花見川地峡史-メモ・仮説集->3花見川地峡の利用・開発史> 3.4〔仮説〕律令国家の直線道路、東海道水運支路の検討>3.4.293 遺跡発掘調査報告書のGIS利用分析方法のメモ
鳴神山遺跡で使った、GIS利用による発掘調査報告書の分析学習方法をまとめ、その効率化・高度化について技術的な検討を行います。
現在進めている花見川-平戸川筋古代遺跡発掘調査報告書の悉皆閲覧活動は、今後、主要遺跡はGIS利用分析学習に切り替える予定です。
この記事ではGISを利用した分析方法をメモしておきます。
● 鳴神山遺跡検討で使ったGIS利用分析方法
1 基礎ファイル(データファイル)の作成
1-1 遺構の位置情報取得
1-1-1 遺構配置図をGISに取り込む
遺構配置図をスキャンしてjpgファイルを作成して、GISでそのjpgファイルを開く→画像位置合わせします。
遺構配置図の例
1-1-2 遺構にドットを記入し遺構番号を記述する
GISに遺構分布レイヤー(点情報のレイヤー)を作成して、遺構毎にドットを記入し、その属性情報として遺構番号を書き込みます。
遺構配置図をGISに取り込み、遺構にドットを記入した様子
1-1-3 遺構分布レイヤーをcsvファイル出力する
遺構分布レイヤーをcsvファイル出力します。csvファイルには遺構番号と緯度・経度情報が含まれます。
このcsvファイルをExcelファイルに変換します。
遺構別緯度・経度情報のExcelファイル(部分)
1-2 遺構の年代情報取得
遺構別緯度・経度情報ファイルに四半期別年代項目を設定し、報告書記載の遺構年代情報(年代一覧表)から遺構別に該当年代にチェック(具体的には数値1を記入)します。
このExcelファイル(遺構別緯度・経度情報及び年代情報)を遺構別レコードベースファイル(ベースファイル)と呼ぶことにします。
遺構別レコードベースファイル(ベースファイル)
1-3 遺構の出土物情報取得
ベースファイルに出土物項目欄をつくり、報告書記載から遺構別出土物数量を記入します。
遺構別出土物数量の記載の様子(土器以外)
土器は器種別の数量を記入しました。
遺構別出土物数量の記載の様子(土器 部分)
墨書土器は墨書土器データベースの情報(個別墨書土器片をレコードとする情報、遺構番号が掲載されている)を遺構別に整理しなおして(ソートして)、文字別数量を記入しました。
遺構別出土物数量の記載の様子(墨書土器文字 部分)
鳴神山遺跡では出土物項目(器種別土器項目、墨書土器文字項目を含む)は全部で約250となりました。
ベースファイルに出土物項目を書き込んだファイルをデータファイルと呼ぶことにします。
2 年代別集計及び分布図の作成
データファイルから年代別に遺物出土数の合計をカウントすることは通常のExcel操作で簡単にできます。
またカウント結果をグラフにすることもExcel操作でできます。
遺物出土数の単純出土数及び年代別出土数の分布図作成は次のような作業ファイルを作成して行います。
例えば土師器坏の単純出土数分布図と年代別分布図を作成する場合は次のような作業ファイルを作成します。
データファイル(元ファイル)
単純出土数分布図作成のための作業ファイル(Aファイル)
年代別分布図作成のための作業ファイル(Bファイル)
Aファイルをcsv出力してそれをGISにインポートします。インポートファイルは遺構のプロット図になります。
そのインポートファイルにAファイルのcsv出力ファイルをcsv結合すると、土師器坏の単純出土数グラフを描くことができます。(地図太郎PLUSの場合)
Bファイルをcsv出力してそれをGISにインポートして、そのインポートファイルにBファイルのcsv出力ファイルをcsv結合すると、年代別に土師器出土数のグラフを描くことができます。(地図太郎PLUSの場合)
3 検討
3-1 データファイル作成の効率化
データファイル作成に時間と労力投入が必要です。
発掘調査報告書の記載を理解して、そこから出土物の数量をカウントしてExcelファイルに書き込む作業が最も根気のいる作業となります。
この作業は図書館ではできませんから、自宅に発掘調査報告書(あるいはそのコピー)を用意する必要があります。(鳴神山遺跡では尋常な方法ではコピーを用意することが出来ず、作業が大幅に遅滞しました。)
また、出土物の数量をカウントするといっても、例えば器種別土器の場合、鳴神山遺跡では器種が53になります。類似した表現の器種53を記憶して作業するということは、効率化の工夫をいろいろするにしても、大変時間のかかる作業です。
これらの作業の効率化がこれからの別遺跡作業での課題です。
3-2 年代別分布図の作成
データファイルが完成してしまえば、その後の分析作業は軽快に行うことができ、時間もわずかしかかかりません。
しかし、数量のグラフ分布図作成は地図太郎PLUSでは次の3種しかできませんし、その設定機能もシンプルです。
円グラフ
四角グラフ
棒グラフ
地図太郎PLUSではなく、QGISに高度なグラフ分布図作成機能があれば、それにいつか乗り換えたいと考えています。
3-3 GIS利用分析の意義
感覚的な感想ですが、発掘調査報告書の詳細情報(出土物記載情報)をGISを使って分析検討している例は花見川-平戸川筋遺跡では見当たりません。
また、GISは使わなくても、詳細情報(出土物記載情報)全般を統計等の手法により分析している例も極めて限られているようです。
詳細情報(出土物記載情報)は宝庫に眠る金銀財宝であり、その宝庫を開いて金銀財宝を取り出している人はほとんどいないような印象を持ちます。
主要な遺跡についてことごとくGIS分析を適用して検討して、遺跡間の対照比較をおこなえば、恐らく有用な新情報を多量に得ることができると考えます。