「印旛の原始・古代-旧石器時代編-」の石器群の変遷に関する記述はまことに詳細で、門外漢からみると気の遠くなるような詳細性です。このような詳細な検討を経て徐々に遺跡の特性がわかり、旧石器時代人の生活の様子が判っていくものだと納得できました。
さて、この図書の中に1箇所だけ違和感をおぼえたところがありますので、メモしておきます。
Ⅱ環境5下総台地の古環境と風景の項に次のイメージが掲載されています。
下総台地の古環境の変遷
印旛の原始・古代-旧石器時代編-(財団法人印旛郡市文化財センター、平成16年)から引用
●私の感じた違和感
ア 寒冷な様子が感じられない
イ 海面が-120mに低下した時の地形の様子が全く感じられない
ア 寒冷な様子が感じられない
本書のなかで、「旧石器人が生活していた時代は氷河期のまっただ中であり、後期旧石器時代の中頃、いまから約2万~1万7千年前の最終氷期最寒冷期を例にしてみても、年間の平均気温が今より約7~8度低く、非常に寒冷であった。」と書いてあります。
しかし、3枚のイラストからは現在より寒冷であったというイメージを持てません。
緑色の使い方が濃すぎる(植生が多く、鮮やかすぎる緑になっている)ので3枚とも現在下総台地の春~初夏の明るい情景に見えてしまうのかもしれません。描き方のテクニックの問題かもしれません。
2人の旧石器時代人が毛皮の防寒具を着ていて、暑そうです。
イ 海面が-120mに低下した時の地形の様子が全く感じられない。
広い谷底平野になだらかに蛇行する川が流れ、段差のない岸辺で動物が水を飲んでいます。遠方の台地は現在と同じなだらかさです。
これはストレートに言えば、全部間違いだと思います。描き方のテクニックの問題ではありません。当時の地形がどうであったかという検証がされていないように感じます。
本書には次の氷河期の姿が説明されています。
約3万~1万2千年前
印旛の原始・古代-旧石器時代編-(財団法人印旛郡市文化財センター、平成16年)から引用(「下総台地の移り変わり」の部分)
このような環境では次のような地形断面であったことをこのブログでは2014.08.23記事「旧石器時代の谷津形状の検討」で検討しています。
断面図位置
地形断面図(印旛沼付近)
地形断面図(現在の利根川付近)
海面が-120mに低下した頃、あるいはその前後の頃は、現在は沖積層で埋没している深い谷が存在していました。
従って、広い谷底平野は存在していません。
なだらかに蛇行する河川も存在していません。
河岸は切り立った崖になっているところが多かったと思います。
谷底から台地面までの比高は現在の2倍から3倍ありました。台地面は平坦でも、谷津は切り立った地形になっていたと思います。
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