2018年6月7日木曜日

諸磯・浮島2集団の関係

大膳野南貝塚学習中間とりまとめ 2 諸磯・浮島2集団の関係

大膳野南貝塚中間とりまとめを次の10項目に分けて行っています。
1 漆喰貝層有無2集団の関係
2 諸磯・浮島2集団の関係
3 集落消長の理由
4 貝塚・集落の構造
5 貝殻・獣骨・土器片出土の意義
6 埋葬の様相
7 竪穴住居祭壇の様相
8 狩猟方法イメージ
9 個別テーマ
10 背景学習

この記事では「2 諸磯・浮島2集団の関係」の説明素材を集めて、まとめペーパーの材料をつくりました。

なお、「2 諸磯・浮島2集団の関係」の検討は2017年4月頃ですが、その後2017年12月~2018年2月頃に「1 漆喰貝層有無2集団の関係」に興味を持ち集落内異集団共存について検討を深めました。このような経緯があるので、今ブログ記事を読み返すと「2 諸磯・浮島2集団の関係」の検討は材料が豊富なのにあまり深まっていません。認識レベルが浅→深へと一方向にしか進まないので、それはしかたがないことです。現時点からふりかえると前期後葉社会に未分析の材料が沢山あるので、今後補足分析を行うこととします。

1 出土土器の優勢形式による竪穴住居分類
大膳野南貝塚発掘調査報告書の「前期後葉の遺構と遺物」の項に収録されている竪穴住居祉を出土土器の優勢形式により分類すると次のような分布図と統計を得ることができます。(「前期後葉の遺構と遺物」に対応する集落を「前期集落」と略称します。)

優勢土器により分類した竪穴住居分布

優勢土器形式別竪穴住居軒数
利用している土器形式が異なるということは文化と出自が異なることを示しています。つまり2つの異集団が1つの集落を形成して共存していることが推測できます。そこで、以下その状況を検証してみました。

2 優勢土器と発掘情報特性
2-1 優勢土器と竪穴住居特性
2-1-1 分布特性

優勢土器による竪穴住居分布の概要
優勢土器により竪穴住居を分類し、その分布を俯瞰すると2種竪穴住居は集落を東西に2分して棲み分けしているように観察することができます。

2-1-2 竪穴住居面積、深さ

優勢土器別竪穴住居平均面積

優勢土器別竪穴住居平均深さ
竪穴住居面積及び深さともに浮島式土器優勢竪穴住居の方が諸磯式土器優勢竪穴住居よりその値が大きくなっています。つまり浮島式土器優勢竪穴住居の方が諸磯式土器優勢竪穴住居より広く深いのであり、それだけ立派な竪穴住居であったということがわかります。

2-2 優勢土器と出土物特性
2-2-1 出土物総量(中テン箱数)
発掘調査報告書に竪穴住居別に出土物を収納した中テン箱数が記述されています。中テン箱数は出土物総量の指標になるとともに、出土物容量の中に占める土器の割合が多いので土器出量の概算指標にもなると考えます。
なお、竪穴住居から出土する遺物のほとんどは覆土層からの出土であることから、遺物の多くは竪穴住居が廃絶した後廃絶祭祀が行われたりその場所が送り場となり、その時に投げ込まれた(置かれた)ものであると考えます。

優勢土器別中テン箱数
優勢土器別に中テン箱数(総数)を集計したものです。このグラフだけからでも浮島式土器優勢竪穴住居からの遺物出土が多いことが判りますが、正確に比較するために平均中テン箱数を算出すると浮島式土器優勢竪穴住居3.75、諸磯式土器優勢竪穴住居1.18となり3倍以上の開きとなります。
浮島式土器優勢竪穴住居からの遺物出土量が多いということはそれだけ竪穴住居廃絶祭祀等に際して多量の土器・石器・獣骨等を投げ込んだ(お供えした)ということであり、諸磯式土器優勢竪穴住居より祭祀が盛んであるとともに生活が豊かだったことを表現していると想定します。

2-2-2 石器出土数

石器出土数
優勢土器形式別に石器製品と石器原料・剥片の出土数(総数)をみたところ、いずれも浮島式土器優勢竪穴住居の値が大きく、石器原料・剥片は10倍以上の差があります。平均値で比較すると、石器製品は浮島式土器優勢竪穴住居21、諸磯式土器優勢竪穴住居6.7となり3倍の開きとなります。石器原料・剥片類は浮島式土器優勢竪穴住居88、諸磯式土器優勢竪穴住居4.6で20倍近くに開きになります。
石器は生活の質に関わる基本道具ですから浮島式土器優勢竪穴住居住人が豊かで、諸磯式土器優勢竪穴住居住人が貧しかったことが推測できます。また石器原料の入手は浮島式土器優勢竪穴住居住人が独占していたと考えられます。諸磯式土器優勢竪穴住居住人は貧しいだけでなく、浮島式土器優勢竪穴住居住人から石器原料を譲り受けることで生活していたことになり、対等の関係ではなく主導-追従(上流階層-下流階層)の上下関係の存在が浮かび上がります。

2-2-3 石器分類別出土数

石器分類別出土数
石器種類を狩猟、動物加工、漁労、植物採集、植物調理加工の5つに分けてみたところ、狩猟、動物加工の石器数が浮島式土器優勢竪穴住居で多く、諸磯式土器優勢竪穴住居ですくないことが確認できました。平均値でみると狩猟系石器は浮島式土器優勢竪穴住居9.8、諸磯式土器優勢竪穴住居2で約5倍の開き、動物加工系石器は浮島式土器優勢竪穴住居10、諸磯式土器優勢竪穴住居2.4で約4倍の開きとなります。狩猟活動に関していえば浮島式土器優勢竪穴住居住人の方が圧倒的に活発であったことが判ります。
逆にみると諸磯式土器優勢竪穴住居住人も全く狩猟に関わっていなかったのではないことが判り、その情報は浮島と諸磯の関係を考える時に価値ある情報となります。

2-2-4 獣骨出土数

獣骨出土量
中テン箱数で計った獣骨量は浮島式土器優勢竪穴住居4箱、諸磯式土器優勢竪穴住居7箱となります。平均獣骨量は浮島式土器優勢竪穴住居、諸磯式土器優勢竪穴住居ともに1箱となります。
狩猟系石器の出土量から狩猟活動は浮島式土器優勢竪穴住居住民で活発で、諸磯式土器優勢竪穴住居住人はそれより活発ではないことが明らかなのに、獣骨出土量が同じであることは次の状況を表現しているものと想定します。
「浮島式土器優勢竪穴住居住人は日常の食糧調達手段として狩猟を行い、そのために必要な石器原料の入手なども行っていた。諸磯式土器優勢竪穴住居住人は日常の食糧調達ではなく祭祀で使う獣の調達でのみ狩猟を許されていた。その限定した狩猟のための石器原料だけを浮島式土器優勢竪穴住居住人から譲り受けることができた。」
主導-追従(上流階層-下流階層)の関係性がこのような狩猟活動の違いに表現されていると考えます。

3 優勢土器と異なる生業2集団
3-1 異なる生業2集団の存在
2の検討から浮島式土器優勢竪穴住居住人は狩猟を得意とし、狩猟と植物採集をメイン生業とし、諸磯式土器優勢竪穴住居住人は狩猟活動は限定されていて植物採集をメインとし、漁労も生業に加えていたとイメージしました。

3-2 2集団の関係性
狩猟活動は浮島式土器優勢竪穴住居住人が主導していることや遺物出土量の多寡から集落内の秩序は浮島式土器優勢竪穴住居住人が主導、諸磯式土器優勢竪穴住居住人が追従していて、上流階層-下流階層という関係が存在していたと想定します。
但し獣骨出土量が同じことからわかるように祭祀面での上下関係は観察できず逆に対等性が観察できます。
空間的に棲み分けしていて、また土器形式が異なることから、2つの集団は1つの集落社会を形成して協働しつつ、精神面・祭祀面・文化面では違うアイデンティティを保持していたように観察できます。

4 検討課題
●2集団の特性をより多様な指標で把握する
2集団の特性についてより多様な指標で把握することが可能です。
●2集団の協働活動について
浮島式土器優勢竪穴住居住人は狩猟活動にたけています。一方諸磯式土器優勢竪穴住居の分布域と貯蔵土坑の分布域が重なり、諸磯式土器優勢竪穴住居住人が主食調達にたけていたことが暗示されています。このような情報から2集団が食糧調達で相互に補完しあう関係にあったかどうか興味が湧きます。2集団の相互補完関係の存在を検証する価値があります。
●2集団の存在は双分制といえるものであるか
2集団の存在は集落が双分制であったと定義づけることができるかどうか、今後検討します。

……………………………………………………………………
次の資料を公開しました。(2018.06.08)

pdf資料「諸磯・浮島2集団の関係 要旨

pdf資料「諸磯・浮島2集団の関係

上記資料を含めて私の作成した主な資料・パワポはサイト「考古と風景を楽しむ」にも掲載しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿