2016年5月1日日曜日

千葉県の小字清水、馬場、台畑、長谷、前畑、堀込の予察検討

2016.04.30記事「千葉県 出現数の多い小字名」で出現数の多い(100以上)小字名35ついて検討しました。

その35のうち清水、馬場、台畑、長谷、前畑、堀込の6つの小字名について興味が湧き、その理由をメモしておきました。

この記事ではその6つの小字名について、アドレスマッチングによる分布図を作成して予察的検討をしておきます。

1 アドレスマッチングによる分布図

住所が判れば、それをGISにプロットできるデータに変換するシステム(アドレスマッチングシステム)が東京大学によって開発公開されていて、一般でもそのサービスを利用できるようになっています。

千葉県小字データベースでは小字の所在地表記情報を項目として備えているので、小字のアドレスマッチングを行うことができます。

なお、アドレスマッチングシステムは大字(町丁)の主要部に情報をプロットするシステムですから、大字に小字が200あれば、その200の小字は全て同一地点にプロットされ、GIS画面上では1点として表示されます。

しかし、千葉県全体などの広域の分布状況を見るときはアドレスマッチングは強力なツールとなります。

次の図は千葉県小字94004をアドレスマッチングでプロットした地図です。

千葉県全小字の分布

データは94004プロットしてあるのですが、目で見える赤点は大字数2954に近い数字になっています。

この分布図をよく見ると、赤点が抜けているように見える地域がいくつかあります。

その理由は次のような可能性が考えられ、その検討は後日行います。

●全小字プロットで抜けがあるように見える理由

1 大字の規模が大きいため、抜けがあるように見える。

2 原資料(角川千葉県地名大辞典)に収録されていない地域がある。

3 所在地表記データの不備、あるいはアドレスマッチングシステムが備えるデータの不備により、正確なマッチングがなされていない。

「千葉県全小字の分布」に不備があるかどうか、その不備はどのように解決するかという問題は後日検討することにします。

この記事では、小字全部をプロットすると上記「千葉県全小字の分布」のようになるということを念頭に、個別小字名の分布図を作成し、予察検討を行います。

2 小字名 清水

小字名「清水」の分布、小字名に「清水」を含む全小字の分布

この分布図をパソコン画面で拡大してよく見ると、戦後経済高度成長期以前には存在していた多数の自噴井や湧泉の分布とよく似ています。

今はもう存在しないしない自噴井や湧泉とそれを利用した人々との関係を小字名「清水」から得られる可能性が高いと考えます。

「清水」に加え、「泉」(小字名「泉」13、小字名に「泉」を含むもの149)、「出水」(-、3)、湯(-、80)、井戸(3、697)などの小字名を一つのグループとして考察すると、より豊かな情報を得ることができると考えます。

3 小字名 馬場、堀込

小字名「馬場」の分布、小字名に「馬場」を含む全小字の分布


小字名「堀込」の分布、小字名に「堀込」を含む全小字の分布

「馬場」「堀込」ともに牧に関連するかもしれないと考えています。

しかし、この二つの分布図を比べると、「堀込」は古代牧、近世~近代の牧の分布と似ていて、牧検討と直接結びつくことが推察されますが、「馬場」は香取神宮付近を高密度域にしていて千葉全体に分布を広げているように見えます。

「馬場」は神社奉納の神馬と関係があるのかもしれないと仮説しました。また古代駅家と関連するものもあるかもしれません。

「馬場」「堀込」のほか、「牧」(1、75)、「馬来田」(1、-)、「厩」(1、5)、「馬込」(10、28)を含めてグループとして考察すると牧や馬に関わる有用情報を得られる可能性が濃厚です。


4 小字名 台畑、前畑

小字名「台畑」の分布、小字名に「台畑」を含む全小字の分布


小字名「前畑」の分布、小字名に「前畑」を含む全小字の分布

「前畑」と「台畑」の分布がまるで棲み分けているように見える箇所も多く、畑はハタケの意味ではなく、渡来系技術者集団の秦氏である可能性を感じてしまいます。

「幡」を含む小字が316、「旗」を含む小字23、「羽田」を含む小字が5あり、「ハタ」という読みが含まれる小字の中のかなりの部分がハタケではなく、渡来系技術者縦断秦氏に由来すると考え、今後検討を深める予定です。

なお、「ハタ」が含まれる小字名のなかでも「シラハタ」「シロハタ」に特に注目しています。

5 小字名 長谷

小字名「長谷」の分布、小字名に「長谷」を含む全小字の分布

「長谷」の分布が地域的に限定されているので意外でした。

「長作」「永作」など分布図も作成して、「ナガサク」の表記の仕方(当て字の仕方)が地域で異なる様子を今後検討したいと思います。

なお、現時点では次のような想像をします。

崖から獣を追い落とす狩猟に利用できる長い直線状の谷が「ナガサク」(長く裂けた場所)として口承で伝えられてきたと考えます。

「長谷」の分布域は千葉県でも谷密度が高い(台地地形の開析が進んでいる)地域です。その地域で直線状の谷があれば、地形として目立ちますから、「ナガサク」の「サク」は裂くであることがわかり、漢字を当て字するときに「長谷」になったのだと思います。

谷密度が低く、台地面が広がる地域では「ナガサク」の当て字をするときに、その意味が分からないので、生業である農業と関連付けて「長作」「永作」と当て字したものと考えます。

いずれにせよ、「ナガサク」の当て字をした時代の人々は、それが狩猟場を意味することは知らなかったと思います。


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