ラベル 縄文中期箆状腰飾 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 縄文中期箆状腰飾 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020年12月29日火曜日

縄文中期箆状腰飾に関する考察メモ その3 疑問・興味・気が付いたこと列挙

 縄文骨角器学習 5

千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」で展示された縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)の3Dモデルを作成して観察したところ、次から次へと興味が広がり、深まり、予想外の学習展開となっています。この記事ではこの腰飾関連の疑問・興味・気が付いたことを箇条書メモします。本格思考を将来実施することを前提に、とりあえず考察を区切ることにします。

1 腰飾が表象している実世界のモノ

腰飾は手に持つ対人殺傷武器としての短剣をモデルにそれを模した祭具であると推定します。

類似製品として槍状石器をあげることができます。


槍状石器の例

大工原豊他「縄文石器提要」(2020、ニューサイエンス社)から引用

2 箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)がつくられたとき、それは腰飾ではなかったという事実

2-1 腰飾吊下用穿孔が製品完成後に行われた様子

破損している右穿孔を拡大して観察すると刺突文様を切って穿孔が行われています。製品完成時に吊下用穿孔が同時につけられたのではなく、製品完成時には吊下げを前提にしない製品として作られ、後日吊下用穿孔が行われ、腰飾として転用されたことが判明しました。


吊下用穿孔が刺突文様を切っている様子

この製品が元来は腰飾りではなく。別の祭具としてつくられたという事実は、船橋市高根木戸遺跡出土刺突文・彫刻骨角器に穿孔がないという事実と整合します。

2-2 表面削剥部から想定する非腰飾時代の利用方法

腰飾表面に縛り跡と想定できる削剥部が存在しています。


表面削剥部

それぞれ2本の縄をX字状にモノを腰飾に縛った跡であると考えます。これだけの明瞭な縛り跡が残るのですから長期に渡ってモノが固定され、なおかつそれが使われることで擦れて出来た跡であると考えます。

次の図に示す短剣の柄が想定可能です。


短剣の柄 装着想定例

ア 直角の方向…木製柄を短剣直角方向に装着想定した例

イ 延長の方向…木製柄を短剣延長方向に装着想定した例

ウ 滑り止め機能…縄を巡らし滑り止め機能を付加して、その部分を握る柄にした想定例

2-3 右刃部をメインとする鋭利な削剥から想定する利用方法

右刃部をメインに刃部が鋭利になるように削剥されています。


右刃部をメインに鋭利に削剥されている様子

この事実から、この祭具は右刃部をメインに刃部を削る(研ぐ)ような利用方法が存在していたと考えられます。次のような理由が考えられます。

ア 元来両刃の短剣形儀器であったが、途中から片刃の短剣形儀器を意識して利用するようになった。

イ 刃部を研ぐという活動が祭祀活動の中で行われ、その活動が主に右刃部で行われた。(石棒に傷を付ける活動と類似)(刃部を研ぐ…戦にそなえる、戦意を高揚する。)

ウ 短剣を削り、その粉を戦意高揚をもたらす薬として、あるいは怪我や病気の薬として使った。

追記 すでに存在する刃部付近の刺突を消耗して研いでいます。研いだ刃は鋭利です。「研ぐ」という活動とともに、何かを「切る」という活動も付随していたに違いありません。この短剣が人殺傷用短剣を模している祭具であることから、「切る」対象は人です。祭祀の中で、入れ墨を入れる刀として利用されていたのかもしれません。土地を守る活動の先端に立つ人々の身体変工に使われた祭具! 空想です。

3 箆状腰飾の製品意義の変化

2の検討から、この製品の意義や状況が次のように変化したのかもしれないと空想しました。

柄の付いた短剣形祭具として作られ活用される→吊下用穿孔により腰飾に転用され活用される→刃部を研ぐ活動が行われる祭具として活用される→右穿孔が壊れ補修孔が作られる→指導者の腰に装着して指導者を埋葬する

4 甕被葬と腰飾との関連

甕被葬の意義について納得できる説明に遭遇したことがないので、次のようにとりあえずの自分専用仮説をつくるための準備思考をメモしておきます。


甕被葬

ア 甕被葬の一般的意義

・中期千葉の縄文人は頭に心(その人の霊)が宿っていると考えていた。

・人は死ぬとその霊が、モガリと葬儀後(つまり埋葬すると)肉体から離れ、天上界に移動し、その後現世に別人として生まれ変わると考えていた。

・死人の頭に甕を被せれば、その人の霊は頭から抜け出せないためにその肉体に留まり、天上界に移動できない、別人として生まれ変われないと考えた。

イ 有吉南貝塚甕被葬の仮説 1(指導者の霊を集落内に留めるための特別葬儀説)

埋葬された人物は集落あるいは広域地域の指導者で、土地に入り込む外部勢力を追い払うなどの風雲急をつげる状況のなかで、無二の重要な役割を果たしていた。その人物が死亡した。通常に葬儀を行うとその人物の霊は天上界に行き、さらに別人物として生まれ変わる。その生まれ変わった人物(赤ん坊)が育って新たな指導者になるまでとても待てない。そこで、死亡した指導者霊が集落内に留まるように甕被葬をして、指導者霊に身近に見守ってもらえる(指導者霊と日常的にコミュニケーションできる)ようにした。

そのようないわば集落神ともいえる人物であるから、土地を守る重要祭具である箆状腰飾を装着しているのは当然である。つまり甕被葬と箆状腰飾装着は密接に結びついている。

ウ 有吉南貝塚甕被葬の仮説 2(指導者の忌まわしい病死・事故死による特別葬儀説)

指導者が忌まわしい病気(例 ハンセン病)や忌まわしい事故(例 生業と関わらない墜落死)で死亡した。そのまま通常の葬儀をすると指導者の霊は天上界に移動し、その後別人物として生まれ変わり、再び忌まわしい病気や忌まわしい事故で死亡し、家族や集団を苦しめる。そこで社会の苦しみを遮断するために指導者の頭に甕を被せ、霊が天上界に移動するのを阻止する。

この場合、甕被葬とその人物が箆状腰飾を装着していたことは無関係であり、偶然の一致である。

5 素材の部位は下顎ではなく頭骨(吻部=上顎)である可能性

展示説明では素材がイルカ類下顎骨となています。下顎ではなく、頭骨の吻部(上顎)の勘違いだと思いますので、念のため博物館に問い合わせすることにします。

6 先端部および背面の観察

先端部の撮影が視線入射角が小さくなるため鮮明に写りません。また背面の様子が全く判りません。いつか閲覧申請をしてこの腰飾を詳細に観察することにします。

追記 先端部も研がれて(削られて)当初の刺突がほとんど消失しているようです。視線入射角が小さいだけでなく、そもそも刺突文が消えかかっているようです。ぜひとも現物を閲覧したくなります。


2020年12月27日日曜日

縄文中期箆状腰飾の3Dモデルによる精細観察

 縄文骨角器学習 2

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)を3Dモデルを活用して精細観察しました。

1 観察方法

観察記録3Dモデルにより対象物を立体的に観察して、その結果をオルソ投影画像に項目別に記入し、最後にその集成図を作成しました。オルソ投影画像は細部の確認がしやすいように数種類作成しました。

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル

イルカ類下顎骨製

埋葬関連遺物

撮影場所:千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」 

撮影月日:2020.12.09 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 54 images


観察結果プロットに使ったオルソ投影画像

2 観察結果


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 1

ア 吊下用穿孔が2ヶ所あり、右側が破損したため、そばに補修穿孔しています。

この腰飾が長期にわたって腰に着装されたことが判明します。

イ 刺突文が上部と下部に穿たれています。

上部刺突文は先端から縁に1列(左のみ)、縁の曲線に沿って2列で吊下用穿孔まで連続します。右縁の刺突列は右部損耗のため観察できません。

下部刺突文は腰飾を横断すして、下から1列、2列、1列、2列が配置され、さらにその上に刺突で「大」字のような文様を描きます。

刺突文はこの腰飾形状を強調する文様となっています。この腰飾が表象する実世界のモノの形状の特質を刺突文が強調しています。

ウ 残存赤彩が上部刺突文の刺突小孔の多数にごくわずかに観察できます。(図は表現のために実際より誇張してあります。)


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 2

エ 中央が盛り上がる形状をしていて、縁に沿って段差がつけられ、縁に行くにしたがって厚さが薄くなります。実用機能かどうかは別にして、刃部が形成されていると観察することができます。

同時に縁に沿った段差の分布から右側の刃部は損耗しています。損耗する前の縁の形状をイメージとして点線で記入しました。

右側縁を拡大して観察すると、縁に沿って削られ、縁が鋭利な刃になっています。直観的には右側縁を何かに擦りつけて損耗したのではなく、鋭利な石器等で縁を削って刃を尖らせたために損耗したと理解します。

オ 上部では、縁に沿って2列の浅い凹形陰刻(丸形)が分布します。

カ 下部では、腰飾を横断して浅い凹形陰刻(直線)が4列分布します。


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 3

キ 下部に2つの三角状形状を含む陰刻線が分布します。たまたまついた傷ではなく、意図的に刻まれたものと考えられますが、規則性をあまり感じません。

ク 腰飾中央部付近より少し下付近に表面削剥部分が2列で交差するように分布します。それぞれ2本の綱で縛った跡のように観察できます。腰飾りが何かに強く縛りつけられて利用されていたことがある証拠です。

ケ 観察結果を総集して全体を見ると次のような特徴を確認できます。

・全体の形状・立体形が後世の幅広短剣のような形状をしている。

・文様と形状から、吊下用穿孔から上の縁は刃部をイメージしてつくられているように感じられる。

・右側縁は削られて先端が鋭くなり、損耗して形状が後退している。

・吊下用穿孔の一つが壊れ、補修穿孔があるので、長期間着装されていたことが判る。

・この腰飾を跡が付くほど強く何かに縛って使ったことが判る。

・下部に三角の特徴を持つ不規則な陰刻が存在する。

3 メモ

次の項目について追って検討します。

ア この腰飾が表象している実世界のモノは何か?

・対人殺傷武器(剣)である可能性。

イ この腰飾の機能(意義)は何か?

・対外集団を意識した集団内統治の象徴アイテムの可能性。(いざとなったら暴力も辞さない覚悟での生活圏の保全…近隣に緊張関係にある異集団が存在する前線的環境としての有吉南貝塚)

エ この腰飾の使い方はどのようなものであるか?

・長柄を直角に付けた儀式用短剣としての活用

・刃部を削る儀式での活用(薬?)

・リーダーが腰に着装する装身具としての活用

オ 甕被り葬との関連は?

・甕被り葬とこの腰飾は密接に関係している。


2020年12月24日木曜日

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル

 縄文骨角器学習 1

千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」で展示された縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)の3Dモデルを作成して観察しました。関連土器を含めて以前から気になっていた遺物です。

1 縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル

イルカ類下顎骨製

埋葬関連遺物

撮影場所:千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」 

撮影月日:2020.12.09 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 54 images


展示の様子


展示の様子


説明パネル


関連土器


3Dモデルの動画

2 メモ

・向かって右側の穴が割れて、別の穴を補修して開けていますから、この腰飾は長期間使われていたことがわかります。

・詳しく観察すると下部に三角状の掘り込みが2ヶ所あるほか、刺突点に沿って浅い掘り込みが各所にあります。

・中央より少し下に表面が断続的に直線状に表面が削られた模様があります。この製品に意識してつけられたものであると考えます。この腰飾りを付けている人物が、祈願のために腰飾りに模様(傷)を付けたと考えることが合理的であるように直観します。

・赤い色が左穴付近の刺突点付近で観察できます。染料の色であるようです。

・青い色も各所に観察できますが、染料の色であるのか、骨の色(の画像の写り)であるのか、確認できません。

・これらの観察から、模様と色をある程度復元することが3Dモデルと撮影多数写真からだけでも可能かもしれません。