縄文土器学習 68 顔面付釣手形土器 4
偶然観覧した伊那市創造館所蔵顔面付釣手形土器(国重要文化財、伊那市富県御殿場遺跡出土 縄文中期 4700年前竪穴住居跡)の印象が強かったので、割込みでその学習をしています。
顔面付釣手形土器の子細な観察は終わりましたが、発掘調査報告書における記述を読み学習を深めます。
1 発掘調査報告書の入手
「全国遺跡報告総覧」(奈良文化財研究所)で「顔面付釣手形土器」で検索すると発掘調査報告書がすぐに見つかり、pdfをダウンロードできました。全国遺跡報告総覧の抜群の威力に感心します。このサイトに掲載されている長野県の発掘調査報告書数は2673に及びます。
顔面付釣手形土器出土に関わる発掘調査報告書の検索画面
伊那市教育委員会 1967 『「伊那路」第11巻1号 別刷り:御殿場遺跡緊急発掘調査慨報』伊那市教育委員会
発掘調査報告書掲載の出土状況写真
なお発掘調査報告書ではこの土器を「人面付香炉形土器」と呼んでいます。
2 発掘調査報告書における人面付香炉形土器の記述(要点)
人面付香炉形土器の記述(御殿場遺跡緊急発掘調査慨報)
1 顔面ははるかかなたから幸あれと呼び掛けていて、勝坂式最末期の特徴。
2 正面は煤煙で黒色化、背面は黒色化なし。火焔崇拝という呪術性とかかわる造形。釣手土器の照明用とは異なり、外部一面から焔をかけられた。
3 正面窓を支える掌(同時に紐を通す実用的用途)。
4 背後には蛇身装飾。
5 内部はわずかに煤煙付着。
6 正面は平板柔和で神聖感満る。背面は立体的、粗剛怪奇で呪術感満る。正面中心の崇拝。
7 勝坂終末期につくられ、加曽利E初頭期に伝世された可能性。
8 呪術的要素のない竪穴住居から出土している。
9 同じ場所から出土した木炭のC14年代測定結果は4160年±100年。
詳しい専門的分析はとても参考になります。
勝坂式土器と加曽利E式土器が登場し最近の加曽利E式土器学習との関わりが生れ、興味が深まります。
特に正面が火焔を受けていて、背面はそれがないというこの土器の使われ方の指摘はこの土器の意義を考える上で重要であると考えました。
ただし、私が思考した出産女性、安産、出産介助行為、産道、吊るし紐といった概念はまったく登場しません。
3 考察
顔面付釣手形土器の意義に関する私の思考はこれまでに次の2点の図にまとめています。
顔面付釣手形土器の解釈(作業仮説)
安産直後を描写した顔面付釣手形土器
発掘調査報告書記述から、上記の私の思考(作業仮説)主要点について変更すべきであると指摘されるような情報を汲み取ることはできませんでした。
素人の私からみて、52年前とはいえ、この土器造形から出産女性、安産、出産介助行為、産道、吊るし紐といったイメージが湧き出さない発掘専門家の思考営為が信じられません。
あるいは、私の現在の思考営為が極端に異端であり、それを本人が気が付かないだけかもしれません。
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