2020年2月29日土曜日

把手のある意匠充填系土器

縄文土器学習 361

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。この記事では把手1つと波状口縁を持つ意匠充填系土器、加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15を観察します。(企15はこのブログにおける整理番号です。)

1 加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 観察記録3Dモデル 
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」 
撮影月日:2019.11.19 
整理番号:企15 
ガラス面越し撮影 
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 83 images

展示の状況

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真をつくりました。
ここで示す展開写真はテクスチャモデル(画像を貼り付けたモデル)展開写真とソリッドモデル(凹凸だけのモデル)展開写真をPhotoshopでオーバーレイして作成しました。単なる展開写真ではなく、立体性を付与した展開写真です。
隆帯をトレースするときなどでは、オーバーレイ方法の違いによって立体性強調場所が異なるので、幾つかの展開写真をつくり参考にします。

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 展開写真 2

3 文様の分布
文様(隆帯)の分布は次の通りです。

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 の文様(隆帯)の分布

4 観察及び感想
・上段に渦巻文、下段におそらく懸垂文が配置されていて、1本隆帯で意匠が充填されています。
・上段は渦巻文と副文として区画文があるように観察できますが、渦巻文と副文が繋がっているとこともあります。
・上段と下段は1本隆帯で分かれています。
・把手1つと口縁部突起3つの4単位の器形をしていますが、把手部分に対応する渦巻文は上下から2つ派生していて、個々だけ特別です。把手のある場所がこの土器に正面であると考えられます。
・口縁部形状は把手のある場所と対向の突起の場所では湾曲が異なります。把手のある場所のほうが口縁部の湾曲が強くなっています。胴本体の形状は円形に近い造形になっています。(2020.03.01追記 この記述は粗雑な観察であり、間違っているようです。下図をよく見ると、土器投影形は把手とその対向突起を結ぶ軸方向に長軸を持つ楕円になっています。土器作成に際して土器正面を最初から設定している可能性があり、土器形状がその思考(土器設計イメージ)に影響を受けている可能性があります。模様と形状からみた土器正面という概念について観察を重ねたいと思います。)

加曽利EⅢ式深鉢(印西市馬込遺跡)企15 土器の「上から」3Dモデル画像(オルソグラフィック画像)
・把手や波状口縁のある土器の割合は加曽利EⅡ式土器と比べて加曽利EⅢ式土器では格段に増えるのではないかと想定しています。逆に言えば加曽利EⅡ式土器の時代には前後と比べて、特別少なかったと考えます。波状口縁の有無・把手の有無・把手デザインの精緻化が社会の趨勢(発展と凋落)に関連していると仮説しています。その仮説を検証したいという気持ちが趣味活動推進源の一つになっています。

2020年2月28日金曜日

紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器

縄文土器学習 360

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。この記事では紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5土器を観察します。(後5はこのブログにおける整理番号です。)

1 加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」後半展示
撮影月日:2020.01.21
整理番号:後5
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 79 images

展示の状況

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真をつくりました。この土器は文様の分布が観察しにくいので調整の異なる4種の展開写真をつくり、比較しながら隆帯の正確な分布を把握しました。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 2

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 3

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 展開写真 4

3 文様の分布
文様(隆帯及び縄文)の分布は次の通りです。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5の文様(隆帯及び縄文)の分布

4 観察及び感想
・紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器として加納実先生論文に紹介されている土器と文様構成が瓜二つです。

加納実先生論文掲載図(紡錘状の円形意匠を有する意匠充填系土器)
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用

・紡錘状の円形意匠は渦巻文から変化したもので、この土器がEⅢ式新期のものであることを示しています。
・下段の文様からは渦巻の要素は消失して懸垂文だけになっています。
・この土器を真上からみると土器がいびつであることがわかります。展開写真に表現されている口唇部突起3つのうち右側のもの付近が立面で平状になっています。もしかしたら、この部分が土器「正面」かもしれません。
・文様はいびつな土器に合わせて歪んでいます。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5の「上から」3Dモデル写真(オルソグラフィック投影)

5 注
この土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)は加曽利貝塚博物館主催の縄文時代研究講座「県内他地域からみた加曽利貝塚の様相-印旛地域との比較-」(講師 学芸員米倉貴之先生)で横位連携弧線文土器として紹介された土器です。
2019.12.15記事「縄文時代研究講座 米倉貴之先生講演の聴講

この土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)が横位連携弧線文土器として紹介されている様子
この情報に基づき、このブログでは次の記事でこの土器(加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5)を横位連携弧線文土器の代表例として紹介しました。
2020.02.23記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント
しかし、この土器をよく観察すると、上記のように本質は意匠充填系土器であると言わざるを得ません。
縄文時代研究講座資料に土器写真の入れ間違い(錯誤)等があったものであると考えますので、米倉先生に確認をとったうえで2020.02.23記事を訂正する予定です。
 

2020年2月27日木曜日

千葉市遺跡発表会(R2.2.29)の中止

2020.02.06記事「千葉市遺跡発表会(R2.2.29)と埋蔵文化財ロビー巡回展の情報」で情報紹介した千葉市遺跡発表会(R2.2.29)がコロナウィルスに関連して開催中止となりました。
成果報告3編と講演1題が予定されていました。
とても楽しみにしていたので残念です。

私は講演「古代国家を支えた国境の開発-土気地区の奈良・平安時代- 千葉市埋蔵文化財調査センター所長 西野雅人」に最大関心を持っていたのですが、別のチャンスを捉えて土気地区学習を深めたいと思います。
土気地区については以前ジオラマの3Dモデルや地形3Dモデルを作ったことがあり、2月29日の講演は興味を深めるよいチャンスであると期待していてのですが・・・。

あすみが丘プラザ展示室ジオラマ3Dモデルの動画
土気地区ジオラマ3Dモデル
撮影場所:千葉市土気あすみが丘プラザ展示室
撮影月日:2019.08.26
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.509 processing 32 images
千葉市遺跡発表会講演とは関係ありません。

現在の土気地区地形3Dモデル
QGISプラグインQgis2threejsで作成
地形情報は5mメッシュ 空中写真はGoogle earthによる
垂直強調度5.0
千葉市遺跡発表会講演とは関係ありません。

我孫子市湖北郷土資料室の意匠充填系土器

縄文土器学習 359

現在、加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習していますが、この記事では関連参考として、以前我孫子市湖北郷土資料室で観覧した意匠充填系土器を観察します。

1 加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 観察記録3Dモデル
撮影場所:我孫子市湖北郷土資料室
撮影月日:2019.08.14
ガラスショーケース越し撮影のため難点多
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.506 processing 24 images

展示の状況
4面ガラス張のショーケースに天井の蛍光灯が激しく反射していました。

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢形土器 鹿島前遺跡 展開写真 2
隆帯の連続性等をより正確に観察するために色合いは無視して、1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・上段と下段に2本隆帯による渦巻文がつなげられて配置していますが、復元されていない最下段部にも隆帯による区画文(?)があるようで、その一部がみえます。
・個別渦巻文の変形度合いが強い土器であるという印象を受けます。下段中央の渦巻文は渦巻になっていないといってもよいほどです。
・上段渦巻文は隆帯でそれを描いた後、最後に隣の渦巻文と1カ所で繋いでいる様子が見えますが、下段の渦巻文と区画文は連続して充填されています。意匠充填の仕方(手順)が上下で少し違うようです。
・渦巻の先端が少し膨らんでいます。つる草の先端が丸まって伸びている様子をイメージしているようです。膨らんで表現しているものは、さらに小さくクルクル渦をまいている様子であると想像します。
・意匠充填系土器といってもその文様は土器1つ1つで違い、見ていて飽きが来ません。

2020年2月26日水曜日

意匠充填系土器もどき土器

縄文土器学習 358

加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
この記事では意匠充填系土器もどき土器のように感じた加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市一本松遺跡)後1土器を観察します。(後1はこのブログの整理番号)
この土器の詳細(この土器の専門的観点からの分類や名称等)が判った時にこの記事を訂正します。

1 加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市一本松遺跡)後1 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市一本松遺跡)後1 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」後半展示
撮影月日:2020.01.21
整理番号:後1
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 45 images

展示の状況
口縁部が8割ほど失われていて、復元されていていません。

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市一本松遺跡)後1 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市一本松遺跡)後1 展開写真 2
隆帯の連続性等をより正確に観察するために色合いは無視して、1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・器形がラッパ形をしています。どうヒイキ目に見てもキャリパー形とは言えない器形です。このような器形が加曽利EⅢ式土器の仲間としてあるのか知りません。
・口縁部が無紋で、このような特徴も加曽利EⅢ式土器の仲間にあるのか知りません。
・胴部の文様が渦巻文と副文様(区画文)で充填されているので、意匠充填文土器に似ています。
・しかし、文様構成が3段になっていて、これまで観察してきた2段のものと異なります。
・文様は2本隆帯によってつくられています。
・上段は横に長い不定形の区画文、中段は渦巻文、下段は懸垂文となっています。
・大きな渦巻文の中心部に棘が5本生えていて、よく見る渦巻文と様相が異なります。
・小さな渦巻文が上下に隆帯でつがながった文様があります。

・キャリパー形土器やズングリムックリした形状の意匠充填系土器・横位連携弧線文土器と異なる形状(ラッパ形土器)の土器に、意匠充填系土器の文様要素を転写した「意匠充填系土器もどき土器」であると感じました。

意匠充填系土器 その3

縄文土器学習 357


加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
この記事では意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25土器を観察します。(企25はこのブログの整理番号)

1 加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2019.11.19
整理番号:企25
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 39 images

展示の状況
次の理由からこの土器展示は企画展の中では最も劣悪な観覧環境(撮影環境)に置かれています。
・ショーケースの一番奥の角に置かれ、手前の土器に視線がさえぎられ撮影視野が狭い。つまり死角が多い。
・土器固定用透明アクリル環が照明遮断・反射・影などの効果を生み、土器中段の観察が希薄になる。
・土器固定用底面円形アクリル板が赤色反射光を土器下部に投射し、土器下部の観察が希薄になる。
・土器固定具の透明足が視界を遮る。
・ガラス面越しであり室内反射光の影響がある。
このような劣悪な環境の下でも多数写真を撮影すれば個人学習用とはいえ3Dモデルができることは素晴らしいことです。

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(成田市長田雉子ヶ原遺跡)企25 展開写真 2
隆帯連続性等をより正確に観察するために色合いは無視して、1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・上段、下段ともに渦巻文が繋がって配置されています。
・渦巻文は1本の隆帯で描かれ、隆帯の両側には幅が狭いナゾリが観察できます。

上段渦巻文が繋がっている様子と、隆帯とその両側のナゾリ
・上段渦巻文は8、下段渦巻文は4配置されている様子です。上段2に対して下段1という渦巻文の位置関係配列がみられます。
・渦巻文とその間を埋める副文様を抽出するために隆帯をトレースしてみました。

隆帯のトレース
・上段は口唇部の隆帯によって渦巻が閉じていて、それによって充填され、副文様はありません。
・上段と下段の間には「地」(無紋)が広がり、隆帯はありません。
・下段は渦巻文と渦巻文の間が副文様(中央部が狭い長楕円文)で充填されています。

・意匠充填系土器という名称とその実態をこの企画展で初めて知りましたが、文様のあり様を観察すると興味が強く湧いてきます。
・展示されている土器は「露天」展示土器1点を除いて全てショーケースに入っていますから、表面積の半分ほどしか観察できません。すべての土器が模様や器形について対向対称とは限りませんから、残念です。ある特定の正面がある土器もあり得ます。
・この企画展はプロ、セミプロ向け企画展であり、スルメのようです。一般素人から見ると難解です。口に入れただけでは固いだけです。噛めば(意匠充填系土器の意味などを学習すれば)味がでます(興味が深まります)。
・この企画展は、一言でいえば意匠充填系土器とか横位連携弧線文土器などの展示会ですから、それらのわかりやすい説明がパネルであればよかったと思います。

2020年2月25日火曜日

意匠充填系土器 その2

縄文土器学習 356


加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
この記事では意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(成田市新山台遺跡)企27土器を観察します。(企27はこのブログの整理番号)

1 加曽利EⅢ式深鉢(成田市新山台遺跡)企27 観察記録3Dモデル

加曽利EⅢ式深鉢(成田市新山台遺跡)企27 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2020.01.07
整理番号:企27
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 53 images

展示の状況

2 3Dモデル展開写真
GigaMesh Software Frameworkを使って3Dモデルから展開写真を作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢(成田市新山台遺跡)企27 展開写真 1

加曽利EⅢ式深鉢(成田市新山台遺跡)企27 展開写真 2
1と異なる調整により作成したものです。

3 観察と感想
・上部に渦巻文(逆J字状)と中央部が狭まる矩形文が交互に並びます。下部には砲弾型の懸垂文が並びます。
・渦巻文と矩形文の配置と下部懸垂文の位置関係は揃えられています。
・渦巻文、矩形文、懸垂文ともに隆帯と幅が狭いナゾリで縁取りされた縄文施文部です。
・上部と下部の間には幅の広い無紋部(磨消部)が存在するため、縄文施文の渦巻文、矩形文、懸垂文が「図」として浮彫になっています。逆に磨消部分が「地」であることがわかります。
・同じ意匠充填系土器といっても、この土器はわざと意匠を完全に充填しない例であり、個々意匠の存在感増幅効果を狙ったものだと思います。

意匠充填系土器

縄文土器学習 355

加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
2020.02.23記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント」で加曽利EⅢ式土器が次の3種から構成されていることを知りました。

加曽利EⅢ式土器の3つの種類
ア キャリパー形土器
イ 意匠充填系土器
ウ 横位連携弧線文土器

このうち意匠充填系土器として加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 観察記録3Dモデルを掲載しました。この記事では加納実先生論文における意匠充填系土器説明を学習するとともに、企33土器について観察します。(企33はこのブログの整理番号)

1 加納実先生論文における意匠充填系土器の説明
「意匠充填系土器とは、読んで字の如く、主として隆帯で、器面に個別の意匠(パネル状に縄文部をふちどる意匠・文様)を充填してゆく(はめ込んでゆく)もので、イメージとしては、巷のジグソーパズルの完成へ向けての工程を紡彿させる。
具体例としては第2図7のように、胴部上半に主文様である渦巻文を描出し、渦巻文間を逆三角形風の意匠(副文様として捉え得る)や、中央部が幅狭に歪む縦長の長方形風の意匠(これもまた副文様として捉え得る)で充填するもので、胴部下半も、末端を解放しているものの、懸垂文風の方形の意匠を、上端を渦巻文に沿わせながら充填している。

第2図7
しかし、厳密に謂うならば、主文様間に副文様を充填するのではなく、主文様の描出により二次的に生成した主文様間の空隙部を、我々が副文様として認識しているに過ぎない。
意匠充填系土器群の意匠描出技法・意匠描出効果の注目すべき性格として、磨消縄文手法に関わる相反する2つの性格の内包を挙げておかなければならない。これは意匠充填系土器は、個別のパネル状の意匠を器面に空隙なきように充填してゆく手法を採るために、意匠描出効果として、図(縄文)/地(無文)の対照効果に極めて乏しい点である。
 しかしながら、意匠を描出する隆帯と隆帯両脇のナゾリ部には決して縄文が施されることはなく、 幅狭の無文部を確実に有しているとも言えよう。
 この相反する性格の内包は、 後述する他系統の土器群への影智を読みとる際に困難をきたすこととなる。 しかしながら意匠充填系土器そのものの展開に際し ては、幅狭の無文部の存在が優先されている。
具体的には、 意匠充填系土器成立段階の意匠描出技法は、一義的には1本の隆帯(単浮線)で為されているが、 充填されている個々の意匠そ のものの縁取りは、隆帯ではなく隆帯両脇のナゾリによって為されており、隣接する2つの意匠描出に関わる隆帯は1本である。
 しかし加曽利E式土器の意匠描出技法の基本的性格である磨消縄文技法のもと、 “図/地” 効果を獲得してゆく過程(個別の意匠間に無文部を設ける) のなかで、隆帯両脇のナゾリを幅広に獲得するのではなく、個別の意匠毎に “隆帯+両脇のナゾリ” の描出技法を獲得し、結果として2本隆帯(複浮線 第4図3)が出現することとなる。

第4図3
この結果、 意匠充填系土器は本来有していた相反する性格のひとつである貧弱な “図/地” 効果を払拭し、 磨消縄文技法(卓越した “図/地” 効果)を優先的に消化し、 "図” である縄文部の意匠の単位文化を獲得してゆくこととなる。」
加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用

2 加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 の観察

加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 展開写真
GigaMesh Software Frameworkにより観察記録3Dモデルから作成

展開図をよく見るとこの土器の隆帯(浮線)は2重になっていて、上記加納実先生論文でいう2本隆帯(複浮線)土器です。加曽利E式土器の意匠描出技法の基本的性格である磨消縄文技法のもとでのナゾリの幅広化ではなく、隆帯+両脇のナゾリという技法出現の実例です。
次に2本隆帯(複浮線)の様子を詳しく観察してみます。

観察個所 白線部

観察結果
加納実先生論文にいうとおり、隆帯の両側に幅が狭い磨消部がありそれらが個別意匠(例a)を縁取って縄文部が図になるべく機能させようとしています。

3 感想
加曽利EⅡ式土器で絶頂期を迎えた房総縄文社会で、その後のEⅢ式期になると意匠充填系土器というそれまでとは異質の土器が出現したことの意味検討は大いに興味をそそります。
急成長社会が崩壊して、混乱没落している時代に周り社会の影響が房総に及んできた様子の一端であると考えます。

2020年2月24日月曜日

加曽利EⅢ式のキャリパー形土器例

縄文土器学習 354

加曽利貝塚博物館E式土器企画展の展示土器について学習しています。
2020.02.23記事「加曽利EⅢ式土器学習のポイント」で加曽利EⅢ式土器が次の3種から構成されていることを知りました。

加曽利EⅢ式土器の3つの種類
ア キャリパー形土器
イ 意匠充填系土器
ウ 横位連携弧線文土器

このうちキャリパー形土器として例示して、3Dモデルも掲載した加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2について観察します。(企2はこのブログの整理番号、以下同様)

1 加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2の展開写真
土器が黒く3Dモデルでも詳しく観察することに苦労します。そこで3Dモデルから展開写真を作成して観察しました。展開写真はそれを作成する専門ソフトであるGigaMesh Software FrameworkとPhotoshopの機能を利用して立体性を読み取りやすくしたものを特別に作成しました。

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2の展開写真

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2の展示状況写真

2 比較のためのEⅡ式キャリパー形土器展開写真の作成
比較のために加曽利EⅡ式深鉢(四街道市南作遺跡)企19の展開写真を作成しました。

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市南作遺跡)企19の展開写真
企19土器の3Dモデルは2020.02.02記事「加曽利EⅡ式土器観察 企19 内面展開写真も」に掲載しています。

加曽利EⅡ式深鉢(四街道市南作遺跡)企19の展示状況写真

3 EⅢ式(企2)とEⅡ式(企19)の比較
加曽利EⅢ式土器としてのキャリパー形土器の特徴は加曽利EⅡ式土器と対照して、次のように整理されています。
1 口縁部文様帯と胴部文様帯を区別する明瞭なヨコ一次区画効果(稲田1972) の減少
2 口縁部主文様(渦巻文)と副文様(区画文)の一体化
3 胴部懸垂文と口縁部文様の癒着
4 胴部の縣垂文効果を有する無文部が拡大し、本来‘‘地”の部分であった縄文部に懸垂文効
果が移行
5 懸垂文を描出する沈線が縄文部の上端で連結し、懸垂文効果が完全に縄文部によって描出される。
(加納実(1995):下総台地における加曽利EⅢ式期の諸問題-集落の成立に関する予察を中心に-、千葉県文化財センター研究紀要16 から引用)

このうち加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2は次のような特徴を観察することができます。
1 口縁部文様帯と胴部文様帯を区別する境界部(隆起線)が折れ曲がり、同時にその隆起線が不鮮明になり半ば消失しているように観察できます。EⅡ式に見られる明瞭なヨコ一次区画効果が減少しているといえます。
2 渦巻文が退化して口唇部に小突起としてその名残をとどめているようです。渦巻文が退化して区画文に吸収されているような状況として観察できます。

この観察をEⅡ式(企19)との対照で示すと次のようになります。

EⅢ式(企2)とEⅡ式(企19)の比較



2020年2月23日日曜日

加曽利EⅢ式土器学習のポイント

縄文土器学習 353

加曽利貝塚博物館開催企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」(2019.11.16~2020.03.01)の展示土器について学習を行っています。
これまで加曽利EⅠ式土器とEⅡ式土器の学習が済みましたので、いよいよEⅢ式土器の学習に入ります。
企画展における展示数はEⅢ式土器が最も多く、この企画展の最大の趣旨はEⅢ式土器の多様性を示すものであるといってもよいと思います。E式土器学習の最大の山場に入ってきたといっても過言ではありません。
そこで最初にEⅢ式土器学習のポイントを最初に整理してみました。

1 企画展展示EⅢ式土器

昨年企画展展示EⅢ式土器

今年度企画展前半展示EⅢ式土器

今年度企画展後半新規展示EⅢ式土器

2 学習対象土器
加曽利EⅢ式土器が次の3つの種類に区分されることを前提に学習することにします。

加曽利EⅢ式土器の3つの種類
ア キャリパー形土器
イ 意匠充填系土器
ウ 横位連携弧線文土器

3 キャリパー形土器の例と特徴

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市内田端山越遺跡)企2 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2019.11.19
整理番号:企2
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 59 images

加曽利EⅢ式土器としてのキャリパー形土器の特徴は加曽利EⅡ式土器と対照して、次のように整理されています。
1 口縁部文様帯と胴部文様帯を区別する明瞭なヨコ一次区画効果(稲田1972) の減少
2 口縁部主文様(渦巻文)と副文様(区画文)の一体化
3 胴部懸垂文と口縁部文様の癒着
4 胴部の縣垂文効果を有する無文部が拡大し、本来‘‘地”の部分であった縄文部に懸垂文効
果が移行
5 懸垂文を描出する沈線が縄文部の上端で連結し、懸垂文効果が完全に縄文部によって描出される。
(加納実(1995):下総台地における加曽利EⅢ式期の諸問題-集落の成立に関する予察を中心に-、千葉県文化財センター研究紀要16 から引用)

キャリパー形土器の変化

4 意匠充填系土器の例と特徴

加曽利EⅢ式深鉢(酒々井町墨木戸遺跡)企33 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」
撮影月日:2019.11.19
整理番号:企33
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 54 images

意匠充填系土器の特徴は次のように記述されています。
「意匠充填系土器とは、読んで字の如く、主として隆帯で、器面に個別の意匠(パネル状に縄文部をふちどる意匠・文様)を充填してゆく(はめ込んでゆく)もので、イメージとしては、巷のジグソーパズルの完成へ向けての工程を紡彿させる。」
(加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用)

意匠充填系土器の変化

5 横位連携弧線文土器の例と特徴

加曽利EⅢ式深鉢(佐倉市吉見台遺跡)後5 観察記録3Dモデル
撮影場所:加曽利貝塚博物館 企画展「あれもE これもE ―加曽利E式土器(印旛地域編)―」後半展示
撮影月日:2020.01.21
整理番号:後5
ガラス面越し撮影
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 79 images

横位連携弧線文土器は次のように記述されています。
「読んで字の如く、上半施文域に横位に連携した弧線文を有する土器群であり、下半施文域には縄文部に強い懸垂文効果を有し、沈線による意匠描出を原則とする。」
(加納実(1994):加曽利EⅢ・Ⅳ式土器の系統分析-配列・編年の前提作業として-、貝塚博物館紀要第21号(千葉市立加曽利貝塚博物館) から引用)

横位連携弧線文土器の変化

6 学習の進め方
昨年度及び今年度企画展展示EⅢ式土器を個別に観察し、キャリパー形土器、意匠充填系土器、横位連携弧線文土器に分類して、それぞれの特徴を観察することにします。
意匠充填系土器、横位連携弧線文土器については加納実先生の専門論文記述を参考にしながら観察することにします。
なお、今年度展示土器は全て観察記録3Dモデルを作成しましたので、このモデルからGigaMesh Software Frameworkにより展開写真を作成して文様を観察することにします。


2020年2月20日木曜日

顔の付いた土版(松本市エリ穴遺跡)の観察

縄文土器学習 352

長野県立歴史館で予期しない展示物として顔の付いた土版(松本市エリ穴遺跡)レプリカを観察しました。最近千葉市埋蔵文化財調査センターで人面付土版を見たばかりであり、その比較に興味が湧きましたので土器からずれた土版の寄り道学習を楽しんでみます。
2020.02.05記事「人面付土版 観察記録3Dモデル

1 顔の付いた土版(松本市エリ穴遺跡)レプリカ 観察記録3Dモデル

顔の付いた土版(松本市エリ穴遺跡)レプリカ 観察記録3Dモデル
縄文時代晩期、松本市立考古博物館蔵(複製)
撮影場所:長野県立歴史館
撮影月日:2020.02.14
ガラス面越し撮影
寸法:約14.9㎝×約7.8㎝×約1.2㎝(3Dモデルから簡易計測)
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 64 images

展示の様子 素3Dモデル画面

参考 顔の付いた土版(松本市エリ穴遺跡)レプリカ 観察記録3Dモデルの動画

2 観察と考察
眉、目、耳、口が付いています。鼻もあるように見えます。乳房と女性器、足が表現されています。腰にフリルのついた下着様の着衣があり、その間から性器を露出させるというパターンになっています。このパターンは尖石縄文考古博物館で観察した仮面の女神と同じです。胴部脇の縄文は着衣を、頭の縄文は頭髪(結髪)を表現しているのかもしれません。
このように観察するとこの土版の表現要素は土偶とほとんど同じであると感じました。
千葉市埋蔵文化財調査センターで観察した人面付土版は男であり、土偶は女であるから土版と土偶は根本的に異なると考えた思考が浅はかであったことが浮かび上がりました。
図書「特別企画土偶展」(長野県立歴史館)ではこの顔のついた土版について次の実測図付きで「なんと松本市エリ穴遺跡例には、方形の土版そのものに、顔そして乳房や性器などの表現もあり、もはや土偶と土版の同化とさえ取れる。」と記述して、縄文土偶のおわりについて詳しい説明をしています。

エリ穴遺跡出土土版
図書「特別企画土偶展」(長野県立歴史館)から引用
性器を強調する土偶やこの土版は生殖にかかわる祭祀ツールであったと想像します。そして、そもそもそれを作ったのは女か男か、祭祀を主導したのは女か男か、自分にはまだ確信をもったイメージができていません。
土偶は女の道具で、石棒は男の道具であるという説も一度疑ってみることも学習思考を熟成させるためには必要のようです。
もっと言えば、清瀬市郷土資料館の内田裕治先生がおっしゃっていたように女と男という単純区分ではすまない全体を包み込む太母、両性具有、ウロボロスのような概念がないと理解できないのかもしれません。
土偶のイメージが明瞭になれば土偶と土版の違いもおのずと理解できるに違いありません。

2020年2月19日水曜日

GigaMesh Software Frameworkによる6側面図書き出し

縄文土器学習 351

GigaMesh Software Frameworkに3Dモデルを取り込むとワンクリックでモデルのオルソグラフィック投影6側面図を得ることができます。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル6側面図 テクスチャーモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル6側面図 ソリッドモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

一瞬のうちに6側面図が書き出されるので驚きです。
完形土器に限らず不定形の土器片や石器などの撮影に有効のように感じます。
さらに縄文学習に限らず3Dモデル一般を扱っていくうえでとても便利な機能です。
類似の機能をfreeCAD(3次元CAD、フリーソフト)で見かけたことがあります。

GigaMesh Software Frameworkによる展開写真も実は次のような生成3Dモデルのオルソグラフィック投影6側面図のうち正面図と後面図を利用したものです。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)展開写真3Dモデル6側面図 ソリッドモデル
撮影は加曽利貝塚博物館の許可による

GigaMesh Software Frameworkの縄文土器3Dモデル観察・分析機能があまりに充実していて価値の高いものばかりです。GigaMesh Software Frameworkをいじる楽しさの虜になっている日々が続いています。




2020年2月18日火曜日

称名寺式土器の動画作成

縄文土器学習 350

加曽利貝塚博物館常設展に展示されている称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)の3Dモデル動画及び切断3Dモデル動画を作成しました。
動画作成は3DF Zephyr Liteのアニメ機能によりました。
切断は電子ファイル上で行いました。
3Dモデル動画、切断3Dモデル動画ともに同じカメラワークにしました。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル動画
撮影は加曽利貝塚博物館の許可によります。

称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)切断3Dモデル動画
撮影は加曽利貝塚博物館の許可によります。

沈線刻後に施された縄文の様子

縄文土器学習 349

称名寺式土器はそれ以前の土器と異なり沈線が刻まれた後に縄文が施されています。
その様子を3Dモデルに注記を入れてわかるようにしてみました。

称名寺式土器3Dモデルの沈線と縄文の切りあい画面

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 観察記録3Dモデル  注記付き
撮影場所:加曽利貝塚博物館
撮影月日:2019.12.27
許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表
注記はモデル作成者の感想
3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images

沈線と縄文切りあいの様子は昨年の加曽利貝塚博物館主催講演会で加納実先生が次のように説明されています。

称名寺式より前の縄文と沈線の切りあい
加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」映写から引用
縄文施文後に沈線を刻むと、縄文部分が一部めくれてしまいます。

称名寺式以後の縄文と沈線の切りあい
加納実先生講演「縄文時代中期終末から後期初頭の様相」映写から引用
沈線刻後に縄文を施すと、沈線部で縄文がめくりあがることはありません。

沈線刻後に縄文を施しているということは縄文が文様の図になったということです。それまでは縄文は土器文様の地であったということです。
この違いは単なる施文技術の変化としてではなく、より広い社会現象の一環の事象に違いないとして学習するつもりです。

沈線刻後に狭い範囲に縄文を施すということはかなり根気のいる手作業です。それだけ土器作成に対して時間をかけています。土器作成に情熱(こだわり)が生まれています。自ら負荷をかけているように感じられます。加曽利E式土器の機能優先デザインから明らかに変化しています。おそらく社会的困難(貧しさ)に立ち向かう心性と関連する事象として、縄文の地→図変化があったものと想像します。