土器に細分類しました。細分類土器はさらに口縁部、底部、把手、土器片、形式記載土器に細細分類してあります。

・骨等の中にはイノシシ上下顎骨が20~30程度含まれていて、それは儀礼活動に関連していたのではないだろうかと想定しています。遺物分布図にその様子がスケッチされていて、また発掘調査報告書にも識別されているので、今後イノシシ上下顎骨情報を骨等から取り出し、独立させます。

・骨等の中には人骨もふくまれています。遺物台帳記載に人骨の記述はほとんどありません。今後発掘調査報告書情報から人骨情報を骨等から取り出し、独立させます。

2 全遺物(64000件)の分類方法

Pythonスクリプトで重複名称数カウント(名寄せ)が苦労することなくできることが判ったので、全遺物についても、予備分類と同じ方法で分類することにします。

3 感想

Excelの機能を利用して64000遺物の名寄せ(遺物名称、数)を行うことは、シートが200以上あることを考えると、うんざりしてそれをやりきるだけの気力を持つまでにはかなりのエネルギーを要します。しかしChatGPT支援で、Pythonスクリプトがいわば自由に使いこなせる状況がうまれた現在、気軽にその活動に取り組めます。

次のPythonスクリプトはすでにあります。

200以上のシートから遺物名称を全部抽出して1列64000行に並べてテキストに書き出すPythonスクリプト

遺物名称全部のテキストを名寄せ(遺物名称、数)して別のテキストに書き出すPythonスクリプト

2024年6月23日日曜日

「儀礼行為とコンテクスト」の学習

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 7


Learning about “Ritual Actions and Contexts”


Study 7 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


I am deepening my understanding of the term “context” in “DOGU & SEKIBOU” which is the central concept of Yasuhiro Taniguchi's book. Context is explained as the physical circumstances of a ritual act. However, to understand a ritual act from its physical circumstances, advanced knowledge of rituals and interpretations (hypotheses) are required.


谷口康浩著「土偶と石棒」の中心概念ともいえる「行為とコンテクスト」の用語コンテクストの理解を深めています。コンテクストとは儀礼行為の物的状況と説明されています。しかし、物的状況から儀礼行為を喝破するには高度な儀礼知識と解釈(仮説)が必要です。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(3)儀礼行為とコンテクスト

・この小節では儀礼考古学の4つの方法の中で著者が最も重視する「モノ・行為・コンテクストによる方法」のうち「行為とコンテクスト」について説明しています。

・著者は儀礼行為の再現性・反復性は考古学研究の重要な手がかりになるとして、石棒と石皿を対にした性交穏喩表現の儀礼行為などのパターンや形式を捉えて、同一石棒文化を共有する社会・集団を識別して、その時間的・空間的広がりを明らかにできると述べています。

「遺構・遺物に形跡をとどめる行為的側面についても、研究手続きを検討する方法論の深化が必要である。儀礼祭祀の一般的特徴として、形式を整えておこなう反復性と再現性をもった行為や所作がある。儀礼行為の再現性・反復性は、考古学研究においても重要な手がかりとなる。

再び石棒を例にいうと、石棒に残る人為的痕跡の観察、ならびに遺跡での出土状況やコンテクストの検討から、多くの事例に共通する現象上のパターンを抽出することができる(谷口2012b・2015)。石棒と石皿を対にして用いる性交の隠喩表現とみられる儀礼行為や、住居内で石棒を火にかけ破砕する行為などが確認されている。石棒が最終的に放棄されるまでの行為の流れや遺跡形成過程を検討し、儀礼行為のパターンや形式を捉えることにより、同一の石棒文化と儀礼祭祀を共有する社会・集団を識別し、時間的・空間的な広がりを明らかにすることが可能である。行為に着目したこうした研究手続きは、石棒の研究にかぎらず儀礼祭祀の考古学の基本的な研究法となり得る。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・次いで、著者は「「コンテクスト」とは、遺跡の中に残された儀礼行為の物的状況を指すが、それはある儀礼の場面が瞬間的に埋没した状況を必ずしも意味しない。」として、「コンテクストの解釈よりも前に、まずタフォノミーの研究をおこなう必要がある。」と述べて、タフォノミー研究の重要性に触れています。タフォノミー研究は、自分が現在作業している有吉北貝塚北斜面貝層の遺物3D分布見える化にも大いに関連するので、改めて検討することにします。

・さらに著者は儀礼行為と身体との関係も重要な研究視角になると述べて、その重要性と、それが儀礼研究の一つのアプローチになることを述べています。儀礼行為と身体との関係はイレズミなどの学習を過去に行ったことがあり、とても興味があるので、改めて検討することにします。

……………………………………………………………………

【用語「コンテクスト」に関する感想】

1 用語「コンテクスト」が使われる異なる文脈

・この小節では「「コンテクスト」とは、遺跡の中に残された儀礼行為の物的状況を指す」と定義されています。また「遺跡での出土状況やコンテクストの検討から、多くの事例に共通する現象上のパターンを抽出することができる」ともかかれています。コンテクストという方法概念(ツール)を使えば現象研究が進むという文脈のようの感じます。

・一方、8ページでは研究手順として、コンテクスト解釈が目的のように書かれています。

「本書でもっとも重視するのはこのうちエ)の方法である。宗教や信仰には、意識的側面・行為的側面・物質的側面がある。先史時代の人々の意識的側面を考古資料から直接復元することは困難だが、考古資料の分析から行為的側面と物質的側面を把握することは可能である。

①多くの事例に共通する現象上のパターンから、

②儀礼的行為の型と認定できるものを捉え、

③その行為の背景にあつた観念形態を読み取り、

④遺跡に残されたコンテクストを解釈していく、

という研究手順が、筆者の基本的な接近法である。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・この二つのコンテクスト用語法が異なるように感じます。

・「コンテクスト」という用語(概念)が指す対象に、通常能力で扱えるものから、解釈能力(仮説設定能力)が必要なものまで、階層性があるのかもしれません。学習をさらに進めることにします。

2 コンテクスト解釈の困難さと魅力

・本書55ページには「コンテクスト」のより詳しい定義がかかれています。

「「コンテクスト」とは一般に出土状況を指すが、それは遺物・遺構の表面的な分布ではなく、遺跡に残るモノ・行為・空間の関係であり、ある行為の状況をとどめる資料群全体の機能的関係・脈絡として理解すべきである。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・石棒の形態的分析だけでは大いに限界があり、儀礼行為を知るためには「コンテクスト」検討が必須であるという著者の言い分はよく理解でき、大切です。

・「ある行為の状況をとどめる資料群全体の機能的関係・脈絡として理解する」とさらりと書かれた活動は、物的状況から儀礼行為を喝破するという活動であり、それには高度な儀礼知識と解釈(仮説)が必要です。とても困難な活動であり、それだけに魅力的活動であるのだと思います。


石棒展示(千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」2020.10)

画像は本文とは関係ありません。



2024年6月22日土曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 グリッド別遺物数と標高分布3Dモデル

 Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer

3D model of number of artifacts by grid and distribution by altitude


A 3D model of number of artifacts by grid and distribution by altitude was created in the shell layer on the north slope of Ariyoshikita Shell Mound. The general distribution of approximately 64,000 artifacts has been revealed for the first time in 3D space. It feels like the main artifact dumping sites are emerging and visible.


有吉北貝塚北斜面貝層におけるグリッド別遺物数と標高分布3Dモデルを作成しました。約64000遺物の概略分布が3D空間の中ではじめて明らかになりました。主な遺物投棄場所が浮かび上がって見えているように感じます。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 グリッド別遺物数と標高分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層 グリッド別遺物数と標高分布3Dモデル

グリッドに配置されたCUBEの上面が遺物出土最高標高を、下面が最低標高を示します。

グリッドに配置されたCUBEの色が出土遺物数分級を示します。

赤…分級1 遺物出土数1000~

黄…分級2 遺物出土数500~999

青…分級3 遺物出土数100~499

灰…分級4 遺物出土数2~99


3Dモデルの画像


3Dモデルの画像(オルソ投影、上から)


3Dモデルの動画

2 メモ

CUBE集合の姿が北斜面貝層3D概形にほぼ該当します。

赤CUBEは遺物出土数が特段に多いグリッドであり、この赤CUBE分布から主な遺物投棄場所と投棄パターンを推察できます。詳しい検討は追ってじっくりすることにしますが、直観的には次の主な遺物投棄場所と投棄パターンをメモすることができます。


メモ 主な遺物投棄場所と投棄パターン



2024年6月20日木曜日

有吉北貝塚北斜面貝層 遺物のグリッド別標高分布3Dモデル(試作)

 Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer: 3D model of the grid-based elevation distribution of artifacts (prototype)


I have created a prototype 3D model of the grid-based elevation distribution of artifacts in the Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer. This 3D model shows the general shape of the 3D distribution of artifacts, i.e., the general shape of the north slope shell layer.


有吉北貝塚北斜面貝層における遺物のグリッド別標高分布3Dモデルを試作しました。この3Dモデルで、遺物3D分布の概形すなわち、北斜面貝層の概形がわかります。

1 有吉北貝塚北斜面貝層 遺物のグリッド別標高分布3Dモデル(試作)

有吉北貝塚北斜面貝層 遺物のグリッド別標高分布3Dモデル(試作)


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

有吉北貝塚北斜面貝層の遺物台帳素入力(遺物件数約64000)が完了しましたので、試しにグリッド別に遺物標高分布を表現してみました。グリッドから出土する遺物の最高標高と最低標高を表現したグラフです。

このグラフから遺物3D分布の概形を知ることができます。この3D分布概形は北斜面貝層そのものの3D概形でもあります。半年か1年後にはグリッド別ではなく、約64000遺物別に3D分布がわかりますので、その時にはこのグラフは役目を終えます。

なお、この3Dモデルを作成してみると、遺物台帳原票由来の異常値がみつかりました。転記ミスではない遺物台帳そのものに内在する問題が幾つかあるようです。今後この問題を解決することに取り組みます。


2024年6月18日火曜日

堀之内式注口土器(千葉市加曽利貝塚)観察記録3Dモデル

 3D model of observation record of Horinouchi-style spouted pottery (Chiba city,Kasori shell mounds)


I created a 3D model of the observation record of Horinouchi-style spouted pottery (Chiba city,Kasori shell mounds), which is exhibited at the Kasori shell mound museum's 2023 excavation survey report exhibition. From the scratches and chips that can be observed in the 3D model, I enjoyed imagining that a hand-held string was attached to it.


加曽利貝塚博物館の令和5年度発掘調査速報展に展示されている堀之内式注口土器(千葉市加曽利貝塚)の観察記録3Dモデルを作成しました。3Dモデルで観察できる傷・欠けの様子から、手持ち用弦がかけられていたという想像を楽しみました。

1 堀之内式注口土器(千葉市加曽利貝塚)観察記録3Dモデル

堀之内式注口土器(千葉市加曽利貝塚)観察記録3Dモデル

縄文時代後期中葉

北貝塚第4次調査区C区出土

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和5年度発掘調査速報展

撮影月日:2024.05.28


展示の様子

ガラス面越し撮影

3DF Zephyr v7.529 processing 91 images


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

2 メモ

注口部(全部)と後部に付いている把手状の凸部の縁をよく見ると、水平方向に傷や欠けが目立ちます。紐で縛った跡のように観察できます。


傷や欠けが見られる把手状凸部の縁(前部)


傷や欠けが見られる把手状凸部の縁(後部)

この傷や欠けから、この把手状凸部に紐(乾いたつる植物など)を巻いて保護し、前後の把手状凸部を繋ぐ太い紐か曲がった木枝をくくり付け、手持ち部(弦)をかけたものと想像します。


弦が取り付けられた様子(想像)

この想像が的確である可能性があるのか、間違っているのか、関連する情報をwebで渉猟しましたが、特段の情報を見つけることができませんでした。


欧米考古学の新概念「物質性」の学習

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 6


Learning about the new concept of “Materiality” in Western archaeology


Study 6 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


In “DOGU & SEKIBOU” by Yasuhiro Taniguchi, I learned about the new concept of “Materiality” in Western archaeology for the first time. It was confusing, difficult, and I had a strong feeling that I would become interested and passionate about it. “Materiality” is not the physical properties of an object, but the force that an object exerts on people. As a side trip, I learned about the outline of “The Materiality of Stone” by C. Tilley on ChatGPT.


谷口康浩著「土偶と石棒」の中で、欧米考古学の新概念「物質性」をはじめて学習しました。戸惑い、難解、そして強い興味と熱中しそうな予感。「物質性」とはモノの物質的特性ではなく、モノが人に働きかける作用力です。寄道学習として、ChatGPTでC.Tilley著「The Materiality of Stone」の概要を知りました。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(2)モノと物質性

・この小節では「物質性」への研究視覚の大切さを述べています。「物質性」といっても「モノ自体に備わる物質的特性ではなく、モノが人・社会・文化に働きかける作用力に目を向ける考え方である。」という点で、私には、難解です。

・石棒と土偶について次のように「物質性」について説明しています。

「たとえば、「石棒」は縄文中期に盛行した大形の棒状石製品であるが、なぜそれが木や土ではなく石で作られなければならなかつたのか、なぜそこまで大きく作る必要があったのか、なぜ特定の色調の石にこだわつたのかは正面から問われたことがない。これまでの石棒研究では主に頭部の形態による分類と型式編年が進められてきたが、その性格については、男根からの連想のような飛躍的解釈が起こりがちであつた。こうした限界を克服するための一つの方法が物質性の分析である。同時代の人々の石に対する意識や態度を問題に組み入れることで、形態からではわからない意識を読み取れる可能性がある。縄文人が石に特別な意識・感情を抱ぃてぃたことは、中期以降に顕著となる環状列石や配石遺構の発達ぶりからも窺い知ることができる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

「物質性の点で石棒と対照的な性格をもつのが土偶である。土偶は縄文土器と同じく土で造形されるのが普通である。第5章で詳しく取り上げるが、土偶と土器はしばしば造形上で融合する関係にある。これは土器と土偶の製作者が同一であった可能性を示すだけでなく、土偶の象徴性が「土」という物質性に合致していたことによるものと考えられる。土偶の造形を軟質の石に写した岩偶も一部にあるが、土偶に比べれば数はきわめて少ない。縄文人たちの土に対する意識や観念形態を考察しなければならない。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・つぎの記述が著者の「物質性」に関する概念を端的に述べているものと推察します。

「どのような素材を選び、それにどのような姿態を与えるのか。そこに人々の意識や観念が凝縮される。だからこそ、そのモノが人の心を動かす作用力をもつことになるのである。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

・この小節の最後では、物質性の問題は欧米の現代考古学で主題化され研究対象になっている様子が記述されています。

「遺跡景観の現象学的な解釈を目指すC.テイリーは、巨石モニュメントなどの遺跡景観を単なる物理的空間としてではなく、それに関わった人々が身体を通して感じ取った経験や感情を物質化したものと捉え、巨石やある種の石材、あるいは特別な石斧などの「石」が人々の心にある知覚を喚起する力を内在させていたという見方を提示している(Tilly 2004)。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

(図書のTillyは誤で正はTilleyです。)

【Christopher Tilley著「The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology」(2004)の寄り道学習】

参考文献に出ているChristopher Tilley著「The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology」(2004)の寄道学習(というか基礎情報収集)をしてみました。

1 webにおける図書の確認


web画面

出版社の説明文(翻訳)

ウェイン・ベネットとの共著 石英メンヒルの表面の絹のようなワックスのような質感から、他のメンヒルの木目調の質感、マルタ島の金色の蜂の巣状の石灰岩、スウェーデン南東部のカンブリア紀砂岩の凍った波のように冷たい質感まで、この本は石の感覚的な材質特性を調査します。触覚、音響特性、色、視覚的印象はすべて、先史時代の記念碑が持つ風景との関係における力と重要性を理解する上で重要な役割を果たしていることが示されています。『The Materiality of Stone』で、クリストファー・ティリーは、先史時代のヨーロッパの風景における「文化的」石と「自然」石の両方の重要性を分析する根本的に新しい方法を提示しています。ティリーの画期的なアプローチは、人間の経験を抽象的な分析的視線ではなく、多次元的で感覚的な人間の方法で解釈することです。研究対象は、先史時代のブルターニュのメンヒルからマルタの新石器時代の寺院、そして南スウェーデンの青銅器時代の岩の彫刻やケルンまで多岐にわたります。ティリーは、内部空間や景観設定が、そこに住んでいた人々にとって深い意味を持ち、今日でも同様に刺激的な遺物、物質、および関連する場所との関係でどのように解釈されるかについても検討し、徹底的な調査を行っています。私たちの過去の具体的な岩や石を通して人間の経験を理解するという革新的なアプローチにおいて、『石の物質性』は、物質文化研究の分野とヨーロッパ先史研究への理論的かつ実質的な大きな貢献です。

2 ChatGPT-4oからの情報

[質問]

図書

The Materiality of Stone

Explorations in Landscape Phenomenology

By Christopher Tilley

の概要や論旨の特徴について教えてください。

[回答]

Christopher Tilleyによる『The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology』は、ランドスケープ・フェノメノロジー(景観現象学)の視点から石の物質性を探求する学術書です。この本は、石がどのようにして人間の経験や文化に深い影響を与えてきたかを考察しています。以下に、本書の概要や主要な論旨の特徴を紹介します。

●概要

『The Materiality of Stone』は、物質性と景観が人間の感覚や意識にどのように影響を与えるかを分析することを目的としています。Tilleyは、石が持つ物理的特性とその文化的・社会的意味を探ることで、人々がどのようにして景観を経験し、解釈したかを明らかにしようとしています。本書は、フィールドワークや理論的考察を交えて書かれており、石が単なる物理的な存在以上のものであることを示しています。

●論旨の特徴

・フェノメノロジーのアプローチ

Tilleyは、現象学的手法を用いて、石と人間の関係を探求しています。彼は、人間がどのようにして石を知覚し、その物質性をどのように経験するかに焦点を当てています。これにより、石が持つ象徴的・文化的な意味が浮き彫りになります。

・景観の物質性

本書は、景観を単なる背景としてではなく、能動的な要素として捉えています。Tilleyは、景観の中の石がどのようにして人間の行動や思考に影響を与えるかを考察し、景観が社会的・文化的実践において重要な役割を果たすことを示しています。

・石の象徴性と社会的役割

石は、様々な文化において象徴的な意味を持ちます。Tilleyは、メガリスや墓石、道標などの事例を通じて、石がどのようにして記憶、アイデンティティ、儀式などに関与しているかを分析しています。石の物質性は、個人や集団のアイデンティティ形成や社会的関係の構築において重要な役割を果たします。

・フィールドワークと事例研究

本書は、具体的なフィールドワークに基づいています。Tilleyは、ヨーロッパの先史時代遺跡や現代の景観における石の使われ方を詳しく調査し、それらの事例をもとに理論的な考察を展開しています。これにより、理論と実践が結びつけられています。

・物質性の再評価

Tilleyは、物質文化研究における物質性の再評価を提唱しています。彼は、物質が人間の経験に与える影響を軽視せず、むしろその中心に置くことで、新たな理解を促進しています。

●結論

『The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology』は、石の物質性と人間の経験の関係を深く掘り下げた重要な学術書です。Tilleyの現象学的アプローチは、石がどのようにして文化的・社会的意味を持つかを明らかにし、景観の物質性に対する理解を深化させています。考古学や人類学、文化地理学など、さまざまな分野で参考にされる重要な研究です。

【感想】

「物質性」という概念はここで文字通りはじめての学習となり、戸惑いを禁じ得ません。しかし、とても面白そうな、そして重要であり、さらに自分が熱中しそうな概念です。このような欧米考古学を紹介した著者に感謝します。

欧米の情報はChatGPTが得意とする分野であり、実際に『The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology』の概要を詳しく知ることができました。ChatGPT恐るべしです。

ChatGPTの回答で「物質性」概念が少し身近になり、咀嚼できそうな予感が産まれました。

この図書電子版を即座に購入する衝動にかられましたが、自分の英語力をかんがみてやめました。パソコン機能による翻訳でも十分学習できる可能性があるので、将来状況が変化してどうしても読みたくなれば、購入することにします。

【参考】

ChatGPT-3.5による同質問に対する回答は次の通りです。内容基本は似ていますが、ChatGPT-4oの方がより詳細でわかりやすく、差別化されているようです。

[回答]

Christopher Tilleyによる「The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology」は、風景の現象学における石の物質性を探る重要な著作です。Tilleyは、考古学や人類学の視点から、石がどのように先史時代の人々の生活や文化に影響を与えたかを考察しています。この本の概要や論旨の特徴について詳しく説明します。

●概要

この本は、石の物質性とその文化的および社会的な意味を探るものであり、特に風景の中での石の役割に焦点を当てています。Tilleyは、物質文化に関する現象学的アプローチを用いて、石がどのように人間の経験や認識に影響を与えたかを分析しています。

●主な論旨の特徴

・現象学的アプローチ

Tilleyは、現象学の哲学的枠組みを用いて、石の物質性がどのように人間の意識や経験に影響を与えるかを探求しています。彼は、石を単なる物質としてではなく、人間と自然の関係を理解するための媒体として考えます。

・風景と物質性の関係

風景の中での石の存在が、どのように人々の認識や行動に影響を与えたかを詳細に分析します。石の配置や形状、質感が、儀式や社会的行動にどのように影響を与えたかを考察しています。

・文化的および象徴的な意味

石の物質性が持つ象徴的な意味や文化的な役割についても深く掘り下げています。Tilleyは、石が単なるツールや建築材料としてだけでなく、信仰やアイデンティティの象徴として機能していたことを強調しています。

・具体的な事例研究

Tilleyは、ヨーロッパ各地の具体的な遺跡や風景を取り上げ、それぞれの場所における石の役割や意味を詳細に分析しています。これにより、一般的な理論を具体的な実例で裏付けています。

・時間の流れと石の役割

石が時間を超えてどのように機能し続けるか、つまり長い歴史の中でどのようにその重要性が変わってきたかを考察しています。古代から現代に至るまでの石の持つ意味の変遷を追跡しています。

・重要な結論

物質と人間の相互作用:

石は単なる受動的な存在ではなく、人間の行動や文化を形成する能動的な要素であるという結論に至ります。

風景の動的な性質:

風景は静的な背景ではなく、常に変化し、人間の活動と相互作用する動的な存在であると述べています。

象徴的な力:

石の物質性は、その物理的特性だけでなく、象徴的な力によっても人々の生活に影響を与えることを示しています。

●結論

Christopher Tilleyの「The Materiality of Stone: Explorations in Landscape Phenomenology」は、石の物質性が先史時代の人々の文化や社会に与えた影響を現象学的視点から深く探求したものであり、風景考古学や物質文化研究における重要な文献です。石が物質としてだけでなく、象徴的な存在としても重要な役割を果たしていることを明らかにし、現代の私たちが過去の文化を理解する上での新たな視点を提供しています。


石棒の展示 尖石縄文考古館

この写真は本文記事と関係ありません。


2024年6月17日月曜日

メモ 視認性の良い3D棒グラフの作成方法

 Memo: How to create a 3D bar graph with good visibility


I sometimes create 3D models with bar graphs on a grid using Blender's CUBE. I made a note of how to create them and how to improve their visibility. I use a BlenderPython script to create them, and Photoshop to improve visibility.


BlenderのCUBEを活用して、グリッドに棒グラフを立てる3Dモデルを時々作成しています。その作成方法と視認性向上策をメモしました。作成はBlenderPythonスクリプトで行い、視認性向上はPhotoshopを活用します。

1 3D棒グラフの作成方法

1-1 データの作成

次の順番で情報を並べたテキストファイルを作成します。

グリッド番号、グリッド中央X座標、グリッド中央Y座標、変数

【例】

Ⅲ-23,5,27,0.835,1.67

Ⅲ-24,5,29,0.01,0.02

Ⅲ-30,7,21,8.335,16.67

Ⅲ-31,7,23,7.28,14.56

Ⅲ-32,7,25,13.48,26.96

Ⅲ-33,7,27,2.995,5.99

Ⅲ-34,7,29,0.24,0.48

グリッド平面は2m×2mです。変数は遺物件数/100の値です。

1-2 BlenderPythonスクリプトによる3Dモデル作成

次のBlenderPythonスクリプトにデータテキストファイルを書き込んでBlenderテキストエディターで走らせると、テクスチャ無しの棒グラフ3Dモデルが造形されます。

# 正確完成版

import bpy

# ファイルからデータを読み込む
file_path = "E:/test/遺物件数分布.txt"
with open(file_path, "r") as file:
    lines = file.readlines()

# CUBEを配置する関数
def create_cube(name, x, y, z, height):
    bpy.ops.mesh.primitive_cube_add(size=1.8, location=(x, y, z))
    cube = bpy.context.object
    cube.name = name
    bpy.ops.transform.resize(value=(1, 1, height))

# データからCUBEを作成
for line in lines:
    data = line.strip().split(',')
    if len(data) == 5:
        name, x, y, z, height = data
        x, y, z, height = float(x), float(y), float(z), float(height)
        create_cube(name, x, y, z, height * 0.5555555555) 
棒グラフ作成のBlenderPythonスクリプト


造形されたテクスチャ無しの棒グラフ3Dモデル

2 3Dモデルの調整

3Dモデルを3DF Zephyr LiteやSketchfabで扱いやすくするために辺の細分化と面の三角化を行います。

オブジェクトモードで棒グラフ全部を指定して、編集モードで辺の細分化(例5)、面の三角化を行います。

3 視認性向上策

棒グラフにそのままテクスチャ画像を貼り付けると視認性が良くないので、UVEditing画面で得られるUV展開画面に合わせたテクスチャ画像をPhotoshopで作成します。今回作成棒グラフのUV展開画面は全て同じなので、1枚のテクスチャ画像を全ての棒に適用できます。


テクスチャ画像の元となる画像をスクリーンショットで作成する


視認性向上を目指したテクスチャ画像の作成(Photoshop作業)


3Dモデルの画像

3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層 遺物台帳の素入力完了

 Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer: Artifact Register Basic Input Completed


The basic input of the artifact register for the Ariyoshikita Shell Mound North Slope Shell Layer has been completed. The manual input of approximately 64,000 items was a difficult task. Data on artifact type and altitude by grid has been created. For me, the next big hurdle is reading the planar coordinates from the artifact distribution map. I am one step closer to visualizing the 3D distribution of artifacts in the north slope shell layer.


有吉北貝塚北斜面貝層の遺物台帳素入力が完了しました。約64000件の手入力作業は難行苦行でした。グリッド別遺物種類・標高のデータができました。次の大きな山は遺物分布図から平面座標を読み取る作業です。北斜面貝層における遺物3D分布見える化に一歩近づきました。

1 グリッド別遺物件数


グリッド別遺物件数順位グラフ

グリッド別遺物件数(素入力件数)は64098件、グリッド数140、グリッド平均遺物件数458件、グリッド最大件数2696件、最小件数1件です。

なお、現状では素入力が完了した状況であり、次の調整を今後順次行う予定です。

ア 貝層サンプルの別枠化

遺物件数の中には遺物とは言えない貝層サンプル(200~300件程度)が含まれています。貝層サンプルは別枠にする必要があります。

イ はみ出し重複の調整

現場で当該グリッドに含めたグリッドはみ出し分を、後日本来のグリッドに移動して遺物台帳に重複記述しています。その重複分(200~300件程度)は調整して解消する必要があります。ただし、遺物分布図には当初のグリッドにそのグリッドの番号で記載されているので、遺物台帳利用実務的には一方を削除することはできません。

2 グリッド別遺物件数棒グラフ3Dモデル

3Dモデル作成技術向上の一環としてグリッド別遺物件数棒グラフ3Dモデルを作成しました。

有吉北貝塚北斜面貝層 グリッド別遺物件数棒グラフ3Dモデル

グリッド最大遺物件数:2696

グリッド最小遺物件数:1

グリッド数:140

遺物件数総数:64098

グリッドの大きさ:2m×2m


3Dモデルの画像


3Dモデルの動画

3 感想

2023年9月から始めた、遺物台帳約64000件の手入力は難行苦行でした。特に標高入力は苦痛でした。しかし、作業末期には右手によるテンキーブラインド入力が超高速化し、意識することなく見た数字を手が自動的に入力するようになりました。楽しい作業に変質しました。

遺物分布図の座標読み取り作業は遺物台帳入力作業より楽のようですから、北斜面貝層プロジェクトの最大の山場は過ぎたようです。まだまだ手作業がつづきますが、できるだけはやく手作業だけ活動から、少しは頭も活用する作業に移行したいものです。


2024年6月14日金曜日

儀礼考古学の方法論

 谷口康浩著「土偶と石棒 儀礼と社会ドメスティケーション」学習 5


Methodology of ritual archaeology


Study 5 “DOGU & SEKIBOU: Rituals and the Domestication of Society in Prehistoric Jomon” by Yasuhiro Taniguchi


There are four methods of ritual archaeology, but Yasuhiro Taniguchi's “DOGU & SEKIBOU”places the greatest emphasis on the "method based on objects, actions, and context." This is because, although the consciousness of prehistoric people cannot be directly reconstructed, it is possible to understand actions and materials from archaeological materials.


儀礼考古学の方法は4つありますが、谷口康浩著「土偶と石棒」では「モノ・行為・コンテクストによる方法」を最も重視しています。先史時代人の意識は直接復元できないが、考古資料から行為と物質を把握することは可能であるからです。

序章 儀礼考古学の現代的意義

2 儀礼考古学の研究法一モノ・行為・コンテクストー

(1)儀礼考古学の方法論

・この小節では最初に「儀礼」と「祭祀」について定義し、次に儀礼考古学の方法論を4つ列挙し、著者は最後の「モノ・行為・コンテクストによる方法」の重視を述べています。最後に、俯瞰的視点の重要性について触れています。

●「儀礼」と「祭祀」の定義

「本論では広く儀礼を扱う考古学研究を「儀礼考古学」と定義する。

「儀礼」は社会的慣習・規範として形式化した礼儀を指し、儀礼の行為的側面を「儀礼行為」という。儀礼の目的は社会関係の維持・宥和あるいは危険回避にあるため、人間・自然・超自然的存在を含め、その社会にとつて重要なもの、精神的依存度の高いものはすべて儀礼の対象となり得る。「祭祀」は神霊や祖先を大切に祀り、宥和を図って畏怖の念を除き、また加護を願うことを意味する。祭祀は超自然的存在に対する宗教的観念とその絶対的な力への信仰を前提とし、それをおこなう人間の意識的側面を指すのが普通である。祭祀に伴う儀式や行事などは、神霊や祖先を対象とした儀礼行為と捉えることができる。「宗教」は体系化された世界像・神観念をもち、祭祀・儀礼の実践によって人々を精神的共同社会に組織化するもので、高度に純化された儀礼文化と捉えることができる。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●儀礼考古学の4つの方法

「 ア)歴史的遡及法 現存する伝統的な宗教文化の知識、聖典や歴史記録などの文献をもとに、歴史をさかのぼつて起源や変遷、意味を明らかにする方法。神道考古学がその典型。

イ)民族学的類推法 類似の文化要素やその構造を、民族誌や民俗伝承などを用いて通文化的に比較し、儀礼や信仰の意味・機能を類推する方法。土偶と地母神信仰の比較研究などがその典型。

ウ)図像学・記号論的方法 シンボルの図像学的、記号論的な分析から、図像の意味や精神性を解釈しようとする方法。認知科学や心理学を援用して過去の人々の認知パターンや心理を探る研究法もある。

エ)モノ・行為・コンテクストによる方法 遺物と遺構に残された「モノ」「行為」「状況」を手がかりに、儀礼・信仰の行為的側面と物質的側面を明らかにする方法。(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●筆者が重視する方法

「本書でもっとも重視するのはこのうちエ)の方法である。宗教や信仰には、意識的側面・行為的側面・物質的側面がある。先史時代の人々の意識的側面を考古資料から直接復元することは困難だが、考古資料の分析から行為的側面と物質的側面を把握することは可能である。

①多くの事例に共通する現象上のパターンから、

②儀礼的行為の型と認定できるものを捉え、

③その行為の背景にあつた観念形態を読み取り、

④遺跡に残されたコンテクストを解釈していく、

という研究手順が、筆者の基本的な接近法である。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

●俯瞰的視点

「人間の文化には個々の要素に還元できない全体的構造がある。縄文中期には土器の文様と造形の大きな変化、土偶と石棒の発達、環状集落の盛行、硬玉製大珠の製作流通といつたさまざまな変化が起こったが、シンボリズムの高揚を示すこうした文化変化が急にあふれ出したのはなぜなのか。また、後期・晩期にも、再葬の発達と葬制の複雑化、環状列石・大規模配石の築造、精製土器の発達、抜歯の盛行、土製耳飾の流行、御物石器・石冠・岩版など石製儀器類の発達といった諸々の変化が複合的に起こつている。個々の要素をばらばらに研究するだけでは、縄文時代後半期のこうした動向の意味を理解することはできないだろう。」(谷口康浩著「土偶と石棒」から抜粋引用)

【感想】

・著者は現場発掘調査成果に立脚する考古学者であり、方法論エ)を重視する様子は当然です。同時に俯瞰的視点にもふれていて、狭い専門分野に固執していない思考はとても魅力的に感じます。

この図書をさらに読み進め、この方法論が現場でどのように展開するのか、楽しみです。


顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)の画像

顔面付釣手形土器(伊那市御殿場遺跡)観察記録3Dモデル(2024年2月撮影版)

この画像は記事内容と直接関係ありません。