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2019年10月17日木曜日

亀田泥炭遺跡出土木製弓の3Dモデル作成

縄文木製品学習 10

2019.09.04に匝瑳市立のさか図書館展示室にお伺いして亀田泥炭遺跡出土木製弓の観察機会を得ることができましたのでメモしておきます。

1 亀田泥炭遺跡出土木製弓について
亀田泥炭遺跡から縄文後晩期土器と一緒に丸木舟、木製弓、多数の棒状木製品が出土しています。

亀田泥炭遺跡出土木製品
発掘調査報告書から引用

木製弓出土の様子
発掘調査報告書から引用
木製弓は発掘調査報告書で次のように記述されています。
「弓は、南側調査区の第6層の暗黒褐色泥炭層より出土した。全長(残存長)88.7cm、最大長径2.7cm、最大短径2.35cmを測る。弓の先端部には左右対象に弦をまき付ける浅い溝を有し、弓の中央部に径2㎜~6㎜、深さ2㎜~3㎜程度の溝が付けられており、この溝は恐らく弓を引いたとき引力により弓の折れるのを防ぐものではないだろうかと思われる。また弓には樹皮が4箇所巻き付けられてあったが、そのうち2箇所は樹皮の巻き付けられていた痕跡が残っている。弓の表面は、念入りに枝払いされ丁寧に表面を磨いている。樹皮を巻き付けることは恐らく弓の強度を増す為のものだろうか。またこの弓は半分に折れており、どの様な状況下で折れたのかは不明である。弓の材質は同定の結果イヌガヤであることが判明した。弓に巻き付けられていた樹皮は同定不可能であった。」


2 木製弓(実物)展示の様子と観察記録3Dモデル作成

木製弓(実物)展示の様子
保存処理されていることによるからであると考えますが、とても縄文時代遺物とは思えない現代製品的質感がします。

木製弓の観察記録3Dモデル
強くしならせても耐えられるだけの強度を生むために溝が彫られていて、それが反った外面にあることがわかります。
ガラスドアを開けていただいて撮影したのですが、左1/3にはガラス面がかかり、弓の途中にガラスドア端の反射が2列投影されていまっています。

3 参考 亀田泥炭遺跡棒状木製品と雷下遺跡棒状木製品の類似性
亀田泥炭遺跡出土棒状木製品(縄文後晩期)と市川市雷下遺跡出土棒状木製品(縄文早期)に形態的類似性があり、西根遺跡出土棒状木製品(縄文後期 イナウ仮説設定)との関連から、これらの用途不明棒状木製品に強く着目しています。
匝瑳市を訪れたのは棒状木製品観察を主目的にしていましたが、残念ながら棒状木製品現物は観察することができませんでした。
2019.06.09記事「異なる2遺跡から出土した棒状木製品の意匠近似性」参照

2遺跡出土木製品で意匠が近似する2つの木製品

2019年6月10日月曜日

雷下遺跡等3遺跡から出土した棒状木製品に関する鳥形作業仮説

縄文木製品学習 6

2019.06.09記事「異なる2遺跡から出土した棒状木製品の意匠近似性」で木製品をアとイに分類して、アはイナウに関連するような祭具、イはキケウシパスイに関連するような祭具であると作業仮説を立てました。作業仮説を立てることにより、仮説自体の真贋は別にして、そのモノの認識を深める過程を短縮できると考えたからです。
同じような趣旨から、木製品アについてその作業仮説をもう一歩踏み込んで検討してみました。実物を閲覧しない段階で踏み込んだ作業仮説を立てることは大きなリスクを伴います。しかしすぐに実物閲覧の機会が得られる可能性が不明ですから、趣味活動の楽しみを継続発展させるためにあえて空想を掻き立ててみます。

1 棒状木製品 ア の資料追加
茂原市渋谷貝塚から出土している棒状木製品もアと同じ用途の製品である可能性があります。

茂原市渋谷貝塚出土の棒状木製品 挿図
発掘調査報告書から引用

茂原市渋谷貝塚出土の棒状木製品 写真
発掘調査報告書から引用
この棒状木製品は2019.01.26記事「茂原市渋谷貝塚出土木製品」で検討していますが、当時は木製利器として捉えていました。

参考 茂原市渋谷貝塚の位置

2 水鳥の形状と棒状木製品アの形状の類似
2-1 水鳥の形状
水鳥の首から頭部にかけての形状が棒状木製品アの形状に似ているように感じることができます。

飛翔する水鳥の形状

飛翔する水鳥の首から頭部にかけての形状区分

水鳥の首から頭部にかけての形状区分を棒状木製品アに対応させると次のようになります。

2-1 雷下遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分

雷下遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分

2-2 亀田泥炭遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分

亀田泥炭遺跡出土棒状木製品アと水鳥形状区分

2-3 渋谷貝塚出土棒状木製品アと水鳥形状区分

渋谷貝塚出土棒状木製品アと水鳥形状区分

3 メモ
・棒状木製品は発掘調査報告書の挿図や写真を見る限り、全体形状が鳥形であるような感触を受けます。鳥形のイナウであると作業仮説します。
・西根遺跡出土丸木木製品も鳥と関連するイナウであると仮想し、その後の鳥形の祖形でもあると考えました。
・現物を観覧・閲覧できる機会を得られれば、この鳥形仮説の真贋の程が直観できると考えます。
・雷下遺跡出土棒状木製品アのうち2点は市立市川考古博物館で今夏展示されるらしいという情報がありますので、今から楽しみです。

2019年6月9日日曜日

異なる2遺跡から出土した棒状木製品の意匠近似性

縄文木製品学習 5

異なる時代・空間の縄文低地2遺跡から出土した棒状木製品の意匠が余りにも似ているので驚きを禁じえません。ともに丸木舟も共伴出土しています。

1 意匠が共通する木製品が出土した2遺跡

雷下遺跡と亀田泥炭遺跡

2 棒状木製品の意匠近似性
2-1 意匠が近似する2種の木製品
木製品のうち2種類(ア、イと仮称)の意匠が2遺跡で近似しています。

2遺跡出土木製品で意匠が近似する2つの木製品

2-2 棒状木製品 ア

棒状木製品アの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。

2-3 棒状木製品 イ

棒状木製品イの意匠近似性
造形の趣旨は同じであると感じられるような意匠近似性が認められます。
イは2つの遺跡ともに焦げたものが出土しています。

3 メモ
・現状では発掘調査報告書情報だけの比較です。今後現物閲覧や精細写真利用が可能かどうか関係機関に相談し、可能ならば検討を深めたいと思います。
・西根遺跡出土木製品は現物閲覧、発掘時撮影精細写真利用が実現し、観察検討結果をまとめました。
・西根遺跡出土木製品の検討を踏まえると、雷下遺跡・亀田泥炭遺跡出土木製品の検討では次のような作業仮説をもつことが合理的であると考えます。
棒状木製品ア…アイヌイナウの祖形にたどれる木製祭具
棒状木製品イ…アイヌキケウシパスイの祖形にたどれる木製祭具
・2遺跡ともに丸木舟が出土していますから丸木舟に関わる活動行為(祭祀等)と木製品が関連していたことは十分に考えられます。しかし、木製品がイナウやキケウシパスイのような祭具であるとするならば、それは縄文社会一般で使われていた木製品であり、水辺環境だけに特別関わるとは考えられません。丸木舟が残存したのと同じ堆積環境が存在したがために木製品が残されたと考えます。

4 参考 2遺跡の発掘調査報告書

雷下遺跡発掘調査報告書


亀田泥炭遺跡発掘調査報告書
亀田泥炭遺跡関連ブログ記事 2019.01.28記事「匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品

2019年1月29日火曜日

亀田泥炭遺跡出土木製品はイナウ似木製品

縄文木製品学習 3

2019.01.28記事「匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品」でブレーンストーミングを行い、出土棒状木製品の用途を次のように思考しました。
○は可能性あり、△は可能性少ないと考えます。
1 浮子 △
2 ナイフの柄 ○
3 アワビおこし(のような牡蠣などを採る道具) ○
4 木製石棒 △
5 弦楽器 ○
6 ガラガラ(楽器) △
7 縄の編具 △
8 イナウ ○

この記事では出土棒状木製品を詳しく観察し、ブレーンストーミング結果を踏まえてその用途を絞り込みましたので、その思考プロセスを記録します。

1 棒状木製品の詳細観察
発掘調査報告書掲載写真を拡大して観察して、その特徴を次に書き出しました。

棒状木製品2の意匠

棒状木製品4の意匠
棒状木製品の大きな特徴は次のようなまとめることができます。
1 全周を刻む波打つ切込み
この切込みにより木製品は2つの部分に分割される構造を持ちます。端部が相対的に平坦な方を頭部、相対的に尖っている方を脚部と仮称することにします。写真は頭部を右側に表示しています。
2 端部(頭部、脚部)の切り口が極めて新鮮
端部切り口が極めて新鮮であり、摩滅していませんから生活道具等として使われた形跡はゼロに近いと考えられます。
3 えぐり出しが全周切込み付近と頭部に見られる
4 面取りが見られる
5 多数の削り掛け跡や切溝が見られる
削り掛け跡はカールした削り皮(鉋屑のような形状のそぎだした皮)が元来はついていた可能性がある。
6 圧迫痕跡、縛り跡が残っている。
7 先端四角形の錐(石器)によりモノが木製品にはめ込まれたと考えられる跡が多数存在する。

錐状石器によりモノが木製品にはめ込まれた跡と考えられる痕跡

2 考察
2-1 用途
日常道具等として使われた形跡がないので次の用途は消せると考えます。
1 浮子
2 ナイフの柄
3 アワビおこし(のような牡蠣などを採る道具)
5 弦楽器
6 ガラガラ
7 縄の編具

「4 木製石棒」は石棒一般のデザインとこの木製品のデザインが大きく異なるので、消せると考えます。(石棒の多くは亀頭部が根本より大きく見えるように、また亀頭部の形状がリアルなそれではなく抽象的な球体になっていますが、この木製品を石棒としてみると、亀頭部と根本の大きさが同じで、亀頭部と根本の境がリアルな斜め線になっています。)

こうした消去法によりこの木製品の用途の第一候補はイナウであると考えます。

2-2 印西市西根遺跡出土イナウ似木製品との比較
上記特徴のうち1を除いて全ての特徴が印西市西根遺跡出土イナウ似木製品と同じです。

参考 印西市西根遺跡出土縄文後期イナウ似木製品石器による加工跡等
意匠面から見る限り亀田泥炭遺跡出土木製品と西根遺跡出土木製品は類似製品と考えて間違いないようです。
特に錐(石器)によるモノ(葉、花、鳥や昆虫の羽根など)の貼り付け跡が存在するという微細点一致は双方木製品の基本用途が同じであることを物語っていると考えます。

西根遺跡出土イナウ似木製品は土器破壊行為をメインイベントとする収穫祭で使われた祭具(イナウ)であると考えましたが、亀田泥炭遺跡出土イナウ似木製品も何らかの祭祀で使われてこの場所にあるいは河川上流から水面に投げ込まれた(流された)ものと想定します。
西根遺跡出土イナウ似木製品は焼骨の近くで出土しましたが、亀田泥炭遺跡出土イナウ似木製品の一つは焦げているので、それらが使われた祭祀ではともに火が使われたことは確実です。
今後亀田泥炭遺跡出土棒状木製品もイナウ似木製品と呼ぶことにします。

2-3 感想
・「イナウ似木製品」と仮称する木製祭具が縄文時代後期に存在していたという仮説の材料が2つとなりました。さらに探すことにします。
・西根遺跡のイナウ似木製品は鳥をイメージしていると考えましたが、亀田泥炭遺跡のイナウ似木製品は波打つ全周切込みの印象が強く、西根遺跡イメージを直接投影するに至っていません。コケシとか木偶などのイメージが湧いてしまいます。
・亀田泥炭遺跡出土イナウ似木製品は材質がカヤであることと、長い棒から切り取って作られたと考えられることから、丸木舟櫂の柄の部分の再利用であると想像します。西根遺跡イナウ似木製品は自然木から作られています。
・西根遺跡では飾り弓が出土していて、それとイナウ似木製品を合わせて総合的に遺跡の状況を考察しましたが、亀田泥炭遺跡では至近に丸木舟、弓が出土しているのですから、それらとイナウ似木製品を総合して検討することが大切であると考えます。(後日検討することにします。)


2019年1月28日月曜日

匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品

縄文木製品学習 2

縄文木製品の学習を始めています。趣旨は西根遺跡出土イナウ似木製品と同様の縄文木製品が千葉県遺跡から出土しているかどうか調べることにあります。
縄文後期イナウ似木製品の意匠と解釈」参照
学習方法は私家版千葉県遺跡DB(原典はふさの国文化財ナビゲーションダウンロードデータ)から木製品出土遺跡を検索して、その遺跡の発掘調査報告書記載データを調査する方法です。
なおイナウ似木製品の類似製品を見つけ出す学習ですから丸木舟、弓など利用目的が明白な木製品は扱いません。
この記事では匝瑳市亀田泥炭遺跡出土木製品を学習します。

1 亀田泥炭遺跡の概要

亀田泥炭遺跡の位置

亀田泥炭遺跡の位置
亀田泥炭遺跡は幅約600mの開析谷中央を流れる借当川の河川敷に位置します。道路建設に伴う橋梁架け替え工事部分の河床掘削域が発掘調査区域です。

発掘前の遺跡の状況
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用
発掘に伴い加曽利E式土器から晩期後半までの縄文土器29点、丸木舟先端部分、丸木弓、棒状木製品等が出土しました。この記事では棒状木製品のみを検討します。

2 棒状木製品

棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用

棒状木製品
「千葉県八日市場市亀田泥炭遺跡-道路改良(市道7151号線)工事に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書-」(1994、千葉県八日市場市建設課・財団法人東総文化財センター)から引用

全周を取り巻いた刻みがあるという大変特徴的な棒状木製品が5点と表面をつるつるに磨いて少し湾曲した製品1点が出土しています。
発掘調査報告書では次のように記述しています。
●刻みのある棒状木製品
「用途は定かでないがこれら全ては同一製品と思われ、所々の削り出した箇所がみとめられ、また一つは焼け焦げた痕跡がある。」「樹種:カヤ」(参考 出土丸木舟の樹種もカヤ)
●湾曲した製品
「全長40.4㎝、最大長径3.6㎝、最大短径2.8㎝を測る。先端部を前方向から加工を施し、表面全体を念入りに枝払いを施し、全面に磨きをほどこしている。」

3 メモ
出土棒状木製品の用途を(一人)ブレーンストーミングをしながら推察してみました。
ブレーンストーミングですから「出た考えに頭から批判はしない」、「考えをとにかく沢山出す」ことが大切です。
●刻みのある棒状木製品
○は可能性あり、△は可能性少ないと考えます。
1 浮子 △
刻みに紐を結わえて網漁の浮子としたと考えることができます。それにしては凝ったつくりです。
2 ナイフの柄 ○
いずれの製品ともに両端が面取りがある端と鉤状になった端に分かれています。面取りになった部分に石器の刃を付け、紐で棒に巻き付け、刻みで紐を喰い込ませてしっかり縛ったと考えることができます。反対側の鉤状部はモノを引掻く機能を持っていたと考えると現代多機能ナイフの原型になります。
3 アワビおこし(のような牡蠣などを採る道具) ○
道具形状は2と同じですが、丸木舟にのって漁場へでかけ、アワビ、牡蠣などの貝を獲る道具であったと用途を特定して考えることも可能です。
4 木製石棒 △
全周刻みと尖った方の先端が亀頭をイメージする木製の石棒であったと考えることもできます。ただし具象性にはなはだ欠けます。
5 弦楽器 ○
刻みの部分に尖った小石を立てて、鉤の部分を使って弦を張った弦楽器であったと考えることもできます。

弦楽器イメージ

6 ガラガラ(楽器) △
紐でしばったこれら木片を一緒に揺すってガラガラ音を出す楽器とも考えられます。それにしては形状が凝りすぎています。
7 縄の編具 △
紐の先端をこれら木片に縛って、木片を交互に入れ替えて多数紐による複雑な(強度の強い)縄を編む道具であったと考えることができます。あるいは目の粗い網の編具であったとも考えられるかもしれません。
8 イナウ ○
各所に面取り、刻印、小孔(石器先端の四角い形状を示すような穴)があり実用生活道具にしては凝りすぎています。大きさは近世以降アイヌのイナウと異なり小ぶりですが、類似祭具可能性があります。貼り付けた鳥の羽や脱落した削り掛けを復元すれば立派な祭具になる可能性があると想像します。

●湾曲した製品
刻みがないのでイナウとは考えられません。
先端がとがっていて滑らかなしあげですから、山芋などの根茎掘り具かもしれません。
あるいは鮭叩き棒(魚叩き棒)かもしれません。縄文時代に借当川に鮭はのぼっていたと考えて間違いないと思います。(現代でものぼっているかもしれません。未確認)
あるいは特大土器で食物を煮る時の撹拌棒などかもしれません。