2020年12月27日日曜日

縄文中期箆状腰飾の3Dモデルによる精細観察

 縄文骨角器学習 2

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚)を3Dモデルを活用して精細観察しました。

1 観察方法

観察記録3Dモデルにより対象物を立体的に観察して、その結果をオルソ投影画像に項目別に記入し、最後にその集成図を作成しました。オルソ投影画像は細部の確認がしやすいように数種類作成しました。

縄文中期箆状腰飾(千葉市有吉南貝塚) 観察記録3Dモデル

イルカ類下顎骨製

埋葬関連遺物

撮影場所:千葉県立中央博物館令和2年度企画展「ちばの縄文」 

撮影月日:2020.12.09 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.016 processing 54 images


観察結果プロットに使ったオルソ投影画像

2 観察結果


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 1

ア 吊下用穿孔が2ヶ所あり、右側が破損したため、そばに補修穿孔しています。

この腰飾が長期にわたって腰に着装されたことが判明します。

イ 刺突文が上部と下部に穿たれています。

上部刺突文は先端から縁に1列(左のみ)、縁の曲線に沿って2列で吊下用穿孔まで連続します。右縁の刺突列は右部損耗のため観察できません。

下部刺突文は腰飾を横断すして、下から1列、2列、1列、2列が配置され、さらにその上に刺突で「大」字のような文様を描きます。

刺突文はこの腰飾形状を強調する文様となっています。この腰飾が表象する実世界のモノの形状の特質を刺突文が強調しています。

ウ 残存赤彩が上部刺突文の刺突小孔の多数にごくわずかに観察できます。(図は表現のために実際より誇張してあります。)


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 2

エ 中央が盛り上がる形状をしていて、縁に沿って段差がつけられ、縁に行くにしたがって厚さが薄くなります。実用機能かどうかは別にして、刃部が形成されていると観察することができます。

同時に縁に沿った段差の分布から右側の刃部は損耗しています。損耗する前の縁の形状をイメージとして点線で記入しました。

右側縁を拡大して観察すると、縁に沿って削られ、縁が鋭利な刃になっています。直観的には右側縁を何かに擦りつけて損耗したのではなく、鋭利な石器等で縁を削って刃を尖らせたために損耗したと理解します。

オ 上部では、縁に沿って2列の浅い凹形陰刻(丸形)が分布します。

カ 下部では、腰飾を横断して浅い凹形陰刻(直線)が4列分布します。


有吉南貝塚出土イルカ骨製腰飾 3Dモデル観察 3

キ 下部に2つの三角状形状を含む陰刻線が分布します。たまたまついた傷ではなく、意図的に刻まれたものと考えられますが、規則性をあまり感じません。

ク 腰飾中央部付近より少し下付近に表面削剥部分が2列で交差するように分布します。それぞれ2本の綱で縛った跡のように観察できます。腰飾りが何かに強く縛りつけられて利用されていたことがある証拠です。

ケ 観察結果を総集して全体を見ると次のような特徴を確認できます。

・全体の形状・立体形が後世の幅広短剣のような形状をしている。

・文様と形状から、吊下用穿孔から上の縁は刃部をイメージしてつくられているように感じられる。

・右側縁は削られて先端が鋭くなり、損耗して形状が後退している。

・吊下用穿孔の一つが壊れ、補修穿孔があるので、長期間着装されていたことが判る。

・この腰飾を跡が付くほど強く何かに縛って使ったことが判る。

・下部に三角の特徴を持つ不規則な陰刻が存在する。

3 メモ

次の項目について追って検討します。

ア この腰飾が表象している実世界のモノは何か?

・対人殺傷武器(剣)である可能性。

イ この腰飾の機能(意義)は何か?

・対外集団を意識した集団内統治の象徴アイテムの可能性。(いざとなったら暴力も辞さない覚悟での生活圏の保全…近隣に緊張関係にある異集団が存在する前線的環境としての有吉南貝塚)

エ この腰飾の使い方はどのようなものであるか?

・長柄を直角に付けた儀式用短剣としての活用

・刃部を削る儀式での活用(薬?)

・リーダーが腰に着装する装身具としての活用

オ 甕被り葬との関連は?

・甕被り葬とこの腰飾は密接に関係している。


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