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2020年10月26日月曜日

東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 52

この記事では東金市・大網白里市養安寺遺跡の中期に絞って、その遺物・遺構を発掘調査報告書からピックアップします。

1 東金市・大網白里市養安寺遺跡の発掘調査報告書と位置


東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書


東金市・大網白里市養安寺遺跡の位置

養安寺遺跡は下総台地と房総丘陵を結ぶ狭窄部に位置し、移動するシカ等の交通の要衝であり、旧石器時代からの狩猟好適地に位置します。

2 東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構


東金市・大網白里市養安寺遺跡の縄文中期遺物と遺構

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・養安寺遺跡のうち縄文中期分だけ抜き出してピックアップしたものです。

・竪穴住居は阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期にはじまり、加曽利E1式期、加曽利EⅡ式期まで続きます。軒数は順次少なくなります。房総の遺跡はほとんどが加曽利EⅡ式期にピークを迎えますから、この遺跡は通常ではありません。

・土器の出土状況は他の遺跡と異なり、異なる様式の土器が一括して出土します。阿玉台式系統、勝坂類似、中峠式近似、大木式が一括出土します。


出土土器

東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用

・斜面貝層から出土する土器は竪穴住居軒数の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式・加曽利Ⅱ式期の分が圧倒的に多くなっています。

・出土石器では黒曜石を最多岩種とする石鏃が多数出土します。石鏃づくりに伴う剥片類も多数出土します。

・同時に骨角歯牙製品が538点と多数多種出土します。


骨角歯牙製品

東金市・大網白里市養安寺遺跡発掘調査報告書から引用

・またイノシシ、シカをメインとしタヌキ、ノウサギなどを含む獣骨も多数出土します。

・多数の石鏃、多数の骨角歯牙製品、多数の獣骨の存在から、この遺跡のメイン生業が狩猟であることがわかります。

・狩猟とともに漁労も行われていますが、東京湾の大型貝塚と比べると貝刃などの貝製道具類の数が少なく、漁労はサブ的な生業であったと考えられます。

・人骨は全て貝層から散乱骨として出土しています。

3 発掘調査報告書が指摘する集落と貝層の乖離

発掘調査報告書では集落が房総全体の趨勢と異なり、加曽利EⅠ式期~加曽利EⅡ式期に向かって衰退する様子を指摘します。しかし、それに反して貝層出土物は通年定住型環状集落に伴う貝層となんら遜色のない内容が示されて、集落規模と貝層出土物量の乖離が指摘されています。

発掘調査報告書ではこの乖離の解釈案を4つ提示しています。

ア 貝層は調査結果の小集落で形成された。

イ 貝層は複数遠方集落構成員によって形成された。(集落は複数遠方集落の共同利用施設であった。期間を棲み分けて、同じ猟場を複数集落が利用するイメージ。)

ウ 貝層は調査で発見できなかった大きな集落で形成された。(集落遺構が失われてしまっているため調査できない、あるいは発掘区域外に集落が存在する。)

エ ア~ウ以外の要因による。

4 感想

・養安寺遺跡が狩猟遺跡であり、同時に複数集落の共同管理施設であった可能性が濃厚であり、特異な遺跡です。

・養安寺遺跡からアリソガイが有吉北貝塚にもたらされているのですが、有吉北貝塚から養安寺遺跡にもたらされた土器などの遺物は見つかっていないようです。

・養安寺遺跡の狩猟に有吉北貝塚の人々は参加していないようです。養安寺遺跡と有吉北貝塚とは交易の関係があるだけのようです。

・養安寺遺跡の人々と有吉北貝塚など東京湾岸貝塚の人々はどうも「流派」が違うようです。土器の文様が異なる様子から「流派」が違う感覚を受けます。

・漁業権とか狩猟権などの土地の権利関係が発達していて、最初に開発した集団がその権利を確立した歴史があるのだと思います。

・養安寺遺跡の隣東金市鉢ヶ谷遺跡から中期前葉五領ヶ台式期の河童形土偶が出土していて、その土偶が長野県茅野市棚畑遺跡出土国宝土偶「縄文のビーナス」と系譜を同じにすることに驚いたことがあります。棚畑遺跡から銚子産コハクが出土しています。中部高地の人々がいち早く九十九里の狩猟好適地に進出して、そこに狩猟権を確立したと考えても、荒唐無稽とは言い切れません。

2020.07.09記事「「縄文のビーナス」と系譜を同じにする千葉県出土土偶

次の記事で養安寺遺跡と有吉北貝塚との対比を行います。

……………………………………………………………………

養安寺遺跡 中期

  • 遺構
    • 竪穴住居 17
      • 阿玉台Ⅲ式・Ⅳ式・中峠式期 10
      • 加曽利EⅠ式期 5
      • 加曽利EⅡ式期 2
    • 小竪穴・土坑 約80
    • 北側斜面貝層
  • 土器
    • 一括出土
      • 阿玉台式系統
      • 勝坂式類似
      • 中峠式近似
      • 大木式
  • 遺物
    • 土製品
      • 土製装身具
        • 耳飾 1
      • 生産系
        • 土器片錘 34
        • 有孔円盤 30
    • 石製品
      • 大珠 2
        • ヒスイ 1
        • 非ヒスイ 1
      • 琥珀
    • 石器 中期貝層SS009
      • 石鏃 305
        • 黒曜石 133
        • チャート 119
      • 剥片類 2637
        • 黒曜石 1117
        • チャート 1074
        • フォルンヘルス 285
      • 磨製石斧 13
      • 打製石斧 53
      • 磨石 13
      • 敲石類 139
    • 骨角歯牙貝製品
      • 骨角歯牙製品 538
        • 生産 89
          • 刺突具 85
          • 釣針 3
          • 掘具 1
        • 加工 176
          • ヘラ状工具 168
          • 針状工具 8
        • 装飾 119
          • 鹿角製装飾 21
          • 骨製装飾 13
          • 歯牙製装飾 23
          • 管状製品 22
          • 魚類椎骨穿孔品 3
          • 針状製品(髪針) 28
          • 鏃型製品(歯牙) 9
        • 素材・その他 154
          • 加工角 31
          • 加工骨 48
          • 除去吻端 75
      • 貝製品 101
        • 貝輪 4
        • 貝刃 60
          • チョウセンハマグリ製 59
          • カガミガイ製 1
        • その他の貝製装飾品
        • その他の貝製品
    • 動物遺体
      • 哺乳類
        • イノシシ
        • シカ
        • タヌキ
        • ノウサギ
        • イヌ
      • 鳥類
        • キジ科 43%
        • カモ科 34%
        • クイナ科 14%
    • 主要貝種 サンプル
      • チョウセンハマグリ 83.3%
      • ダンベイキサゴ 10.0%
    • 魚類
      • 淡水域
        • フナ属
        • ドジョウ科
        • ギギ科
        • ウナギ属?
      • 内湾域
        • スズキ属
        • クロダイ属
        • ボラ科
        • コチ科
        • ウナギ属?
      • 外洋沿岸~内湾
        • イワシ類
          • マイワシ
          • カタクチイワシ
      • 外洋沿岸域
        • トビエイ
        • サメ
    • 人骨(最小個体数) 18
      • 北斜面貝層 11
        • 大人 6
        • 少年 1
        • 小児 3
        • 乳児1
      • 北西斜面回貝層 7
        • 大人 3
        • 少年 1
        • 小児 2
        • 乳児~幼児 1

2020年10月20日火曜日

大膳野南貝塚の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 51

この記事では千葉市大膳野南貝塚(中期末葉~後期中葉)の遺物遺構を発掘調査報告書からピックアップして、千葉市内野第1遺跡(後晩期)と比較してみます。

1 千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構


千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

2 千葉市大膳野南貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較



千葉市大膳野南貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較 図解メモ

3 考察

3-1 集落規模と時期

・大膳野南貝塚は加曽利E4式~加曽利B式期の貝塚集落遺跡で堀之内1式期が顕著なピークとなっています。竪穴住居93、土坑264。住居から漆喰炉が多数見つかり、野外漆喰炉も出土しています。

・内野第1遺跡は堀之内Ⅰ式~安行3b式期の後晩期集落です。竪穴住居125、土坑427。海成貝の貝層はありますが、内陸に存在します。

3-2 生業

・大膳野南貝塚は漁労がメイン生業でイボキサゴ、ハマグリ、シオフキなどの貝類、クロダイ、コチ、イワシなどの魚類を採っています。貝刃やヘラ状貝製品などの貝製道具も出土しています。また狩猟を行いイノシシ、シカなどの獣骨が出土し、イノシシは養育していた可能性の証拠が出土しています。主食としていたと考えられる堅果類調理道具(磨石、石皿、土器など)も出土しています。道具から漁労・狩猟・植物採集の3つが主な生業であると考えることができます。土製小円盤(円盤形土器片)が出土しますから、製糸を行っていたと考えられます。

・一方、内野第1遺跡は道具からみると土器片錘など漁労道具、石鏃など狩猟道具は出土しますが貧弱であり、出土動物遺体の量に見合ったものではありません。魚貝類と獣肉の多くは外部から交易で入手していたと考えられます。有孔円盤形土製品や円盤形土製品が数多く出土しますから植物繊維(おそらく大麻)から糸を撚り、さらにロープ(しめ縄など)も作っていたと考えられます。植物繊維製品は内野第1遺跡の重要な交易用産品であったと考えられます。

3-3 祭祀

・内野第1遺跡は異形台付土器、石棒、土偶、土製耳飾など祭祀に関連した遺物が多数出土することから祭祀センターのようなイメージをもつことが可能な遺跡であり、祭祀というソフトサービス提供により魚貝類や獣肉を得ていた可能性を感じ取ることができます。

・内野第1遺跡の祭祀関連遺物の多さにくらべて、大膳野南貝塚は祭祀関連遺物は貧弱です。土偶も円筒形土偶が極少量出土していて、内野第1遺跡で盛行する山形土偶、ミミズク土偶とは別系統と考えられるものです。後期前葉(極少量の円筒形土偶)と後期中葉以降(多量の山形土偶、ミミズク土偶など)で土偶祭祀がガラリと変わることは大きな着目点になると思います。

3-4 感想

・後期前葉(大膳野南貝塚)と内野第1遺跡(後期中葉以降)の間に大きな不連続があるような印象を受けます。後期前葉は中期文化の継続のような印象を受けます。全うな生業が観察できます。後期中葉以降は全うな遺跡とは見えません。内野第1遺跡はどうやって「食っているのか」はっきりと見えません。

・さらに近隣遺跡検討を続けることにします。

……………………………………………………………………

千葉市大膳野南貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

大膳野南貝塚

  • 遺物 中テン箱720
    • 特殊土器
      • 注口土器
      • ミニチュア土器
      • 蓋形土器
    • 土製品
      • 土製装身具 14
        • 耳飾 4
        • 垂飾 7
        • 腕輪 3
      • 土偶
      • 生産系
        • 土器片錘
        • 土製小円盤
    • 石製品
      • 石棒 25
      • 石製装身具 4
    • 石器 1977
      • 尖頭器 1
      • 石鏃 168
      • 石錐 11
      • 石匙 3
      • クサビ形石器 69
      • スクレイパー類 158
      • 石核 62
      • 剥片類 109
      • 黒曜石剥片類 573
      • 磨製石斧 38
      • 打製石斧 111
      • 礫器 10
      • 磨石 158
      • 凹石 113
      • スタンプ状石器 10
      • 石皿 149
      • 敲石 77
      • 砥石 28
      • 石錘 4
      • 軽石製品 42
    • 骨角貝製品
      • 骨角製装身具 17
      • 鯨骨製骨刀 1
      • 貝製品
        • 貝刃 
          • ハマグリ製貝刃 110
          • カガミガイ製貝刃 46
          • シオフキ製貝刃 3
          • アワビ製貝刃 1
        • ヘラ状貝製品
          • ハマグリ製ヘラ状貝製品 17
        • 舌状貝器
          • ミルクイ製舌状貝器 2
          • ハマグリ製舌状貝器 1
        • 貝製装身具 29
    • 動物遺体
      • 陸獣
        • イノシシ
        • シカ
        • タヌキ
        • アナグマ
        • ノウサギ
        • ニホンオオカミ
        • イヌ
      • 海獣
        • クジラ
        • イルカ
      • 鳥類 12
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • ハマグリ
        • シオフキ
        • アサリ
        • マガキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 魚類 サンプル
      • 4mmメッシュ
        • クロダイ属
        • コチ科
        • サバ属
        • ヒラメ科
      • 2mmメッシュ
        • アジ類
        • サバ属
        • ニシン科
        • キズ属
      • 1mmメッシュ
        • ニシン科
        • サヨリ属
        • カタクチイワシ
        • アジ類
    • 人骨 30
  • 遺構
    • 竪穴住居址 93
      • 中期末葉
        • 加曽利E4式期 3
      • 中期末葉~後期初頭
        • 加曽利E4~称名寺古式期 2
      • 後期初頭
        • 称名寺式期 3
      • 後期初頭~前葉
        • 称名寺新式~堀之内古式期 2
      • 後期前葉
        • 堀之内1式期 47
        • 堀之内2式期 7
      • 後期前葉~中葉
        • 堀之内2式~加曽利B1式期 2
      • 後期中葉
        • 加曽利B1~B2式期 2
      • 時期不明 25
    • 土坑墓 1
    • 土坑 264
    • 屋外漆喰炉 8
    • 小児土器棺 6
    • 単独埋甕 12
    • 埋葬犬骨 2
    • 鹿頭骨列 1
    • 大きな貝層 3
    • 貝層ブロック 160
      • 地点貝層 78
        • 住居内 26
        • 土坑内 52
  • 土器
    • 加曽利E4式
    • 称名寺古式
    • 称名寺式
    • 称名寺新式
    • 堀之内古式
    • 堀之内1式
    • 堀之内2式
    • 加曽利B1式
    • 加曽利B2式

2020年10月15日木曜日

千葉市有吉北貝塚の遺物と遺構

縄文社会消長分析学習 50

縄文社会消長分析の問題意識を醸成するために、下総台地の中期及び後晩期遺跡をいくつか選び、その相互比較を試みる学習を始めています。

この記事では千葉市有吉北貝塚(中期遺跡)の遺物遺構を発掘調査報告書からピックアップして、千葉市内野第1遺跡(後晩期)と比較してみます。

1 千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構


千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

2 千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較

この図の特徴を青字で書き込むと次の説明メモ図になります。


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較 説明メモ図

3 考察

3-1 集落の規模

・有吉北貝塚は阿玉台式以前から加曽利EⅢ~Ⅳ式期の中期貝塚集落です。竪穴住居168、土坑770.

・内野第1遺跡は堀之内Ⅰ式~安行3b式期の後晩期集落です。竪穴住居125、土坑427.

・集落の規模は「だいたい同じ」です。集落存続期間も双方ともにざっくり1000年と見積もって大きな問題はないと思います。

3-2 生業

ア 漁労の道具と産物

・有吉北貝塚の漁労道具は土器片錘…網漁、貝刃…魚調理、骨角歯牙製品(釣針、刺突具)…釣り・ヤス漁などで、食物残滓としてイボキサゴ、ハマグリ、シオフキなどの貝類、クロダイ、スズキ、カレイなどの大型魚類骨、マイワシ、ハゼ、アジなどの小型魚類骨が出土します。

・内野第1遺跡の漁労道具はきわめて貧弱です。それにも関わらずオキアサリ、ハマグリ、イボキサゴなど海成貝が貝層を形成し、海産魚類骨も出土します。海産貝・魚はすべて交易で船橋方面から搬入されたものです。

イ 狩猟の道具と産物

・有吉北貝塚の狩猟道具は石鏃…弓矢、イヌ…猟犬、磨貝…皮なめし[想定]、骨角歯牙製品(ヘラ状骨製品)…皮なめしなどで、食物残滓としてイノシシ、シカ、タヌキ、ノウサギなど多様な動物骨が出土します。

・内野第1遺跡の狩猟道具は大変貧弱です。それにもかかわらずシカ、イノシシ骨が大量に出土します。この道具-食物残滓の非対称対応から、内野第1遺跡の獣肉のほとんどが交易により入手した搬入品であると考えます。

・有吉北貝塚では皮なめしが行われ皮革製品が作られていたと推察できますが、内野第1遺跡では皮なめしはありません。

ウ 大麻栽培の道具と産物

・有吉北貝塚では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として土製円盤…糸撚りが出土します。

・内野第1遺跡では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として有孔円盤形土製品…糸撚り、円盤形土器片…糸撚りが出土します。円盤形土器片は1本の細長い繊維を円盤にかけて、円盤を回して撚る回転道具、有孔円盤形土製品は複数の糸を1本の糸(ロープ)に撚る装置の中枢回転道具です。

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともに直接証拠はありませんが大麻栽培の蓋然性がたかく、内野第1遺跡は状況から大麻栽培はほぼ確実と想定します。

・有吉北貝塚より内野第1遺跡の方がより高級な糸(ロープ)や繊維製品を生産していたことが道具からわかります。

エ 堅果類と食用植物の採集調理道具

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともにクリ林管理など樹木管理に磨製石斧…樹木枝打ちが使われ、植物栽培や植物採集に打製石斧…根茎掘り・耕耘が使われ、産物の食物化に磨石・石皿・土器…堅果類調理などが使われたと考えます。

3-3 祭祀・装飾

ア 祭祀道具

・有吉北貝塚の祭祀道具は極めて貧弱です。

・内野第1遺跡では異形台付土器、土偶、土版、石棒・石剣など祭祀道具の種類・量が極めて豊かです。

イ 装身具

・有吉北貝塚では石製装飾品、骨角歯牙製品(装飾品)、貝製装飾品がみられ、素材について生業産物との関わりがみられます。

・内野第1遺跡では土製耳飾、玉類がみられます。素材と生業との関わりは見られません。

3-4 感想と問題意識

ア 内野第1遺跡は自給自足していない

・有吉北貝塚では道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができます。漁労・狩猟・大麻栽培・堅果類と食用植物採集。

・一方内野第1遺跡の道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができません。生業は大麻栽培・堅果類と食用植物採集です。大麻栽培による高級ロープや繊維製品作成が行われ、それを交易品としていたことは考えられます。

・内野第1遺跡の交易収支がどのようにバランスをとっていたのか次のケースのうちどれかだと思います。

ケース 1

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 2

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、同時に祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 3

・祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。(高級ロープや付加価値の高い繊維製品は祭具(しめ縄、神官が使う幣、神官の衣服等)として祭祀サービスの中で使われた。)

・内野第1遺跡から土製耳飾が大量出土する様子などから、内野第1遺跡は広域圏に対して祭祀サービス提供を一つの「生業」とする「祭祀都市」みたいなイメージを持ちます。

イ 大麻栽培の意義について

・製糸に使った原料植物を大麻と決めつけていますが、その証拠を見つける必要があります。

・異形台付土器は大麻の薬用成分抽出吸引装置のミニチュア(イコン、アイコン)であると以前から想定しています。

2020.07.27記事「異形台付土器の展開写真作成と考察・学習仮説」など多数

・大麻薬用成分吸引を伴う祭祀盛行が後晩期社会をむしばみ衰退の重要な要因となったと仮説しています。この仮説検証に取り組む必要性があります。

……………………………………………………………………

千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

 有吉北貝塚

  • 遺物
    • 特殊土器
      • ミニチュア土器 17
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系
        • 耳飾 18
      • 生産系
        • 土器片錘 5354
        • 土製円盤 63
    • 石製品 92
      • 石棒 5
      • 装飾品 23
      • 石製円盤 1
    • 石器 26726
      • 尖頭器 1
      • 石鏃 1088
      • 石錐 23
      • 削器 47
      • 異形石器 10
      • 剥離痕を持つ剥片 538
      • 楔形石器 581
      • 楔形石器の形成に伴って作出された剥片 1022
      • 石核・原石416
      • 剥片類 9033
      • 磨製石斧 310
      • 打製石斧 833
      • 礫器 29
      • 磨石 364
      • 石皿 439
      • 砥石・叩石・台石 21
      • 軽石製品 255
      • 礫 9398
      • 極小礫 1490
      • 土質ブロック 113
      • 基盤石塊 45
      • 炉石 41
    • 骨角貝製品
      • 骨角歯牙製品 259
        • 装飾品
        • 釣針
        • 刺突具(骨針)
        • ヘラ状製品
        • 刃器状加工品
        • 加工品
        • その他
      • 貝製品
        • 貝刃 
          • ハマグリ製貝刃 459
          • カガミガイ製貝刃 44
        • 磨貝
          • アリソガイ製磨貝 24
          • ハマグリ製磨貝 11
        • 装飾品他 51
    • 動物遺体
      • 陸獣
        • イノシシ 2484
        • シカ 921
        • タヌキ 587
        • ノウサギ 455
        • キツネ 61
        • サル 59
        • カワウソ 6
        • アナグマ 9
        • テン 18
        • イタチ 4
        • ムササビ 12
        • リス類 2
        • イヌ 266
        • ネズミ類 244
        • モグラ類 120
      • 海獣
        • クジラ類 37
        • イルカ類 26
        • アシカ 4
      • 鳥類
        • キジ 281
        • ガン・カモ類 207
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • ハマグリ
        • シオフキ
        • アサリ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 大型魚類遺体
      • クロダイ
      • マダイ
      • スズキ
      • カレイ
      • コチ
      • エイ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • マイワシ
      • ハゼ
      • アジ
      • カレイ
      • サヨリ
    • 人骨
      • 埋葬人骨 14
      • 散乱人骨 4
  • 遺構
    • 住居跡 168
    • 土壙 770
      • 小竪穴含む
    • 埋設土器 2
    • ピット群 1
    • 斜面貝層 5
  • 土器
    • 第1群 阿玉台式以前の各型式
    • 第2群 阿玉台Ⅰ式
    • 第3群 阿玉台Ⅱ式
    • 第4群 阿玉台Ⅲ式
    • 第5群 阿玉台Ⅳ式
    • 第6群 中峠式
    • 第7群 頸部無紋帯成立以前の加曽利EⅠ式
    • 第8群 頸部無紋帯正立以後の加曽利E1式
    • 第9群 胴部磨削懸垂文成立以前の加曽利EⅡ式
    • 第10群 胴部磨消懸垂文成立以後の加曽利EⅡ式で、
      連弧文土器が盛行する段階
    • 第11群 連弧文土器が衰退し、キャリパー形土器が
      盛行する段階の加曽利EⅡ式
    • 第12群 加曽利EⅢ~Ⅳ式

2020年10月10日土曜日

千葉市内野第1遺跡の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 48

2020.10.07記事「縄文社会消長分析学習の方法」に基づいて早速学習テーマの渉猟のための作業を開始します。とりあえず次の発掘調査報告書はこれまでに親しんできているので、その相互比較を行い問題意識を醸成することにします。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

最初の具体的作業は遺物・遺構の種類と数量の大局観的比較をします。

この記事では千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から遺物・遺構の種類と数量を拾ってみました。

1 千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構


千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・堀之内1式期から安行3b式期までがメインの遺跡です。

・遺構は竪穴住居跡125、土壙427、土壙列76などです。土壙列は斜面の落し穴列であり、その時期は不明ですが、縄文早期頃が想定され、遺跡集落とは無関係です。

・土器は堀之内1式から安行3b式まですべての時期で深鉢、鉢、浅鉢、注口土器が出土し、台付鉢や壺もほとんどの時期で出土します。注口土器などは祭祀と関わる土器であると考えます。発掘調査報告書に掲載された土器数のカウントはまだ行っていません。

・特殊土器150には異形台付土器48が含まれていて、ほとんどが祭祀道具であるとみられます。

・土製品を便宜的に祭祀・装飾系と生産系に分けました。祭祀・装飾系には土偶289、耳飾119などが含まれ、豊富です。生産系は有孔円盤形土製品63が含まれ、製糸活動が盛んだったことがわかります。

・石製品51には石棒・石剣26が含まれます。石製品は全て祭祀・装飾品です。

・石器1300はほとんどが生産・生活用具のようです。石鏃102は磨製石斧178や打製石斧192より少なく、狩猟がどれほど行われたのか興味が湧きます。

・骨角貝製品12は大変貧弱です。

・木製品3が出土しています。

・動物遺体はシカ2071、イノシシ626がメインとなっています。焼骨等がかなり出土しているようですが、その調査は特段には行われていないようです。

・貝層はオキアサリ、ハマグリ、シオフキ、イボキサゴなどから構成され、船橋付近の東京湾から運ばれたことが推定されています。

・魚類はコイ・ウナギなどが多く、淡水漁が行われていたようです。

・埋葬された人骨12体が出土しています。動物遺体と一緒に回収されたヒト骨は15をカウントしていて、その解釈に興味を持ちます。

2 他遺跡との比較

今後、千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類、数量情報を他遺跡と比較します。

3 感想

東京湾から魚貝類が運ばれてきていますが、その返礼品が何であったのか、興味が湧きます。

異形台付土器、土偶や耳飾の出土が多く、この集落分だけであるのか、あるいは拠点集落であり近隣集落分も含まれるものであるのか興味が湧きます。

4 1の作業で判った一つの事柄

1の作業でこの遺跡では骨角貝製品が極めて貧弱であることがわかりました。シカやイノシシの下顎を利用した搔器が全く出土していません。この事実から、この遺跡で皮なめしが盛んであったとは到底考えられません。

一方、特殊土器-ミニチュア土器のサンダル状土製品を、皮革製サンダルのミニチュアではないだろうかと以前想定しました。(その後注口付き片口と想定を変更。)もし、1の情報を知っていれば、サンダル状土製品を皮革製品のミニチュアと考えることにはもうすこし慎重な思考をしたかもしれません。

……………………………………………………………………

千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

千葉市内野第1遺跡

  • 遺構
    • 竪穴住居跡 125
      • 柱穴
      • 焼土
      • 獣骨
      • 炭化物
      • 埋甕
    • 土壙 427
    • 土壙列 76
  • 土器
    • 堀之内1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 堀之内2式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B3式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 曽谷式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行1式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3a式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3b式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
  • 遺物
    • 特殊土器 150
      • 異形台付土器 48
      • 蓋形土器 12
      • 手燭形土器 5
      • 舟形土器 4
      • 吊手形土器 12
      • 小形土器 37
      • ミニチュア土器 24
      • 製塩土器 8
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系 559
        • 土偶 389
          • 山形土偶 98
          • ミミズク土偶 74
          • 中空土偶 58
        • 人面付土版 3
        • 土版 34
        • 耳飾 119
        • 動物型土製品 6
        • 脚付土器 1
        • 人面装飾付土器 2
        • 土製垂飾 2
        • 玦状耳飾 1
        • スタンプ形土製品 1
        • アワビ形土製品 1
      • 生産系 353
        • 有孔円盤形土製品 63
        • 有孔円盤形土器片 11
        • 有孔球形土製品 5
        • 有孔円柱形土製品 1
        • 円盤形土製品 1
        • 円盤形土器片 245
        • 円柱形土製品 1
        • 土錘 3
        • 土器片錘 17
        • 焼成粘土塊 7
    • 石製品 51
      • 石棒・石剣 26
      • 独鈷石 4
      • 岩版 1
      • 環状石製品 1
      • 玉類 19
    • 石器 1300
      • 尖頭器 3
      • 石鏃 102
      • 石錐 6
      • 石匙 3
      • 磨製石斧 178
      • 打製石斧 192
      • 磨石 317
      • 敲き石 146
      • 凹石 73
      • 石皿 144
      • 台石 23
      • 砥石 8
      • 円盤形石器 7
      • 石錘 6
      • 軽石製品 367
    • 骨角貝製品 12
      • 骨製品 4
        • かんざし 骨
        • 骨錐又はヤス 鹿又は猪の骨
        • 骨針 猪犬歯
      • 角製品 7
        • 栓状品 鹿角
        • かんざし 鹿角
        • 儀礼用具 鹿角
        • 腰飾り 鹿角
      • 貝製品 1
        • 貝輪 イタボガキ
    • 木製品 3
      • 柄付大皿
      • 堅櫛
      • 容器
    • 動物遺体
      • 破片
        • 哺乳類 7776
          • シカ 2071
          • イノシシ 626
          • ヒト 15
          • サル 12
          • キツネ 5
          • ウサギ 5
          • タヌキ 4
          • イヌ 4
          • アナグマ 3
          • オオカミ 2
          • その他 5029
            • クジラ
        • 貝類 46
          • オキアサリ
          • ツノガイ
        • 魚類
          • クロダイ
        • 鳥類 28
      • 焼骨等
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • オキアサリ
        • ハマグリ
        • シオフキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • コイ
      • ウナギ
      • ホラ
      • ハゼ
      • マイワシ
      • ギバチ
      • クロダイ
      • アジ
    • 人骨 12