2025年10月22日水曜日

貝層3D空間における装飾品分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Ornaments in 3D Space in the Shell Layer (Artifact Database Trial)


I created a 3D distribution model of 55 ornaments (clay, stone, bone, horn, tooth, and shell) described in excavation reports with complete 3D coordinates. Notably, ornaments were excavated in large numbers from the downstream slope of the shell layer on the northern slope.


発掘調査報告書に記載され、かつ3D座標が揃った装飾品(土製、石製、骨角歯牙製、貝製)55件の分布3Dモデルを作成しました。装飾品は北斜面貝層の下流部斜面から多く出土していることが特徴です。

1 有吉北貝塚北斜面貝層装飾品分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層装飾品分布3Dモデル

装飾品件数(発掘調査報告書記載で3D座標が揃ったもの):55件

内訳

土製耳飾(前期耳飾1件、中期耳飾4件)赤色:5件

石製装飾品(コハク製装飾品など)青色:11件

骨角歯牙製装飾品(イノシシ犬歯製垂飾など)灰色:17件

貝製装飾品(イモガイ製腰飾など)黄色:22件

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデルの動画


装飾品の分布

2 素材別装飾品分布

2-1 土製耳飾分布


土製耳飾分布

2-2 石製装飾品分布


石製装飾品分布

2-3 骨角歯牙製装飾品分布


骨角歯牙製装飾品分布

2-4 貝製装飾品分布


貝製装飾品分布

2-5 参考 全遺物分布


全遺物分布

3 メモ

装飾品の分布は貝層分布域に限られています。

装飾品は北斜面貝層の下流部斜面から多く出土していることが特徴です。この傾向は貝製装飾品で顕著です。ただし、土製耳飾は全て上流部それも谷頭部から出土しています。

装飾品の投棄(埋納)は単純な廃棄活動が考えづらく、埋葬や何らかの祭祀と関わっていたと想像しますので、その分布を今後詳しく検討します。



2025年10月21日火曜日

貝層3D空間における骨角歯牙製品分布復元(遺物データベース試用)

 Restoring the Distribution of Bone, Horn, and Dental Artifacts in 3D Space in the Shell Layer (Artifact Database Trial)


I created a 3D distribution model for 142 bone, horn, and dental artifacts listed in excavation reports with complete 3D coordinates. I also created and compared 3D distribution models by subcategory (ornaments, fishhooks, arrowheads, piercing tools, spatula-shaped products, blade-shaped processed products, processed products, and other). Two distinct distribution patterns appear to exist.


発掘調査報告書に記載され3D座標が揃った骨角歯牙製品142件の分布3Dモデルを作成しました。さらに細分類別(装飾品、釣針・鏃・刺突具、ヘラ状製品・刃器状加工品・加工品・その他)についても分布3Dモデルを作成し、比較しました。2つの異なる分布パターンがあるようです。

1 有吉北貝塚北斜面貝層骨角歯牙製品分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層骨角歯牙製品分布3Dモデル

骨角歯牙製品件数(発掘調査報告書記載で3D座標が揃ったもの):142

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデルの動画


骨角歯牙製品の分布

2 骨角歯牙製品の細分類別

2-1 装飾品分布


装飾品分布

2-2 釣針、鏃、刺突具分布


釣針、鏃、刺突具分布

2-3 ヘラ状製品、刃器状加工品、加工品、その他


ヘラ状製品、刃器状加工品、加工品、その他分布

2-4 参考 全遺物分布


参考 全遺物分布

3 メモ

発掘調査報告書に記載されている骨角歯牙製品は163件あり、そのうち142件の3D座標が揃いました。

骨角歯牙製品の分布は貝層分布域に限定されています。

用途を装飾品、狩猟道具、一般道具の3類型にわけてその分布をみると、狩猟道具と一般道群の分布が異なるように観察できます。狩猟道具はガリー流路谷底沿いに多く、一般道具は斜面に多いように分布域をまるで棲み分けしているようにみることができます。装飾品の分布は一般道具の分布と似ているように感じることができます。結果として、骨角歯牙製品はガリー流路谷底沿いをメインにした細分類種群と斜面をメインとして分布する細分類種群に2分できるように捉えることができそうです。

同じ骨角歯牙製品といっても投棄場所が違っているものが含まれています。


2025年10月20日月曜日

貝層3D空間における骨・歯分布復元(遺物データベース試用)

 Restoring the Distribution of Bones and Teeth in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


A 3D model of the distribution of 34,050 excavated bones and teeth was created. The bones and teeth closely match the distribution in the shell layers. In contrast to the bones and teeth, the distribution of 17,481 pottery and earthenware artifacts is also distributed in the gully mud layer surrounding the shell layers. The distribution density of bones and teeth is higher in the middle slope, while that of pottery and earthenware artifacts is lower in the slope.


出土した骨・歯34050件の分布3Dモデルをつくりました。骨・歯は貝層分布とほぼ一致します。骨・歯とくらべて土器・土製品17481件分布は貝層周辺のガリー流路泥層にも分布します。分布密集域が骨・歯は斜面中部に、土器・土製品は斜面下部にあり、異なります。

1 有吉北貝塚北斜面貝層骨・歯分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層骨・歯分布3Dモデル

骨・歯件数(3D座標が揃ったもの):34050

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデルの動画


骨・歯分布

2 骨・歯と土器・土製品の3D分布オーバーレイ

骨・歯と土器・土製品の3D分布オーバーレイ

骨・歯(黄色球):34050件、土器・土製品(赤色球):17481件

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデルの動画


骨・歯と土器・土製品の分布オーバーレイ

3 参考 有吉北貝塚北斜面貝層土器・土製品分布3Dモデル

有吉北貝塚北斜面貝層土器・土製品分布3Dモデル

土器・土製品(3D座標が揃ったもの):17481

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデルの動画


土器・土製品分布

3 メモ

・骨・歯の分布は貝層分布と直接対応しているように捉えることができます。

・土器・土製品の分布は骨・歯の分布≒貝層分布より広く、ガリー流路が運ぶ泥層にも分布します。

・試行分析した区間では土器・土製品は斜面下部に、骨・歯は斜面中部に密集域あり、密集域の場所が語となります。北斜面貝層全体でもその傾向みられるように観察できます。しかし骨・歯が密集しすぎて、土器・土製品との集中域に関する関係を直観的画像として示しにくくなっています。

・今後、骨・歯分布と土器・土製品の分布の違いについて、統計分析的に取組む予定です。


貝層3D空間における石器種別分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Stone Tool Types in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I created 3D distribution models for seven stone tool types, including arrowheads, and based on these, created planar and elevational orthogonal projections. Comparing the stone tool types, arrowheads were primarily distributed at the upper slope, while chipped stone axes were primarily distributed at the lower slope. This difference is intriguing. It turns out that comparative analysis of artifact type distribution is highly valuable.


石鏃など7つの石器種別の分布3Dモデルを作成し、それに基づいて平面オルソ投影図と立面オルソ投影図を作成しました。石器種別を比較すると、石鏃は斜面上部にメイン分布域があり、打製石斧は斜面下部にメイン分布域があり、その違いに興味が湧きます。遺物種分布を比較分析する価値が大きいことが判明しました。

1 石器種別データ

遺物台帳を悉皆的に電子化したデータに基づく有吉北貝塚北斜面貝層遺物データベースでは石器・石出土が2425件あります。この内一括出土などはグリッド内平面座標がないため、これらを除いて3D座標が揃った石器・石は2045件です。さらに発掘調査報告書で石器種別が記載されているのは795件です。この795件の石器・石種別データについて、主なものについて3D空間分布を観察することにします。

●発掘調査報告書に記載された石器・石種別件数

打製石斧 106

石錐 7

石製品 11

石皿 30

軽石製品 38

楔形 62

磨製石斧 44

oef 3

礫 32

礫器 1

石核原石 19

石鏃 145

磨石類 122

叩石 1

砥石 3

砥石状砂岩 156

urf 15

2 主な石器種別分布

出土件数の多いものを中心に主な石器種別3D分布を平面図と立面図で表現しました。石鏃は3Dモデルとその動画も付けました。

2-1 石鏃

有吉北貝塚北斜面貝層石鏃分布3Dモデル

石鏃件数(発掘調査報告書記載件数):145

1件を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


有吉北貝塚北斜面貝層石鏃分布動画


石鏃分布

2-2 打製石斧


打製石斧分布

2-3 磨製石斧


磨製石斧分布

2-4 石皿


石皿分布

2-5 磨石類


磨石類分布

2-6 楔形


楔形分布

2-7 砥石状砂岩


砥石状砂岩分布

3 メモ

分布図を総観的に見て、次の感想を持ちました。

・石鏃分布と打製石斧分布を見ると、石鏃分布の方が打製石斧分布より、より斜面上部に分布していることが判ります。石鏃は斜面のより上部で投棄(埋納)され、打製石斧はガリー流路谷底付近で投棄されたものが多いようです。石鏃は狩猟道具であり、男の活動の象徴的道具である意味があります。打製石斧は土の掘削道具であり、ガリー谷底における何らかの掘削作業に関わったのかもしれません。石鏃と打製石斧の分布比較から興味ある事象のヒントが生まれました。

・磨製石斧分布と打製石斧分布をくらべると、打製石斧のほうが斜面下部や谷底により多く分布していることが判ります。

・石皿の分布は平面でみるとガリー谷(貝層分布域)の上流と下流で分布数がほとんど同じですが、磨石類は上流で多く、下流で少なくなっています。石皿と磨石が調理道具として一緒に使われていたと想像すると、二つの分布は類似すると考えられますが、違っているので興味が湧きます。

・砥石状砂岩の分布が貝層分布と近似しています。ガリー流路の泥層から出土していません。骨・歯分布が貝層分布と近似する現象は理解できますが、砥石状砂岩の分布がなぜこのようになるのか、今後詳しく検討することにします。砥石状砂岩の用途が何であったか、自分が知らないので、この興味ある分布の意味が判らないのかもしれません。

4 分布の統計分析について

11月ごろから、遺物種別分布の比較統計分析を次の項目で行う予定です。

●遺物種別分布の類縁性統計分析 試行

1 基本的な空間統計指標による分布比較

・平均最近隣距離(ANN)

・実際のANNとランダム分布した場合のANNを比較(集中しているかどうかだけの比較)

2 密度分布解析

・立体的カーネル密度推定(遺物数の異なる2つの密度推定を比較できるようにする)その密度の違い、分布の違いを分析する。

・類似度直接評価(空間重なり度、どれだけ動かせば一致するか)

・空間的自己相関(局所集中の存在の比較)

3 多数種別のデータ(例ANNとか相互の種別近隣距離平均とか)を統計分析して、遺物種をクラスタリング(類型区分)する。分布形状や密集度が類似する遺物種をグループに分ける。


2025年10月14日火曜日

貝層3D空間における土器・石器分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Pottery and Stone Tools in 3D Space within the Shell Layer (Artifact Database Trial)


I created a reconstruction of the distribution of pottery and stone tools in 3D space within the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound, and conducted comparative observations of the 3D models. While detailed examination and analysis are anticipated, for now I enjoyed the newly created information. Both pottery and stone tools are distributed in layers within the shell layer.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土器分布・石器分布復元資料を作成し、その3Dモデルを比較観察してみました。詳細検討・分析は先の楽しみですが、とりあえず出来立ての情報を楽しんでみました。土器・石器ともに貝層内で層状に分布しています。

1 有吉北貝塚北斜面貝層の土器・土製品3D分布

有吉北貝塚北斜面貝層の土器・土製品3D分布

遺物数(3D座標が揃ったもの):17481件

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

2 有吉北貝塚北斜面貝層の石器・石3D分布

有吉北貝塚北斜面貝層の石器・石3D分布

遺物数(3D座標が揃ったもの):2045件

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

3 土器・土製品-石器・石オーバーレイ

土器・土製品-石器・石オーバーレイ

土器・土製品(17481件)を赤点、石器・石(2045件)を青点で表示

1遺物を直径5㎝球で表現

3DF Zephyr v8.029でアップロード


3Dモデル画像


3Dモデル動画

4 メモ

土器は分布粗密が特段に明瞭で、集中土器投棄場所が確認できます。土器分布と比べて、石器は一様に分布しています。石器が特段に集中投棄された場所は鳥瞰レベルでは見つかりません。

土器は層状に分布しています。下流部では3層の層構造が見られますが、この3層が上流・谷頭部にどのように連続するのか、今後詳しく検討します。遺物層状分布と貝層分布の対応が判れば、そして土器型式との関連が判れば、貝層発達史、貝層利用史が浮かび上がります。

5 技術メモ

当初遺物をBlenderのUV球で表現していたのですが、1万点以上になると三角面の数が多くなりすぎ、Sketchfab投稿に失敗しました。そのためICO球(正20面体)を使いました。

Sketchfabで遺物集中域が判りやすくなるような工夫(SSAO スクリーンスペース・アンビエント・オクルージョンを使う)をしました。


2025年10月12日日曜日

土器部位別分布類似度を比較する画像、動画、3Dモデル

 Images, videos, and 3D models comparing the distribution similarity of pottery by part


I created images, videos, and 3D models to intuitively compare the distribution similarity of pottery by part: rim, base, and handle. The limited distribution of handles is clearly evident.


口縁部、底部、把手という部位別土器分布の類似度を直観的に比較するための画像、動画、3Dモデルを作成しました。把手の分布が限定されていることがよくわかります。

1 土器口縁部-底部分布オーバーレイ


土器口縁部-底部分布オーバーレイ画像


土器口縁部-底部分布オーバーレイ動画

土器口縁部-底部分布オーバーレイ3Dモデル

2 土器口縁部-把手分布オーバーレイ


土器口縁部-把手分布オーバーレイ画像


土器口縁部-把手分布オーバーレイ動画

土器口縁部-把手分布オーバーレイ3Dモデル

3 土器底部-把手分布オーバーレイ


土器底部-把手分布オーバーレイ画像


土器底部-把手分布オーバーレイ動画

土器底部-把手分布オーバーレイ3Dモデル

4 メモ

動画、3Dモデルにより、把手分布域の限定を直観的に観察できます。把手分布域からどのような意味を読み取れるのか、今後の検討課題です。把手投棄場所は貝層内活動主部に対応しているような印象をうけます。


2025年10月11日土曜日

土器部位別分布に関する分布類似度統計分析の一例

 An Example of Distribution Similarity Statistical Analysis of Pottery Part Distribution Information


Pottery information for each part—rim, base, and handle—is plotted in 3D space. Although the number of pieces varies significantly, their distribution appears similar at first glance. Therefore, I conducted a trial study using the Chamfer distance average as an indicator to determine whether the distributions for the three parts are statistically similar. The handle distribution differs from the rim and base distributions.


口縁部、底部、把手という部位別土器情報が3D空間にプロットされています。部位別土器数は大きく異なりますが、一見するとその分布の様子は似ています。そこで、3つの部位別分布が統計的に似ているのか否か、Chamfer距離平均を指標に試行的検討をおこないました。把手分布が口縁部・底部分布と異なります。

1 Chamfer距離平均の単純適用

1-1 Chamfer距離平均の算出法

口縁部をA、底部をBとした場合、

Aのそれぞれの点について、Bの全点を対象として最近傍距離を算出する。次にA全点の最近傍距離平均aを求める。

Bのそれぞれの点について、Aの全点を対象として最近傍距離を算出する。次にB全点の最近傍距離平均bを求める。

Chamfer距離平均を次式から求める。

A-BのChamfer距離平均=(a+b)/2

1-2 結果

口縁部-底部のChamfer距離平均…0.357

口縁部-把手のChamfer距離平均…0.647

底部-把手のChamfer距離平均…0.714

口縁部-把手のChamfer距離平均が短く、この2つの部位の分布は似ています。しかし、口縁部-把手のChamfer距離平均は0.647(口縁部-底部の1.8倍)、底部-把手のChamfer距離平均は0.714(口縁部-底部の2.0倍)と長くなります。従って、口縁部、底部の分布と較べて、把手の分布だけが異なっている様子を確認できます。

口縁部分布


底部分布


把手分布

2 部位別土器数の数の違いによる影響を回避したChamfer距離平均

2-1 部位別土器数の数の違いによる影響回避法

口縁部土器数は3482、底部土器数は1073、把手土器数は173と土器数の数の違いが大きいので、その数の違いの影響を次の方法で回避して、Chamfer距離平均を求めました。

2つの部位土器の少ない土器数に合わせて、多い部位土器からランダムサンプリングしてChamfer距離平均を求める。ランダムサンプリングは1000回行い、Chamfer距離平均の1000回平均を最終Chamfer距離平均とする

2-2 結果

口縁部-底部のChamfer距離平均…0.433±0.009(95%)

口縁部-把手のChamfer距離平均…1.050±0.065(95%)

底部-把手のChamfer距離平均…1.033±0.060(95%)

1の単純適用結果をより強調した結果となりました。口縁部-底部の値0.433に対して把手と口縁部、把手と底部の値はそれぞれその約2.4倍になります。つまり把手の分布が、口縁部分布、底部分布と異なっている様子を統計的に把握できます。

3 メモ

Chamfer距離平均分析から、口縁部と底部3D分布は似ているけれども、把手3D分布は離れてることがわかりました。なぜこの違いが生まれているのか、大きな問題意識を持つことができました。廃用土器投棄原理が口縁部・底部と把手では違うことが予想されます。言い換えれば、把手のない土器と把手のある土器の廃用時投棄活動が違っていたと予想されます。

追記 2025.10.13

把手のある完形に近い土器がその場で壊されて投棄されたと考えると、把手と(把手の無い部分の)口縁部と底部は近くに存在し、今回のような統計にはならないと考えられます。今回の結果は把手だけが口縁部や底部と切り離された状態で投棄された様子を暗示していると考えます。出土把手現物を見ればなにかわかるかもしれませんが、現状では現物にアクセスできません。


2025年10月10日金曜日

貝層3D空間における土錘分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Earth Weights in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I have created a prototype reconstruction of the distribution of earth weights in 3D space in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. Since earth weights are used for fishing nets, I believe that the distribution of earth weights is an indicator of fishing net disposal sites. The distribution characteristics of earth weights are clearly different from the distribution characteristics of pottery itself.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土錘分布復元資料を試作しました。土錘は漁網の錘ですから、土錘分布は漁網廃棄地点の指標であると考えます。土錘分布特性は土器そのものの分布特性とは明らかに異なります。

1 土錘3D分布図


土錘分布

3D座標が揃った土錘586件の分布図です。情報源は発掘調査報告書です。

北斜面貝層下流部斜面が主な分布域となり、上流部、谷頭部の出土は少なくなっています。またガリー流路における極端な集中はありません。


参考 土器分布

3D座標が揃った土器・土製品17481件の分布図です。


参考 朱塗土器分布

3D座標が揃った朱塗土器529件の分布図です。

土錘と朱塗土器は出土数は類似していますが、その分布特性が異なります。朱塗土器の廃棄原理と土錘(漁網)の廃棄原理が異なっていることが判ります。

2 メモ

土器・土製品全体、朱塗土器、土錘の3D分布をみると、いずれも北斜面貝層に広く分布しますが、密集性という観点でみるとそれぞれ分布特性が異なると直観的に観察できます。この直観的観察は統計的に検証して説明的に記述する予定です。

遺物種別の3D分布特性が異なる様子から、遺物毎に廃棄活動が異なっていた可能性を導くことができそうです。例えばガリー流路には土器が特段に密集して出土していますが、「土器塚」のような意味のある活動が存在していた可能性があります。

朱塗土器は北斜面貝層に満遍なく、特段の集中を避けるように分布していて、それが意味のある廃棄活動だったのかもしれません。

土錘は生産道具(漁網)の廃棄に伴うものですが、下流部に主な分布域があり、斜面貝層空間利用のおける緩やかなゾーニングが存在していたと想像します。上流部や谷頭部に人骨集中場所があり、土錘(漁網)廃棄はそうした聖的空間を避けていたのかもしれません。


2025年10月7日火曜日

貝層3D空間における土器分布復元(遺物データベース試用)

 Reconstructing the Distribution of Pottery in 3D Space in Shell Layers (Artifact Database Trial)


I have created a prototype reconstruction of the distribution of pottery in 3D space in the shell layer on the northern slope of the Ariyoshikita Shell Mound. This is the result (provisional) of my efforts to familiarize myself with the operation of the artifact database. Interesting phenomena can be observed. This 3D spatial distribution data of various artifact classifications in shell layers is unprecedented in Japan.


有吉北貝塚北斜面貝層3D空間における土器分布復元資料を試作しました。遺物データベースの操作習熟作業の結果産物(仮成果)です。興味ある事象が観察できます。貝層における、遺物の各種分類別3D空間分布資料は、本邦では類例をみたことがありません。

1 土器分類

遺物台帳の情報から、データベースでは土器・土製品について次の分類をしています。

●土器・土製品分類1

1…土器

2…土製品

●土器・土製品分類2

1…(土器)土器

2…(土器)口縁部

3…(土器)底部

4…(土器)把手

11…(土製品)土錘

12…(土製品)円盤

13…(土製品)耳飾

14…(土製品)11、12、13以外の土製品

●土器・土製品分類3

1…朱塗

2…非朱塗

この情報にから次の項目の3D分布図を作成しました。

参考 全遺物の3D分布

1 土器・土製品の3D分布

2 土器口縁部の3D分布

3 土器底部の3D分布

4 土器把手の3D分布

5 朱塗土器の3D分布

2 土器3D分布図


参考 全遺物分布

3D座標が揃った全遺物55892件の分布図です。背景グリッドの大きさは1m×1mです。


土器分布

3D座標が揃った土器・土製品17481件の分布図です。


土器口縁部分布

3D座標が揃った土器口縁部3482件の分布図です。


土器底部分布

3D座標が揃った土器底部1073件の分布図です。


土器把手分布

3D座標が揃った土器把手173件の分布図です。


朱塗土器分布

3D座標が揃った朱塗土器529件の分布図です。


土器分布(任意視点から)


朱塗土器分布(任意視点から)

3 メモ

・全遺物分布図と土器分布図を比較すると分布傾向が明瞭に異なります。全遺物は貝層の中に満遍なく分布している様子が読み取れ、おもに骨・歯の分布を表現しているようです。土器はガリー流路に沿って密に分布していて、斜面での分布が少なくなっています。詳しい検討は後日行いますが、土器はガリー流路に好んで投棄され、斜面に投棄されたものは少なかったようです。

・土器口縁部、土器底部、土器把手の分布も大局的には土器分布と同様の傾向にあるように見えます。土器部位別に分布特性が本当に同じなのか、統計的検証を後日行うことにします。

・朱塗土器の分布特性は土器分布、部位別土器分布と異なり、ガリー流路沿いの集中が見られません。重要な検討課題発見です。朱塗土器が日常的な調理用途ではなく、儀礼的調理に関わる特別な用途であったとすると、その廃棄(投棄)の仕方も特別なものであった可能性を感じさせる分布事象です。

・土器分布及び部位別分布の濃密の様子が発掘作業単位別に異なります。遺物個体として取り上げる大きさ基準や、接合する土器片を分けるか一緒にするかの基準、土器部位別情報記録の可否などが現場(担当者)によって微妙に異なっていたことが想定できます。


2025年10月6日月曜日

3D空間分析用遺物データベースのプロトタイプ完成

 Completed prototype of artifact database for 3D spatial analysis


A prototype database has been completed that adds artifact distribution map data to artifact ledger data. There are 55,892 artifacts with complete 3D coordinates (total artifacts: 63,599). Using recently acquired techniques, a CSV file containing 42 items and 55,892 records can be plotted in a Blender 3D viewport in approximately one second.


遺物台帳データに遺物分布図読取り平面座標を加えたデータベースのプロトタイプが完成しました。3D座標が揃う遺物は55892(遺物総計は63599)です。最近習得技術により、42項目×55892レコードのcsvファイルのBlender3Dビューポートプロット時間は1秒程度です。

1 遺物分布図読取データのチェック

5月~9月にかけて実施した遺物分布図からの遺物平面座標読取り結果のチェックを行いました。

146枚遺物分布図の中に1枚だけ遺物番号が略記(※)されているものを発見し、この発見だけで3D座標が揃う遺物が約500増えました。

※この遺物分布図では、遺物番号は全て1000番台であるが、記載は1000番台の最初の1が省略されている。

2 3D空間分析用遺物データ(csvファイル)のBlenderプロット

BlenderPythonスクリプトにより、3D空間分析用遺物データ(csvファイル、42項目×55892レコード)をBlender3Dビューポートに1遺物を1頂点でプロットしました。1頂点には多数の分類情報が紐づいています。このプロットにかかった時間は1秒程度です。感動的短時間です。もしオブジェクト(CUBE)などでプロットするならば、2時間以上の時間を覚悟する必要があります。


3D座標が揃った全遺物の頂点としてのプロット

3 geometry nodesによる分類別実体化

Blenderに取り込んだデータベースからgeometry nodesで好みの分類による遺物分布を実体化できます。実体化も瞬時に終わります。


土器のプロット


土器プロットのgeometry nodes


骨・歯のプロット

4 メモ

データのプロトタイプが完成し、またデータ活用基礎技術の確認ができました。

しばらくの間、遺物分類毎の3Dモデルを作成して、どのような分析が可能か考えながら、データの使い勝手を体感することにします。

その後に、データの中に、発掘調査報告書遺物分類に準拠した第2の遺物分類体系をつくり、追加することにします。現状の遺物分類は遺物台帳そのものの分類であり、発掘現場における仮分類です。例えば、発掘調査報告書で人骨とされる遺物のほとんど全てが遺物台帳では骨・歯です。こうした不都合を解消するために、発掘調査報告書に準拠した第2遺物分類をデータベースに追加します。