2018年6月3日日曜日

双分組織について

山田康弘・国立歴史民俗博物館編「縄文時代 その枠組み・文化・社会をどう捉えるか?」(2017、吉川弘文館)を読みだしたところ、「双分組織」というものが存在し、縄文時代環状集落社会の在り方と関わっているらしいということを知りました。

「双分制」「双分組織」という概念が大膳野南貝塚学習の問題意識「漆喰貝層有無2集団の関係」(後期集落)と「諸磯・浮島2集団の関係」(前期集落)を検討していく上でのキーとなる概念であることにはじめて気が付きましたのでメモしておきます。

山田康弘・国立歴史民俗博物館編「縄文時代 その枠組み・文化・社会をどう捉えるか?」(2017、吉川弘文館)

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参考 分節構造と双分制に関する記述
明瞭な分節構造
拠点的な環状集落の形成とともに、集団墓の様相もまた大きく変わってきます。千葉県成田市の南羽鳥中岫遺跡では、300基ほどの土墳墓からなる前期後葉の集団墓が発掘されています。前期の代表的な集団墓の一つです。この中にも、いくつかの単位を見つけ出すことはできるのですが、単位の区分は不明瞭です。対して中期になると、たくさんの土墳墓を環状に配置した環状墓群が発達してきます。そして、その内部にいくつかの単位が明瞭に区分された例が見られるようになります(図7-2)。全体が大きく二分されたものや、二群の内部にさらに二つのサブグループが内在して、全体が四つに分かれた例などがあります。さらに多数の単位からなる場合も見られます。このような構造を
私は「分節構造」(谷口2005)と呼ぶのですが、分節構造は、このように土墳墓群の中にも顕著な形で表れますし、住居群を区分する構造でもあります。
最も広く見られるのが、住居群や墓群の全体を二つに分ける構造です。神奈川県月出松遺跡の中期後葉の環状集落では、土墳墓群が二ヵ所に分かれています。竪穴住居にもそれに対応した形の二つのグループが見られます。神奈川県三の丸遺跡の中期の環状集落でも、北側に土墳墓群が二つ、南側に二つ、全体で見れば四つと言えるかもしれませんけれども、一つの環状集落の中にある土墳墓群が二つに分かれている例が見られます(図7-2)。
部族社会の民族例には「双分組織」というものが知られています。部族あるいは村落が二つの部分から成り立っていて、補完的な関係になっている組織のことを指します。そういう制度が見られる社会を双分制と呼んでおります。中期の環状集落の中に、二分の分節構造がしばしば現れるのは、双分組織の存在を強く示唆するものと考えてよいと思います。

分節構造
山田康弘・国立歴史民俗博物館編「縄文時代 その枠組み・文化・社会をどう捉えるか?」(2017、吉川弘文館)に収録されている
谷口康浩「環状集落にみる社会複雑化」から引用 太字は引用者
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大膳野南貝塚後期集落には漆喰貝層有集団と漆喰貝層無集団が共存していてメイン生業が異なるという特異な現象があります。この現象を双分制・双分組織という概念をキーにして分析すれば2集団の関係性を詳しく知ることができそうです。
また前期集落で諸磯式土器をメインとする竪穴住居、浮島式土器をメインとする竪穴住居、双方土器が混在する竪穴住居が観察できて、大局観として2集団が共存していたと捉えられる現象が存在します。この現象も双分制・双分組織という概念をキーにして分析することによって、2集団の関係性を把握できそうです。
双分制・双分組織について知識を増やせば今後の大膳野南貝塚学習をいっそう加速できそうです。
なお、前期に諸磯・浮島2集団の双分制の現象があり、後期にも漆喰貝層有無2集団の双分制の現象があるとすれば、時期を別にして同じ空間で双分制現象が生じたことになります。そのように考えると、2つの現象に関連性があるのか否かということについて検討する価値が生れます。
さらに、双分制の現象は大膳野南貝塚だけで生れた特殊事例とは考えられないので、それどころか極普通の縄文社会一般現象であると想定されるので、近隣遺跡等に双分制現象が観察できるか否か学習を広げたいと思います。

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参考 
双分組織
dual organization
一つの社会が二つの部分集団によって相互補完的に組織されている社会組織もしくはその状態をいう。通常,社会が二つのカテゴリー・氏族・リネージ・地域社会などからなる場合,それぞれの部分集団を〈半族moiety〉というので,〈双分組織〉は別名〈半族分割moiety division〉とも称する。〈moiety〉とはフランス語の〈moitié〉に由来する用語で,たんに二分割を意味している。各地の事例では,親族関係を密にする集団が社会を二分し,あるいは一方が他方の外婚集団になっていたりする場合もあるが,双方がおなじ出自集団であるとはかぎらず,また相互に密な親族関係をもっていることが〈双分組織〉の特徴であるとはかぎらない。
〈双分組織〉は社会の単なる観念上の二分割にとどまらず,双方の単位の間で社会的・宗教的になんらかの▶互酬的関係が見られる場合が多い。この互酬的関係のなかで顕著なものを挙げるならば,第1に,それぞれの単位が単系的外婚集団を形成しており,相互に配偶者のやりとりをするということ,第2に,それぞれが儀礼上の単位となっており,相互の互酬的行為を通じて儀礼を構成するということ,などが挙げられよう。ただし実際の例においては,上記二つの特徴をあわせもっている社会もあれば,いずれか一方の特徴しかもたないという社会もあり,さらに双分組織に対応するような二元論的宇宙観をともなった社会もあるというように多様である。
なお,先にいう〈半族〉と類似した概念として,古代ギリシアの政治・宗教的集団である▶フラトリアphratriaを語源とする〈胞族phratry〉があるが,〈胞族〉は通常,氏族の単位よりも大きな類別上の単位であり,二つあるいはそれ以上の類別上の認識を基礎とした単位である。したがって〈胞族〉は,かならずしも社会を二分するような組織とはなりえず,通常は単なるカテゴリーとして存在しているが,氏族が連合して互酬的な社会の二分割組織を構成しようとすると,〈双分組織〉の単位となりうることもある。
渡辺 欣雄
『平凡社 改訂新版 世界大百科事典』 日立ソリューションズ から引用
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