縄文木製品学習 6
2019.06.09記事「異なる2遺跡から出土した棒状木製品の意匠近似性」で木製品をアとイに分類して、アはイナウに関連するような祭具、イはキケウシパスイに関連するような祭具であると作業仮説を立てました。作業仮説を立てることにより、仮説自体の真贋は別にして、そのモノの認識を深める過程を短縮できると考えたからです。
同じような趣旨から、木製品アについてその作業仮説をもう一歩踏み込んで検討してみました。実物を閲覧しない段階で踏み込んだ作業仮説を立てることは大きなリスクを伴います。しかしすぐに実物閲覧の機会が得られる可能性が不明ですから、趣味活動の楽しみを継続発展させるためにあえて空想を掻き立ててみます。
1 棒状木製品 ア の資料追加
茂原市渋谷貝塚から出土している棒状木製品もアと同じ用途の製品である可能性があります。
茂原市渋谷貝塚出土の棒状木製品 挿図
発掘調査報告書から引用
茂原市渋谷貝塚出土の棒状木製品 写真
発掘調査報告書から引用
この棒状木製品は2019.01.26記事「茂原市渋谷貝塚出土木製品」で検討していますが、当時は木製利器として捉えていました。
参考 茂原市渋谷貝塚の位置
2 水鳥の形状と棒状木製品アの形状の類似
2-1 水鳥の形状
水鳥の首から頭部にかけての形状が棒状木製品アの形状に似ているように感じることができます。
飛翔する水鳥の形状
飛翔する水鳥の首から頭部にかけての形状区分
水鳥の首から頭部にかけての形状区分を棒状木製品アに対応させると次のようになります。
2-1 雷下遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分
雷下遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分
2-2 亀田泥炭遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分
亀田泥炭遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分
2-3 渋谷貝塚出土棒状木製品アと水鳥形状区分
渋谷貝塚出土棒状木製品アと水鳥形状区分
3 メモ
・棒状木製品は発掘調査報告書の挿図や写真を見る限り、全体形状が鳥形であるような感触を受けます。鳥形のイナウであると作業仮説します。
・西根遺跡出土丸木木製品も鳥と関連するイナウであると仮想し、その後の鳥形の祖形でもあると考えました。
・現物を観覧・閲覧できる機会を得られれば、この鳥形仮説の真贋の程が直観できると考えます。
・雷下遺跡出土棒状木製品アのうち2点は市立市川考古博物館で今夏展示されるらしいという情報がありますので、今から楽しみです。
2019年6月10日月曜日
2019年6月9日日曜日
異なる2遺跡から出土した棒状木製品の意匠近似性
縄文木製品学習 5
異なる時代・空間の縄文低地2遺跡から出土した棒状木製品の意匠が余りにも似ているので驚きを禁じえません。ともに丸木舟も共伴出土しています。
1 意匠が共通する木製品が出土した2遺跡
雷下遺跡と亀田泥炭遺跡
2 棒状木製品の意匠近似性
2-1 意匠が近似する2種の木製品
木製品のうち2種類(ア、イと仮称)の意匠が2遺跡で近似しています。
2遺跡出土木製品で意匠が近似する2つの木製品
2-2 棒状木製品 ア
棒状木製品アの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。
2-3 棒状木製品 イ
棒状木製品イの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。
イは2つの遺跡ともに焦げたものが出土しています。
異なる時代・空間の縄文低地2遺跡から出土した棒状木製品の意匠が余りにも似ているので驚きを禁じえません。ともに丸木舟も共伴出土しています。
1 意匠が共通する木製品が出土した2遺跡
雷下遺跡と亀田泥炭遺跡
2 棒状木製品の意匠近似性
2-1 意匠が近似する2種の木製品
木製品のうち2種類(ア、イと仮称)の意匠が2遺跡で近似しています。
2遺跡出土木製品で意匠が近似する2つの木製品
2-2 棒状木製品 ア
棒状木製品アの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。
2-3 棒状木製品 イ
棒状木製品イの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。
イは2つの遺跡ともに焦げたものが出土しています。
3 メモ
・現状では発掘調査報告書情報だけの比較です。今後現物閲覧や精細写真利用が可能かどうか関係機関に相談し、可能ならば検討を深めたいと思います。
・西根遺跡出土木製品は現物閲覧、発掘時撮影精細写真利用が実現し、観察検討結果をまとめました。
・西根遺跡出土木製品の検討を踏まえると、雷下遺跡・亀田泥炭遺跡出土木製品の検討では次のような作業仮説をもつことが合理的であると考えます。
棒状木製品ア…アイヌイナウの祖形にたどれる木製祭具
棒状木製品イ…アイヌキケウシパスイの祖形にたどれる木製祭具
・2遺跡ともに丸木舟が出土していますから丸木舟に関わる活動行為(祭祀等)と木製品が関連していたことは十分に考えられます。しかし、木製品がイナウやキケウシパスイのような祭具であるとするならば、それは縄文社会一般で使われていた木製品であり、水辺環境だけに特別関わるとは考えられません。丸木舟が残存したのと同じ堆積環境が存在したがために木製品が残されたと考えます。
4 参考 2遺跡の発掘調査報告書
雷下遺跡発掘調査報告書
亀田泥炭遺跡発掘調査報告書
亀田泥炭遺跡関連ブログ記事 2019.01.28記事「匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品」
2019年6月3日月曜日
市川市雷下遺跡に関する強い興味
縄文木製品学習 4
堀之内式土器取材を目的に訪れた市立市川考古博物館に、自分にとっては「たまたま」雷下遺跡出土土器が展示されていました。せっかくですから「ついで」に観察しました。その結果は、3Dモデルを作成するなどして既に記事にしました。この活動の中ではじめて雷下遺跡について知りました。そして少し調べると自分にとって大変興味のある遺跡であることを知ることができました。
詳しい検討は発掘調査報告書を閲覧するなどしてから行いますが、WEBで入手できる情報からこの遺跡に関する現時点興味をメモしておきます。
1 縄文早期後半の形式を網羅する出土土器
出土土器に関する興味は既に2019.05.31、2019.06.02、2019.06.03記事でまとめています。今後さらに興味を深めたいと思います。
2 海浜部低地貝塚に関する興味
雷下遺跡は千葉市神門遺跡と似た時期の似た性格の遺跡のように感じます。
2018.09.05記事「事例学習 神門遺跡」
海浜部の漁港兼漁労現場作業場のような印象を受けます。
イルカの骨も出土していますから、集石遺構の出土とあいまって、神門遺跡とともにここも房総「石焼鯨」発祥の地であると空想が空想を呼びます。
漁港兼漁労現場作業場の特性を詳しく学習することにします。
なお、千葉県教育振興財団研究連絡誌No.75(平成26年3月)の沖松信隆著「雷下遺跡の概要」では、雷下遺跡の特徴を次のようにまとめています。
1.東京湾東岸における縄文時代早期の低地性貝塚の調査例自体が希少であること。
2.早期の人骨を複数体検出したこと。
3.早期の植物遺存体として、ヒョウタン種実や低地性の堅果類を集積した土坑から、ナラガシワ近似種の種実を検出したこと。
4.出土土器は周辺での出土例が希少な早期末を主体とすること。また東海系とともに東北地方の常世2式も伴出していること。
5.早期の大型丸木舟を検出し、国内最古例となったこと。丸木舟出土例の多い千葉県において当該地域での発見例は希少であること。出土層位を明確に記録できたこと。丸木舟と尖底土器が伴出したこと。
6.土層堆積環境を知る上で有益な、生物の生痕化石を明瞭に検出したこと。
7.早期の木道状遣構を検出したこと。
8.本遺跡特有の棒状木製品や鹿角製掘具を検出したこと。
出土丸木舟
沖松信隆著「雷下遺跡の概要」から引用
全長7.2m、幅最大50cm、厚み舟底端で約8cm、土圧で平坦化、放射性炭素年代測定で約7500年前、現在日本最古の丸木舟、材質はムクノキ。
3 棒状木製品に対する特別の興味
用途が特定できていない棒状木製品が出土しています。
棒状木製品
沖松信隆著「雷下遺跡の概要」から引用
堀之内式土器取材を目的に訪れた市立市川考古博物館に、自分にとっては「たまたま」雷下遺跡出土土器が展示されていました。せっかくですから「ついで」に観察しました。その結果は、3Dモデルを作成するなどして既に記事にしました。この活動の中ではじめて雷下遺跡について知りました。そして少し調べると自分にとって大変興味のある遺跡であることを知ることができました。
詳しい検討は発掘調査報告書を閲覧するなどしてから行いますが、WEBで入手できる情報からこの遺跡に関する現時点興味をメモしておきます。
1 縄文早期後半の形式を網羅する出土土器
出土土器に関する興味は既に2019.05.31、2019.06.02、2019.06.03記事でまとめています。今後さらに興味を深めたいと思います。
2 海浜部低地貝塚に関する興味
雷下遺跡は千葉市神門遺跡と似た時期の似た性格の遺跡のように感じます。
2018.09.05記事「事例学習 神門遺跡」
海浜部の漁港兼漁労現場作業場のような印象を受けます。
イルカの骨も出土していますから、集石遺構の出土とあいまって、神門遺跡とともにここも房総「石焼鯨」発祥の地であると空想が空想を呼びます。
漁港兼漁労現場作業場の特性を詳しく学習することにします。
なお、千葉県教育振興財団研究連絡誌No.75(平成26年3月)の沖松信隆著「雷下遺跡の概要」では、雷下遺跡の特徴を次のようにまとめています。
1.東京湾東岸における縄文時代早期の低地性貝塚の調査例自体が希少であること。
2.早期の人骨を複数体検出したこと。
3.早期の植物遺存体として、ヒョウタン種実や低地性の堅果類を集積した土坑から、ナラガシワ近似種の種実を検出したこと。
4.出土土器は周辺での出土例が希少な早期末を主体とすること。また東海系とともに東北地方の常世2式も伴出していること。
5.早期の大型丸木舟を検出し、国内最古例となったこと。丸木舟出土例の多い千葉県において当該地域での発見例は希少であること。出土層位を明確に記録できたこと。丸木舟と尖底土器が伴出したこと。
6.土層堆積環境を知る上で有益な、生物の生痕化石を明瞭に検出したこと。
7.早期の木道状遣構を検出したこと。
8.本遺跡特有の棒状木製品や鹿角製掘具を検出したこと。
出土丸木舟
沖松信隆著「雷下遺跡の概要」から引用
全長7.2m、幅最大50cm、厚み舟底端で約8cm、土圧で平坦化、放射性炭素年代測定で約7500年前、現在日本最古の丸木舟、材質はムクノキ。
3 棒状木製品に対する特別の興味
用途が特定できていない棒状木製品が出土しています。
棒状木製品
沖松信隆著「雷下遺跡の概要」から引用
写真を拡大すると刻印や小さな穿孔、削り跡様の模様(彫刻)があるように観察できます。現物や精細な写真をみなければなんとも言えませんが、それを利用する人の気持ちをその木製品に模様(彫刻)として表現している製品である可能性が濃厚です。
その分布を赤丸で記すと次のようになります。
雷下遺跡遺構・遺物分布図 (一部) 改変
沖松信隆著「雷下遺跡の概要」から引用
この分布図を次のように観察しました。
・竪穴状遺構から南は丸木舟や木道状遺構が出土していて、水面がイメージできること。
・人骨出土地点(東側…海側)と炭化物・灰集中地点(及び集石遺構)(西側…陸側)が「棲み分け」しているように観察できること。
・棒状木製品の出土ポイント(3箇所)は炭化物・灰集中地点(及び集石遺構)を囲むように、あるいは「炭化物・灰集中地点(及び集石遺構)」と「水面イメージ空間および人骨出土地点」の境界付近に分布するように観察できます。
つまり棒状木製品の出土ポイントは「炭化物・灰集中地点(及び集石遺構)」(=調理作業場)に関わるものであるか、あるいは「炭化物・灰集中地点(及び集石遺構)」(=調理作業場)と他の機能空間の境界機能に関わるものであるかの2つの可能性が想像できます。
このような想像から棒状木製品の用途は次のような可能性があるものとして仮想し、今後学習を深めたいと思います。
ア 海浜における生業祈願・感謝(豊漁、安全等)のためのイナウ(木製祭壇)
イ 調理作業場とそれ以外の機能空間(埋葬地、ミナト)を境界する目印
ウ 異なる集団の利用領域を確定する境界杭
エ 上記用途の複合
縄文後期加曽利B2式期の低地遺跡である西根遺跡から出土した木製品をイナウであると考えましたが、それと対比させて学習したいと思います。
2019年1月28日月曜日
匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品
縄文木製品学習 2
縄文木製品の学習を始めています。趣旨は西根遺跡出土イナウ似木製品と同様の縄文木製品が千葉県遺跡から出土しているかどうか調べることにあります。
「縄文後期イナウ似木製品の意匠と解釈」参照
学習方法は私家版千葉県遺跡DB(原典はふさの国文化財ナビゲーションダウンロードデータ)から木製品出土遺跡を検索して、その遺跡の発掘調査報告書記載データを調査する方法です。
なおイナウ似木製品の類似製品を見つけ出す学習ですから丸木舟、弓など利用目的が明白な木製品は扱いません。
この記事では匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品を学習します。
1 亀田泥炭遺跡の概要
亀田泥炭遺跡の位置
亀田泥炭遺跡の位置
亀田泥炭遺跡は幅約600mの開析谷中央を流れる借当川の河川敷に位置します。道路建設に伴う橋梁架け替え工事部分の河床掘削域が発掘調査区域です。
発掘前の遺跡の状況
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
発掘に伴い加曽利E式土器から晩期後半までの縄文土器29点、丸木舟先端部分、丸木弓、棒状木製品等が出土しました。この記事では棒状木製品のみを検討します。
2 棒状木製品
棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
全周を取り巻いた刻みがあるという大変特徴的な棒状木製品が5点と表面をつるつるに磨いて少し湾曲した製品1点が出土しています。
発掘調査報告書では次のように記述しています。
●刻みのある棒状木製品
「用途は定かでないがこれら全ては同一製品と思われ、所々の削り出した箇所がみとめられ、また一つは焼け焦げた痕跡がある。」「樹種:カヤ」(参考 出土丸木舟の樹種もカヤ)
●湾曲した製品
「全長40.4㎝、最大長径3.6㎝、最大短径2.8㎝を測る。先端部を前方向から加工を施し、表面全体を念入りに枝払いを施し、全面に磨きをほどこしている。」
3 メモ
出土棒状木製品の用途を(一人)ブレーンストーミングをしながら推察してみました。
ブレーンストーミングですから「出た考えに頭から批判はしない」、「考えをとにかく沢山出す」ことが大切です。
●刻みのある棒状木製品
○は可能性あり、△は可能性少ないと考えます。
1 浮子 △
刻みに紐を結わえて網漁の浮子としたと考えることができます。それにしては凝ったつくりです。
2 ナイフの柄 ○
いずれの製品ともに両端が面取りがある端と鉤状になった端に分かれています。面取りになった部分に石器の刃を付け、紐で棒に巻き付け、刻みで紐を喰い込ませてしっかり縛ったと考えることができます。反対側の鉤状部はモノを引掻く機能を持っていたと考えると現代多機能ナイフの原型になります。
3 アワビおこし(のような牡蠣などを採る道具) ○
道具形状は2と同じですが、丸木舟にのって漁場へでかけ、アワビ、牡蠣などの貝を獲る道具であったと用途を特定して考えることも可能です。
4 木製石棒 △
全周刻みと尖った方の先端が亀頭をイメージする木製の石棒であったと考えることもできます。ただし具象性にはなはだ欠けます。
5 弦楽器 ○
刻みの部分に尖った小石を立てて、鉤の部分を使って弦を張った弦楽器であったと考えることもできます。
弦楽器イメージ
6 ガラガラ(楽器) △
紐でしばったこれら木片を一緒に揺すってガラガラ音を出す楽器とも考えられます。それにしては形状が凝りすぎています。
7 縄の編具 △
紐の先端をこれら木片に縛って、木片を交互に入れ替えて多数紐による複雑な(強度の強い)縄を編む道具であったと考えることができます。あるいは目の粗い網の編具であったとも考えられるかもしれません。
8 イナウ ○
各所に面取り、刻印、小孔(石器先端の四角い形状を示すような穴)があり実用生活道具にしては凝りすぎています。大きさは近世以降アイヌのイナウと異なり小ぶりですが、類似祭具可能性があります。貼り付けた鳥の羽や脱落した削り掛けを復元すれば立派な祭具になる可能性があると想像します。
●湾曲した製品
刻みがないのでイナウとは考えられません。
先端がとがっていて滑らかなしあげですから、山芋などの根茎掘り具かもしれません。
あるいは鮭叩き棒(魚叩き棒)かもしれません。縄文時代に借当川に鮭はのぼっていたと考えて間違いないと思います。(現代でものぼっているかもしれません。未確認)
あるいは特大土器で食物を煮る時の撹拌棒などかもしれません。
縄文木製品の学習を始めています。趣旨は西根遺跡出土イナウ似木製品と同様の縄文木製品が千葉県遺跡から出土しているかどうか調べることにあります。
「縄文後期イナウ似木製品の意匠と解釈」参照
学習方法は私家版千葉県遺跡DB(原典はふさの国文化財ナビゲーションダウンロードデータ)から木製品出土遺跡を検索して、その遺跡の発掘調査報告書記載データを調査する方法です。
なおイナウ似木製品の類似製品を見つけ出す学習ですから丸木舟、弓など利用目的が明白な木製品は扱いません。
この記事では匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品を学習します。
1 亀田泥炭遺跡の概要
亀田泥炭遺跡の位置
亀田泥炭遺跡の位置
亀田泥炭遺跡は幅約600mの開析谷中央を流れる借当川の河川敷に位置します。道路建設に伴う橋梁架け替え工事部分の河床掘削域が発掘調査区域です。
発掘前の遺跡の状況
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
発掘に伴い加曽利E式土器から晩期後半までの縄文土器29点、丸木舟先端部分、丸木弓、棒状木製品等が出土しました。この記事では棒状木製品のみを検討します。
2 棒状木製品
棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
全周を取り巻いた刻みがあるという大変特徴的な棒状木製品が5点と表面をつるつるに磨いて少し湾曲した製品1点が出土しています。
発掘調査報告書では次のように記述しています。
●刻みのある棒状木製品
「用途は定かでないがこれら全ては同一製品と思われ、所々の削り出した箇所がみとめられ、また一つは焼け焦げた痕跡がある。」「樹種:カヤ」(参考 出土丸木舟の樹種もカヤ)
●湾曲した製品
「全長40.4㎝、最大長径3.6㎝、最大短径2.8㎝を測る。先端部を前方向から加工を施し、表面全体を念入りに枝払いを施し、全面に磨きをほどこしている。」
3 メモ
出土棒状木製品の用途を(一人)ブレーンストーミングをしながら推察してみました。
ブレーンストーミングですから「出た考えに頭から批判はしない」、「考えをとにかく沢山出す」ことが大切です。
●刻みのある棒状木製品
○は可能性あり、△は可能性少ないと考えます。
1 浮子 △
刻みに紐を結わえて網漁の浮子としたと考えることができます。それにしては凝ったつくりです。
2 ナイフの柄 ○
いずれの製品ともに両端が面取りがある端と鉤状になった端に分かれています。面取りになった部分に石器の刃を付け、紐で棒に巻き付け、刻みで紐を喰い込ませてしっかり縛ったと考えることができます。反対側の鉤状部はモノを引掻く機能を持っていたと考えると現代多機能ナイフの原型になります。
3 アワビおこし(のような牡蠣などを採る道具) ○
道具形状は2と同じですが、丸木舟にのって漁場へでかけ、アワビ、牡蠣などの貝を獲る道具であったと用途を特定して考えることも可能です。
4 木製石棒 △
全周刻みと尖った方の先端が亀頭をイメージする木製の石棒であったと考えることもできます。ただし具象性にはなはだ欠けます。
5 弦楽器 ○
刻みの部分に尖った小石を立てて、鉤の部分を使って弦を張った弦楽器であったと考えることもできます。
弦楽器イメージ
6 ガラガラ(楽器) △
紐でしばったこれら木片を一緒に揺すってガラガラ音を出す楽器とも考えられます。それにしては形状が凝りすぎています。
7 縄の編具 △
紐の先端をこれら木片に縛って、木片を交互に入れ替えて多数紐による複雑な(強度の強い)縄を編む道具であったと考えることができます。あるいは目の粗い網の編具であったとも考えられるかもしれません。
8 イナウ ○
各所に面取り、刻印、小孔(石器先端の四角い形状を示すような穴)があり実用生活道具にしては凝りすぎています。大きさは近世以降アイヌのイナウと異なり小ぶりですが、類似祭具可能性があります。貼り付けた鳥の羽や脱落した削り掛けを復元すれば立派な祭具になる可能性があると想像します。
●湾曲した製品
刻みがないのでイナウとは考えられません。
先端がとがっていて滑らかなしあげですから、山芋などの根茎掘り具かもしれません。
あるいは鮭叩き棒(魚叩き棒)かもしれません。縄文時代に借当川に鮭はのぼっていたと考えて間違いないと思います。(現代でものぼっているかもしれません。未確認)
あるいは特大土器で食物を煮る時の撹拌棒などかもしれません。
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