ラベル 武居幸重 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 武居幸重 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020年8月21日金曜日

灌漑施設を文様として表現する縄文土器

 縄文土器学習 451

2020.08.19記事「耕地熟稔の様子を表現する畑文土器」において、武居幸重著「文様解読から見える縄文人の心」(諏訪郷土研究所、2014)で畑文土器が2種類の畑の熟稔の様子を表現しているという仮説を知りました。さらにその仮説を自分なりに発展させて、畑Bは灌漑施設のある畑であると仮説しました。

この記事では武居幸重仮説で「熟稔記号」とされているものが、実は灌漑施設を表現していると想像しましたのでメモします。

1 武居幸重著「文様解読から見える縄文人の心」(諏訪郷土研究所、2014)で検討されている土器展開図

区画蛙蛇畑文土器(藤内遺跡出土藤内期)展開図(一部推定で補っている)

2 記号の意味

記号の意味

文様が「灌漑のある畑」を表現していると仮説すると、記号の意味はスナオに浮かび上がってきます。まるで現代地図記号です。

記号の意味をこのように想像仮説すると土器文様の解釈がより合理的にできるようになります。

3 B系列の畑について

灌漑記号で表現した理想の畑

B系列の畑は豊かな水で潤っている姿を目指して3段階で表現しているように考えられます。季節変化を念頭においた熟稔ではなく、耕地建設の理想の姿を3段階で表現していると考えます。

この解釈により、縄文中期中部高地の人々が灌漑施設を伴う耕地建設をしていたことと、耕地建設の目標(理想)を持っていたことが浮かび上がります。

4 A系列の畑について

灌漑施設のない畑の理想の姿

整然区画され、それが増大していく姿を理想の姿として描いています。

5 感想

縄文中期中部高地の人々が灌漑施設を伴う耕地を建設して農耕に従事していたことはこの土器文様から明らかであると考えます。

整然と区画された多数の畑や泉や噴水まである畑はあくまでも理想であり、現実の姿ではないと直感します。しかし、そのような理想の姿を描いて農耕に従事していた人々の文化(農耕文化)があったということがわかり、感動します。

縄文時代の畑や灌漑施設は、専門家が「あるかもしれない」と思うようになれば、遠からず出土すると思います。


2019年9月27日金曜日

武居幸重著「縄文人の心」に興味津々

縄文土器学習 263

尖石縄文考古館を訪問した際、多数の図書やパンフレットを入手し今後の学習のために備えました。この付近の縄文遺跡に興味が生れましたので絶版となっている「茅野市史上巻原始考古」もWEB古書店から入手したほどです。
そのようにして入手した図書の中に武居幸重著「文様解読から見える 縄文人の心」があり、きわめて興味深い内容でありますので記録しておきます。

武居幸重著「文様解読から見える 縄文人の心」
この図書は2013年に尖石縄文考古館での筆者の講演をまとめたものです。尖石縄文考古館でしか入手できないのかもしれません。

この図書の精読はまだですが、水野説(土偶祭祀は女性側、石棒祭祀は男性側)に対し、武居説(土偶祭祀と石棒祭祀が双分したのち、融合祭祀を行うことが最終目的であり、その証拠に男女の性に関わる土器交合文様、交合土偶、交合石棒の存在をあげる)を開陳している点に最初の特色があります。

また「重想」という新概念を提起して説明を進めています。
「重想」…一つのデザインで二つ以上のモデルと二つ以上の意味を持たせる表現方法を示す。

棚畑の土偶(国宝縄文のビーナス)の重想関係を次のように説明しています。

棚畑の土偶重想関係説明図
武居幸重著「文様解読から見える 縄文人の心」から引用
「上に示した国宝「棚畑の土偶」はみぞおちを境にして上が女性の若年期で下が女性の熟年期を表わし、かつ下半身に男根が組み込まれているから男女の合体造形である。よって交合土偶である。上段の側面図で点で埋めた部分が男根との重想文である」武居幸重著「文様解読から見える 縄文人の心」から引用

参考 尖石縄文考古館展示縄文のビーナスの写真

重想という概念が大変興味深く感じます。一つの造形に異なる複数の意味を持たせるという造形技法が存在することは良く理解できます。しかしだれにでも明解な第一の意味は別にして、暗喩として表現されている意味の抽出は「名人芸」になり、万人が「そうだ」と納得する説明は困難になるに違いありません。

「顔はフクロウと嬰児の重想造形」という説明で、嬰児はわかりますが、フクロウは?と感じてしまいます。
下半身に男根が組み込まれているから男女の合体造形であり交合土偶であるという説明も飛躍しすぎているように感じてしまいます。

とてつもなく深い検討を感じる側面と、素朴な疑問を感じる側面のある、とてつもなく魅力的な図書です。

大山山椒魚文様の説明は大変論理的です。
一方、「畑の鳥瞰図の模式表現」は縄文時代畑区画が出土した遺跡を知りませんから、素朴な疑問となります。「畑の鳥瞰図の模式表現」が本当ならば、土器文様に地図が描かれていたのと同じになり、興味津々です。