大膳野南貝塚後期集落 土坑の再検討 30
1 貯蔵土坑の深さ-平均直径グラフ
貯蔵土坑であると推定した63基を対象に深さ-平均直径グラフを作成してみました。
貯蔵土坑(推定)の深さと平均直径
このグラフを作成する前は深さが浅くなるに従って深さに対する平均直径の比率が大きくなる(浅い土坑は平べったい筒状になる)というイメージを抱いていたのですが、そのイメージはまんざら間違いでないことが確かめられました。
次の図に示す通り、深さ1m前後を境にしてそれより浅い土坑は平べったいものがほとんどであり、1m前後以上の土坑は細長い筒状のものがほとんどになります。
深さ1m前後を境に土坑形状が変化する説明図
深さ1m前後を境に土坑形状が変化するだけはなく、散布状況も異なります。1m前後以上は疎ら、1m前後以下は密集します。
このグラフから貯蔵土坑が2種類に分類でき、その分類に有意義な意味がありそうだと直観しますので、追って詳細検討することにします。
2 貯蔵土坑規模の限界要因想定
次に、深さ-平均直径グラフから土坑規模の限界要因の想定ができますのでメモします。
貯蔵土坑の限界要因想定
●効果的貯蔵機能確保限界
貯蔵土坑として推定したものの深さは最も浅いもので0.31mのものがありますが、グラフからは0.4m程度付近が限界のように感じます。この深さ下限限界はモノを地下貯蔵するときに期待する腐敗防止・カビ防止・変質防止・熟成・発酵等の機能に関わる限界深であると仮説します。この仮説の検証が興味深い活動になります。
0.4mとか0.3mより浅い土坑にモノを貯蔵しても露地でモノを貯蔵するのさして変わらない効果しか得られないと想像します。
●効率的搬出入作業限界
貯蔵土坑で最深のものは2.66mです。この深さの土坑は容量も大きく貯蔵のためにモノを出し入れするのは困難が伴います。梯子も必要となり1回に搬出入できる量も少なくなります。そのような作業効率の悪さから縄文人がそれ以上深く掘るのを止めた限界が2.66mだったのだと仮説します。この仮説の検証も興味深い活動になります。
深い土坑は梯子を使って苦労してモノを搬出入するのですから、夏や秋に収穫した食物を搬入して春に搬出するという季節的利用ではないと想像します。食物が余った年に貯蔵し足りなくなった危機の年にはじめてそれを取り出すという非常時利用の土坑であると想像することが合理的です。
逆に考えると深い土坑が作られたということはすでに食糧不足危機を経験しているということです。
●人作業空間限界
貯蔵土坑にモノを搬出入するためには、土坑の中に人が入る最低限のスペースが必要です。その最低限のスペースを確保するために必要な平均直径が0.62m程度であると仮説します。この仮説の検証も興味深い活動となります。
●実用蓋築造限界
貯蔵土坑には雨・雪・風・直射日光を除けるとともに庫内空気と外気を遮断するための蓋が必須です。この蓋の築造には大きさの技術限界があり、その最大規模が平均直径1.72m程度であったと仮説します。それ以上の蓋は工作技術・土木設置技術・維持管理技術などから無理だったと考えます。この仮説の検証も興味深い活動となります。
以上の4つの限界により大膳野南貝塚後期集落では土坑規模が限定された範囲に収まったと考えます。
3 貯蔵土坑と送り場土坑の規模の比較
貯蔵土坑と送り場土坑の規模を比較するとつぎのようになります。
貯蔵土坑と送り場土坑の深さと平均直径
送り場土坑はモノを貯蔵しなので貯蔵土坑より浅いものが多くなっています。
また人がその中に入る必須性がないので平均直径が小さいものも含まれます。
さらに送り場土坑は蓋をする必要がないので平均直径が大きなもの(最大3.02m)も含まれます。
このグラフから貯蔵土坑規模を相対化でき、その特性をより明確に把握できます。
2018年4月25日水曜日
2017年7月9日日曜日
土坑大きさ分布のGoogle earth pro立体グラフ表現
大膳野南貝塚後期集落土坑(264基)の検討をしていますが、土坑の大きさについて検討を始めました。
土坑大きさの指標として平面積(長径×短径×π÷4)、深さ、体積(平面積×深さ)を採用しました。
土坑の大きさデータをいじくりまわしているうちに土坑用途に関して何らかの手がかりを得られないだろうかと期待しています。
土坑データだけをいくら緻密に検討しても、そこから土坑用途が直接浮かび上がることはほぼ期待できないと思うようになっています。しかしデータをいじくりまわしてみないと、土坑検討の体験がないので、私にとって物事が始まりません。
1 土坑大きさの統計
1-1 土坑平面積
土坑平面積の最大値7.24㎡、平均値0.96㎡、最小値0.08㎡となります。
土坑平面積順位グラフ
1-2 土坑深さ
土坑深さの最大値2.66m、平均値0.44m、最小値0.08mとなります。
土坑深さ順位グラフ
1-3 土坑体積
土坑体積の最大値6.73㎥、平均値0.47㎥、最小値0.01㎥となります。
土坑体積順位グラフ
2 土坑大きさの分布検討
土坑平面積、深さ、体積についてそれぞれデータを等量5分位に区分してその分布図を作成して比較して検討してみました。
大膳野南貝塚 後期集落 土坑 面積、深さ、体積区分図
・分布図にしてみると平面積、深さ、体積の同じ分位はかなり似たものになります。
あまり細かく検討しても労力が増えるだけになりそうですから、体積をメインの指標にして検討することでよいのではないだろうかと考えます。
体積は土坑を掘る時のエネルギーと相関し、またモノを入れる容量そのものになります。
・平面積、深さ、体積とも同じ傾向となりますが、最小分位から最大分位に順に分布図をみると、分布の様子が徐々に変化している様子が観察できます。
そして最小分位の分布傾向と最大分位の分布傾向が異なるように観察できます。
最大分位の分布図では集落イメージである円形がかなり明瞭に浮かび上がっていますが、最小分位では円形パターンが必ずしも明瞭ではありません。
この結果から大きな土坑は集落構造意識と関係して構築され、小さな土坑は集落構造をイメージする思考とは無関係に構築されたことを推察することができます。
・大きな土坑は大きな土坑で集まり、小さな土坑は小さな土坑で集まっていて、それぞれ別の場所になっている(棲み分けている)ように見える場所がかなりあります。
大きな土坑が集まっている理由として、土坑の利用可能期間が限られていて、直近の場所に作り替えたことが考えられます。(イメージ 食料貯蔵庫)
小さな土坑が集まっている理由として、次々に新たな土坑をすぐ近くに必要に応じて作ったことが考えられます。(イメージ 小形土坑墓)
3 土坑体積データのGoogle earth pro立体グラフ表現
土坑体積データをGoogle earth proで立体グラフ表現してみました。
体積を棒の長さに置き換えて表現したものです。
土坑体積データGoogle earth pro立体グラフ表現
土坑体積データGoogle earth pro立体グラフ表現
土坑大きさの指標として平面積(長径×短径×π÷4)、深さ、体積(平面積×深さ)を採用しました。
土坑の大きさデータをいじくりまわしているうちに土坑用途に関して何らかの手がかりを得られないだろうかと期待しています。
土坑データだけをいくら緻密に検討しても、そこから土坑用途が直接浮かび上がることはほぼ期待できないと思うようになっています。しかしデータをいじくりまわしてみないと、土坑検討の体験がないので、私にとって物事が始まりません。
1 土坑大きさの統計
1-1 土坑平面積
土坑平面積の最大値7.24㎡、平均値0.96㎡、最小値0.08㎡となります。
土坑平面積順位グラフ
1-2 土坑深さ
土坑深さの最大値2.66m、平均値0.44m、最小値0.08mとなります。
土坑深さ順位グラフ
1-3 土坑体積
土坑体積の最大値6.73㎥、平均値0.47㎥、最小値0.01㎥となります。
土坑体積順位グラフ
2 土坑大きさの分布検討
土坑平面積、深さ、体積についてそれぞれデータを等量5分位に区分してその分布図を作成して比較して検討してみました。
大膳野南貝塚 後期集落 土坑 面積、深さ、体積区分図
・分布図にしてみると平面積、深さ、体積の同じ分位はかなり似たものになります。
あまり細かく検討しても労力が増えるだけになりそうですから、体積をメインの指標にして検討することでよいのではないだろうかと考えます。
体積は土坑を掘る時のエネルギーと相関し、またモノを入れる容量そのものになります。
・平面積、深さ、体積とも同じ傾向となりますが、最小分位から最大分位に順に分布図をみると、分布の様子が徐々に変化している様子が観察できます。
そして最小分位の分布傾向と最大分位の分布傾向が異なるように観察できます。
最大分位の分布図では集落イメージである円形がかなり明瞭に浮かび上がっていますが、最小分位では円形パターンが必ずしも明瞭ではありません。
この結果から大きな土坑は集落構造意識と関係して構築され、小さな土坑は集落構造をイメージする思考とは無関係に構築されたことを推察することができます。
・大きな土坑は大きな土坑で集まり、小さな土坑は小さな土坑で集まっていて、それぞれ別の場所になっている(棲み分けている)ように見える場所がかなりあります。
大きな土坑が集まっている理由として、土坑の利用可能期間が限られていて、直近の場所に作り替えたことが考えられます。(イメージ 食料貯蔵庫)
小さな土坑が集まっている理由として、次々に新たな土坑をすぐ近くに必要に応じて作ったことが考えられます。(イメージ 小形土坑墓)
3 土坑体積データのGoogle earth pro立体グラフ表現
土坑体積データをGoogle earth proで立体グラフ表現してみました。
体積を棒の長さに置き換えて表現したものです。
土坑体積データGoogle earth pro立体グラフ表現
土坑体積データGoogle earth pro立体グラフ表現
2で検討した等量5分位分布図比較と異なり、体積データの分布の様子が全部一緒に直観的に観察できます。
分布図を5枚作って並べるなどという手間は必要なくなります。また視点の移動、遠望・近望など自由にできます。
この立体グラフを使って、次の記事でさらに検討を深めます。
つづく
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