2021年4月15日木曜日

方言漢字

 今朝(2021.04.15)の日経文化欄に「垳・鮓…方言漢字知ってる?」(昼間良次)という論説が掲載されています。方言漢字という概念に興味が深まりました。地名に関して6年程にメイン趣味活動として熱中したことがありますが、その楽しさが、「方言漢字」という概念を引き金にして、鮮やかに蘇りましたので、メモしておきます。


昼間良次著「垳・鮓…方言漢字知ってる?」2021.04.15日経朝刊

1 方言漢字

昼間良次さんは「実は漢字にも、限られた範囲で使われる字や音訓が存在しており、地域性を持つ「方言漢字」は全国に千ほどある。」と述べられています。そして、埼玉県八潮市の大字「垳(がけ)」などの希少な例を説明されています。

2 千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例

以前「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)の付録「小字一覧 8万余)をデータベース化しました。しかし、最新Windows環境で拾えない漢字が多数出ました。地名ですからその小地域で使われている漢字ですが、一般的に普及している漢字ではありません。今思うと、その漢字は「方言漢字」そのものです。


千葉県小字データベース(8万余収録)における漢字が拾えない小字例

3 〓(へん「山」+つくり「票」)

市原市に漢字〓(へん「山」+つくり「票」)をビョウとかヒョウとか読んでつかう小字があります。


市原市小字の一部

「角川日本地名大辞典 12 千葉県」(角川書店、1984)付録「小字一覧」)から引用加筆

「中峠式土器」などで使われる峠(ヒョウ、ビョウ)の仲間の漢字です。地域性豊かな造字であると考えます。方言漢字そのものです。

4 柳田國男による〓(へん「山」+つくり「票」)の説明

柳田國男は「地名の研究」(1935)の中で「峠をヒョウということ」という論説を書いています。この中で漢字「峠」をヒョウと読む起源仮説を詳しく説明しています。要約すれば次のようになります。

「土地境界を定めるために標(ツクシ…標木)を立てる風習が古来からあった。この標を漢音でヒョウと読むようになった。その後標木(ヒョウ)のある場所をヒョウと呼ぶようになった。さらにその後、標木(ヒョウ)のある場所に峠という漢字を当てた。」ということになります。標木が置かれる土地境界付近の地形イメージが峠(とうげ)イメージに合っていたということです。

柳田國男はこの峠をヒョウと読む説明のなかで〓(へん「山」+つくり「票」)について次のように述べています。

「そこで自分は〓(へん「山」+つくり「票」)はすなわち標であろうと考えてみたのである。峠という漢字は和製であろうが、それにヒョウとう音の生ずる理由はなかった。ただ丘陵の峰通りの、通路で横断する地点を村の境としていたために、標とは峠のことと誤解して、しかも普通の標と区別すべく、いつとなく山偏の字を使用したものかと思う。」

〓(へん「山」+つくり「票」)をまさに方言漢字として説明しています。

5 感想

新聞記事で大いに地名学習が刺激されました。

縄文学習の区切りがつくことがあれば、そしてその時まだ余命と健康が残っていれば、地名学習にまた戻りたいと思います。

なお、縄文学習と地名学習はかけ離れているように思えて、実は繋がっている部分もあります。例えば地名「千葉」が実は縄文時代に起源を有する地名かもしれないと密かに妄想しています。

地名「千葉」は縄文語起源 梅原猛仮説

縄文時代から現代までヒトと言葉は継続しているので、縄文時代地名が現代まで伝わっているものがあると考えることはまことに合理的な考えです。

2016.05.25記事「台地開析谷を表現する地名サクの語源」など

2021年4月14日水曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 5

 縄文土器学習 579

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は土坑出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 SK332 1番土器


SK332 1番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は口縁部に隆帯と沈線で渦巻文等を構成し、胴部には垂下する3本一組の沈線が渦巻文や剣先状モチーフを描くものである。」

キャリパー形の土器で主文様帯が口縁部にあり、胴部に垂下沈線があることなどから「正統」な加曽利EⅠ式土器であると理解します。沈線に渦巻文と剣先状モチーフが隣接して存在していますが、これはセットであり、次のSK164 72番土器説明の「有棘渦巻文」であると理解します。「有棘渦巻文」は大木式の影響を受けた文様であると理解します。

2 SK164 72番土器


SK164 72番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「72は細い粘土紐による有棘渦巻文等を口縁部文様帯にもつものである。」

次図のようにクランク文が基本的文様であり、それに有棘渦巻文が付いた文様であると理解します。


クランク文が基本で、それに有棘渦巻文が付属し、さらにクランク文の一部が細区画されたという理解

3 SK321 333番土器


SK321 333番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「333は上部に渦巻文を描いた4単位の把手を持つ波状口縁の深鉢である。図の正面と左側の把手上の渦巻文は、口唇部上を巡る沈線で連携し、それと対になるように裏側と右側のものが連携している。肥厚する口縁部無文帯部には指頭状工具による押圧が加えられ、胴部には地文縄文が施文される。」

器形がキャリパー形ではなく、埼玉編年(1982)でいう第2群土器(折衷土器)の一種であると考えます。SB190 2番土器に似ています。(2021.04.11記事「有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2」参照


参考 SB190 2番土器

4 SK223a 3番土器


SK223a 3番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「3は波頂部に渦巻文の付く波状口縁の深鉢で、口縁部には沈線で2本に分けられた隆帯によるクランク文が巡る。クランク文の先端は渦巻文になっている。明確な頸部無文帯は2本の沈線で胴部文様帯と画され、胴部には蛇行沈線と3本一組の直沈線とを交互に垂下する。」

波状口縁の波頂部渦巻文のあり方はSK321 333番土器と似ています。

[文様の意味に関する思考メモ]

・口縁部…天空界

・頸部無文帯…地上界と天空界の間の空(そら)

・胴部…地上界

・波頂部の渦巻文…吹き上がる理想の湧水

・口縁部渦巻文…湧水

・口縁部クランク文…理想の生活領域(理想の縄張り、海と陸の双方の空間を含む縄張り)

・クランク文隆帯を2つに分ける沈線…複数の独立したクランク文が隣接して描画されていることを強調している。

・胴部垂下蛇行沈線…河川

・胴部垂下直沈線(3本一組)…生活領域の区画(隣接集団(集落)との間で取り決められた活動権利区域)(3本の真ん中線…真の区画線、両側の線…隣接集団(集落)が相手領域を犯さないように定めた自主的区画線)

・口縁部と胴部の縄文…区画(生活領域)に存在する自然(植生)をパノラマ遠望的に表象する。

5 感想

・土坑出土土器片は南北斜面貝層出土土器片より大型のものが多いようです。土坑では完形土器や大型土器片を意図的に埋置する行為が多いことと、後年の撹乱が少ないことによると考えます。

・有棘渦巻文というテクニカルタームを知ることが出来ました。魔除け的な効果のある文様だと思いますが、大木式土器学習の中でその起源や意味について学びたいと思います。

・SK223a 3番土器を例に文様の意味に関する思考をまとめました。文様の意味に関する思考(検討、想像)は考古学分野の活動ではなく、神話学(古代心理学)分野の活動であると区別した上で楽しむことにします。


2021年4月13日火曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 4

縄文土器学習 578

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は北斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 北斜面貝層 155番土器


北斜面貝層 155番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「155は南東北の大木様式の資料と思われる。やや括れた頸部に横長の楕円形区画文が廻り、胴部文様帯にはL撚糸文を地文に並行沈線による渦巻状や波状、クランク状の文様が整然と配されている。大木8aであろう。」

クランク文のふるさとが大木式にあるようですから、勝坂式、阿玉台式だけでなく大木式の学習を予定したいと思います。

2 北斜面貝層 166番土器


北斜面貝層 166番土器 7群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「166はキャリパー形土器の破片資料。地文は撚糸文。波状文が文様帯の上下の隆線に接して三角形区画文になっているもの。」

南斜面貝層260番土器(2021.04.12記事)と類似土器と思いますが、撚糸文であることが気になります。有吉北貝塚では撚糸文と縄文の割合がどの程度であるのか、今後注目して学習することにします。

3 北斜面貝層 171番土器


北斜面貝層 171番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「171はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取されるが、区画が粗雑に扱われている。」

2条の垂下沈線も観察できます。

4 北斜面貝層 176番土器


北斜面貝層 176番土器 8群土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「176はキャリパー形土器の破片資料。隆線によって画された口縁部文様帯の下方には頸部無文帯が明瞭に看取される。口縁は平縁を基本とするが、176のように第7群の161や162からの系譜と見られるものも残存する。」

口縁部が波状を呈し、波頂部の口唇に渦巻文を配する加曽利E式土器はS字状文が付されていることが多いと感じています。関東西部に起源を有する文様かもしれません。今後注目して学習することにします。


参考 第7群161、162

5 感想

・北斜面貝層は加曽利EⅡ式期から使われたようなので加曽利EⅠ式土器とそれ以前の土器は加曽利EⅡ式期以降に流れ込んだもののようです。従って破片が多くなっています。

・破片資料からも多くの情報を汲み取ることができることを知りました。

・加曽利EⅠ式土器学習を起点にして、過去に土器様式を遡る学習(勝坂式、阿玉台式、中峠式)、同時代別様式の学習(大木式学習、曽利式学習)、次期様式に進む学習(加曽利EⅡ式、EⅢ式、EⅣ式、称名寺式、連弧文土器)が必須であるという総合的イメージが出来ました。加曽利EⅠ式土器の混沌とした状況のなかで、個別土器理解(類型の直観的感得)が出来ないで苦しんでいますが、加曽利EⅠ式土器だけをいくら観察しても、それだけでは理解がすすまないということが判りつつあることはうれしいことです。 

2021年4月12日月曜日

加曽利EⅡ式土器14器の3Dモデル総集作成

 縄文土器学習 577

今年の2月まで加曽利貝塚博物館で開催された令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」で展示された加曽利E式土器のうち加曽利EⅡ式土器14器について観察記録3Dモデルを作成しましたので、それを並べて総集モデルを作成しました。

1 加曽利EⅡ式土器14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

加曽利EⅡ式土器14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.02.02 2021.02.09

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 

左から

加曽利EⅡ式深鉢(市川市今島田貝塚) No.15 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(船橋市高根木戸遺跡) No.26 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.32 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.33 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(松戸市子和清水貝塚) No.34 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.43 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.44 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式器台(柏市小山台遺跡) No.51 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市小谷貝塚) No.53 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式浅鉢(流山市小谷貝塚) No.54 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市中野久木頭遺跡) No.59 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(流山市中野久木頭遺跡) No.60 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(我孫子市西大久保遺跡) No.66 観察記録3Dモデル

加曽利EⅡ式深鉢(鎌ヶ谷市大堀込遺跡) No.68 観察記録3Dモデル

14器の縮尺は同一

3DF Zephyr v5.019でアップロード

個別3DモデルはSketchfabサイト「arakiminoru」に掲載しています。


Blender画面


3DF Zephyr Lite画面


Sketchfab画面


3Dモデルの動画

2 感想

・これまでに加曽利貝塚博物館R2企画展「あれもE」展示土器のうち加曽利EⅠ式土器11器と中峠式土器14器について同様の総集モデルを作成してあり、自分自身の閲覧にとても便利に利用しています。そこで今回加曽利EⅡ式土器総集モデルを作成し、近々加曽利EⅢ式土器、加曽利EⅣ式土器についても作成します。R2企画展では全部で70器の土器が展示されましたが、そのうち63器の観察記録3Dモデルが揃うことになります。

・技術的に可能ならば63器を全部観察できる総集モデルを作成します。

・観察記録3Dモデルは土器の一部だけを3Dモデル化したものですが、写真では得られないきわめて有用な学習促進ツールです。このツールを使い縄文土器学習を加速することにします。


有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 3

 縄文土器学習 576

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は南斜面貝層出土加曽利EⅠ式土器4点を発掘調査報告書実測図・写真により観察します。

1 南斜面貝層 269番土器


南斜面貝層 269番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「269は隆線によって口縁部ヨコ1次区画され、口縁部文様帯内には両脇に沈線を伴う1条の隆線が波状に横走している。地文は縦回転施文のRL単節縄文で、主文様の抽出以前に施されている。」

キャリパー形土器で、埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器F類に該当すると考えます。


参考 埼玉編年(1982)Ⅸb期1群土器F類

2 南斜面貝層 273番土器


南斜面貝層 273番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「273は出土量が少ないが、本段階に特有の一類型で、ラッパ状に開く器形を呈し、口縁部外側を極端に肥厚させ、その上面を幅狭の口縁部文様帯とするものである。口縁部は3ないし4単位の波状を呈し、胴部が数段に区画されるものが一般的である。本例は口縁部文様帯が1条の横走沈線のみで、胴部は横走隆線と横走沈線(3条)によって区画され、最上段は無文、中断と下段にはRL単節縄文が縦回転施文されて中段には沈線が廻っている。」

曽利式土器の影響を受けた折衷土器というものでしょうか?

埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類の類例として理解しておきます。


参考 埼玉編年(1982)のⅨa期2群土器F類

3 南斜面貝層 274番土器


南斜面貝層 274番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「274はキャリパー形土器の破片資料である。把手を有している。口縁部ヨコ1次区画の特徴から7群に含めたが、並行隆線の施文方法や口縁部文様帯内に縦位集合沈線が充填されていること等からみると中峠式に属する可能性がある。」

加曽利貝塚博物館企画展に展示された中峠式土器キャリパー形類似例ではヨコ1次区画隆帯に刻みが入っていて、この土器片は刻みがないので7群土器(加曽利EⅠ式土器)に入れたと理解しておきます。


中峠式土器例


中峠式土器例

4 南斜面貝層 325番土器


南斜面貝層 325番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「325は器形的にはキャリパー形を呈し内折するように内側が肥厚する口縁部には円筒形で中空の把手が付されている。口縁部文様帯は集合沈線のみで構成されており、その一部が加曽利E様式的な渦巻文状を呈している。頸部には無文帯が存在し、下端に巡る隆線によって胴部縄文施文帯との境界が画されている。口縁部Ⅰ+頸部Ⅱ+胴部Ⅲという文様構成から本群(8群)に含めたもので、口縁部文様帯の特徴から曽利様式系の資料と思われる。」

加曽利EⅠ式が曽利様式の影響を受けてつくられた折衷土器と理解しておきます。

5 感想

・「純粋」の加曽利EⅠ式土器以外の折衷土器が多いことに改めて気が付きました。折衷土器の意義について十分に考える必要性を痛感します。

・過去からの影響(例 中峠式土器の影響)と他の場所で発生し伝播してきた様式の影響(例 曽利式土器の影響)と、そもそもその場所で本流になりつつある生まれ出た加曽利EⅠ式の3つがカオスの状況にあったのが加曽利EⅠ式期であったと理解しておきます。

・中峠式の影響が濃い土器(A)、曽利式の影響が濃い土器(B)、純粋加曽利EⅠ式の土器(C)などの土器群分類と対応する事象があるかどうか興味が湧きます。例えば、A、B、Cの比率は竪穴住居、土坑、南北斜面貝層でほぼ同じなのか、違うのか。竪穴住居毎にみるとどうなのか。共伴出土石器種類構成と関連があるか、ないか。遺構内貝層の存否と関係があるか、ないか。・・・


2021年4月11日日曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察 2

 縄文土器学習 575

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器について、便宜上、竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層別にその代表サンプルを観察しています。この記事は竪穴住居出土加曽利EⅠ式土器その2です。

1 SB186 1番土器


SB186 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は4単位の波状口縁を持つ深鉢である。口唇上に巡る沈線が波状部で渦巻文を描く。波頂部からは2本の隆帯が垂下し、口縁部文様帯を形成する上下2段の隆帯とともに矩形区画文を構成している。下段隆帯には口縁の波状部と相互する位置に小突起が付される。」

器形はキャリパー形ではありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。矩形区画文のあり方から勝坂式土器の影響を受けているものだと考えます。

2 SB190 2番土器


SB190 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2は4単位の緩やかな波状口縁を持つ深鉢である。粘土紐を貼りつけた複合口縁部には、沈線による渦巻文が波頂部に描かれ、無文部と胴部文様帯画す2本の沈線からは、蛇行沈線と2本の並行沈線が垂下する。」

器形はキャリパー形ではなく、主文様帯が口縁部にありませんから埼玉編年Ⅸa期の2群土器(折衷土器)に該当する土器であると考えます。ただし、垂下沈線の存在により加曽利EⅠ式期土器であることが判ります。

3 SB195 2番土器


SB195 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2はA住居跡A炉の炉体。隆帯によって渦巻文、クランク文が描かれる。沈線で分けられた隆帯の外側に沿って沈線が引かれ、胴部には3本1組の沈線によって意匠文が描かれる。」

キャリパー形でクランク文が横長であることから埼玉編年(1982)のⅨb期1群土器G類に該当すると考えます。

クランク文に剣先状文様が含まれています。大木式土器の影響を受けていると考えます。

4 SB114 1番土器


SB114 1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は炉体として使用されていたもので、隆帯によって口縁部文様帯、頸部無文帯が明確に区画された深鉢である。口縁部には沈線によって分けられた隆帯によって横位に渦巻文が描出される。」

この土器は頸部無文帯の存在から、有吉北貝塚土器分類8群土器(埼玉編年(1982)ではⅩ期)の明瞭な例です。

5 感想

・1と2の土器は折衷土器です。これらの土器を一瞥して「〇〇と〇〇の影響を受けている」などとの直観的感想を即座に持つために、今後勝坂式土器・阿玉台式土器・中峠式土器・大木式土器などの学習を深めることにします。

・3の土器に現れるクランク文は関東東部固有の文様のようです。その起源がどこにあるのか、またそれがどのような意味を持つのか、学習を深めることにします。

・4の土器は頸部無文帯の存在から有吉北貝塚土器分類における8群土器に確定されます。なお、有吉北貝塚における頸部無文帯がある土器は出土が少ないようです。埼玉編年(1982)では頸部無文帯の有無はあくまでも確率の問題として扱っていますが、有吉北貝塚では時期決定の確定要因として扱っています。


2021年4月10日土曜日

加曽利EⅠ式土器学習の感想

 縄文土器学習 574

1 土器学習が思い通りに進まない

有吉北貝塚学習の一環で加曽利貝塚博物館企画展展示土器や資料「埼玉編年(1982)」を教材に縄文中期土器の学習をしています。学習の初期目標は、例えば有吉北貝塚出土土器の実測図や写真を見て、その土器のおおよその素性が(自分の納得レベルをクリアーした上で)直観できるようになればよいと思っています。

しかし、ほぼ2カ月間中峠式や加曽利EⅠ式学習をつづけて、普通(の対象物に対する)学習なら到達できるであろうレベルにとてもとても到達できていません。

なぜか?考えてみました。自分本来の愚鈍さや高齢による思考力退化はいつものことですが、それ以外に何か理由があるはずです。もしかしたら中峠式や加曽利EⅠ式に特有の問題があるのかもしれないという予感があり、学習テキストの埼玉編年(1982)の土器群細分数をカウントしてみました。案の定、この作業で学習困難の理由が浮かび上がりました。

2 埼玉編年(1982)の土器群細分数合計


埼玉編年(1982)掲載図書

谷井彪・宮崎朝雄・大塚孝司・鈴木秀雄・青木美代子・金子直行・細田勝(1982):「縄文中期土器群の再編」(研究紀要1982、財団法人埼玉県埋蔵文化財調査事業団)


埼玉編年(1982)土器群細分数合計


埼玉編年(1982)土器群細分数合計

3 埼玉編年(1982)の土器群細分数合計に関する感想


埼玉編年(1982)の土器群細分数合計に関する感想

埼玉編年に関してこの2カ月間学習したのはⅨa期、Ⅸb期、Ⅹ期です。この3期の土器細分数は28→19→19と減少しています。Ⅸa期の土器群細分数28の学習が十分でなかったからそれが集約されるⅨb期土器細分数19の学習が不十分になったのです。Ⅸb期からⅩ期への変化についてはある程度納得はできました。つまり学習の出発点の基礎ができていないのです。

そして、Ⅸa期の前のⅧ期の土器群細分数は38、さらに前のⅦ期は54と膨大な数に上ります。つまり、加曽利EⅠ式の土器群学習をするためにはⅦ期54の学習を行い、それがⅧ期に38に集約変化する様子を学習し、それがⅨa期に28に集約変化する様子を知る必要があるのです。具体的には勝坂式土器、阿玉台式土器、中峠式土器(さらには大木式土器)の変遷を詳しく知らなければ加曽利E式土器の最初の状況を実感を持って知ることはできないということです。

Ⅸa期の深鉢は次の4群に区分されています。

1群土器…キャリパー土器

2群土器…各種折衷土器

3群土器…曽利式系統

4群土器…勝坂式・中峠式系統

これらのうち、特に2群土器、4群土器についてはⅦ期、Ⅷ期の状況を知らなければ実感的に土器を観察できません。

4 埼玉編年(1982)の土器群細分数合計に関する感想 その2

Ⅶ期に土器群細分数が急増した意味に興味が湧きます。関東平野に勝坂式土器を使う集団と阿玉台式土器を使う集団が並存したということです。そして土器型式から見て群雄割拠の状況から少数集団に集約化するような作用がⅦ期→Ⅷ期→Ⅸa期→Ⅸb期と働いて加曽利EⅠ式土器が成立します。その土器変遷に対応する生業社会変遷に興味が湧きます。漁業拠点の変遷、あるいは漁業がそのサイト(沿岸)だけでなく広域社会に及ぼす影響の変遷などとのかかわりについて学習を深めることにします。

5 これからの土器学習

学習実務としては次の3つの学習を同時並行的に進めることにします。

ア 加曽利EⅠ式土器学習(有吉北貝塚出土土器学習など)

イ 勝坂式土器・阿玉台式土器・中峠式土器学習(埼玉編年Ⅶ期・Ⅷ期学習、展示物観覧など)

ウ 加曽利EⅡ式土器学習(埼玉編年学習、有吉北貝塚出土土器学習など)




2021年4月9日金曜日

有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器観察

 縄文土器学習 573

埼玉編年(1982)の加曽利EⅠ式に関する学習が曲がりなりにも完了しましたので、有吉北貝塚学習に戻り、有吉北貝塚出土加曽利EⅠ式土器の観察を改めて行うことにします。

有吉北貝塚の竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層毎に代表的な加曽利EⅠ式土器を観察することにします。この記事では竪穴住居出土加曽利EⅠ式土器4点を観察します。

1 加曽利EⅠ式土器観察方法

発掘調査報告書から竪穴住居、土坑、南斜面貝層、北斜面貝層ごと大型破片や復元個体の実測図・写真をデータベース化(カード化)して、そのカードを使って観察します。

2 SB096 4番土器


SB096 4番土器

中峠式から加曽利EⅠ式にかけての土器です。

埋葬人骨頭部を上下に挟むようにして出土した土器です。


SB096 4番土器出土の様子

有吉北貝塚発掘調査報告書から引用

埋葬人骨は埋葬後一度掘り返され、骨の切断等が行われ、再度埋葬されたことが判っていて、興味深い埋葬事例です。

2021.03.20記事「加曽利博研究講座「縄文を知る」を聴講する」参照

この埋葬に関する検討・学習は後日行うことにします。

発掘調査報告書では次のように記述されています。

「口縁部に渦巻文の退化した円環文を横位の隆帯で連携し、胴部は地文縄文上にくずれた波状文および3本一組の沈線を巡らした深鉢である。」

●感想

中峠式土器に見られる連携S字文の連携部分が円環になった(くずれた)ように見えます。口縁部に縄文がないこと、波状文が隆帯ではなく沈線であることから中峠式土器本来の姿が忘れられた時期(外面的様子だけ真似ればよいと考えられるようになった型式衰退期)の作であると考えます。逆に考えれば、加曽利EⅠ式最初期に該当する蓋然性が高まります。

3 SB100 2番土器


SB100 2番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「2は4単位の波状の把手を持つ深鉢である。肥厚した口縁部下端には、竹管による刻みを1か所につき2度ずつ施す。胴部には緩いくびれ部よりやや下に2本の沈線を巡らし、肥厚した口縁部直下の1本の沈線との間に沈線で幾何学文を描いたものである。底部の残っている部分には、底部の稜線を切るような刻みが90度振れた位置に1か所ずつみられる。」

加曽利貝塚博物館平成30年度企画展「あれもE・・・」ではこの土器を加曽利EⅠ式併行期土器として紹介しています。


加曽利EⅠ式併行期土器

加曽利貝塚博物館平成30年度企画展「あれもE・・・」展示の様子

●感想

この土器は埼玉編年でいう2群土器の一種であると捉えます。

4 SB090 5番土器


SB090 5番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「5は交互刺突文と刻みのある口縁部に大きな把手と小さな突起を対向させた深鉢で、頸部に巡らした沈線から直・蛇行沈線が垂下する。」

加曽利貝塚博物館平成30年度企画展「あれもE・・・」で展示されました。


展示された様子

●感想

器形は埼玉編年でいう2群土器に該当すると考えます。

垂下する直・蛇行沈線が加曽利EⅠ式土器であることを物語るのだと思います。

5 SB185  1番土器


SB185  1番土器

発掘調査報告書では次のように記載されています。

「1は無文の口縁部下に隆帯と沈線による渦巻文及び区画文の文様帯を持つ鉢である。渦巻文には大木8b式影響を受けた剣先状おモチーフが見える。」

●感想

加曽利EⅠ式土器らしい文様です。

口縁部付近の器形が「く」の字状に近いので、加曽利EⅠ式期の後半に近い時期のモノである可能性があります。


2021年4月6日火曜日

中峠式深鉢14器の3Dモデル総集作成

 縄文土器学習 572

今年の2月まで加曽利貝塚博物館で開催された令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」では中峠式土器が標準標本を含む14器展示されました。その14器すべてについて観察記録3Dモデルを作成しましたので、それを並べて総集モデルを作成しました。

1 中峠式深鉢14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

中峠式深鉢14器 観察記録3Dモデル総集(試作1)

撮影場所:加曽利貝塚博物館令和2年度企画展「あれもEこれもE -加曽利E式土器 北西部地域編-」

撮影月日:2020.11.27 2021.01.06 2021.02.02

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 

左から

中峠0地点型深鉢(松戸市中峠遺跡) No.1 観察記録3Dモデル

中峠5次2住型深鉢(松戸市中峠遺跡) No.2 観察記録3Dモデル

中峠6次1住型深鉢(松戸市中峠遺跡) No.3 観察記録3Dモデル

中峠0地点型深鉢(松戸市中峠遺跡) No.4 観察記録3Dモデル

勝坂Ⅴ式深鉢(松戸市中峠遺跡) No.5  観察記録3Dモデル

中峠0地点型深鉢(松戸市紙敷遺跡) No.6  観察記録3Dモデル

中峠0地点型深鉢(柏市小山台遺跡) No.7 観察記録3Dモデル

中峠0地点型深鉢(野田市東亀山遺跡) No.8 観察記録3Dモデル

中峠5次2住型深鉢(柏市小山台遺跡) No.9 観察記録3Dモデル

中峠5次2住型深鉢(柏市大松遺跡) No.10 観察記録3Dモデル

中峠6次1住型深鉢(松戸市紙敷遺跡) No.11 観察記録3Dモデル

中峠6次1住型深鉢(柏市小山台遺跡) No.12 観察記録3Dモデル

勝坂Ⅴ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.13 観察記録3Dモデル

勝坂Ⅴ式深鉢(柏市小山台遺跡) No.14 観察記録3Dモデル

14器の縮尺は同一


Blender画面


3DF Zephyr Lite画面


3DF Zephyr Lite画面


Sketchfab画面


3Dモデルの動画

2 感想

・この総集モデルは中峠式土器のオリジナル標本を含んでいるので、資料的価値があるものと考えます。

・この総集モデルを活用して中峠式土器の学習を深めることにします。

・総集モデルといえども単体モデルと同じ精度の立体・テクスチャとなっています。

・今後この総集モデルに立体スケールを入れるなど改良を加えることにします。

・土器単体の3Dモデル作成だけでなく、比較対照用の複数土器(多数土器)3Dモデル集成版作成の技術的基礎が固まりつつあります。

2021年4月4日日曜日

加曽利EⅠ式期における浅鉢等一括

 埼玉編年のデータベース化による分析的学習 6

縄文土器学習 571

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器について学習しましたので、メモします。2021.04.04記事「加曽利EⅠ式期における勝坂式・中峠式系統土器」の後続です。

1 埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)の土器群構成


埼玉編年土器群分類と有吉北貝塚土器群分類の対応

2 5群土器11細分の理解

…………………

Ⅸ期・Ⅹ期 5群土器 分類メモ

1 浅鉢有文

【Ⅸa期A類(25)】

口縁部…キャリパー形土器と同じ文様

【Ⅸa期B類(26)】

口縁部…隆帯文様

勝坂式から連続

【Ⅸa期C類(27)】

口縁部…文様なし、隆帯による渦巻文

勝坂式から連続

【Ⅸb期A類(16)】

口縁部…隆帯連結区画文、撚糸文

「く」の字状外反、器高大きくなる

【Ⅸb期B類(17)】

口縁部…隆帯区画文

【Ⅹ期A類(19、20)】

口縁部「く」の字状屈曲、文様帯

器高高くなる

2 浅鉢無文

【Ⅸa期D類(28)】

無文

勝坂式から連続

【Ⅸb期C類(18)】

無文、胴上半部に丹を塗るもの多い

「く」の字状外反、器高大きくなる

【Ⅹ期B類(21、22)】

無文

3 器台等一括

【Ⅸb期D類(19)】

器台土器

【Ⅹ期C類(23~26)】

有孔鍔付土器、台付甕形土器、コップ形土器、器台形土器

Ⅹ期にC類の存在が顕著になる

…………………


埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器(浅鉢等一括)分類の理解

3 5群土器分類理解の3D資料化

5群土器分類の理解(カードの空間配置)を3D資料にして、3D空間でカード記述を読めるようにしました。

埼玉編年(1982)Ⅸ期・Ⅹ期(加曽利EⅠ式)5群土器(浅鉢等一括)分類カードの3D展開 素材1

このモデルの趣旨:埼玉編年(1982)土器分類を理解学習するための3Dツール作成用素材


素材3Dモデルの動画

4 感想

・浅鉢も深鉢と同じく加曽利EⅠ式土器本隊であるキャリパー形と同じ口縁部文様帯をもつものと、勝坂式土器系統のものがあることを知りました。

・Ⅸb期になると浅鉢の器形が「く」の字状外反して器高が高くなる現象は興味を深める対象になります。浅鉢土器が食べ物をディスプレイする機能を持っていると考えるならば、食べ物の量とか質が向上し、それに合わせてディスプレイ容器もデザインされ、大きくなったと空想します。社会が豊かになったのです。

・浅鉢に有文のものと無文のものが並存することの意味に大いに興味が湧きます。後晩期耳飾に精巧で豪華な文様があるものと、簡素なものがあるのと類似の状況がすでに存在していたのではないかと空想します。社会のなかで簡素な祭器利用しか許されない家族(集団)と豪華な祭器を利用できる家族(集団)が並存していた。(?)