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2022年3月10日木曜日

称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル

 Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) Observation record 3D model


I created and observed a 3D model of the Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) that was exhibited at the Chiba City Buried Cultural Property Research Center "Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City". The J-shaped pattern of the cord-mark impressions is layered in two layers, and it is a pottery that shows the most basic pattern of the Syomyozi type pottery.


千葉市埋蔵文化財調査センター「千葉市出土考古資料優品展」に展示されていた称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡)の3Dモデルを作成して観察しました。縄文帯によるJ字文が2段に重ねられていて、称名寺式土器の最も基本となる文様パターンを示す土器です。

1 称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Syomyozi type pottery

称名寺式土器(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2022.03.07


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.5 processing 165 images

Syomyozi type pottery (Uchino Daiichi site,Chiba City) Observation record 3D model

Location: Chiba City Buried Cultural Property Research Center "Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City"

Shooting date: 2022.03.07

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.5 processing 165 images


3Dモデルの動画

2 GigaMesh Software Frameworkによる展開

GigaMesh Software Frameworkにより3Dモデルを扇形平面に展開しました。


GigaMesh Software Frameworkによる展開

3 メモ


文様パターン

縄文帯によるJ字文が2段に重ねられている文様パターンを示していて、称名寺式土器の最も基本となる文様パターンであると言われています。


2022年1月9日日曜日

人面付土版(千葉市内野第1遺跡)の観察記録3Dモデル

 3D model observation of the human face-shaped clay tablet (Uchino Daiichi site, Chiba city)


I created a 3D model of the human face-shaped clay tablet (Uchino Daiichi site, Chiba city), which is exhibited at the Chiba City Folk Museum "Chiba City Excellent Archaeological Material  Exhibition". I observed it and made a note of the learning task.


千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」で展示されている、人面付土版(千葉市内野第1遺跡)を3Dモデルで観察しました。

1 人面付土版(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Human face-shaped clay tablet

人面付土版(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Human face-shaped clay tablet

縄文時代晩期

右は裏面レプリカ

撮影場所:千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2021.12.22


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 78 images

Human face-shaped clay tablet (Uchino Daiichi site, Chiba city) Observation record 3D model

Final Jomon period

The right is the back side replica

Location: Chiba City Folk Museum "Chiba City Excellent Archaeological Material Exhibition"

Shooting date: 2021.12.22

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 78 images


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 展示説明

「人面付土版 内野第1遺跡(花見川区宇那谷町) 市指定文化財

縄文時代晩期に特有の遺物で、護符という意見がある。

本資料は土偶と同様に顔面表現がなされ、「クレヨンしんちゃん」に似ているとして話題になった。」

2-2 実測図


実測図

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

2-3 問題意識

ア 顔面表現 1

土版の顔面表現は耳飾も付いていて、土偶表現と似ています。同じ顔面様式であるように感じます。


参考 千葉市内野第1遺跡出土 安行式ミミヅク土偶実測図

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

土版の頭部が膨らんでいることも、この土版作者が土偶を意識して作成していることを物語っているように受け取ります。

しかし、顔表情という面からみるとこの土版と土偶は大いに異なります。

土偶の顔表情は一般に怪異とか恐怖とか驚異のような異様な雰囲気を感じるものが多く、かつ破壊されて消費されます。しかしこの土版は「クレヨンしんちゃん」に似ているといわれるように「可愛さ」「幼さ」を感じさせます。また破壊されることなく完形で出土しています。

これらの情報から、土版と土偶の顔面様式は同じでも表情と使用方法が異なり、その意義(用途)が違っていたことを納得できます。展示説明にあるように、この土版は護符(お守り)であったのだと思います。土偶は女神を殺害する(土人形を破壊する)という祭祀クライマックスを伴う身近な祭器だったのだと想像します。

イ 顔面表情 2

この土版の顔面表情の「可愛さ」「幼さ」は縄文人作者が意図して表現したものであり、その意図をわれわれ現代人がその通りに感じていると考えます。


認知考古学原理の理解

2021.12.15記事「認知考古学の意義について気が付く cognitive archeology

ウ 三角形

土版表面と裏面に描かれる縄文施文三角形について、他遺物に類似模様を探して対照し、今後その意義を考察することにします。

エ 入組文

土版裏面上部の入組文は吉祥文であると考えています。


入組文の例 手燭形土器(安行3a式)(佐倉市吉見台遺跡)

2021.12.07記事「手燭形土器(安行3a式)(佐倉市吉見台遺跡)の観察 Candlestick-shaped earthenware 2

吉祥文である入組文が描かれていることから、この土版は乳児死亡リスクが低減した一定年齢まで子どもが育ったことを祝う祭祀で使われたお守り、育児に関するお守りであったのかもしれません。


2021年12月28日火曜日

アワビ形土製品(千葉市内野第1遺跡)の3Dモデル観察

 3D model observation of abalone-shaped baked clay object (Chiba City, Uchino Daiichi Site) 


I observed the abalone-shaped baked clay object (Chiba City, Uchino Daiichi Site) exhibited at the Chiba City Folk Museum “Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City” with a 3D model. I am deeply interested in the meaning of making abalone-shaped baked clay object in inland villages that are not engaged in fishing. I will consider the possibility that the abalone-shaped baked clay object was a totem that symbolized the group.


千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」で展示されているアワビ形土製品(千葉市内野第1遺跡)を3Dモデルで観察しました。

1 アワビ形土製品(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Abalone-shaped baked clay object

アワビ形土製品(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル Abalone-shaped baked clay object

撮影場所:千葉市立郷土博物館「千葉市出土考古資料優品展」

撮影月日:2021.12.22


展示の様子

ガラスショーケース越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v6.010 processing 91 images

Abalone-shaped baked clay object (Chiba City, Uchino Daiichi Site) Observation record 3D model

Location: Chiba City Folk Museum “Exhibition of excellent archaeological materials excavated from Chiba City”

Shooting date: 2021.12.22

Shooting through a glass showcase

Generated with 3D model photogrammetry software 3DF Zephyr v6.010 processing 91 images


3Dモデルの動画

2 メモ

2-1 展示説明


展示説明

「アワビ形土製品

内野第1遺跡(花見川区宇那谷町)

縄文時代の人々は身近な生物を模した造形物を多く作った。イノシシが多くみられるが、本資料のようなアワビを模した土製品は珍しい」

2-2 内野第1遺跡発掘調査報告書記載


アワビ形土製品

内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

「アワビ形土製品は低地部包含層中から出土している。近接する佐倉市井戸作遺跡では裏面に縄文が施されたものが出土している。内陸部における外洋性の海産資源との関連性を裏付けるものである。」(内野第1遺跡発掘調査報告書から引用)

3 アワビ形土製品の巻方異常

アワビ貝殻の巻方は右巻です。


巻貝の巻方判定

尖った方を上にして口が右側に来るものが右巻、左側に来るものが左巻です。巻貝の9割は右巻で、アワビも右巻です。

ところが、本アワビ形土製品は巻方が左巻となっています。


マダカアワビ貝刃とアワビ形土製品の巻方の違い

アワビ形土製品の巻方が異常であることから、この土製品がつくられた場所(おそらく内野第1遺跡)にはアワビ貝殻現物は存在していなかったと推定できます。トコブシなどの類似貝殻も無かったと考えられます。アワビ形土製品はその作者が以前見たことがあるアワビ貝殻現物を想念としてイメージして、この土製品を作ったものと考えることができます。webで見かける他遺跡出土アワビ形土製品には形状がリアルで巻方も右巻のものがありますが、それは現物をよく観察できる環境下でつくられたものに違いありません。この土製品にはアワビ貝殻のリアルさはほとんどありません。

4 本アワビ形土製品の意義

本製品が出土した内野第1遺跡は千葉市でも内陸に位置していて、直接海の漁労に関わることはない集落です。


千葉市内野第1遺跡の場所

内陸にある集落で、貝殻現物もない状況下でアワビ形土製品がつくられたということは、アワビに対する強い信仰が社会全体に存在していたことを示唆しているのだと考えます。大膳野南貝塚ではマダカアワビ貝刃が出土していて、それが祭祀で使われていたと考えましたが、そうした漁労民のいわば「アワビ信仰」が内陸集落にも交易とか婚姻とかの社会交流によりもたらされていたと考えます。

5 トーテミズムから見たアワビ

トーテミズムという視点からアワビ形土製品の意義について検討することは大変興味深いことであると考えます。今後、縄文学習の重要テーマとして取り組むことにします。


2020年10月16日金曜日

円盤形土器片の使い方

 縄文土器学習 484

2020.10.15記事「千葉市有吉北貝塚の遺物と遺構」で、内野第1遺跡では製糸(繊維製品)が交易に関する主な生業になっていることがわかりましたが、その検討の中で円盤状土器片の役割について合理的空想(?)ができるようになりましたので、メモしておきます。

1 円盤状土器片の使い方(空想)


円盤状土器片を使って大麻繊維から糸素材を作る様子(空想)

大麻線維を微細なレベルで細長く裂いたものの両端を左手でつまみ、輪の下に円盤状土器片を乗せ、右手でクルクルまわします。それにより繊維に撚りが生まれます。円盤状土器片を外せば糸素材が出来上がります。


円盤状土器片

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

3㎝~4㎝程度のものが多く、手で回しやすい大きさです。

2 糸素材を使った糸の作り方(空想)

糸素材を2本あるいは3本紡錘車で撚って糸そのものを作ったと想像します。

最初に長さの異なる2本あるいは3本の糸素材を紡錘車で撚り、1本の糸素材が途切れた時、新たな糸素材を別の1本あるいは2本の糸素材に水(あるいはより粘性のある液体)をつけながら揃えて一体化して撚りを続けます。糸素材の水分・表面状況によっては水を使わなくても新たな糸素材を撚りに加えていくことができる可能性があります。このようにして、次々に糸素材を加えていけば、紡錘車で長い糸(糸素材2本あるいは3本の撚り糸)を作ることができます。


紡錘車(紡輪)

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

軸(紡茎)は木製のため出土していません。

紡錘車に開いている小孔はそこにヒモを通して紡錘車と軸を硬く結び、軸の回転と紡錘車の回転を一体化させる機能を担っています。宮原俊一「重たい紡錘車 -縄文晩期の有孔円板形土製品について-」(2020、「日々の考古学3」、六一書房)

3 参考 紡錘車の軸受け

紡錘車の軸(紡茎)下端が安定するように軸受けが使われ、それが次の出土物「有孔円板形土器片」であると想像します。


有孔円盤形土器片

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用

4 感想

この記事は全て頭のなかで空想した事柄です。これで済んでしまっては学習になりませんから、大麻繊維と土器片と紡錘車(のようなレプリカ)を入手して、実験的にこの空想が成り立つか検証することにします。もし実験的にこの空想が成り立てば、それが証拠となる証明にはなりませんが、円盤形土器片意義学習は確実に前進します。

2020年10月15日木曜日

千葉市有吉北貝塚の遺物と遺構

縄文社会消長分析学習 50

縄文社会消長分析の問題意識を醸成するために、下総台地の中期及び後晩期遺跡をいくつか選び、その相互比較を試みる学習を始めています。

この記事では千葉市有吉北貝塚(中期遺跡)の遺物遺構を発掘調査報告書からピックアップして、千葉市内野第1遺跡(後晩期)と比較してみます。

1 千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構


千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

2 千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較

この図の特徴を青字で書き込むと次の説明メモ図になります。


千葉市有吉北貝塚と千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の比較 説明メモ図

3 考察

3-1 集落の規模

・有吉北貝塚は阿玉台式以前から加曽利EⅢ~Ⅳ式期の中期貝塚集落です。竪穴住居168、土坑770.

・内野第1遺跡は堀之内Ⅰ式~安行3b式期の後晩期集落です。竪穴住居125、土坑427.

・集落の規模は「だいたい同じ」です。集落存続期間も双方ともにざっくり1000年と見積もって大きな問題はないと思います。

3-2 生業

ア 漁労の道具と産物

・有吉北貝塚の漁労道具は土器片錘…網漁、貝刃…魚調理、骨角歯牙製品(釣針、刺突具)…釣り・ヤス漁などで、食物残滓としてイボキサゴ、ハマグリ、シオフキなどの貝類、クロダイ、スズキ、カレイなどの大型魚類骨、マイワシ、ハゼ、アジなどの小型魚類骨が出土します。

・内野第1遺跡の漁労道具はきわめて貧弱です。それにも関わらずオキアサリ、ハマグリ、イボキサゴなど海成貝が貝層を形成し、海産魚類骨も出土します。海産貝・魚はすべて交易で船橋方面から搬入されたものです。

イ 狩猟の道具と産物

・有吉北貝塚の狩猟道具は石鏃…弓矢、イヌ…猟犬、磨貝…皮なめし[想定]、骨角歯牙製品(ヘラ状骨製品)…皮なめしなどで、食物残滓としてイノシシ、シカ、タヌキ、ノウサギなど多様な動物骨が出土します。

・内野第1遺跡の狩猟道具は大変貧弱です。それにもかかわらずシカ、イノシシ骨が大量に出土します。この道具-食物残滓の非対称対応から、内野第1遺跡の獣肉のほとんどが交易により入手した搬入品であると考えます。

・有吉北貝塚では皮なめしが行われ皮革製品が作られていたと推察できますが、内野第1遺跡では皮なめしはありません。

ウ 大麻栽培の道具と産物

・有吉北貝塚では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として土製円盤…糸撚りが出土します。

・内野第1遺跡では大麻栽培道具として打製石斧…耕耘、製糸道具として有孔円盤形土製品…糸撚り、円盤形土器片…糸撚りが出土します。円盤形土器片は1本の細長い繊維を円盤にかけて、円盤を回して撚る回転道具、有孔円盤形土製品は複数の糸を1本の糸(ロープ)に撚る装置の中枢回転道具です。

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともに直接証拠はありませんが大麻栽培の蓋然性がたかく、内野第1遺跡は状況から大麻栽培はほぼ確実と想定します。

・有吉北貝塚より内野第1遺跡の方がより高級な糸(ロープ)や繊維製品を生産していたことが道具からわかります。

エ 堅果類と食用植物の採集調理道具

・有吉北貝塚、内野第1遺跡ともにクリ林管理など樹木管理に磨製石斧…樹木枝打ちが使われ、植物栽培や植物採集に打製石斧…根茎掘り・耕耘が使われ、産物の食物化に磨石・石皿・土器…堅果類調理などが使われたと考えます。

3-3 祭祀・装飾

ア 祭祀道具

・有吉北貝塚の祭祀道具は極めて貧弱です。

・内野第1遺跡では異形台付土器、土偶、土版、石棒・石剣など祭祀道具の種類・量が極めて豊かです。

イ 装身具

・有吉北貝塚では石製装飾品、骨角歯牙製品(装飾品)、貝製装飾品がみられ、素材について生業産物との関わりがみられます。

・内野第1遺跡では土製耳飾、玉類がみられます。素材と生業との関わりは見られません。

3-4 感想と問題意識

ア 内野第1遺跡は自給自足していない

・有吉北貝塚では道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができます。漁労・狩猟・大麻栽培・堅果類と食用植物採集。

・一方内野第1遺跡の道具-産物対応イメージから集落システムとして自給自足している様子を感じ取ることができません。生業は大麻栽培・堅果類と食用植物採集です。大麻栽培による高級ロープや繊維製品作成が行われ、それを交易品としていたことは考えられます。

・内野第1遺跡の交易収支がどのようにバランスをとっていたのか次のケースのうちどれかだと思います。

ケース 1

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 2

・高級ロープや付加価値の高い繊維製品を「輸出」し、同時に祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。

ケース 3

・祭祀サービスを「提供」し、魚貝類や獣肉を「輸入」していた。(高級ロープや付加価値の高い繊維製品は祭具(しめ縄、神官が使う幣、神官の衣服等)として祭祀サービスの中で使われた。)

・内野第1遺跡から土製耳飾が大量出土する様子などから、内野第1遺跡は広域圏に対して祭祀サービス提供を一つの「生業」とする「祭祀都市」みたいなイメージを持ちます。

イ 大麻栽培の意義について

・製糸に使った原料植物を大麻と決めつけていますが、その証拠を見つける必要があります。

・異形台付土器は大麻の薬用成分抽出吸引装置のミニチュア(イコン、アイコン)であると以前から想定しています。

2020.07.27記事「異形台付土器の展開写真作成と考察・学習仮説」など多数

・大麻薬用成分吸引を伴う祭祀盛行が後晩期社会をむしばみ衰退の重要な要因となったと仮説しています。この仮説検証に取り組む必要性があります。

……………………………………………………………………

千葉市有吉北貝塚の遺物・遺構の種類と主な数量

 有吉北貝塚

  • 遺物
    • 特殊土器
      • ミニチュア土器 17
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系
        • 耳飾 18
      • 生産系
        • 土器片錘 5354
        • 土製円盤 63
    • 石製品 92
      • 石棒 5
      • 装飾品 23
      • 石製円盤 1
    • 石器 26726
      • 尖頭器 1
      • 石鏃 1088
      • 石錐 23
      • 削器 47
      • 異形石器 10
      • 剥離痕を持つ剥片 538
      • 楔形石器 581
      • 楔形石器の形成に伴って作出された剥片 1022
      • 石核・原石416
      • 剥片類 9033
      • 磨製石斧 310
      • 打製石斧 833
      • 礫器 29
      • 磨石 364
      • 石皿 439
      • 砥石・叩石・台石 21
      • 軽石製品 255
      • 礫 9398
      • 極小礫 1490
      • 土質ブロック 113
      • 基盤石塊 45
      • 炉石 41
    • 骨角貝製品
      • 骨角歯牙製品 259
        • 装飾品
        • 釣針
        • 刺突具(骨針)
        • ヘラ状製品
        • 刃器状加工品
        • 加工品
        • その他
      • 貝製品
        • 貝刃 
          • ハマグリ製貝刃 459
          • カガミガイ製貝刃 44
        • 磨貝
          • アリソガイ製磨貝 24
          • ハマグリ製磨貝 11
        • 装飾品他 51
    • 動物遺体
      • 陸獣
        • イノシシ 2484
        • シカ 921
        • タヌキ 587
        • ノウサギ 455
        • キツネ 61
        • サル 59
        • カワウソ 6
        • アナグマ 9
        • テン 18
        • イタチ 4
        • ムササビ 12
        • リス類 2
        • イヌ 266
        • ネズミ類 244
        • モグラ類 120
      • 海獣
        • クジラ類 37
        • イルカ類 26
        • アシカ 4
      • 鳥類
        • キジ 281
        • ガン・カモ類 207
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • ハマグリ
        • シオフキ
        • アサリ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 大型魚類遺体
      • クロダイ
      • マダイ
      • スズキ
      • カレイ
      • コチ
      • エイ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • マイワシ
      • ハゼ
      • アジ
      • カレイ
      • サヨリ
    • 人骨
      • 埋葬人骨 14
      • 散乱人骨 4
  • 遺構
    • 住居跡 168
    • 土壙 770
      • 小竪穴含む
    • 埋設土器 2
    • ピット群 1
    • 斜面貝層 5
  • 土器
    • 第1群 阿玉台式以前の各型式
    • 第2群 阿玉台Ⅰ式
    • 第3群 阿玉台Ⅱ式
    • 第4群 阿玉台Ⅲ式
    • 第5群 阿玉台Ⅳ式
    • 第6群 中峠式
    • 第7群 頸部無紋帯成立以前の加曽利EⅠ式
    • 第8群 頸部無紋帯正立以後の加曽利E1式
    • 第9群 胴部磨削懸垂文成立以前の加曽利EⅡ式
    • 第10群 胴部磨消懸垂文成立以後の加曽利EⅡ式で、
      連弧文土器が盛行する段階
    • 第11群 連弧文土器が衰退し、キャリパー形土器が
      盛行する段階の加曽利EⅡ式
    • 第12群 加曽利EⅢ~Ⅳ式

2020年10月10日土曜日

千葉市に存在した縄文大規模落し穴列の紹介(2015年4月検討)

 縄文社会消長分析学習 49

学習に着手した千葉市内野第1遺跡に76基を有する縄文大規模落し穴列が検出されています。その大規模落し穴列を2015年4月にブログ記事にて検討しましたので、紹介します。

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.20記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代大規模落し穴シカ猟

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.18記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代土壙列と地形

ブログ花見川流域を歩く番外編2015.04.16記事「千葉市内野第1遺跡 縄文時代遺構の土壙列に注目する

1 千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書記載76基土壙穴列


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列


土壙の形状 例

報告書では次のような説明がされています。(要約)

1号土壙列(北側)は、標高30mから低地部分までの230mにわたって台地を横断する形で計36基が検出されている。さらに数基の存在が考えられる。住居跡等に切られている土壙がある。

2号土壙列は42基が標高20mのラインに沿って約200mに亘り弧状に分布する。住居跡に切られている土壙がある。

土壙は陥穴群と思われ、規模は長軸2m~3m、短軸1m~2m、深さ1~2mで、底面が細くなり断面がV字状をなすもので底面施設はない。土壙間の間隔は、3m~4mであるが、一部が欠落したり、間延びしている部分もあり、一定していない。構築時期については、住居跡との重複関係から古墳時代前期より古いと想定できるが、明確な時期決定はできない。

2 土壙列と地形


千葉市内野第1遺跡縄文時代遺構に見られる土壙列

土壙列は台地斜面中腹に設置されています。

下段の土壙列の東端は沖積面に埋没しています。土壙列が使われていた時期の河床面は発掘当時の沖積面よりはるか下位に存在していたと考えられます。(近隣他所のボーリング資料例から数m~10m程度河床面が低かった…斜面がそれだけ長大だった…と推定できます。)


土壙列の1960年代都市図プロット図

(1960年代都市図は開発前地形を表現する最初の航測地図です。この地図所管は現在、千葉市都市計画課ではなく千葉市郷土博物館です。千葉市郷土博物館に「閲覧申請」して電子複製を作成しました。)


土壙列の現代地図プロット図

3 土壙列を使った狩猟方法


狩猟装置としての土壙列区分とその狩猟範囲(追い込みのイメージ)

土壙列は落し穴列であり、大規模追い込み猟の装置であると考えました。


土壙列(落し穴列)の工夫の相違

下段の土壙列より上段の土壙列の方が工夫がされているので、上段土壙列の方が新しいと考えました。また沖積面の上昇(斜面の短縮)により下段の土壙列が狩猟装置として機能低下し、それにより上段土壙列が新設されたと考えることもできるかもしれません。

4 感想(2020.10.10)

・落し穴列で大量(?)捕獲したシカは沖積面を流れる勝田川の水で処理され、その場には多量のシカ骨が残されたと推測できます。それらは全て現在沖積面の下深さ10m以上の場所になります。開発によりその沖積面は掘削され遊水地に、あるいは埋め立てられ住宅地になりました。沖積層の深いところに現在も狩猟に関わる遺構や遺物が存在している可能性が濃厚です。

・人の居住と狩猟装置の存在は両立しません。この装置は縄文後晩期集落とは全く無関係であると結論づけることができます。またこの場所にシカの大きな群れが遊動していたという「豊過ぎる状況」や落し穴の盛行時期等から、この落し穴列は縄文早期以前のものであると想像します。


千葉市内野第1遺跡の遺物と遺構

 縄文社会消長分析学習 48

2020.10.07記事「縄文社会消長分析学習の方法」に基づいて早速学習テーマの渉猟のための作業を開始します。とりあえず次の発掘調査報告書はこれまでに親しんできているので、その相互比較を行い問題意識を醸成することにします。

・史跡加曽利貝塚発掘調査報告書

・有吉北貝塚発掘調査報告書

・六通貝塚発掘調査報告書

・大膳野南貝塚発掘調査報告書

・西根遺跡発掘調査報告書

・内野第1遺跡発掘調査報告書

最初の具体的作業は遺物・遺構の種類と数量の大局観的比較をします。

この記事では千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から遺物・遺構の種類と数量を拾ってみました。

1 千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構


千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

(この図の記述は、この記事の最後にテキストで掲載)

・堀之内1式期から安行3b式期までがメインの遺跡です。

・遺構は竪穴住居跡125、土壙427、土壙列76などです。土壙列は斜面の落し穴列であり、その時期は不明ですが、縄文早期頃が想定され、遺跡集落とは無関係です。

・土器は堀之内1式から安行3b式まですべての時期で深鉢、鉢、浅鉢、注口土器が出土し、台付鉢や壺もほとんどの時期で出土します。注口土器などは祭祀と関わる土器であると考えます。発掘調査報告書に掲載された土器数のカウントはまだ行っていません。

・特殊土器150には異形台付土器48が含まれていて、ほとんどが祭祀道具であるとみられます。

・土製品を便宜的に祭祀・装飾系と生産系に分けました。祭祀・装飾系には土偶289、耳飾119などが含まれ、豊富です。生産系は有孔円盤形土製品63が含まれ、製糸活動が盛んだったことがわかります。

・石製品51には石棒・石剣26が含まれます。石製品は全て祭祀・装飾品です。

・石器1300はほとんどが生産・生活用具のようです。石鏃102は磨製石斧178や打製石斧192より少なく、狩猟がどれほど行われたのか興味が湧きます。

・骨角貝製品12は大変貧弱です。

・木製品3が出土しています。

・動物遺体はシカ2071、イノシシ626がメインとなっています。焼骨等がかなり出土しているようですが、その調査は特段には行われていないようです。

・貝層はオキアサリ、ハマグリ、シオフキ、イボキサゴなどから構成され、船橋付近の東京湾から運ばれたことが推定されています。

・魚類はコイ・ウナギなどが多く、淡水漁が行われていたようです。

・埋葬された人骨12体が出土しています。動物遺体と一緒に回収されたヒト骨は15をカウントしていて、その解釈に興味を持ちます。

2 他遺跡との比較

今後、千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類、数量情報を他遺跡と比較します。

3 感想

東京湾から魚貝類が運ばれてきていますが、その返礼品が何であったのか、興味が湧きます。

異形台付土器、土偶や耳飾の出土が多く、この集落分だけであるのか、あるいは拠点集落であり近隣集落分も含まれるものであるのか興味が湧きます。

4 1の作業で判った一つの事柄

1の作業でこの遺跡では骨角貝製品が極めて貧弱であることがわかりました。シカやイノシシの下顎を利用した搔器が全く出土していません。この事実から、この遺跡で皮なめしが盛んであったとは到底考えられません。

一方、特殊土器-ミニチュア土器のサンダル状土製品を、皮革製サンダルのミニチュアではないだろうかと以前想定しました。(その後注口付き片口と想定を変更。)もし、1の情報を知っていれば、サンダル状土製品を皮革製品のミニチュアと考えることにはもうすこし慎重な思考をしたかもしれません。

……………………………………………………………………

千葉市内野第1遺跡の遺物・遺構の種類と主な数量

千葉市内野第1遺跡

  • 遺構
    • 竪穴住居跡 125
      • 柱穴
      • 焼土
      • 獣骨
      • 炭化物
      • 埋甕
    • 土壙 427
    • 土壙列 76
  • 土器
    • 堀之内1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 堀之内2式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B1式期
      • 深鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 加曽利B3式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 曽谷式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行1式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行2式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3a式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
    • 安行3b式期
      • 深鉢
      • 台付鉢
      • 浅鉢
      • 注口土器
  • 遺物
    • 特殊土器 150
      • 異形台付土器 48
      • 蓋形土器 12
      • 手燭形土器 5
      • 舟形土器 4
      • 吊手形土器 12
      • 小形土器 37
      • ミニチュア土器 24
      • 製塩土器 8
    • 土製品
      • 祭祀・装飾系 559
        • 土偶 389
          • 山形土偶 98
          • ミミズク土偶 74
          • 中空土偶 58
        • 人面付土版 3
        • 土版 34
        • 耳飾 119
        • 動物型土製品 6
        • 脚付土器 1
        • 人面装飾付土器 2
        • 土製垂飾 2
        • 玦状耳飾 1
        • スタンプ形土製品 1
        • アワビ形土製品 1
      • 生産系 353
        • 有孔円盤形土製品 63
        • 有孔円盤形土器片 11
        • 有孔球形土製品 5
        • 有孔円柱形土製品 1
        • 円盤形土製品 1
        • 円盤形土器片 245
        • 円柱形土製品 1
        • 土錘 3
        • 土器片錘 17
        • 焼成粘土塊 7
    • 石製品 51
      • 石棒・石剣 26
      • 独鈷石 4
      • 岩版 1
      • 環状石製品 1
      • 玉類 19
    • 石器 1300
      • 尖頭器 3
      • 石鏃 102
      • 石錐 6
      • 石匙 3
      • 磨製石斧 178
      • 打製石斧 192
      • 磨石 317
      • 敲き石 146
      • 凹石 73
      • 石皿 144
      • 台石 23
      • 砥石 8
      • 円盤形石器 7
      • 石錘 6
      • 軽石製品 367
    • 骨角貝製品 12
      • 骨製品 4
        • かんざし 骨
        • 骨錐又はヤス 鹿又は猪の骨
        • 骨針 猪犬歯
      • 角製品 7
        • 栓状品 鹿角
        • かんざし 鹿角
        • 儀礼用具 鹿角
        • 腰飾り 鹿角
      • 貝製品 1
        • 貝輪 イタボガキ
    • 木製品 3
      • 柄付大皿
      • 堅櫛
      • 容器
    • 動物遺体
      • 破片
        • 哺乳類 7776
          • シカ 2071
          • イノシシ 626
          • ヒト 15
          • サル 12
          • キツネ 5
          • ウサギ 5
          • タヌキ 4
          • イヌ 4
          • アナグマ 3
          • オオカミ 2
          • その他 5029
            • クジラ
        • 貝類 46
          • オキアサリ
          • ツノガイ
        • 魚類
          • クロダイ
        • 鳥類 28
      • 焼骨等
    • 貝層 サンプル
      • 二枚貝
        • オキアサリ
        • ハマグリ
        • シオフキ
      • 巻貝
        • イボキサゴ
    • 貝層中の魚類 サンプル
      • コイ
      • ウナギ
      • ホラ
      • ハゼ
      • マイワシ
      • ギバチ
      • クロダイ
      • アジ
    • 人骨 12

2020年9月25日金曜日

サンダル状土製品(千葉市内野第1遺跡)の周回写真撮影

 縄文土器学習 474

以前から気になっているサンダル状土製品(千葉市内野第1遺跡)の周回写真撮影が千葉市埋蔵文化財調査センターから許可をいただき実現しました。早速3Dモデルを作成しました。

1 サンダル状土製品(千葉市内野第1遺跡)正置 観察記録3Dモデル

サンダル状土製品(千葉市内野第1遺跡)正置 観察記録3Dモデル 

縄文時代後期~晩期前半、長口径5.8㎝、短口径3.8㎝、端部に円孔1ヶ所 

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター 

撮影月日:2020.09.11 

許可:千葉市教育委員会の許可による撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.007 processing 93 images


撮影の様子


撮影の様子


3Dモデル画像


3Dモデルの動画

2 メモ

・これまでガラス越しで十分に観察できなかったサンダル状土製品が手に取るように観察できるようになりました。

・小さな穴が貫通している部分なども詳しく観察できます。

・3Dモデルをよく観察すると、これまで想像していた形状とは別の形状も確認できました。作業仮説「皮革製サンダルのフィギュア」が果たしてそうであるか疑問も湧いてきます。詳しい観察と新しい見立てを次の記事で描くことにします。

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参考 センター資料館内利用許可書


センター資料館内利用許可書

2020年9月15日火曜日

内野第1遺跡土製耳飾の最大直径別出土数と装飾性との関係

 縄文土器学習 467

2020.09.15記事「内野第1遺跡土製耳飾119点の最大直径別頻度分布」のつづきです。

1 実測図による装飾性分級

発掘調査報告書では土製耳飾を6群31類に分類していますが、この記事では土製耳飾の全体像をざっくり知ることが目的ですので、最大直径区分別実測図集成を見ながら、次のような装飾性分級を行いました。

●最大直径1.0~3.4㎝(少年少女)

装飾性高…有文のもの

装飾性中…無文で中央部穿孔のあるもの

装飾性低…無紋で中央部穿孔のないもの

●最大直径3.5~5.9㎝(青年)

装飾性高…円形で全面有文のもの

装飾性中…環形で有文のもの

装飾性低…円形または環形で無文のもの

●最大直径6.0~8.4㎝(壮年熟年)

装飾性高…滑車形で有文のもの

装飾性中…環形で有文のもの

装飾性低…円形または環形で無文のもの

最大直径1.0~3.4㎝(少年少女)装飾性分級


最大直径3.5~5.9㎝(青年)装飾性分級


最大直径6.0~8.4㎝(壮年熟年)装飾性分級

2 装飾性差異の意味

最大直径区分(=世代区分)のそれぞれに装飾性高のもの、中のもの、低のものが出現します。つまり、各世代ともに装飾性という観点でいうと明白な差異が存在していることがわかります。

装飾性の高中低という差異はその耳飾を装着していた人の社会階層に対応していると想定します。

装飾性高の耳飾を装着していた少年少女・青年は集落のなかで高位のポジション、指導的ポジション、祭祀執行的ポジションにある家柄出身である考えます。その耳飾を装着していた壮年熟年は実際に高位的、指導的、祭祀執行的な人物であったと考えます。

装飾性中の耳飾を装着していた少年少女、青年、壮年熟年は集落の一般住民であったと考えます。

装飾性低の耳飾を装着していた少年少女、青年、壮年熟年は集落の中で下層で劣位な立場の住民であったと考えます。

3 最大直径区分別の装飾性分級

最大直径区分別(=世代区分別)の装飾性分級をグラフで示すと次のようになります。


最大直径区分別(=世代区分別)の装飾性分級

少年少女(~3.4㎝)と青年(3.5~5.9㎝)のグラフパターンは極端に違いません。しかし壮年熟年になると少年少女や青年と比べて、装飾性中の数が増えます。

この関係をより分かりやすく知るために、各世代ごとに装飾性高中低の割合を見てみました。


最大直径区分別(=世代区分別)の装飾性分級(割合)

少年少女や青年と比べて、壮年熟年になると装飾性中の割合が増え、装飾性低と高が減少します。

この現象は後晩期の階層性が強まった縄文社会の様子を伝えているものとして興味を持ちます。

4 世代区分別に装飾性分級の割合が変化する理由

現時点では次のような状況を空想します。

【装飾性低装着の人々】

・装飾性低の耳飾を装着していた人々は社会下層に位置付けられていた。その社会位置を示すものとして装飾性低の耳飾装着を義務付けられていた。

・社会下層の人々はそれ以外の人々と比べ食糧事情など生活環境が劣悪であり、また危険や不衛生な仕事に携わる機会も多く死亡率が高かった。

・さらに犠牲(人身御供など)が必要な場合は社会下層の人々が主にその対象となった。

・したがって少年少女では装飾性低は一番割合が多いが、青年になると少なくなり、壮年熟年ではさらに割合が減少し、少年少女の半分近くになる。

【装飾性中装着の人々】

・装飾性中の耳飾を装着していた人々は社会の中核をなす人々つまり一般住民であり、その社会位置を示すものとして装飾性中の耳飾装着を義務付けられていた。

・装飾性低や高の耳飾を装着する人々(下層民、指導層)の死亡率が高いため、壮年熟年になると相対的に一般住民の割合が増える。

【装飾性高装着の人々】

・装飾性高の耳飾を装着していた人々は集落の中で高位的、指導的、祭祀執行的な立場にある上層民であり、一言で特徴づければシャーマンとその家族であった。シャーマンは装飾性高の耳飾装着が義務付けられていた。

・シャーマンは霊力を失ったときには殺されたりしたため寿命が短かった。そのため壮年熟年になるとその数が減少した。

内野第1遺跡土製耳飾119点の最大直径別頻度分布

 縄文土器学習 466

2020.09.12記事「縄文後晩期土製耳飾に関する問題意識」で、土製耳飾に大中小があり、それは装着年齢を表していますが、それぞれに装飾性の高いものから低いものまであることを直観しました。この直観が正しければ、土製耳飾出土情報が社会階層性存在の明瞭な指標となっているかもしれないと考え、大いに興味を持ちました。そこで、発掘調査報告書データを直接いじくって、最大直径データ(=年齢相関データ)と装飾性分級との関係について簡易な分析をしてみました。

この記事では最大直径別出土数について集計しました。

1 土製耳飾119点の最大直径頻度分布とその解釈

発掘調査報告書で最大直径(㎝)としている数値は耳飾が断片であっても円形と仮定して求めている仮想完成形の直径であると考えられます。したがって、この最大直径の数値をそのまま利用して、その頻度分布を0.5㎝刻みで求めてみました。

なお、出土119点のうち最大直径記載のないもの3点を除いて分析しました。


千葉市内野第1遺跡 土製耳飾最大直径別出土数

この頻度分布図を次のように解釈します。

・1.0~3.4㎝では1.5~1.9㎝をピークとした山形分布をしています。この分布は少年少女が最初に耳たぶに穴を開け小さな耳飾を装着した様子を表現していると考えます。

・3.5~5.9㎝ではピークが存在しない平滑な分布がみられます。これは青年期に至った人々が耳たぶに開けた穴を順次拡大して少しづつ大きな耳飾りに取り換えている様子を表現していると考えます。

・6.0~8.4㎝では6.0~7.4㎝が大きなピークとなっています。これは壮年熟年に至った人々の耳たぶ穴の大きさの限界を示していると考えます。

この解釈の様子を色分けして示すと次のようになります。


土製耳飾最大直径と世代との関係イメージ

最大直径区分別(=世代別)の出土数は次のようになります。


土製耳飾最大直径区分別(=世代別)の出土数

この数値は世代別人口に比例していると考えられるので、興味が湧きます。つまりこのグラフは世代別人口構成比がイメージできるグラフです。

少年少女(10~16歳くらい?)と青年(17~22歳くらい?)の人口は変化は見られません。壮年・熟年(23歳以上)になると数値は大きくなりますが、その増加割合は控えめであり、寿命の短さを暗示しています。

青年の期間を17~22歳の6年間として、その期間の土製耳飾出土数35から、機械的に按分比例で壮年熟年の期間を求めてみると約8年となり、寿命は30歳ということになります。超ラフな思考ではありますが、生データから内野第1遺跡平均寿命をイメージできたことは楽しいことです。

2 最大直径区分別(=世代別)実測図集成

最大直径区分別(=世代別)に土製耳飾実測図を集成しました。

実際の作業は次の通りです。

発掘調査報告書実測図スキャン→Photoshopで個々の実測図切り抜きファイル化→最大直径区分別フォルダーにファイル収納


最大直径1.0~3.4㎝(少年少女)実測図集成


最大直径3.5~5.9㎝(青年)実測図集成


最大直径6.0~8.4㎝(壮年熟年)実測図集成

次にこの実測図集成を使って装飾性分級を行うことにします。(つづく)

2020年8月29日土曜日

本当に怖いミミズク土偶

 縄文土器学習 459

千葉市埋蔵文化財調査センターに展示されている多数の土偶のうち発掘調査報告書番号289番土偶を3Dモデルで観察しました。

1 安行式ミミズク土偶(千葉市内野第1遺跡)289 観察記録3Dモデル

安行式ミミズク土偶(千葉市内野第1遺跡)289 観察記録3Dモデル

最大高8.4㎝、最大幅5.7㎝、最大厚3.2㎝、刻目列

観察場所:千葉市埋蔵文化財調査センター

観察日時:2020.08.20

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.006 processing 43 images


展示の様子


展示の様子 特殊モード写真


実測図

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 観察

ア 顔

顔は皮剥ぎの様子を表現していると考えます。

イ 肩から乳房にかけての刻目列

実測図から背中からはじまり肩を経て、乳房まで刻目列が続いています。この範囲の皮を剥いだ拷問の様子を表現していると考えます。恐らく女性専用の拷問(刑罰)であると考えます。

生きた女性罪人の顔の皮を剥ぐ、背中から乳房までの皮を剥ぐという現代社会では想像できないような残酷で猟奇的な拷問(刑罰)が縄文社会に実在していて、その様子が投影されていると考えます。

webで調べると原始古代社会では生きた人間の全身の皮を剥ぐ拷問・処刑が一般的に存在するようですから、縄文社会だけが特殊であったわけではないようです。

ウ 黒顔料

黒顔料が塗られているように観察できます。発掘調査報告書にはその旨の記述はありません。脚部の断面部を見ると、断面の深いところまで黒塗料が染み込んでいるように見えます。

3 感想

この土偶を観察して、「本当は怖いミミズク土偶」などと悠長に話している場合ではなく、本当に怖くなりました。現代社会では決してい認められない猟奇的暴力・拷問などが縄文社会にあります。それは縄文社会に限らずすべての原始社会に存在していたと考えます。

猟奇的暴力・拷問などの存在を無かったことにして学習を進めることはできません。縄文学習を進めるうえである程度の心理的覚悟が必要であると感じました。

残酷・人身御供などの否定的活動が人類社会歴史のなかで減少する方向で変化してきていることは確実です。それを人類進化事象として捉えている心理研究家もいらっしゃいます。一つの興味対象になります。


2020年8月27日木曜日

人面付土版(千葉市内野第1遺跡)の顔解釈訂正

 縄文土器学習 458

2020.08.26記事「本当は怖いミミズク土偶」の検討結果に基づいて、人面付土版(千葉市内野第1遺跡)の顔解釈(2020.0.13記事「千葉市埋蔵文化財調査センター展示室展示物の3Dモデル」)を訂正します。

1 人面付土版(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデルその2 

人面付土版(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデルその2 

縄文時代晩期前葉(約3300年前) 

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター 

撮影月日:2020.02.04 

ガラス面越し撮影 

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 63 images


展示の様子


展示の様子


実測図

千葉市内野第1遺跡発掘調査報告書から引用


3Dモデルの動画

2 人面付き土版(千葉市内野第1遺跡)の顔解釈


人面付き土版(千葉市内野第1遺跡)の顔解釈

・2020.0.13記事「千葉市埋蔵文化財調査センター展示室展示物の3Dモデル」では顔に髭があり、アイヌ女性が行うような入れ墨であると考えました。その考えを廃棄し、顔の皮剥ぎの様子を表現しているものと訂正します。

3 感想

・土版自体はひょうきんな表情をしていて、地母神そのものはマスコット、愛玩物のように扱われていたと想定します。しかし、デザインの原義は地母神が殺害され、死体がバラバラにされ、そのプロセスの中で顔の皮が剥ぎ取られるという凌辱の表現です。

・鼻もほとんど表現されていないことから、逆に鼻削ぎも暗示しています。